攻略対象は全員教師、という乙女ゲーに巻き込まれる話。
ある日何の前触れもなく、唐突に私は白い空間にいた。
目の前には、私の腰から頭まで位の大きさの、不思議なプレート。その数、等間隔に10枚。
そのプレートの左半分には、ごくライトな乙女ゲーマーである私には馴染みの、いわゆる『ステータス』的な何かが細かく表示されている。
そして右半分。
こちらには、男とも女ともつかない、マネキンのような何かが、表示されていた。
「えーっと……これってアレ? きゃらくたーめいきんぐ画面とかそういうやつ?」
ためしに画面に触れてみると、タッチパネル式なのかすぐにプレートは反応し、適当に触れた項目がプルダウン方式に開かれた。
そこには目の色、とあって、一般的な黒や青のほかに、やれ金色だの虹色だの、実になんというか某若かりしころの悪い病的な色も用意されている。
さらに目に付くあれこれをとにかく適当に選んでいくと、右画面の真っ白なマネキンだったなにかは、気がつけば金髪碧眼の美青年になっていた。
素っ裸の。
思わずほほを染めながら、さらに調子に乗って設定を打ち込んでいくと、やがて美青年はメガネにスーツの超絶イケメンに。
服装は王子様風から某世紀末な漫画に出てきそうなものまで色々あって、正直何なのこの作りこみ、と思わず一人で突っ込んでいた。
ある程度作りこんでいると楽しくなってくるもので、ほとんどの項目が埋まった直後、私は迷わず二人目のメイキングに取り掛かっていた。
どれくらい時間をかけたのか、何の変化もない白い空間では判断はつかない。
それでも我ながら途方もない時間をかけ、やがて6人のメイキングを終えた私は、心から充実した気分を味わいつつ、ずらりと並べた美少年美青年美中年たちのデータをしみじみと眺めやった。
最初に作った金髪碧眼王子様風、緑の目に赤髪逆毛のスポーツマン風、琥珀の瞳の華奢で穏やかそうな栗色髪の文学青年風、ワイルドでチョイ悪な雰囲気の黒髪黒目の美おっ様に、執事服が似合いそうな紫目緑髪の髭のダンディおじ様、さらにぱっと見ショタっぽいけど実はちゃんと大人という、ピンクの髪+水色目の童顔美少年風。
個人的な好みで全体的に年齢が高めなのはご愛嬌だ。
性格はそのまま、王子様に大型わんこ、おっとり天然に豪快ワイルド、ダンディに元気っこ。
身長は、186cm~165cmまでと、無駄にバラエティに富んでしまった。
「後は職業だなー。これは後でもう一回煮詰めるとして、せっかくだし主人公とライバルと親友と兄弟も作っとくか。」
職業ははじめはそれぞれ、サラリーマンだの書店主だの喫茶店マスターだのと選んでたんだけど、なんとなくしっくりこなくてあけてある。
そこはいっそ主人公ちゃんの設定に合わせよう、ということで、私は今度は私自身が胸を張って可愛いと思える女の子を製作することにした。
じっくり時間をかけて出来上がったのは、明るいブラウンの髪にくっきりオレンジの瞳をした、太陽みたいに華やかなイメージの美少女だ。
髪の長さはセミロング、顔立ちはちょっとつり上がった目が意志が強そうで、若干年齢よりも幼く見える感じ。
性格は素直で元気、お人よし。普段は鋭いくせに恋愛にはチョイにぶ、という、王道中の王道だ。
身長は162センチ、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込み、何より脚線美が素晴らしいというわがままボディ。
年齢は悩みに悩んでいじり倒し、17歳、で落ち着いた。
さて、ここまで作ってみてやはり気になるのはヒーローたちとの年齢差。
何せみんな20代半ば以上、一番上など40代なのである。
これをどうやって絡めていくか、と考えたとき、私は雷が落ちたかのような天啓に全身を震わせた。
「こ れ し か な い で し ょ!!!」
男性陣の職業枠をこれでもかという高速タップで操作し、その全員の(・・・)職業を『高校教師』にする。
「いまだかつてなかった、まさに問題作……『攻略対象は全員先生、教えてティーチャー!!』なんちゃって!!あはははは!!!」
全員がロリ、全員が駄目教師に堕ちる問題のありすぎる設定ながら、『障害があるほうが燃える』タイプのお姉さま方にはニッチな人気を博すんではないでしょうか!なんてね!
王子が数学、わんこが体育、おっとりが家庭科で、ワイルドが意外性を出すため古文。ダンディは校長とし、ショタっ子は保険医とした。
ライバルキャラは同僚の教師で、青い髪に藍色の瞳の大人っぽい感じの清楚美人。
親友は情報屋ポジションで、紺色の髪と瞳の二つ縛り+メガネで隠れ美人という定番。
兄弟はあえてのお兄ちゃんである。主人公と正反対の灰色髪+銀目で、性格は古風で堅物、などにしてみる。先生(攻略対象)と友人関係で、選択肢で反対も応援もしてくれるという設定。
「やっべー、このゲームでたら私絶対買うわー。むしろ脇役になって傍観したい。」
散々集中した直後に死ぬほど笑い転げた反動で恐ろしいほど冷静になりながらも、私は最後の仕上げに、一人ずつ名前をつけていった。
縛りは色。それぞれに似合いつつも、昨今流行のきらきらネームとやらにならないぎりぎりのラインを狙っていく。
「よし、これで全員。あぁ満足。楽しかったー!」
最後のお兄ちゃんの名前を打ち込んで大きく伸びをした直後、私はまるで電源が落とされるがごとく、ぶっつりと意識を失った。
そしてすべてが夢だったのだというように、自宅のベッドの上で、目を覚ますのである。
肩甲骨の右側、自分ではよほど頑張らねば見えないその場所に、何かの印のごとく小さな花弁型の痣ができていることなど、少しも気付かないままに……。
さて、その後。
私の知らないどこかの世界で、私の作ったキャラクターたちは、新作のゲームとしてひそかに発売され、そしてじわじわと人気を延ばし、続編が作られるまでになる。
その続編は、誰ともくっつかなかった主人公が、同僚教師となって学園に帰ってくるという、女性向け18禁ゲーム。
現実世界で無事教員免許を取得した私が、タイミングを見計らったようにそのゲームの世界に放り込まれ、鬼畜あり溺愛あり、さらには近親相姦に複数プレイまでありのその世界で、自分のデザインしたキャラクターたちにこれでもかと翻弄されることになるのは、また別のお話。