第一話「始まり」
「大好きです。今度は嘘じゃないっす」
某バスケット漫画の単行本30巻の最後の見開きを盛大にパクった台詞だったが、今の俺を表現するにはこれが最適だった。
俺が両手を肩に置いた晴子さんではない女の子、白河 希はというと、顔を赤らめてもじもじしていた。トイレにでも行きたいのだろうか。
でも俺の決意と情熱は君の尿意にすら勝るという事を知って貰いたい想いから、白河の肩に置いた手に力と情熱を込め、真剣さを知って貰う為に己が持ち得る最大のイイ顔を作って白河に顔を近づけた。
「頼む、本気なんだ!」
再び想いを言葉に乗せ、白河にぶつけた。届け、俺の想い!
それを聞いた白河はというと、ふともも同士を擦り合わせたり、更に顔を赤くしたりと恐らく尿意が限界を迎えているであろう事は理解出来たのだが、どうか我慢して頂きたい。何なら漏らしても俺は一向に構わない。処理は俺がしよう。だから返事をくれ。TANOMU!
「は、はい。分かりました」
「YES!」
白河の肩から手を放し、思わずガッツポーズ。俺の青春はここから始まると言っても過言では無いだろう。今日は運命の日やで!
ガッツポーズに加えて小躍りを思う存分した後、俺は改めて白河に感謝の意を伝えるべく、笑顔全開で白河に向き直った。
「ありがとう、白河。あ、トイレ行かなくて大丈夫?」
「え? う、うん。大丈夫だけど?」
不思議そうな顔で白河がそんな事を言って来た。
そうか。我慢強いんだな、白河は。
それとも膀胱が大きいのだろうか。行くぞ尿意、貯蔵は十分か? みたいな。
嬉しさからか大分にして頭が愉快になっていたが、何れにせよ膀胱炎にならない内にトイレに行って欲しいと切に願う。膀胱炎は癖になるらしいのでそれだけに少し心配だ。
「無理はするなよ。よし、それじゃあ部室に行こう。部活が俺達を待っている」
「え、部活? もしかして入部してくれるの?」
「え? そりゃあ勿論」
そもそも先程入部させてくれと本気で頼んだのに入部に対して疑問形とはこれ如何に。やっぱり今すぐにでもトイレに行った方が良いんじゃないか?
そんな事を思っていると、白河の中では合点がいったのか、あっ、と呟いた後、頻りに頷き始めた。
「そっか、そうだよね」
「分かってくれたか?」
「うん、分かった。ごめんね、変な事聞いちゃって」
「分かってくれればそれで良いさ」
人間、尿意によって記憶障害が起こる事ぐらい一度や二度あるだろう。全然問題無い。
「じゃあ行こうか、部室に」
「おう」
そう言ってここ体育館裏から少し離れたSLG部の部室へ向かおうとしたら、不意に白河が手を握ってきた。
突然の白河のこの行動に吃驚しながらも、自分から握って来た割に恐らく俺以上にテンパってる白河を見て少し落ち着いた。
「どうした?」
「えと。だ、駄目かな?」
白河が上目遣いでそんな事を言って来た。おう、何かアレだな。可愛いな、コイツ。
「いやいや、全然オッケー」
白河に笑いかける。それを見て白河は胸を撫で下ろしていた。
白河は可愛い。恐らく町中アンケートでも取れば十人中九人は可愛いという評価を下すだろう。残る一名は恐らくガチホモだ。
肩まで届く綺麗な黒髪に、愛らしい瞳。背が小さいのに加えて鼻と口も小さく、可愛いという単語を百程度具現化すればこんな子が一人ぐらい現れるんじゃないかという感じの子だ。
そんな子が俺と手を繋ぐ。Eね。凄くE。恐らくはこれから一緒に部活を頑張っていこうねというエール的なものだろうが、その行為は充分すぎる程に効果は抜群。俺のテンションも上々。
「よし、張り切って行こう!」
「うん!」
俺達は仲良く手を繋いで部室まで行った。何だろう、もしかして俺の人生順風満帆かもしれない。全てが上手く行っているとこの時、俺は何の根拠も無く確信していた。
俺と白河が付き合っているという事を俺自身が把握したのは、それから三日後の事だった。
「解せぬ」
「解せろ! アンタ本当にふざけんじゃないわよ!」
檄おこです。相馬さん、マジで檄おこです。顔にめっちゃ唾飛んで来てます。解せろって何だよってツッコミが出来ないぐらいそれはもう大層キレてます。
思わず小売業の店員が客に対してする正対の姿勢を取り、相馬の怒号と唾を甘んじて受け入れてしまう。
この説教が終わったら俺、顔を洗うんだ……。
死亡フラグ的な決意を心に秘めながらも、どうしてこうなったのだろうかと思わないでも無い。俺はただSLG部に入りたかっただけなのに。




