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永遠時間

作者: ショッピー


 5時間目の数学。今日の単元は因数分解だった。

わたしは因数分解が苦手だ。ややこしくて頭がパンクしそうだ。

どうしても2問目の問題が解けないので、隣の朝河さんのノートをちらりと見る。

頭のいい朝河さんは、すらすらと問題を解いて、もう8問目に差し掛かっている。


 なんとか2問目の問題の答えは盗み見ることができた。すぐに次の問題に取り掛かる。

教卓の前で本を読んでいる高木先生が羨ましい。

こんな時間、早く終わればいいのに。

わたしは壁に取り付けられている時計を見た。2時ちょうど。まだ終わるまで20分もある。


 そっとため息をつく。多分、朝河さんは気づいたのだろう。こちらを見る。

メガネをかけた、端麗な顔つきはとても美しい。

わたしはノートに目を向け、再び問題を解き始める。


 

 おかしい。


 もう、わたしの体感時間では10分を過ぎている。

そう思ったのは、問の4を解いた後だった。

もう、大分時間はたったはずなのに、時計の針は未だに2時を指していた。

あの時計、壊れてるのかな。

わたしは腕時計をしていないのでわからなかった。


 朝河さんの腕を見ると、腕時計がついていた。

ちらっと見た。

しかし、彼女の時計にも2時と記されていた。

わたしの勘違いだったのだろう、と残りの問題をやり始めた。


 

 わたしはみんなを見渡す。

ここにいる全員、私以外はこの異常現象に気づいていないのか。

あれから30分はたったはずだ。

なのに、教室の時計の針は1ミリも動いていなかった。

真夏なのに寒気がした。

この教室全体が、時間の進行から切り離されたのか?

いつしかわたしは、そんなSFみたいなことを考えるようになった。

同じ時間を延々と繰り返しているのではないか?

そういえばさっきから、セミの声もずっと同じに聞こえる。


 みんないつもは、チラチラと時計を気にするはずだ。授業が終わるのを待ちわびてるじゃない。

なのにどうしたんだろう。


 わたしは隣の朝河さんに話しかけた。

「ねえ。さっきからおかしいよね。時計が全く進まないのよ」小声で言った。

「そう?まだ2時になったばっかりだよ」

朝河さんも気づいていない。

わたしは倒れてしまいそうだった。この時間の連鎖を誰か止めて。


 10分たっても、20分たっても、30分たっても、時間は一向に止まったままだ。

先生もずっと本を読んでるし、朝河さんはずっと8問目を解いている。

「うわあああああああああああ」

耐え切れず、わたしは叫んだ。

教室のみんながわたしを見る。高木先生が立ち上がった。

「どうしました?体調が悪いんですか?」

どうしました?じゃないわよ。

時間が止まっているのよ。気づかないの?


 「はい。すこし気持ち悪いです」わたしは嘘をついた。

この教室を出たかった。

この教室を出れば、止まった時間はもとに戻るかもしれない。


「保健室に行きなさい。保健委員の人、ついて行ってあげて」高木先生が指示をする。

「大丈夫です。1人で行けます」

わたしは足早に教室を出た。

勢いよく引き戸を開けると、廊下は真っ暗だった。


 わたしがずっと5時間目の授業を受けているあいだに、外は夜になっていたらしい。

出てきてよかった。

何が起きたのかはわからないけど、やっと現実の世界に戻れる。


 わたしは保健室には寄らず、まっすぐ正面玄関へ向かった。

下駄箱で靴に履き替え、外へ出るためにドアを開けようとした。

しかし、そのドアは開かなかった。

いくら引っ張ってもビクともしない。

目の前に出口があるのに、外に出ることができなかった。

「どういうことなのよ!助けてよ!」意味もない叫び声をあげた。


 この学校のほかの出口もすべて封鎖されていた。

頭がおかしくなりそうだった。

わたしは廊下の隅でうずくまり、窓の外を眺めた。

瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。鼻がツーンとする。

外はどんどん暗くなっていった。

まぶたが重くなり、わたしは眠りについた。


 朝の光で目が覚めた。鳥の鳴き声が聞こえ、いつもの朝が始まる。

わたしはまだ廊下にいた。目が覚めたら実は夢だったていうのを期待していた。

だけど、これが現実だった。


 正面玄関のドアはやっぱり開かなかった。

これから、何千回、何万回と同じ朝をこの学校で迎えるのか。

そう思うと、また涙がでてきた。

私は涙を拭き、教室の引き戸を開ける。ノートに顔を向けていた生徒たちはわたしを注目し、高木先生も本から顔をあげた。

「もういいのか」

「はい。やっぱり気のせいでした」

そう言って、自分の席に座る。

わたしはまた、次の問題に取り掛かるのだった。

 時間SF第1弾。ということで、止まった時間を題材にして書きました。意外と短かったかも。

こんなことが本当に起きたら怖いなと、書いてて思いましたね。別の意味で。永遠に数学っていうのは・・・。

 ま、というわけでSFにはまっている僕は、時間関係の話をもう1本考えております。近いうちに投稿するので、よろしかったらぜひ。

 感想、アドバイスお待ちしております。

ではでは。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『永遠時間』拝読しました。 展開が読めず、短い間に何度も「どうなっちゃうんだろう?」とドキドキさせられました。突き放すようなラストも素敵でした。面白かったです!
2012/12/28 20:26 退会済み
管理
[良い点] 面白かったです。話もテンポ良く進み読みやすかったです! [気になる点] !や?の後には1マス開けるらしいです。 例えばこんな感じに 「どういうことなのよ! 助けてよ!」
2012/10/28 19:35 退会済み
管理
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