第十二話 「おかえりなさい」「ただいま」
約一ヶ月半ぶりです。サブタイは感想がつかないからって自分で言ってみたわけではありません。そして大して話が進まなくてすみません。あともう一つ、執筆の感覚を忘れてしまい、短めです。
一本と一対の剣が血に塗れ、地面に転がっている。
放心状態の二人の少年。ソアラとノエル…。
同じように肩で息をし、手足を投げ出しているが二人の胸中は似て否なるものだった。
一方は初めて人を斬った興奮と、親友の先程の豹変ぶりに対する整理に追われ、もう一方は自身に眠っていた不可解な力に戸惑っていた。
「なぁ…、ノエル…」
「言うな…俺もわからん」
「だよな…」
雲が風に流され、闇夜に月が垣間見えた。
もう少しで満月かと、どうでもいい事がよぎった。
体中脱力し、しかし首から上だけ異常に感覚が冴えている今、そよ風がやけに心地よかった。
「…行くか」
「…あぁ」
どちらともなく切り出し、そして二人で支え合いながら立ち上がると、空いた手で剣を杖代わりにして歩き出した。
どちらが言ったかなんてどうでもいい。
それほど二人は強く結びついていて、疲弊しきっていた。
ーーーノエル…お前は一体何モンなんだ?お前は…俺の親友のノエルだよな?
ーーーあの赤と青のオーブ…なんだあれは?そしてアレが見えた辺りから、思考がまるで俺のものじゃないような感覚…。もし、あの感覚を御しきれたら…。
めいめい口には出さなかったが、考えている事は先程と何一つ進展していなかった。
ダメージのせいで、体が思うように前に進まない。
まったく…アリスとミゼルのところに戻るのに、後どれ位かかるのだろうか…。
正直、二人とも歩くのが面倒になっていた。
ーーー戻ったら、ぐっすり寝よう。見張りはノエル(ソアラ)に任せよう。
二人とも心中で仕事を押し付けあっていた時。思い出したかのようにソアラのクリスタルがぼうっと光った。
『ソアラ・勇者Lv11』
「…今更かよ」
「テンポおっそ!とれぇなぁ、お前のクリスタル」
「お前…」
半ば馬鹿にされたようなノエルの言葉に、ソアラがムッとした。
「ま、お前自身の戦闘がとろくなきゃいいんだよ」
「…クリスタルと俺の能力は関係ないだろ…」
ソアラがうな垂れてノエルに抗議したところで、ノエルのクリスタルも光った。
「プッ!お前のはもっと遅いじゃん」
「…うっせぇ」
バツが悪そうに、ノエルはクリスタルが埋め込まれた腕を目の前に持ってきた。
心なしか、ソアラの時やいつもより光が強い気がする。
『ノエル・戦士Lv18』
「…いっぱい殺ったもんな」
ノエルの心中を思い、ソアラが曇りがちで力無い笑顔をノエルに向ける。
一気に大きくレベルが上がった事を喜びたいのだが、経緯を考えるとそう素直に思えない複雑な表情だった。
「…ん?まだ何か書いてるぞ」
ノエルが止まない光を不思議に思いクリスタルを眺めていると、薄く表示された一文を発見した。
『セカンド・狩人Lv5』
「なぁ、これ…」
「セカンド…」
「「ってなんだ?」」
村にいたときは読み書きレベルの事しか学ばなかった二人である。
戻ったらあの二人に聞けばいいかと結論付け、深く気にしない事にした。
基本的に、頭を使う事は嫌いな二人だった。
ベースキャンプに戻ると、アリスとミゼルはバスタオルに身をくるみ、焚き火の近くで震えながら何かを小声で話していた。
決して寒くは無い季節なのだが、さっきの今である。色々な恐怖で体を御しきれずにいた。
「おーい!帰ったぞ」
ソアラが声を掛けると、二人はビクッと体が跳ね、ソアラとノエルに視線を移した。
自分に向けられる視線が恐怖を含んでいるのが見て取れて、ノエルが内心で凹む。
まぁ無理も無い。
ノエルも納得はしていた。
「ソアラ!…その…ノエルは…」
アリスが恐る恐るソアラに尋ねると、ノエルが代わりに答える。
つい口をついたとも言う。
「あー、悪いな。アリス、ミゼル」
アリスとミゼルが疑問符を浮かべる。
「そんな準備万端な格好で待たれても、今の俺には二人同時に相手してやる体力は…」
「馬っ鹿じゃないの!?」
「ぶばっ!」
アリスが小石を見事なコントロールでノエルに投げつける。
「おー、減るんだな、体力」
「いや、関心するとこそこじゃねぇって…」
「じゃあアリスのコントロールか?自業自得だ、ノエル」
ソアラがノエルのクリスタルを覗き込むと、ちゃんと体力値が一減っている。
「…心配して損した!着替えてくる!」
ノエルの言葉で自分たちの格好に気づいたアリスは、ずんずんとテントの中に戻り、乱暴にカーテンを閉めた。
「もう…大丈夫なの?」
ミゼルは心なしかタオルも持ち直し、ノエルに尋ねた。
「あぁ、最後はソアラが仕留めて…」
「じゃなくて」
ミゼルがくすりと笑うと、聞き直した。
ノエルの開口一番の軽口に、不信感や不安感はもう無くなっていた。
「その事は正直心配してなかった」
「いや、心配してくれ。ぎりぎりだったんだから」
ソアラが力なく突っ込むが、ミゼルは言葉を続けた。
「…ノエル自身の事」
「あぁ、もう全く問題ない。もうオーブも見えないし」
「オーブ…」
ミゼルがノエルの言葉を復唱する。やはり何か知っているんだろう。
「いや、体力値はかなり限界かも…」
「じゃあ私の出番だね」
「ミゼル!そんなエロ河童としゃべってないで、早くミゼルも着替えに来なさいよ!」
「誰がエロ河童じゃ!悔しかったらミゼルに負けないようにお前も実れ」
「ッキー!見たことも無いくせに!私だってそこそこあるもん!」
「わかったから早く着替えろよ!なげぇんだよ!うんこか?」
「してないし!」
テント越しの二人のやりとりに、ソアラとミゼルが笑う。
今まで通りのノエルとミゼルだ。相変わらずだと。
ミゼルも立ち上がり、テントに向かう。
しかしテントに入る前に、タオルの裾をはためかせ笑いながら振り返った。
「…おかえりなさい」
焚き火の光に月明かりが重なり、ミゼルの笑顔が美しく見えた。
その笑顔を見て一瞬返事するタイミングが遅れたノエルに、ソアラが小突いた。
「ほら、お前に言ってるんだぞ」
「あっ、あぁ…。ただいま」
その声に満足したミゼルは、テントの中に潜り込んだ。
「つうか、先回復してってくれやぁ!」
もう着替え始めているであろうミゼルに、全力で突っ込むと、喉が痛んだ。戦闘の時のアレで、ダメージの他相当体に負荷がかかっていたようだ。
「…ほぅ」
「…んだよ」
やけにニヤニヤしているソアラの顔が、無性に憎たらしかった。
「別にぃ?」
「てんめぇ…斬るぞ」
「その体でか?」
そこにいるのは、歳相応の少年達二人だった。
蹄の音が木霊する。
数対の鎧を運ぶ騎馬が駆け抜ける。
その色は白。
胸には国の象徴たる紋章。
その者達…プリメ王国騎士団。