第七話 お年ごろのパーティー
クリスタルに表示された情報は、突然の俺の成長の証だった。
『戦士Lv2』…。いつの間に、俺は経験を積んでいたのだろう。
「なになに?…おっ?ノエル、お前レベル上がってんじゃん!」
「えっ?ちょっと!なんで?」
「倒したの俺じゃん!なんでノエルのレベルが上がって、俺のが上がらねぇの?」
口々に不平不満を言う二人に、ワイルドファングが落としたタルクを拾いながらミゼルが言った。
緑のタルクが三つくらいあるのか。なかなか強かったもんな。
「ノエル…昨日の晩、私達が寝てる間何かあった?」
「いや、特に異常はなかったけど」
「じゃあ…どうやって過ごした?」
ミゼルの言葉に、二人の視線が俺に注がれる。
なんか詰問されているようで、つい顔を背けてしまう。
「うーん…基本的に周囲を散策して、あとは、剣振るってた」
「剣?」
ソアラが聞いてきた。同じ剣使いとして、夜間の見回りをする者として興味があったのだろう。
「うん、ほら、俺らって武器の扱いに関してはからっきしじゃん?だから、少しでも体に馴染ませようと思って」
…さっきの戦闘では活かせなかったけどな。剣の角度が悪く、『斬る』というより『殴打する』形になってしまった。
それでも乱暴な言い方をすれば鉄の塊で叩くわけだから、ダメージを与えれることは与えれたわけだけど。それはそれで後学の為になる。
「たぶん、それじゃないかな?体が戦士の動きをすればする程、それが経験になる。…あっ」
ミゼルが視線を落とすと、タリス以外の拾得品があったようだ。
「狼の毛皮に、肉」
「よぉし!これで朝飯探しにいかなくて済むな!」
「…この量だと、一人あたりだいぶ少ないけどな…」
「グッ…」
何も考えずに喜ぶソアラに水を差すと、バッグから火打石を出す。
すると今度は、アリスが文句を言ってきた。
「なによ!そんな物があったなら、晩に私魔法使わなくて良かったじゃん」
「すまん、忘れてた。それに…」
抗議するアリスをよそに、俺は昨日の燃えかすに点火した。
「それに?」
「ミゼルの理論が正しければ、昨日のそれだってアリスのレベル上げの糧になったんじゃないか?」
「それは!…そうだけど」
「世の中無駄な事なんてないんだぜ?アリス」
物は言いようとは良く言ったもんだ。その証拠に、隣でミゼルがクスクス笑っている。
「じゃあ今晩俺が見張りだから、頑張って素振りしてノエル追い越しちゃお!」
「もしかしてお前、一晩中やってるつもりか?」
「勿論!だって、やればやるほど強くなんだろ?」
嬉しそうに肉を捌くソアラに。呆れた声で返した。
「あのなぁ、結構疲れるんだぞ?疲れ溜めて、日中動けなくなったらどうする」
「だってお前は昨日そうしたんだろ?」
「途中でその事実に気づいて、程々で止めたよ」
「うーん…」
ソアラが包丁を持ちながら、腕を抱えて悩んでいる。おい、早く捌け。食えないだろ。
「アリス、ミゼル。二人が寝てる間にノエルと決めたんだけどさ」
ソアラの声に、肉を頬張る二人が見上げた。
「とりあえず、この中の誰かがレベル10になるまでここにいようと思うんだ。二人はどう思う?」
ソアラが二人を見渡すと、肉を片手に二人が頷いた。
「いいんじゃない?」
「…そうね。でもね?」
ミゼルが少し寂しそうにソアラと俺を見た。
「そういう事は、出来たら皆で決めていきたいな。私達、仲間なんだし」
「あぁ、悪かった。次からは気を…」
「しょうがないわよ、ミゼル」
アリスがソアラの言葉を遮って、ミゼルを制した。
…何がしょうがないんだ?
「二人は幼馴染なんだし」
「だからと言って…」
今回はミゼルが正論だと思った俺が遮ろうとするが…。
アリスの暴走が止まらなかった。
「元気で爽やかなソアラと、普段はむっつりしてるノエル」
「おい」
「だけどノエルだってきっと、ソアラと二人きりの時はソアラに甘い言葉を囁いて、互いにその身も心も委ね合い、そしてそのうら若き綺麗な体を…あぁ!」
「あぁ!じゃねぇ!」
顔を赤らめて手で顔を覆うアリスに、匙をぶん投げる。
…まさか匙を投げると地でやるは思わなかった。最後まで聞いて損した。
「痛いじゃないのノエル!」
「痛いのはお前の脳内だ!ミゼル、お前も顔を赤らめて本気にするんじゃない!」
「ハッ!ごめんなさい」
我に返り声を上げたミゼルだったが、俺とソアラにチラチラ視線を移すのは止めてくれ。わかってないじゃないか。
「ノエル…お前まさか…」
「んなわけあるかアホ!お前が一番良く知ってるだろ!」
「あっ!当たり前だ馬鹿野郎!誰がお前なんかと…」
「『お前が一番良く知ってる』…ソアラの『馬鹿』もきっと照れ隠しで…!ねぇねぇ!どっちがどっちなの!?やっぱりなんだかんだ言って、ソアラが攻…」
「やめろ」
ソアラが平手でアリスの頭を叩いた。グッジョブ。
…もうアリスは知らん。
無理矢理話の軌道を戻そうと、ミゼルに聞いてみた。
「ミゼル、お前今レベルいくつ?」
「わっ、私は…」
たまたま隣りに居たので、腕のクリスタルを覗き見る。
お前…クリスタル宝石型かよ。
「あっ!今クリスタル見て笑ったでしょ!」
「笑ってないよ!」
「嘘!絶対今、馬鹿っぽいって思った!」
…図星なだけに、二の句を告げづらい。
「いいもん!どうせ私みたいな地味な子がこんな派手なのつけてって…」
あーあー、ド壷だド壷。女の子の扱いはわからねぇ。
「いや、ミゼルも女の子なんだし、可愛らしくて良いと…思うぞ?」
「嘘よ嘘!どうせ私なんてアリスちゃんみたいに可愛くないし、ガリ勉だし…」
ミゼル…ネガティブ過ぎんだろ。おいソアラ、お前も狼狽える俺を笑ってないで助けてくれ。お前、こういうの抑えるの得意だろ?
イケメン様がよぉ。ケッ!
そう俺もいじけながら視線を移すと、ミゼルのレベルが見えた。
「僧侶レベル…4?」
「どうせ教会でも勉強しかしてなかったくせに、これくらいしか上がってませんよ…」
「なぁ、ソアラ」
ソアラに目配せしてアリスを見る。
相変わらずトリップしているが、こいつは学舎で主席だって言ってたな?もしかして…。
「なぁアリス?」
「あら、いいわよ、二人で夢の世界に旅立って…」
「旅立ってんのはお前だ。戻ってこい」
「いったぁい!何よノエル!」
平手で頭を叩くと、ようやくこっちの世界に戻ってきれくれたようだ。良かった。ミゼルは…まぁ、自然と戻ってくるだろ。
そしてアリスの腕を見ると…衝撃的事実が待っていた。
「お前、ハート型かよ」
「何よ、悪い?可愛いでしょ?」
「アリス、お前レベル6なの?」
ソアラが驚いてアリスの腕を掴んだ。
そうか、女の子のアレなセンスに触れないであげるのがイケメンなのか…。
つうか、6!?
「おい、マジか!?」
「凄いでしょ?崇めていいわよ?」
「すっげぇ!アリス、お前すげぇんだな」
ソアラのべた褒めに、アリスがさっきとはまた別の意味で天に昇る。
秘技、お嬢様高笑い。
「なぁノエル…」
「二人はずっと勉強してきたからな。則したジョブに就いた今、反映されてるって事じゃないの?」
「14歳までの経験が活きてるって事は、俺達だってずっと家手伝ってきたぜ?」
ソアラが食い気味に俺に捲し立てる。
唾飛んでる、唾。
「ソアラは足腰鍛えられて、その分速さとして反映されてるだろ?俺とか、商家だから戦士とは全く関係ねぇし…」
父上と母上の仕事に文句を言うともりはないのだが、やっぱり不平等感は半端ない。
戦士じゃ経験活かせねぇじゃん…。なんで戦士なんだろ、俺…。
「まぁその…ドンマイ」
「おう。泣いていいか?」
手に残った肉を全部食いきる。
まぁ過ぎてしまったもんはしょうがない。なってしまったものはしょうがない。どっちにしろ、俺はこれから頑張っていくだけだ。
「あーあ。でもよ、俺が一番レベル低いじゃん」
「そうだな…つっても、俺も大差ないけど。でもそうするとさ、誰かがレベル10になったらって事は、今一番近いのはアリスじゃん?アリスがレベル上がるまで、俺達そんなに稼げないぞ?」
「なら…ソアラがレベル10になったらでいいんじゃないかしら?」
放置している間に復活してくれたのか、ミゼルが提案した。
「ソアラ、勇者だし。やっぱり、ソアラのレベルが一番重要だと思う」
「…なるほど」
ミゼルの言う事ももっともだ。いくら俺達が先に強くなったとしても、勇者であるソアラのレベルが低かったら全く意味がない。
…全くというわけではないが、舐められる。
それは俺が許さん。
「そうだな。ソアラ」
「うん、そうしよう」
提案が受け入れられて、ミゼルが嬉しそうだ。
やっぱり、こういう事は皆で決めないといかんな。俺とソアラだけだと、どうしても見方が偏る。
「じゃ、当面の方針も決まったところで、そろそろレベル上げ、行くか」
ソアラの一声で、各々立ち上がって準備する。
テントはの片付けは…暫くこの辺りを拠点にするから、いっか。
アリスが腐ってるあたりは、身近な腐ってる方の趣向を参考にしました。…そういうのに不快感を感じる方は、どうもすみませんでした。ご意見ご感想をお願いします。…なんつうタイミングで募るんだ、俺は。