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第一話 冒険の始まり

初めましての方は初めまして。他作をご存知の方はご愛顧ありがとうございます。あらすじにも書きましたが、序盤は『クリエーター』の合間を見ての投稿となりますので、不定期になると思います。ご了承ください。(…ホントは少し向こうが煮詰まってたからこっちを書く事を自重できなかったなんて言えない…)では、お楽しみいただければ幸いです。

 この世界に『黒い月』が突如現れて数百年。そしてそれと同時に、魔王と魔族の脅威にさらされて数百年。この世界の全ての町や村は結託し、それらに対抗するべく『勇者連盟』なるものを組織した。


 『勇者連盟』…その名の通り、勇者を支援する為の機構だ。各自治体が資金を出し合い、それぞれで生まれた『勇者』が魔王を討伐する為に動いた。


 納金を集め、勇者が冒険の途中村や町を訪れた折り、宿泊やアイテムの購入時に安く収めるための組織だ。


 自治体が複数存在すると、貧富が生まれる。それ故、納金にも差が生まれる。そして…それぞれの自治体に一定の確率で勇者が生まれる。


 納金の金額は、そのまま自分たちの自治体で生まれた勇者を養う事が出来る金額に繋がる。故に豊かなところでは多くのパーティーを引き連れ、また困窮したところで生まれた勇者は寡勢で旅に臨まなければいけない。


 彼…ノエルが生まれ育った『ハージの村』は、小さいながらもある程度の金額を納めていた為、四人という平均的な人数のパーティーを組むことが出来た。




「早く行こうぜ、ノエル!」

「待て!速いって!」


 小高い丘の上に建てられた神殿、『ジョブのやしろ』。


 そこを目指し、俺…ノエルと幼馴染のソアラは走っていた。


 今日は十五歳を迎える子供たちにとって、最も意味のあるイベント、その名も『ジョブの日』だ。


 …そのまんまだと言わないで欲しい。わかりやすくていいじゃないか。


 俺たちは十五歳になると、一人前の大人として扱われる。そしてその為の儀式が、今日行われるのだ。


 俺は商家の家で育てられてきた。両親は外の村や町に出て行商人をしていて、俺は多くの時間を隣のソアラの家に世話になった。


 決して育児放棄されていたわけではない。父上も母上も真面目で、休みの日はきちんとかまってくれた。時に父上が同伴で狩りの練習や、薪の調達に外に連れて行ってくれたのは楽しかった。そして帰ったら母上が美味しいスープを作って待っていてくれる。


 最低限の識字は教会で教えてくれたが、生活の多くを父上と母上に教わった。俺は素直に二人を尊敬し、将来は家業を継ごうと思っている。


「へへーん!いっちばーん!」


 一足先に社に着いたソアラが、入口に続く低い段のところで自慢気に指を立てている。数秒後、俺が到着。…横っ腹が痛い…。


「俺とお前しか走ってないんだから…先に着いたらお前が一番だろ…」

「んー?まっいいじゃねぇか」

「クソッ…次は…勝ってやる…」

「毎回そう言って、何敗目かな?」

「こんにゃろ…」


 でも、こないだよりは離されなかった。次は、勝つ。


 ソアラは隣の農家の息子だ。両親が出ている間、同い年のソアラ共々、よくご両親にお世話になった。


ーーーお外は危ないところだから、ノエル君はおっきくなったら連れてって貰おうね。


 親がいない寂しさにぐずる俺に、魔族が跋扈する外の危さを俺に教えてくれたのも、ソアラのご両親だった。


 俺たちは互いに両親を尊敬していたし、早く両親の役に立ちたかった。今まで家の手伝いはしてきたけど…それでも、それは子供の手伝いでしかなかった。


 両親と並ぶ為の、一人前になる為の一大イベント。今日を待ち望んでいない子供はいないのではないだろうか。勿論、俺とソアラも例外ではなかった。


 早く、大人になりたかった。大人になって。父上と母上と色んな所を回ってみたかった。


「はーい!それじゃあ始めるから、皆入って!」


 あれはたしか、教会のシスターさんだったかな?白髪で灰色になった頭髪に、口元には深い皺が刻まれている。歳は…俺たちの両親と同世代らしい。シスターの手首の『クリスタル』が太陽の光を浴びて輝いた。アレが…大人の証。


「ほら、早く入ろうぜ!」

「わかってるから、落ち着こって」


 ソアラの腕を笑いながら解いた俺は、後ろを振り返った。


 空は快晴。カラッとした秋の風が、身を包んだ。ここは村の少し高いところにある為、村の大半を一望出来る。アレが俺の家で、アレがソアラんちの畑…。天気が良いと、それだけでこの先良い事がありそうな予感がする。


「…頑張ろうな」

「…あぁ」


 後ろからのソアラの声に頷き、皆の列に混ざった。




「はい、それじゃ一列に並んで!」


 同い年の子供たちが、一様に並ぶ。何かしら順番があるらしく、俺たちは若干後方だ。ソアラが今か今かと俺の後ろで跳ねている。気持ちはわかるけど、少し落ち着いて欲しい。


「なぁノエル、お前クリスタルどこに埋める?」


 後ろのソアラが、期待の目を向ける。


 この世界で大人になる為の儀式は二つ。


 一つは『ジョブの神託』。これは言わずもがな、神託台の上に上り、神官が神託を受けてそれを告知する。…何の神様かはわからないけど、そうやって俺らの将来が決まるらしい。


 そしてもう一つが『クリスタルの授与』。


 翡翠色のクリスタルが並び、各々好きな物を選び、係の人に埋め込まれる。形は大小様々。中には星型や宝石型の物もあるけど、どこに需要があるんだろう。


 そして埋め込まれる場所も自分で選べ、センスが問われるところだ。両親達の世代は、手首の辺りに球型の物を埋め込む人が多く、実用的で一般的だ。しかし今はトレンドが変わっている。俺が選んだのは…。


「俺はここにする」


 俺は麻布の服の袖を捲くり、左腕の肘から手首までの外側を指す。そこに、長方形型で薄型の、大きめのクリスタルを埋めるつもりだった。


「じゃあ俺も!同じやつにしようぜ」

「おぅ」


 …こいつは、俺たちが仲違いした時のことなど考えていないのだろうか。考えてないんだろうな。俺もだけど。


 このクリスタルは表面に時刻やその人のジョブレベル等、個人情報を表示させる、いわば身分証のような物だ。これを受け取ることが一人前の第一歩であり、大人としての最初のプレゼントだ。


「次、ノエル君!」


 はい!と返事をし、クリスタルが載ったテーブルに進む。お目当ての長方形はあまり需要がないのか、難なく手に入れる事が出来た。


 端にある、『ハート型終了』の張り紙に、複雑な気持ちを抱える。たしかに俺たちの世代の男女比は、女の子の方が多めだけど…。


「それでは、少し痛みますよ」


 係の人が、俺が差し出した腕にクリスタルを押し付ける。腕に異物が埋まっていく違和感と、それに伴い筋肉痛のような鈍痛が走る。


「はい。次に進んで。じゃあ、ソアラ君!」


 館内に響く大声で返事したソアラに、何故か俺が少し気恥しくなる。


「ノエル!」


 だから、大声で名前を叫ぶのはやめてほしい。


「俺はあえて内側につけるぜ!」

「わかったから。先行ってるぜ?」


 あの男は何がそんなに楽しいんだか…。周囲からクスクス聞こえる声がまた恥ずかしい。


「あの子…ソアラ君だっけ?」

「かっこいいよね、彼」

「というより、可愛くない?無邪気で」


 …さよか。顔整ってるもんね、彼。少し親友に嫉妬して、その男を幼馴染に持った事を嘆きながら、俺は次の神託台の方に歩を進めた。


 前では、俺の前の人が神託を待っている。薄明るい光が包み、神官が告げた。


「おめでとう。君は漁師のようだね。頑張って」


 そう神官に言われると、彼は複雑な顔を浮かべて台を下りた。この海から程遠い村で、彼はこの先の長い人生をどう過ごすのだろう。


「次の人…」


 心の中で彼の人生に手を合わせ、神託台に上がる。


「目をつぶって、心を空にして」


 言われたとおり目をつぶり、天を見上げた。…上はステンドグラスの天井だけど。


 少し強めの光に、まぶた越しに眩しさを感じる。


「おぉ…」


 神官の感嘆の声に、目を開ける。神官の顔はほころんでいた。


「おめでとう!君は戦士だ!君の人生に、幸多からん事を…」


 歓声が湧き、俺は惚けたまま台を下りた。


 この世界で戦士が担う役割は、守衛から城の兵卒、果ては…勇者のパーティー。将来を最も約束された職業の一つだ。それ故、魔法使いや僧侶と並び、人々の羨望を集める者なのだが…。


ーーー俺、父上と母上を継ぐつもりだったんだけどなぁ…。


 人のジョブは、決定したら覆されることはない。そして、別の職業に就く事も出来ない。なのでこの瞬間、俺は家業を継げない事が決定されてしまった…。


「ノエル君!凄いじゃないか!」

「ノエル君のご両親も、きっと喜んでくれるわ!」


 この日は、村の将来の担い手を決める重要な行事ゆえ、家族の参観も多い。俺の両親は…忙しくて来れなかったけど。


「あっ…ありがとうございます」


 俺の肩を叩き、また抱きしめるソアラのご両親の言葉に、曖昧に返事する。正直、商家以外の人生なんて考えたことなんてなかったから…複雑だ。


「ノエル!!」


 神託台の上がったソアラが、満面の笑みで親指を立てた。


「君、早く準備しなさい」


 神官に促されて照れ笑いをするソアラに、口の中でおぅと返す。


 ソアラは本心で祝福してくれているんだろうけど…あいつ、わかってるのか?もし俺が城勤めになったら、俺はこの村から出ていかなくてはならない。そうなると、今までのように隣で笑い合う事も出来なくなってしまうのに…。


 俺が俯いていると、一際大きな光と歓声が起こった。


「皆さん!!たった今この村に『勇者』が誕生しました!!」


 俺が慌てて神託台を見ると、ソアラは驚いたまま固まっていた。

書き方ですが、クリエーターと少し変えてみました。読みやすい読みづらいありましたらお聞かせください。ご意見ご感想お待ちしております。

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