第7話 知らない○○と新発見(?)
目覚めると朝だった。
…やっぱり夢オチは無い方向ですかー。うーん…。
ひとまず、「…知らない天井だ…」って言うべき?
天井じゃなくて天蓋っぽいけど。
この世界に遮光カーテンなんてモノは無い。
直射日光ほどではないけど日の光が少し眩しくて目が覚めてしまった。
あたしが寝ていたのは高級そうな天蓋付きベッド。
自分で、このベッドに寝た覚えもなければ今、着ている寝間着に着替えた覚えもない。
………………………うん、考えたら負けだ。
完璧に目が覚めたあたしはベッドから出ようと体を起こした。
「リン様、お目覚めですか?」
おぉー、フラウさん居たんだねー?
…声が聞こえて、ちょっとびっくりしたよー。
おかげで繊細なあたしの心の臓はバックンバックンですよー?
「うん。フラウお姉ちゃん、おはよーございます」
「おはようございます。リン様、天蓋を開けさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「うん。いーよー」
あたしがそう返すとゆっくりと天蓋が開いていき、両腕にあたしの着替えらしき服(大きさ的にそうかなと)を持ったフラウさんが現れた。
もしかしてあたしが起きる迄、待機してくれてたのかな…?
「リン様、どこか具合の悪いところはございませんか?」
心配そうな表情であたしの体調を気遣ってくれるフラウさん。
今日も朝から素敵です。
少し憂いた表情も堪りません。
やっぱりメイドさんの鏡ですねー。
…昨日の件についてはキレイサッパリ忘れていただけるともっともっと素敵でーす。
…えぇ、キレイサッパリとお願いします!!
勿論、そんな事を口に出す事はせず素直に感謝の気持ちを伝えておく。
「ううん。大丈夫だよー。ありがとう、フラウお姉ちゃん」
「それを聞いて安心いたしましたわ」
本当にそう思ってくれているみたいなフラウさんの様子になんだかあたしは面映ゆくなってしまう。
「ありがとう、フラウお姉ちゃん。…あ、そうだ。お姉ちゃんが持ってるそれはなーに?」
あたしはそんな自分の反応を誤魔化すように話をフラウさんが両腕に持っているモノへと変えた。
あたしと話している間もフラウさんが大切そうに扱っていたモノへと。
「そうでした…。リン様の着ていらしたお召し物は少し裾が汚れているようでしたので今、洗濯させております。お伝えするのが遅くなってしまい申し訳ございません。本日は代わりのお召し物をこちらで用意させていただきました。こちら以外にも何着か用意させていただいておりますのでこの中から選んでいただいてもよろしいですか?」
そう言って控え目な笑顔でフラウさんが差し出してきたのは…。
…ん?
…あたし…お嫁にいく気はないですよ?
貰い手ないですし。
…花嫁さんが着てそうな真っ白なドレスだった。
つまりは、ウェディングドレス擬き。
……しかも、フリフリフワフワ。
生前のあたしの親友が血眼になりながら相手を探していた"結婚"の二文字に欠かせなさそうな純白のフリフリフワフワ。
いやいやいやいや、流石にそれはちょっと…。
可愛いーけどさー…。
…ねぇ?
フツーの無いですか?フツーの。
………裾踏まなさそうなヤツとか。
「フ、フラウお姉ちゃん。リー、昨日のみたいのがいいなぁ…」
「お気に召されませんでしたか…。でしたら…こちらはいかがでしょう?」
少し残念そうに次を手に取るフラウさん。
その手にあるのは先ほどよりフリフリフワフワが控え目な…。
…やっぱりドレス。
うん。スゲー動き難そうだーねー…?
間違いなく裾を踏んであたし転ぶよー?
下手したら1人で人間ボウリングとか出来そうだよー?
「…フラウお姉ちゃん。リー、お膝くらいの長さのお洋服がいいなぁ…」
これでは埒があかないと感じたあたしは言外に「ドレスは嫌だ」とほのめかしてみた。
…勿論、上目遣いも忘れません。
それだけで生前のあたしなら一発KOな代物です。
「あ、あら…、そうですか…。それは残念ですわ…。すぐにご要望の長さの物をお持ちいたします。少々お待ちいただけますか?」
よ、良かったー。
通じたよー…。
…なんだかスゲー残念そうだけど。
うんうん。待ちます。
いくらでも待ちますよー?
それよりも……フラウさんが持ってきてくれてたのって全てドレスだったのかい?
……まぁ、いいや。
…うん。
「ありがとう、フラウお姉ちゃん!!楽しみに待ってるね!!」
あたしは「ドレスは受け付けないぞ」って意味も籠めて満面の笑みでフラウさんに感謝の気持ちを伝えた。
それに苦笑しながら「畏まりました。では、いってまいりますね」と告げてフラウさんは静かに寝室から出ていく。
それを見送ったあたしは小さく溜め息を吐いた。
「………朝一からウザイっつーの」
上の部屋でこの部屋の様子を視ようとする魔力の干渉が何度かあった。
昨日あたしがこの部屋に施した"遮断"の効果がまだ切れていない為、"透視"を施そうとしている相手は何度も空振りしているみたいだが…。
あたしとしては"遮断"が切れてなくて良かったのか良くなかったのか。
…すんげー微妙なところ。
…いい加減、諦めればいいのにねー?
あんまりしつこいと魔物に試す前に魔力、根刮ぎ搾り取るヤツを試しちゃうよー?
なぜ昨日みたく魔力を追跡してもいないのに、あたしがソレに気が付いたかというと"遮断"の効果が切れていない状態で相手が"透視"等を施そうとすると干渉されようとしているこっちにもなんとなく何かされてんなーって分かるみたいなんだよねー。
……説明苦手だし上手く説明出来るか分かんないけど。
極端な言い方をすると…。
あたしの体をあたしの居る部屋だとする。
そして、その体を"遮断"という魔力の防護服で覆われているのが今の状態。
その防護服を相手の魔力という棒で何度も何度も何度も何度も…つつかれてる様な感じ。
害は無いし……あんまり気にならないんだけど気になり始めるとー…みたいな。多分あたしが起きる前からそうやって干渉されてたんだろうけど……全く最初は気が付かなかった。
…鈍いとか言わないで。
確かに鈍いけどさー。
まだ色々と慣れてないんだよー…。
……干渉されてる事に気が付いたのはフラウさんがあたしにウェディングドレス擬きを見せた時。
最初は「…ん?」みたいな感じだったんだけど…。
何度も何度も何度も何度も…"透視"を施そうと干渉してくるから気になり始めて…。
…フラウさんに八つ当たりしなかった自分を褒めてあげたい!!
それにしても、どうしたもんか…。
いくら見張られているのが気に食わないとはいえ感情のままに強行突破でここを出ていっても見張られていた理由が分からなければ今後の対処に困る。
……それに誰が見張りをつけていたかも気になるし。
やっぱり大人しく相手の出方を見るべきだよねー?
けど出来るだけ早めにここを出たいなー…。
このままだとストレスが溜まる一方だしねー?
……能力や魔法を使うのはここをスムーズに出れなかった時の最終手段にしとこー。
そうあたしが結論付けているとコンコン…と寝室の扉をノックする音が聞こえてきた。
「はーい」
「リン様、フラウです。入ってもよろしいですか?」
「うん。いいよー」
「失礼します…」
寝室に入ってきたフラウさんは少し戸惑った表情をしていた。
あれっ?
何かあったのかな?
…もしかして誰かがあたしに会いに来てるとか?
「…フラウお姉ちゃん、どうしたの?」
「いえ…。…後程、フォルディモア様、アルベイン様、ジュドー様がリン様にお聞きしたいことがあるそうです。それでリン様さえよろしければ朝食の後にお通したいのですがいかがでしょうか?」
…やっぱり、きた。
噂をすればー…ってヤツですね。
意外と早くて助かるよー。
確かアルベインって筆頭魔術師のオジサンだったよねー?
じゃあ…あとの2人は誰だ?うーん…。
……まぁ、いいや。
焦らなくても朝食の後になれば分かるだろうしねー。
「…うん。いーよ」
「畏まりました。では、その様にお伝えしておきますわ。…でも、まずはお着替えですね」
そう言って控え目な笑顔でフラウさんがあたしに差し出してきたのは真っ白な膝丈ワンピース。
……また白。
ウェディングドレス擬きほどフリフリフワフワじゃないけど…白。
フラウさんって白が好きなのかねー?
まぁ、いーやー…。
可愛いしー。
「ありがとう、フラウお姉ちゃん。これにするね」
あたしがそう言った瞬間。
フラウさんは嬉しそうに微笑みながらあたしの寝間着を手際良く脱がせ始めた。
プロフェッショナルなメイドさんに勝てない事を昨日、身を以て知ったあたしは自分で着替える事を早々と放棄。
たまには諦めも肝心なんですよー?
大人しくされるがままになっているあたしにワンピースを着せ終えるとフラウさんはあたしをベッドに座らせて髪の毛を昨日と同じように白いリボンでツインテールにしてくれた。
そして、朝日をうけてキラキラと輝いている宝石っぽい石で装飾された手鏡をあたしに手渡すと「では朝食の用意をして参りますね」と告げフラウさんは静かに退出していってしまう。
おぉ…!!
あっという間ー。流石、メイドさんの鏡。
手際いいねー?
もしかして巻き髪とかも頼めばやってくれたりすんのー?
………それより。
……この鏡……高そーだーねー…?
……ここ出るとき慰謝料としてもらってってもいいかなー?
…勿論いいよねー?