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第九話 狂戦士

「あーいい汗かいた!」

「腹もふくれたし、今日はもう休むか」


 ノエルとソアラがだらしなく足を投げ出す。


 今日は素早い敵が多く、前線で追いかけるソアラは勿論アリスとミゼルの盾に回るノエルもクタクタだ。


 ソアラに至ってはすでに目が虚ろである。


「ちょっと!今日はソアラが番でしょ?」


 それを見かねたアリスがじろりとソアラを睨んだ。これから風呂と洗濯が残っている。


 ちょっとやそっとの事は気にならない男性陣と比べ、女性陣の方は翌日のモチベーションに直結する。


 つまるところ、お嬢様育ちのアリスと教会育ちのミゼルにとって不衛生は敵なのだ。


「ふぁーい」

「じゃあソアラ、頼んだ。俺は一眠りしてくるわ」

「えっ?ちょっとノエル、お風呂は?」


 ミゼルが慌てたようにノエルに声をかける。当のノエルはさも面倒臭そうに手をひらひらさせる。


「だぁい丈夫だって。一日くらい風呂入んなくても死にはしねぇよ」

「ちょっと!汗臭い盾なんかいらないわよ!?」

「明日はソアラに頑張ってもらうから、俺に出番が来たらソアラに文句言いなぁ。つうかアリス、お前も遠距離攻撃出来るんだから自衛しろよぉ」


 ノエルは面倒臭そうにテントに入った。


 今日のレベル上げで勇者であるソアラより先にレベル二桁になったノエルは、自分の責務は果たしたと言わんばかりに休息を決め込んだ。


「んもう!まったく!」

「…まぁまぁアリスちゃん。今日はノエル頑張ってたし、休ませてあげましょ」

「そうね…じゃあミゼル、ソアラの方よろしく!」


 アリスの呆れ声に苦笑いを返したミゼルは、舟を漕ぎ出したソアラに近づき、回復魔法をかけた。


「…ん?おお。悪い、ミゼル」

「ふふ、いいの。ソアラには今晩見張り頑張ってもらわないといけないし…」

「…ん?」


 ミゼルの含みのある語尾に、ソアラが首を傾げた。


「私の…数少ないレベル上げの場だから」

「あぁ…」

「…ごめん」


 ミゼルの自虐的な笑顔にいたたまれなくなり、無意味にアリスが謝った。




 それが起こったのはその数十分後だった。


 ノエルが物音と激しい悲鳴に飛び起き、咄嗟に剣を持って外に出た。


「どうし…!?」


「…くっ、起きてきやがったか。ガキとはいえ、人数は少ない方が仕事が楽なんだがな」


 焚き火の明かりに、男の顔が照らされる。


 顔中髭ヅラの男と、大柄で精悍な男が風呂の途中であったのだろう、あられもない姿のアリスとミゼルを拘束している。


 口を抑えられ、腕も後ろ手に捕まえられている。


「ソア…」

「ノエ…逃げ…」


 首を回し辺りを見渡すと、頭から血を流したソアラが組み敷かれていた。


 抵抗した跡は見られたが、体格差もあってか敵わなかったようだ。


「勇者と言っても、所詮は低レベルのガキだな」

「くっ…放…せ…」

「おっと、大人しくしてろよ?お仲間の女の子が傷物になっちまうぜ?」

「…という事だ。お前もさっさと剣を捨てな」


 髭ヅラの男を向き直すと、楽しそうに笑っている。


 ノエルは名状しがたい怒りのあまり、剣を握る手に力が入り剣が震えた。


 アリスとミゼルは見ての通り。装備どころか素っ裸だ。


 ソアラは既に無力化されている。


 …現状を打破出来るのは、俺しかいない。


「どうした?聞こえなかったのか?」


 髭ヅラの男が目配せすると、隣の無表情の男がミゼルの頬にナイフで傷をつけた。


 恐怖に歪んだミゼルの顔に、一筋赤い血が流れる。


「くっ…!」


 しかし手が剣から離れない。


 目の前が怒りで赤く染まる。


 全身が総毛立つ。


 体が硬直して周りの音が遠くなった。


「おい…!」


 髭ヅラの男の表情に苛立ちが見える。


 語気が強くなるが、その言葉も他人事のように聞こえた。


 怒りで脳が沸騰しかけているのに、妙に思考は冴えている。


 …自分の思考回路についていけなかったが。


「なんだお前…その、赤い光は」

「はぁ?何言ってんだお前。つうかいい加減言うこと聞きやがれ!」


 こいつらがどこの誰かはわからないが、どう見ても仲間に危害を加える敵に間違いない。


 そして感情の昂りの渦から意識が目の前の男たちを敵だと判断したあたりで、視覚に一つ変化が表れた。


 男たちの周りに、赤いオーブが幾つも飛んでいる。


 髭の男と隣の男の周りには4、5個、ソアラを組み敷いている男からは2、3個が明滅している。


 反してアリスとミゼル、ソアラからは青いオーブが漂っている。そちらは1、2個程度だ。


 その光を見つめるうちに、自分の意識が深層に潜り込み、別の意識が鎌首をもたげるのを感じた。


 そちらも自分であり、また別の人物のような不思議な感覚だった。


 ただ、新たな人格から浮かぶ思念に同調した途端、一気に弾けた。


『あぁ、こいつらを殺そう』


 瞬時に自身から少し離れて静観していた男に切り込み、首を刎ねた。


 自分のレベルを考えると驚くべきスピードだったが、不思議と出来て当たり前の感覚だった。


 三人を抑えている男たちに、驚愕の表情が浮かぶ。


 首を飛ばされた男の派手に飛び散る血飛沫を浴びながら、その男の背中から弓を奪い取り、番える。


「破弓…『バリスタ』」


 自分の口から紡がれた言葉を聞きながら、アリスとミゼルを捕らえる男たちに向けて矢を放った。


「馬鹿め!どこを狙って…」

「ぐぁっ!」


 髭ヅラを掠めて外したかに見えた矢は、暗闇に紛れて視認出来ないはずのやつらの一味に命中した。


 ドサリと倒れる音をして、髭ヅラが振り返る。


「ボース!」


 髭ヅラが小柄な男の名と思わしき声を上げると、隣の男が小さく呟いた。


「光…オーブが見えるのか、あの小僧は…」

「オーブだとっ!?」


 髭ヅラの驚愕の声と同時に、アリスとミゼルにも驚きが浮かぶ。ソアラは何もわからずただ呆然としていた。


「あのガキ…狂戦士バーサーカーか…!?」

「たしかにお前らは俺たちよりレベルは上かもしれない…」


 ゆらりと矢を2本持つと、先ほどと同じように言葉が出てくる。


「破弓…『ヒュドラ』」


 2本の矢が同時に射出され、また見えないはずの敵を穿った。


「貴様ぁぁぁ!!」


 ソアラを抑えていた男が短剣を持ち、特攻して来る。


 弓を放し剣でそれをいなすと、いなした動きをそのまま体の回転に繋げ、またも首を刎ね上げた。


「弱点さえ突けば殺す事は容易に出来る」

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