五月二十一日(改稿)
以前あげた「五月二十一日」の改稿です。
なるほどなと思う感想をもらったので推敲してみました。
ただ話の筋や大きなところは変えていません。
これ自体は僕が登校中の交差点で見たことを小説の題材にしてみれば面白いかなと思い書いてみただけです。
ただ登場人物の設定を変更し、それに対応して文章を増やしつつ、言葉を変えつつ、こんな感じのより小説にしてみました。
お願いがあるのですが
二つ読んでくださった方はどう変わったか
改稿したことによって生じた良い所悪い所を感想で書いていただけるととてもありがたいです。
交差点にて
暑くなりそうな予兆のある朝だった。
会社に向かう足はただ惰性という力によって動かされていた。
まだ新しいスーツと首を絞めるように巻かれているネクタイ
また汗っかきな体質のせいで
朝のうちからもうシャツは湿りつつあった。
だがこれは勝負服なのだ。
これを脱いでは僕はここにいることはできない。
何重にも服を着ることによって社会に組み込まれることができるのだ。
一歩右足を出せば左足が後ろへ
一歩左足を出せば右足が後ろへ
まったくそれがなんだというのか。
歩いたところで何が変わるというのか。
その歩みさえ30センチ程度の赤いランプに邪魔されるのだ。
誰一人として僕をただ信号を待つという行為をする集団から分化してくれる人はいなかった。
かといって異端だとされるのをよしとする自分もどこにも存在しやしないだろう。
だからこそではあるが、そのことを悲しいほどわかっているからこそ、ひとつ深いため息をつき重たくなった体を地面に立たせているのだ。
ふと目の前をティッシュが飛んでいく。
妙に強い風の流れに対抗するように飛んでいくと思ったらそれは一羽の蝶だった。
白い羽を広げていると人の握りこぶしほどの大きさの蝶は僕のアスファルトにのめりこんだ気分を少し軽くしてくれた。
もう春も半ばを過ぎた。今日の暑さでさなぎから羽化する奴らもいるだろう。
朝のうちでもこんなにあったかいんだもの。飛び立ちたくなるのも分かるような気がする。
だが気温は高くても少し曇ったこんな日では
空気はまるで梅雨の時期のように肩にノシしかかってくる。
吹いてくる風もシャツが湿っていくのに助力していくだけである。
交差点には自然の風だけが吹いているわけではない。
地を揺らしながら重い胴体を引きずって走るトラック。
冷めきった目で窓の外を眺める人を載せたバス。
それらがすれ違うたびに様々な気流が起きる。
軽い体を生かして車を避け続けてはいたが
やがて羽化したばかりの蝶は一つの流れに巻き込まれ
遂に空に浮くことはなかった。
無情にもその上を車体は走り過ぎていく。
運がなかったとしか言いようがない。
とはいえ都会で羽化をしたところどのみちいつかは潰されていく運命だったのだ。
それが何週間か早かっただけにすぎない。
誰一人蝶が空に浮かばなくなったことを知らないだろう。
バタフライ効果なんてまどろっこしいものは関係がないが
僕は確かになにかが起こって欲しかったのだ。
ニューヨークでもなく地球の裏側でなく
ただこの交差点で何かが起こって欲しかったのだ。
信号機は今全てが赤になり交差点には
ただ蝶がその体を横たえていた。
強い風がちぎれた片方の羽を遠くに吹き飛ばした。
そこに一瞬で目に焼き付いた白く立派だった時のなごりはない。
空は日が上ったとは思えないほど暗く
太陽が世界から隠れていった。
足元のアスファルトは一粒の雨粒によって染みがついた。
立ち止まっている人々はただ空を見上げしばらく祈りを捧げていたが
やがて信号が青になり歩き去っていった。