第31話
パチパチ
暗い山の中、薪が燃える音だけが響いていた。
「すぅ~」
辺りが暗くなりお腹も膨れたユーマは眠気に襲われ、すやすやとセレーナの膝を枕にして眠っていた。
「セレーナも仮眠を取ったらどうだ?」
「その事だけどアキナ、夜の番は大丈夫よ」
「イヤイヤ、流石に片方は起きてないと危ないだろ?」
アキナの言い分が普通は正しい。夜に山の中では何時モンスターに襲われてもおかしくないのにセレーナは番の必要が無いと言うのは些か危険である。
だがそれは普通のハンターの場合である。
「大丈夫よ、ユーマが魔法で周囲を警戒してくれてるから」
「だってオチビは寝てるぜ?」
寝ているユーマを見るといつ出したのだろうか、杖を握っていた。
「寝る前にユーマは周囲にモンスターか人が一定の距離まで近付くと分かる察知の魔法を使ってくれてるから大丈夫よ」
「寝てても分かるのか?」
「大丈夫よ、察知するとユーマが起きるから」
なんとも便利な魔法である。
「まぁ、警戒は怠らないけど」
「わかった、アタシも警戒はしておくよ」
そう言って二人は眠りについた。そして夜も深まり二人がうつらうつらしているとユーマの察知が何かを捉え目を覚ました。
「うにゅ…お姉ちゃん」
ユーマはセレーナを揺すって注意を促した。
「ユーマ?」
「誰か近付いてくるよ」
「アキナ、起きて」
セレーナは剣をすぐに抜ける状態にするとアキナを起こした。
「ん?どうした?」
「誰か近付いて来てるの」
「!?わかった」
アキナも眠気を払うと手甲を着けた。
「ユーマ、何人近付いてくる?」
「一人だよ」
そう言ってユーマはセレーナ達の後ろに隠れ来訪者を待った。
「あの~…」
セレーナ達が待ち構えていると聞こえてきたのは気の弱そうな女性の声だった。
「何か用?」
フードを被っているので顔が見えずにいた。そのせいでセレーナは余計に警戒をしていた。
「あ、怪しい者じゃありません!!道に迷ってしまって…それで歩いていたら灯りが見えたので」
「怪しくないならフードを取ったらどうなの?」
「そうでした…すいません。これでいいですか?」
女性がフードをとると金髪の髪が見え、それとは別に特長のある物が見えた。
「獣人か?」
「はい」
アキナの質問に答えた獣人の女性には、猫の様な耳が頭に見えた。
「あの、道を教えていただけませんか?道さえ分かればすぐに去りますので」
「生憎だけど私達も道に迷ったのよ」
女性の問いにセレーナも道が分からない事を伝えると女性の耳がペタンと折れた。
「そうですか…」
「旅かなにか?」
セレーナは少し警戒を解き女性に話かけた。
「いえ、こう見えてもハンターなんです。」
女性は背中にあった弓を見せた。
「依頼の途中か?」
「いえ、依然いた町で依頼が少なくなってしまったので別の町に行こうとしたんですが…」
「迷ったと」
女性の言葉を遮るようにアキナが現状を言い放った。
「お姉ちゃん、困ってるみたいだよ?」
「そうね、ねぇ?休んでいく?」
「いいんですか?」
セレーナの言葉に女性は耳がピンと起き上がった。
「その様子じゃ、全然休んでないみたいだから」
「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらって良いですか?」
「どうぞ」
女性は火の前で座ると弓と矢、リュックを下ろして火にあたった。
「お姉さんは猫さん?」
「そうですよ、ほら」
女性は尻尾をユーマに見せた。
「僕、ユーマ。お姉さんは?」
「私?私はセリー」
セリーは自己紹介をするとユーマの前で尻尾を左右に振っていた。ユーマも尻尾につられ顔を左右に振って尻尾を追いかけていた。
「セリーさん、尻尾を触ってもいい?」
「こら、駄目でしょユーマ」
セレーナは軽くユーマに注意した。初対面の人にいきなり触ってもいいは流石に失礼にあたると思い止めた。
「構いませんよ。強く触らないでね?」
セリーは尻尾をユーマの前でフラフラさせるとユーマも恐る恐る触ってきた。
「ふわふわだ~♪」
「ほらほら~♪」
セリーは尻尾でユーマの鼻下をくすぐると…
「くちゅ!!」
くしゃみをした。
「む~!!」
イタズラされたユーマは物凄く膨れた。
「ほらユーマ。そろそろ寝なさい」
「は~い」
ユーマは杖を握ってセレーナの膝の上に頭を置き寝転んだ。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
セレーナはユーマの頭を撫でるとユーマが寝入りやすいようにした。
「すぅ…」
ものの数分でユーマは寝付いた。
「私達も休みましょ」
セレーナはセリーに対して用心の為剣を抜ける状態で側に置きやすんだ。
「はい、おやすみなさい」
セリーも警戒して弓矢を手の届く範囲に置き休んだ。




