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第十話 型か本能か

「弱点さえ突けば殺す事は容易に出来る」


 ノエルは呟くと、ミゼルを捕らえていた男が緊張した面持ちで髭ヅラの男に言った。


「親分…これはまずいですよ。一旦…退きましょう」

「馬鹿野郎!仲間がみんな殺られてるんだぞ!それもこんなガキ一人にだ!」

「しかし…」


 長身の男の言葉に、髭ヅラの男は耳を貸さない。自棄になっているのか、それとも憤りの勢いか。はたまたその両方か。


 ノエルの一撃で自由になったソアラは、しかしそのまま動けなかった。


 幼い頃から良く知っている親友の、欠片も知らない一面に恐怖すら覚えていた。


『あれ…ノエルかよ…。兄弟同然に一緒に生きてきた、ノエルの姿かよ…』


「どうした…?生き残る為の相談はもう終わったか?」


 そのノエルは、ただ石ころのような冷たい目を勇者狩りの二人に向け、氷のような冷たい声をかけた。


「…行け」


 髭ヅラの男が小さく言い放った。


 それを聞いた長身の男は、目を剥いて聞き返した。


「しかし…」

「お前なら勝てるだろ。何のためにお前を俺の傍に就けていると思ってるんだ」


『あのガキがまさか狂戦士とは思わなかった…。仲間を失ったのは痛い。正直、コイツでもアレに勝てるかは五分五分だろう…。だが、その間に俺が逃げ延びればこっちの勝ちだ』


 髭ヅラが一瞬顔を背けたのを長身の男は見逃さなかったが、それでも覚悟を決めていた。


 正直、いくらレベルが上でも狂戦士と戦って勝つ事は難しい。彼らは痛みを感じず、死すら忘れ、ただ相手を殺す事に特化した殺人人形と化す。


 痛みを感じないという事は恐ろしい。四肢を失おうと、相手を害する行為を止めないから。


 死を忘れるという事は恐ろしい。首を失っても、その剣を振るってくるのだから。


 しかし、親分には自分を拾って貰った恩がある。それが例え人の道を外れた行為だとしても、自分を生き永らえさせてもらった事には変わりない。その恩に報いることは命より大事だった。


 忠義…。かつて母国の王政に背いて罪人に堕ちた自分が、それでも掲げていた心の中心。二度も背く事は許されなかった。


 だから、親分の言葉に一つ返した。


「しかし…この娘はどうするんです?手を放したら、きっと親分の邪魔になるでしょう」

「ンなこと気にしなくていい!どうせお仲間の豹変に腰抜かして動けねぇ」


 その言葉を聞いて、キッと目の前の少年を睨み、ミゼルを放して剣を抜いて正眼に構えた。


 ミゼルはその場にへたり込み、ノエルを見つめて震えていた。


「ようやく終わったか。じゃあ行くぞ」


 ノエルが静かに言い放った瞬間、長身の男はダッと駆けた。


 構えを崩さず、騎士の基本通りの綺麗な打突だ。


「…ふん」


 ノエルが力任せに向かってくる剣を捌くと、男は上に弾かれたその流れに逆らわず袈裟斬りのモーションに移った。


「グッ!」


 ノエルは左肩を打たれた衝撃に左手を放したが、右手片手でロングソードを振りぬいた。


 男が咄嗟に左腕で体を庇うと、腕を犠牲に体へのダメージを軽減した。


 腕が飛び、皮の胸当てにノエルの刃が食い込んだが、そこで両断を免れた。


 肋を折られ苦悶の声を漏らし、男が呟いた。


「力だけで型を破るとは…見事だな、少年」


『片手では威力は下がるが…これで終わりにしてやろう』


「プリメ騎士団流!螺旋三段!」


 ふらつく体を律し、男は体を回転させた。


 剣の遠心力に自身の力を乗せ、頭を打ち、胴を打ち、足を打つ。本来は相手にとどめの一撃を与える為の繋ぎ的剣技、螺旋三段。


 かつて王宮の武道会ではこの技で相手を一蹴し、とどめにまで至らない武道会のルール故幾人もの対戦相手を蹴散らしたこの技。片腕では力が完全に乗せられない分効果は下がるが、自身における最強の技だった。


 男が回る。


 ノエルは冷静に初動を観察し、ロングソードを構え直した。


 最初の一撃をロングソードの刀身に受ける。


 遠心力により強化された一撃で、未だ体は成長途中のノエルは体勢を崩した。


『いける!』


 男が二撃目をノエルの胴に入れる。


 次の足への三撃目を合わせて少年を地に転ばせれば、完全に俺の勝ちだ。


 そう確信し男の剣がノエルの胴に入った瞬間、甲高い金属音がして手応えが薄れた。


「なにっ!?」


 完全にノエルの胴を捉えた剣が、当たったところから真っ二つに折れた。


 長さが半分になった剣がノエルの足の手前を通り過ぎ、その回転が止まった。


 膝をついた男の喉元に、ノエルが切っ先を突きつける。


「…残念だったな」


『罪人になってからこの方、まともに剣の手入れも出来なかったからな…。これもまた運命か…』


 ノエルが纏うチェーンメイルを眺めると、男は小さく頭を振った。


 そして静かに目を閉じると、ノエルは無表情にその首を刎ねた。

いつの間にかこちらの作品では一ヶ月ぶりでした。長身の男の技は、回○剣舞六連をイメージしていただければわかり易いかと。

しっかし名前を決めない登場人物って難しいですね。この男もこんなにキャラ付けする予定はなかったんですが…。

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