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Scare Crow  作者: 大藪鴻大
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鷹 2

 鷹はちょっと思慮深いというか、考えすぎるようなところがあります。彼をつくるとき、高校時代はずっと本を読んでいる、少し周りとは違った空気をまとった孤高の人だった、というイメージが頭の中にありました。

 ちなみに、ちょっとした遊びなんですが、「ナイフ使い」で何か思い当たる人がいるなら、最後の行に注目してみてください。もしかして、と思った人は、多分それです。

 暗闇が広がる。俺は手を伸ばし、顔に覆われたものをつかむ。黒い布だった。俺がこの公園のベンチで眠ったときにこんなものはなかった。悪戯だろうか。なぜ、白い布ではなく、黒い布なのだろうか。太陽はすでに大分高いところまでのぼっていた。

 昨夜、黒田の屋敷に向かって歩いていた。向かっただけだった。自らの興味に流され人前に姿をさらすことはしない。黒田が死のうが誰が死のうが、俺には関係ない。砂場で山を作っていた子供三人と目が合う。俺は昨夜新たに購入したコートで顔を隠し、立ち上がる。

 誰にも見えない暗殺者。俺はそう呼ばれる。しかし、それは俺の犯行が誰にも見えないという意味ではない。人を殺すことに対してこういうのもなんだが、そんな芸術的な殺し屋ではない。ただ単に、冷酷で臆病な殺人鬼なだけだ。俺の顔を見た奴は殺される。ただ、それだけだ。

 俺は数歩歩き、首だけ動かし砂場を見る。子供たちは何事もなかったかのように一心不乱に砂山に砂を押しつけている。俺は胸をなでおろす。

 俺にもあんな時期があったのだろうか。あったのだろう。俺だって生物学的には人間だ。子供の時期だってあっただろう。善と悪がはっきりした世界で守られながら未来に目を輝かせていた時期があっただろう。

 しかし、覚えていない。記憶喪失かと言われるとそうなのかもしれない。そうじゃないのかもしれない。確かに俺は人としての過程をたどっている。そのことは認識できている。しかし、それは事実でしかない。俺は母親に抱かれ、父親に反抗し、友と笑い、肩を抱き、傷つけ合い、泣いた。その記憶一つ一つには感情というものが欠落していた。懐かしさがなかった。アルバムを開き、盛り上がる人々を見て何度混乱したことか。

 俺にとって、過去は過去でしかない。俺は記憶に感情というシールを貼ることができなかった。だから、俺は『遊んだ』ことも覚えていないし、『謝った』ことも覚えていない。

 ポケットで携帯が振動する。俺は携帯を取り出す。あの緑の髪の青年のものだ。初め、この携帯からはよく分からない音楽が流れる設定になっていたが、勝手にバイブルに変えさせてもらった。文句を言うやつは、もうこの世にいない。

 携帯を開くとメールだった。八通ほど来ていた。今来たメールも合わせて中身を確認する。案の定というか、やはりというべきか、ほとんどが元の持ち主宛てだった。おそらく、彼の友人からだろう。一つ一つ丁寧に削除していく。余計なメールがたまると後が面倒になる。削除する過程で、俺は七通目のメールで止まる。


題名:明日の件

 なかなか家に帰ってこないあなたですが

 明日はきっと家に帰ってください

 明日は記念すべき日です

 みんなで祝いましょう

 あなたが生まれたことを


 約束です


 俺はしばらくそのメールを眺めていた。あの青年宛てなのだろうか?俺はこのメールの削除を保留する。青年に同情したわけではない。後ろめたさが生じたわけでもない。ただ、このメールには『思い』が込められている。俺にはそれさえも削除することはできない。このメールを消すことと『クライアントに素晴らしき人生を』与えることとは無関係だ。俺は次のメールを開く。最後のメールは俺の本来の目的だった。


題名:無題

 『鷹』へ

 本日、午前十一時に次の場所に来てほしい。依頼したい。


 その文面の次にはアドレスが並んでいた。接続すると地図が出てくる。どうやら駅のようだった。電車で来るのだろうか?

 なぜ、見知らぬ青年の携帯に俺への依頼が届くのか。簡単だ。俺はこの携帯を頂戴した後、あるところにこの電話のメールアドレスと電話番号を送る。すると、登録完了。俺の携帯に早変わりするというわけだ。

 その『あるところ』は、こういった仕事以外にも俺の業界の情報を取り扱っている。俺が『烏』について知ったのもここの情報だ。『あるところ』には名前がないのだが、俺は便宜上、情報屋と呼んでいる。

 俺は携帯を閉じ、指定された場所に向かう。蝉が乾いた声で鳴き出す。


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