序章
スライムやゴブリン、ドラゴンと言った魔物への転生が多いので、ちょっと違ったものにしてみました(。。
ドアをノックする音に目を覚ます。
随分と長い間寝ていたような、あるいは数秒だけ寝ていたような意識の空白があった。
眠気を覚ますべく目を擦りあくびを漏らす。
そしてノックをした人物に入室の許可を出す。
「失礼します。出陣の準備が整いました」
「そうか」
入ってきた若い兵士を見る。
軽装鎧に身を包んだ彼は緊張しているようで、両手を揃えて棒の様に直立している。
今回の作戦では一方的な蹂躙になるだろうから命の危険はないが、相変わらずこんな若者でも戦争に駆り出されるのだなと実感した。
「出撃はいつだ?」
俺が問うと、若い兵士は困惑した表情を浮かべた。
意図を明確にするべく、言葉を重ねる。
「知っているだろう。俺は暴れること以外はからっきしだ。いつ攻めればいいかなんてわからん。だから出撃の命令を待っているわけだ」
「お、お言葉ですが。貴方様に命令できる人物など、数えるほどしかいらっしゃらないかと」
若い兵士が呆れたような声を出した、気がした。
それもそうだろう、と自分の今の立場を思い返す。
「わかった。全員集まっているのか?」
「はい!」
「じゃあそろそろ出るか。どうせ暴れるだけだからな」
「わかりました!」
若い兵士が礼をしてから部屋の外へと出ていった。
あの兵士は伝令だ。
既に待機している隊長たちに伝えに行ったのだろう。
「それにしても」
今の立場を思い返したからか。
あるいは、寝ている間に見ていた夢が原因だったのか。
俺は今までの人生を振り返り、少しだけ笑う。
「随分と波乱万丈な今世だよなぁ」
俺は髪一つない頭部から生えている、二本の短い角を撫でた。
俺の名前はグルデン=オルガス。
オーガ族の若者で、地位は将軍。
生まれた時からの臆病者で仲間内での遊びや喧嘩になかなかなじめず一人で過ごすことが多かった。
オーガ族自体は「飯・寝る・暴れる」の3つだけあれば生きていけるような種族だ。
一風変わった俺の存在だったが、彼らは全く気にも留めなかった。
それは俺にとって幸いだったため、俺は群れの中で孤立しながらも一人で生きていく術を身に着けていった。
暴れて、暴れて、暴れて。
そして気づけば随分と高い地位にまで昇りつめていた。
魔界随一の暴れん坊であり、謁見の間で魔王の傍に傅くことを許された4名のうちの一人。
4魔将の一人だ。
……本当に、どうしてこうなったのだと言わんばかりの転身ぶりだと思う。
俺の前世は日本人だ。
名前は覚えてない。
大学を卒業して就職をしていたと思うが、よく覚えていない。
漫画やゲームやアニメのことは覚えている。
日本のオタク文化は大好きだ。
なぜオーガに転生したのか、死因は何だったのか、そもそも異世界に転移して姿が変わっただけなのか、いろいろと疑問はある。
草食系オタク男子としての記憶を持った俺がこの世界に生まれてきた、という事実がある。
それ以外は全く分からないし、考えても仕方がないので気にすることをやめた。
前世特有の知識を活用するのは自分が生き延びるためだけであり、何かを変えようとは思わなかったからだ。
幸い、オーガは暴れれば良い。
仲間を攻撃しなければ、なお良い。
元々働きたくない、遊んで暮らしたいという自堕落な性格だったため、この単純な生活にもすぐ馴染んだ。
今回の作戦は今までと同じだ。
つまらない戦争の、つまらない襲撃。
さぁ、今日も人間の村を蹂躙しようか。
この、勇者のいなくなった世界で。