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第十五話 少年達の涙

 道中は全くと言っていいほど平和だった。

 ソアラが前に出て、俺がアリス、ミゼルの盾となり、その二人は後方支援。

 基本的な戦闘スタイルはほぼ完璧に形になったと言えるだろう。


「来たわ!」


 ミゼルの声に、ソアラが前方に走る。


 ワイルドファング三頭に、大カタツムリが二頭。

 速いのと硬いのがペアか。少し面倒だな。


「ノエル!」

「わーってるよ!」


 ソアラがワイルドファングに一撃を与えている内に、もう一頭がこちらに向かってくる。

 大カタツムリはまだ少し距離があるから、目の前のこいつに集中しよう。


「あまねく天上の神々よ…我ら人の子に力を。『加護ファリス』!」

「喰らえぇ!『火球ファイア・ボール』!」


 ミゼルの祝詞と同時に他三人の体が淡く光り、アリスの詠唱で一つの火球が大カタツムリにぶつかる。


 レベルが上がり回復魔法以外も使えるようになったミゼルは、最近は専らこの補助魔法で経験値を稼いでいる。

 体力値、魔力値が一定時間小アップするという魔法なのだが、如何せん回復魔法に比べて獲得経験値のパフォーマンスが悪い。しかしさほど回復する必要が無くなってしまった今は、この補助魔法くらいしか参加出来ないというのが正直な話だ。

 実際、肉弾戦組はもとより、アリスのパフォーマンスも向上するから問題ないと言えば問題ない。ただミゼルが不遇なだけだ。


「あらよっと!」


 アリスの火球が大カタツムリを一匹焼いているのを尻目に、飛び掛ってきたワイルドファングを剣でいなす。

 バランスをとって着地したワイルドファングに対して半身になって構える。少し試したい技があるからだ。


「返すぜ、ソアラ!」


 再び飛び掛ってきたワイルドファングに、一瞬で剣の間合いと到達速度を計算して体を回転させる。


「螺旋三段!」


 昨晩倒したシャフトと呼ばれた男の姿を思い出す。

 単純だが、実に鍛錬の重ねられた恐ろしい技だと思う。狂戦士化していなかったら、やつの腕を片方いただいていなかったら、恐らくやられていただろう。

 しかし技の単純さ故、自分にも真似事くらいは出来るんじゃないか。そう考えてだった。


 一撃目でワイルドファングの頭が横半分に割れ、二撃目で胴が泣き分かれ、三撃目で下肢が吹き飛んだ。

 凄惨な死体が自分に向かって飛んできて、ソアラが思わず小さく声を上げた。


「ノエル!いらねぇよこんなもん!」


 三撃目の下肢だけはどうも正面に飛ばず、若干ソアラから離れたところに落ちた。

 これは三点同時攻撃が売りの技だ。飛ぶ方向が逸れたということは、三撃目は著しく繰り出す速度が遅くなったと言う事だ。


「…まだまだ修行が足らんということか」

「あったりまえでしょ!ソアラ、離れて!」


 最初の大カタツムリをこんがり焼いたアリスが、二頭目の大カタツムリ目掛けて火魔法を放つ。


炎壁ファイア・ウォール!」


 炎壁は、火球の更に1ランク上がった魔法だ。一固体集中してダメージを与える火球に比べ、それより若干範囲を広げ敵を焼き尽くす。火力も気持ち火球より高めだが、その範囲指定が完璧にアリス自身の力に依存するため、制御が難しい。指向性のある火球の方がまだ楽だとごちていたのを聞いたことがある。


 ソアラがワイルドファングを倒し、大カタツムリの殻に罅を入れていたため、アリスの炎壁は一撃で大カタツムリを葬る事が出来た。


 最後の一頭が倒れた事で戦闘が終わると、ノエルは腕のクリスタルを確認した。


「これくらいじゃもう、上がんなくなってきたな…」


 ノエルがぼそっと呟いくと、敵の血糊を払ったソアラが戻ってきた。微かだが、ソアラのクリスタルが光ったような気配があった。


「ノエル、あの技なん…」

「ソアラ、あれ、お前にやるよ」

「はっ?」


 聞き出そうとしていた物をいきなりやると言われ、ソアラが目を開けた。

 わけがわからないよとでも言いたそうな表情だ。


「あれ、昨日の晩シャフトが使ってきた技。お前も見たろ?」

「見てねぇよ。俺お前があの男倒す前に、髭ヅラ追ってたもん」

「そっか。じゃあまず剣をこう構えて…」

「ちょっと待った!だからなんでお前がその技を使えるんだって聞いてんの!」


 ノエルが剣を構えたところで、ソアラが至極真っ当な言葉を返した。


「いやあの男、『豪剣の』シャフトって言うくらいだから、重装備の俺にも使えるかなぁって思ったんだけど、よく考えたらこの技双剣のお前向きの技だわ。だから」

「そうじゃなくて!…はぁ、もういいや。で、どうすんの?」

「剣をこう構えるだろ?それから…」

「アンタ達!タルク集めるの手伝いなさいよ!」


 少し離れたところでアリスの文句が聞こえたので、ノエルは剣を収めて生返事しながらアリスの下へ向かった。


「技、俺に教えてくれるんじゃなかったか!?おーい!」


 取り残されたソアラは、ノエルの教え通り剣を構えたまま取り残されていた。




ソアラ…勇者・Lv14

ノエル…戦士・Lv19

アリス…魔法使い・Lv16

ミゼル…僧侶・Lv13




 プリメ王国…花と気品が溢れる国。


 門をくぐる時そうでかでかと書かれたパンフレットを貰ったのだが、なんて事のない、普通の城下町だった。

 しかし、そのなんて事のないにぎやかな街に無駄にテンションが上がる二人…。

 そう、ノエルとソアラだ。


「おいノエル!すげぇぞ!人!人!」

「わかってるって、落ち着け!…すっげぇ!すげぇよおい!」

「これが王国の城下町か!」

「おう!」


 田舎者丸出しで大はしゃぎする男二人に、アリスは眉間を押さえミゼルは微笑ましく思い笑っていた。


「アンタ達ねぇ、街くらいでそんな…」

「だって見ろよアリス!人がいっぱいだぜ?」

「いろんな店があるんだなぁ…。果物屋に肉屋、おぉ!雑貨屋なんて俺ん家の何倍もでっけぇ!…ちょっとへこむ」

「さすが商家の息子、真っ先に気になるところはそこか。…最後のそれは少し同情するけど」

「あっ、でもなかなか良い宝石屋さんもあるわね。ちょっと寄ってみようかしら」


 我を忘れ目の前できゃろきょろうろちょろする二人に、ミゼルが笑顔で絶望の突きつけた。


「でも結局あまりタルク貯まらなかったから、あまり買い物は出来ないね」


 ピシッとお祭り騒ぎの二人と、少し気分が良くなったアリスの時が止まる。


「…あれ、私何か言っちゃったかしら」


 ミゼルが小首を傾げて呟くと、ソアラとノエルがぎこちなく顔を合わせた。


「まっ、まぁ…お金使わなくても良い社会勉強になる…よな?」

「あぁ、俺ら村から出たことなかったし…な…」

「私は…私は…」


 一瞬で落ち込んだ三人に、ミゼルが慌てて取りなした。


「ま、まずは宿屋に荷物を預けてから見て回ろうよ」

「「宿屋!」」


 再びソアラとノエルの顔が明るくなった。


「俺ら家以外で泊まった事ないからなぁ」

「きっと、すっげぇ豪華な受付なんだぜ」

「部屋もこぉんな広くて」

「風呂もこんなに広くて」

「あぁ…あんな巨岩を押さなくても風呂に入れるんだ…」

「ベッドもふかふかで…」

「おーい、もしもーし」


 みるみる暴走する二人にアリスが現実を突きつけようと口を挟むが、彼らの耳には届かない。


「よぉしノエル!」

「あぁ!」

「「競走だ!」」

「あっ!」


 アリスとミゼルを置いて一目散で街の奥に向かって走り出す二人を見て、ミゼルが苦笑しながら言った。


「あの二人、地図も見ないで大丈夫かなぁ…」

「馬鹿よねぇ…あそこに看板立ってるのに」


 アリスが、姿が見えなくなった彼らが一瞬で過ぎ去った辺りの建物を指差す。


「…私達だけで先、部屋とってようか」

「…うん。迷子にならなければいいけど…」


 …ソアラとノエルが無事宿屋にたどり着いたのは、その数時間後だった。


「こえぇよ、こえぇよ都会…」

「もう帰れないと思った…」


 二人は泣いていた。

 勇者と戦士が揃って都会の恐ろしさに打ちひしがれ、己の無力さにさめざめと涙を流していた。





「勇者様達はまだ着かんのかね?」

「え、えぇ…もう着いてもおかしくはないのですが…」


 勇者パーティーが疲れて寝てしまっている頃、城では王に向かって平伏しているアルファードの姿があった。


ーーー数刻前、街で剣を持った見慣れない少年が泣きながら宿を探しているとか部下は笑っていたが…。まさかな…。


 正解だった。

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