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第六話 勇者の素質

「あー…寝た!」


 朝日が昇る頃、ソアラが起きてきた。


 伸びをして、大あくびの勢いに任せて言ったようだ。


「あんま大きい声出すなって。二人起きるかもしれないだろ?」

「あぁ。悪い」


 川で顔を洗うソアラに手拭いを渡してやると、ソアラがゴシゴシ顔を拭いた。


「なんか異常あったか?」

「んにゃ。特に無かったよ」

「それは良かったよ」

「睡眠が妨害されずに済んだからな」

「人聞きの悪いこと言うなよ、ノエル…」


 太陽の光も少しずつ強さを増していき、俺達は見回りをする必要もないと判断して、昨晩食事を取った腰掛けに座った。


「なぁ、どれくらいいる?ここ」

「うーん…具体的には考えてなかったなぁ」


 腕を組んで本気で考え始めるソアラに、溜め息をついた。


 こいつ、何も考えてなかったのか…。


「ノエル、一旦村に行って、村人が皆どれくらいのレベルか見てみるとか」

「そんなん隣村行ってまた戻ってレベル上げるとか、二度手間だしカッコ悪いだろ」

「お前…意外と変なとこでかっこつけなのな」

「うるさい。二度手間が非効率だって言ったの」


 組んでた足を伸ばし、バッと立ち上がった。


「決めたぞソアラ!誰かが、ジョブレベル10になったら行こう!」

「おぉ…なかなか勝負に出たな。この辺の敵で、レベル10なんて結構しんどいぞ?」

「…なんとかなる!…と思う」

「自信、無いのか」

「いや、きちんとした理由はあるぞ!」


 なんか間抜けのように言われたのを全力で否定したくなり、語気が強くなった。


 …いつもは落ち着いて構えてるくせに、意外とガキなのはわかってる。


「周辺の地図マップを見るに、隣の村に行ったら、次は城下町だ」

「えーと…なんて町だっけ?」

「プリメ城下町。城があると言うことは、騎士がいる」


 うんうんと俺の解説に頷くソアラ。ここまでは大丈夫のようだ。


 …それもそうか。さすがにそこまで馬鹿じゃないだろう。


 騎士は、『戦士』の特殊ジョブだと聞いたことがある。城に仕えることでジョブが変化するらしい。


「騎士のレベルは、周囲の魔族の強さに比例する…ものらしい」


 全部又聞きだから自信ないけど。


「なぁソアラ。魔王を倒す勇者が、城と民草を守るだけの騎士より弱くてどうする?それも、こんなレベルの低い土地で」

「うーん…」


 隣村からプリメ城下町までもう一つ平原を挟むが、レベルが早く上がるに越したことはない。


 …ここからは誰も助けてくれない。何が起きても対処出来るようにしなければいけない。


 その為に一番手っ取り早い方法は、戦闘力の強化…つまり、レベル上げだ。戦闘力が強くて困る事はないが、逆はいくらでもある。…というか、死活問題だ。


 他の村の決まりやしきたり等の問題は、その都度対応で大丈夫だ。今心配するべきではない。


 それに現状お金もあまりないし、金稼ぎも出来て一石二鳥というわけだ。


「なるほど、一理あるな。少々時間はかかるかもしれないけど、今は地道に行くのが正解な気もする」


 ソアラが納得したところで、川を挟んで近くにある茂みに、何か動く物が見えた。灰色の毛のような気もするが…。


「…先手必勝だな」

「ノエル、アレは…」


 ソアラも気配に気づいたようだ。


 頷くと、もう一度茂みに視線を移す。警戒するように動く耳に、低い唸り声も聞こえた。


 アレはたぶん…。


「ワイルドファングね」


 いきなり耳元で聞こえた声に、驚いて声を出しかける。


 自分の手で口を覆って回避すると、ミゼルが人差し指を立てた。


「たぶん、向こうも気配を探ってる。下手に動いちゃだめ…」


 ミゼルの声に無言で頷くと、ソアラも目を合わせて頷いた。


「ソアラくっ…ソアラ、これ」


 ミゼルが双剣をソアラに渡すと、ソアラは笑顔で受け取った。


「ありがと」

「じゃあソアラ…先手、任せていいか?俺はあいつが弱ったのを見て、そっち行く」


 ミゼルの方に視線を動かしてみせると、ソアラは納得した。どうやら役割は忘れていないようだ。


「ソアラ、怪我したら治してあげるから、全力でいって」

「サンキュ。さぁ…行くぞ!」


 ソアラが小川を跨ぐように跳躍し、茂みを十字に斬りつける。…今度は、剣は何の反応もしなかったようだ。


 ソアラの剣撃に弾き出され、一頭の狼が姿を現した。傷こそ負っているが、まだ俊敏に動けるようだ。


「レベルが…低いからか?」


 ソアラが納得いかない様子で、ワイルドファングに攻撃しようとする。


 あっ!あの馬鹿、余計な事考えてるな!?


「いってぇ!」

「ソアラ!」


 交差した時に、ワイルドファングの牙がソアラを捉えた。右足の脛から下が赤く染まる。


 ワイルドファングは、少しの間唸りソアラを睨んでいたが、急に恐ろしい跳躍力で、こっち側に跳んできた。もしかして、ミゼルの声に反応したのかもしれない。


 俺はソアラの攻撃にあまり有効打がなかったのを見て、一応こっちで構えていたので備えることが出来た。


「ミゼル!後ろ下がって!」


 ソアラと違って、俺はそこそこ重装備だ。最悪体を張って盾になる事は出来る。


「せいっ!」


 気合を入れて、剣を振るいワイルドファングを迎え撃った。


 剣先の角度が悪く、やつの右足を打ち、胴に入るも決定打にはならなかった。


 切り刻まれる事もなく、ワイルドファングはボテボテと転げ落ちる。


 俺もワイルドファングの重量に圧され、少しよろめいた。しかし、カウンターで入った事は間違いない。


 それでも死ななかったのは、ソアラの言う通り俺のレベルが低いからか…。


「ちょっとぉ…朝からうるさいじゃない」


 ちょうどその時、テントから寝起きのアリスが出てきた。


 昨日は魔法四発も撃って消耗してるだろうからと、起こさずにいたのがまずかったか!


 ワイルドファングは色んな意味で無防備なアリスを見つけると、文字通り目の色を変えて飛びかかっていった。


 俺の位置から庇いにいったのでは間に合わない。ミゼルも然りだ。


 驚きその場にしゃがんでしまったアリスは、迎撃も回避も取れない。


 しかし、ワイルドファングは少し大柄な狼と言ったところだ。いくら無防備とは言え、一撃で致命傷を負う可能性は高くない。ならアリスが追撃を受けない為に、俺が行く意味はある。


 そう計算し動かした体に、


「肩借りるぜ」


 影と声と重み、そして生暖かい液体がかかった。


「ギャアウッ!」


 俺がそれが血だと認識したのと、ワイルドファング悲鳴が聞こえたのは同時だった。


 傷ついた足に鞭打ち、跳んで更に俺の肩を借りて二段目の跳躍及び加速をし、さらに一回転して青龍の剣を両手持ちで一撃。


 これが、視線の端で追えたソアラの一部始終だ。


 ワイルドファングがある程度ダメージを負っていたのも僥倖だった。それが無ければもしかしたら、先にアリスの元に着いたのはワイルドファングだったかもしれない。


 そういやあいつ、俺の肩使ったけどもう一方の剣はどうした?


 後ろを向くと、赤竜の剣が投げ捨ててある。俺が遮る最短距離で駆けるとして、二本持ちだと間に合わないと判断したんだろう。


 一瞬の判断力。咄嗟の瞬発力。相手があと一撃で倒せる程、ダメージを負っていたという運。…更に偶然だとすると、体ごと一回転して遠心力と自重で攻撃に重みが加わるという強運。


 そして…足の傷も厭わず、仲間を助けようとする精神。


ーーーこれが…勇者か。


 アリスの前でいててと顔をしかめるソアラを見つめていると、当人は俺の視線に気づいたようだ。


「見た…?ノエル。…いっ!…俺の回転斬り」


 痛みに顔を歪めながらも、俺に笑いかけるソアラ。アレ、一応考えてたのか。


 さらに…行動力に、自身の苦痛より仲間の笑顔を優先する強さ。


ーーー認めるよ、ソアラ。お前が勇者だって、ちゃんと認める。お前に付き従うよ、俺は。


「だっせぇな、そのセンス。そのまんまじゃん」

「何言ってるのよ!ソアラ、怪我してるのよ!ごめんなさい、私が無用心に出てきたから…」

「大丈夫、私に任せて」


 青い顔をして狼狽えるアリスをミゼルがどかし、ぼそぼそと何かを言うとソアラの足に当てた手が光った。


「おっ?おお!」


 光が完全に収束すると、ソアラが驚きの声を上げた。


「見ろよノエル!傷跡一つ残ってねぇ!全然痛くねぇぞ!」


 初めての魔法の治癒を受け、その効力に感動するソアラ。無意味に跳ねたりしている。


「ミゼルの事、信じてたからな。これくらいならなんとかしてくれるって」

「えっ?」

「ミゼル、言ってたもんな。俺達を守ってくれるって。怪我は気にしなくていいって」


 アリスがミゼルを見ると、ミゼルはアリスと俺に頷いた。


「うん。私は、その為にいるんだから。皆が常に全力で、戦えるようにって」


 飛び跳ねるソアラを無視してそんなやり取りしていると、突然俺のクリスタルが淡く光った。


「えっ?何?」


 光ったのもほんの数秒で、俺は自分のクリスタルを覗いた。


『ノエル・戦士Lv2』


 

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