第十二話「前回のトーナメントの一節」
動画は相馬が言った様に丁度大会前の前振りと番宣が終わり、そろそろ対人戦予選トーナメントの各対戦を見ていくという流れになっていた。
ここで一つ。ナンバーワンゲーマー選手権の振るい落としについては都道府県別で行われる。参加人数が多い地域によっては小規模な競技場を使用する事もあるのだが、例年少ない地域ではビルの一角程度の場所で済ますところもある。
だが大会の予選に於いては通年、日本武道館やさいたまスーパーアリーナなどの大型施設を使う。この時の大会の予選は東京ビッグサイトであり、偶然にも約一ヶ月後に控えた予選と同じ会場だった。
俺は東京ビッグサイトには行った事が無いので施設の大きさ等々は分からないのだが、会場全体が映し出されたその動画を観るに、相当な広さだという事は理解出来た。
そんな広い会場はしかし、トーナメント出場者のみならず、観客やTV局関係者によって埋め尽くされており、動画のレポーターがその熱気を必死で伝えていた。
「会場はご覧頂いた通りになっております! さて、それでは早速対戦を見ていきましょう! まずはAブロックです!」
レポーターが決め顔でカメラに視線を送った後、カメラはその後ろで対戦をしている二人のゲーム画面を二分割で映し出す。そして小さい吹き出しで二人のプレイヤーも映し出していた。
左画面を操作するのは、恐らく三十歳前後であろう男性であり、長く伸ばした髭が特徴だ。対する右画面は四十歳に差し掛かっているであろう男性であり、ダンディズムに富んだ風貌をしている。イイ男度でいえば圧倒的に後者であるが、経過を見るにゲームの腕はどうやら髭の男性の方が立つようだった。
対戦の序盤から少し時間が経っての映像選出だったが、両方の画面を見れば何となく今までの流れが分かった。
左画面。髭の男性はまず二つある城のうち片方に兵力と物資を輸送した様だ。ちらっと出た輸送元の城の情報では、最低限の兵力と鉄砲、一人の武将のみだった。そして輸送先の城には大量の兵士と物資が揃っており、今正に出陣しようかという状況だった。
対する右画面のイイ男はそれを見て慌てて攻め入られるだろう城に兵士と物資を輸送しようと準備をしている最中であり、町並みを得ようと道を敷設していた工作隊が指示待ちで待機している状況だった。見るからに対応が後手後手になっている。
髭の男性は明らかに短期決戦を狙っており、イイ男の方は恐らくじっくりと攻略していこうとしたのだろう。お互いの得意分野を狙っての結果か或いは髭の男性の奇襲かは分からないが、髭の男性の部隊の組み方、工作隊の動かし方、定期的な相手方の情報収集などの遣り方には舌を巻いた。素早く且つ適切としか言い様が無い。
髭の男性はイイ男が町並みの前に建設した防衛施設である砦をスルーし、城に対して遠回りをしながら工作隊が道を敷設する。その行動は明らかに、破壊するのに若干の手間と兵力を浪費する砦を嫌った行動だった。
もしイイ男がもっと早くに髭の男性の行動を察知していれば、進行を止める方法はいくらでもあったのだろうが、気付くのが遅く、対応が間に合わなかった。
難なく城に取りついた髭の男性の軍勢が城の耐久度をガンガン減らしていく。それに負けじと、輸送隊が攻められている城に着くとイイ男も城から打って出て相手の兵士をガリガリ削っていった。が、髭の男性の方に『谷 忠澄』という知略に優れた武将が居たのが勝敗を分ける要因の一つになった。
この『谷 忠澄』という武将についての史実的な説明は省くが、この知略81という数字を持つ武将は『混乱』という戦法を持っており、意味合いとしてはそのままなのだが、相手方に高い知略を持つ武将がいなければ城を含めて相手部隊を混乱させる事が出来る。混乱中はその城、その部隊は攻撃が出来ず、混乱が収まるまでは一方的に此方が攻撃出来るという素晴らしい戦法であり、その戦法を持つ谷くんがイイ男の城と部隊を混乱させまくった。
部隊の戦法を発動させる条件である闘志が溜まったら戦法の『混乱』を発動、相手が混乱。そしてまた闘志が溜まったら『混乱』を発動という最早パターン化したこの遣り取りは落城により終わりを迎え、それと同時にイイ男はギブアップをした。落城させまいとほぼ全ての兵を戦闘に駆り出し、その結果失ったのだから当たり前と言えば当たり前だった。
ギブアップ後にお互いが健闘を称え合い、握手をしたところでカメラがレポーターを映し出す。
「いやー、素晴らしい! 見事な対戦でした! まだまだAブロックには血沸き肉躍る熱い戦いが繰り広げられています!」
ここでカメラがAブロックで対戦している総勢十六人の人達を遠巻きに映し出した。
振るい落としをクリアし、このSLGの大会予選に参加した人達は合計三百二十人。A~Tブロックの二十組に分かれて対戦が行われており、Aブロックはその内の一組に過ぎない。
「さて、ではBブロックも覗いてみましょう!」
流石に一次予選全ての対戦を映す訳にはいかないのだろう、レポーターとカメラはBブロックに向かう。が、その移動途中の動画を白河が停止した。
「続きはまた今度にしよ?」
時計を指差しながら白河がそう言った。見ると昼休み終了十分前を切っている。
「そうね。区切りも良いし、そうしましょう」
そう言う相馬も既に教室に戻る用意をしていた。
「了解」
動画の内容を頭の中で反芻しながら、俺も教室に戻る用意をする事にした。




