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第6話 壺とプロフェッショナルと湯中り

食に関する知識を優先的に集める事と魔物に"禁術"と呼ばれる破棄された魔法を試しに使ってみる事を決意したあたしは今、ソファーの上でテディベアを枕にするような格好でフラウさんを待っていた。

幼女の体のサイクルなのか先程から少しだけ眠気に襲われている。



「ふわぁぁ…」



もう何度目になるか分からない欠伸をしていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。




「…はーい」




「リン様、フラウです。入ってもよろしいですか?」



おー…。待ってたよフラウさん。

もうちょっとであたし夢の中でしたよー?



「うん…。どーぞー…」



眠気に襲われながらも、あたしはどうにか、そう返す。

あたしの返事を確認したフラウさんが扉を静かに開けて入ってきた。

その後ろから別のメイドさん達が少し大きめ壺を抱えながら入ってくる。



ん?

…壺?

何で壺?

まさかこの世界では壺が花瓶なの?

いや、確かに花が好きかって聞かれたけどさ。

…えっ?

マジで?

このタイミングで?



パチパチと目を瞬かせ様子を窺うあたし。

そんなあたしの疑問は直ぐに解決された。



「リン様、遅くなってしまい申し訳ございません。すぐにご用意いたしますので今暫くそちらでお待ちいただけますか?」



「えっ?…うん」



あたしの返事を確認したフラウさんはあたしの居る部屋を静かな足取りで横切ると幾つかある続き部屋の1つへと入っていく。

その後ろを他のメイドさん達がこちらも同じように静かな足取りで追う。




…メイドさんってやっぱりスゲー。

何を持ってても静かに歩くのってメイドさんになる為の必須スキルなのかねぇ?




数分も経たない内にフラウさん以外のメイドさん達は持ってきた壺を抱え静かに部屋から出ていってしまった。




…あれはいったい何だったんだい?




「リン様、湯浴みの準備が整いました。こちらへどうぞ」



呆然とメイドさん達の退室していく姿を見送った状態のままで固まっていたあたしは、いつの間にかソファーの隣に立っていたフラウさんの言葉で漸く我に返った。



「あ、うん」




……あの壺の中にはお湯が入ってたのかー。

確かに湯気がたっていたような気がする。

湯浴みの準備って本当にお風呂の準備してくれてたんだねー。

桶とか洗面器みたいなやつを渡されて布で体を拭くのかと思ってたよー。

"知識"によると一部の人間だけがお風呂に入る習慣があるみたいだったから少し不安だったんだよねー。



フラウさんに連れられて少し幸せな気分になりながらバスルームらしき続き部屋へと向かうあたしの足取りは軽い。

…勿論、眠気も軽く飛んだ。



単純って言わないで。

だってうちの家系は風呂好きなんだもん。

まぁ、確かに単純ですが。

でも本当良かったー。

お風呂をこよなく愛するあたしとしては、この世界に来て一番の収穫ですなぁー。うふふ…。




…暢気にそんな事を考えていた結果。

部屋に入った瞬間、"無防備"の状態だったあたしは拒む間もなくフラウさんの手によって素早く丸裸にされてしまう。

そして当たり前のようにフラウさんはあたしの体を洗い始めた。

勿論、途中で気付いて(それまで突然の出来事にカルチャーショックを受けてた)「自分で出来るから…」と告げてみたんだけど控え目な笑顔で、やんわりと断られてしまう。




…プ、プロフェッショナル恐るべし!!




その後も何度か「自分で出来るから…」と告げては、やんわりと断られ…といったこの件に関しては諦めの悪いあたしとプロフェッショナルなメイドさんであるフラウさんとの激しい攻防が繰り返された。




………………結果?

え?結果なんて聞きたいの?

…いたいけな幼女がプロフェッショナルなメイドさんに勝てる訳無いじゃないですかー。

ソレをあえて聞くなんてなんの嫌がらせですかー?うぅ…。




結局、フラウさんに勝てなかったあたしは頭のてっぺんから爪先に至るまで、綺麗に洗われてしまった。



ツルツルのピカピカですよー。

お肌が綺麗になるのは凄く嬉しいんだけど…。

この年にもなって他人様に体を洗ってもらうという羞恥プレーのお陰で代わりに何か大事なモノを無くしたような気がします…。



見た目は幼女でも中身は一応、自分の事は自分で出来る年なので。

あたしは若干顔を赤らめたまま…今、1人(どうしても1人になりたいとフラウさんに頼み込んだ)で、お風呂に漬かっている。

フラウさんは扉の外で待機中。




…うぅ…、いくら同性でも恥ずかしいもんは恥ずかしいんですよー!!

あたしは慎み深い大和撫子なんですからっ!!

…でも、異性じゃないだけ…まだマシかー。…うん。

それに済んだことを考えても仕方ないし。



済んだことは仕方ないと割り切っても顔に集まってしまった熱はまだ退きそうに無い。



お城から出たら少女の姿にさっさと体を戻そう。

幼女の姿も可愛いけど今の体だと色々と不便だわー…。



そう考えて、あたしは小さく溜め息を吐いた。




…そういえば"迷い子"にならなければ今頃、普通に生活してたんだよねー…。

休み以外の日は大学に行って講義を受けてバイトして。

休みの日は彩夏お姉ちゃんや友達と遊んだり部屋に引き込もってDVDやマンガ三昧だったんだよねー…。

うーん…、不思議ですなぁ…。

そもそも、何らかの事情って何だったんだろ?

思い出したくても記憶が曖昧だしなー。

なんとなくバイト帰りだった気が…。うーん…。



うんうん唸りながらあたしは生前のあたしの最後の記憶を思い出そうとお風呂の中で悩み始めた。

けど、それがいけなかったんだろう。



なんか頭痛いし気持ち悪い…。

しかも、ぐるぐるしてきたぞー?



お風呂に漬かりながら悩んでいたあたしはお約束のように"湯中り"を起こした。

慌て立ち上がろうとして立ち上がれず「バシャーンッ!!」と意外と大きな水音をたてて、お風呂の中で尻餅をついてしまう。



「リン様、どうかなさいましたか!?」




……あたしが思っていたよりも大きな音がしたんだろう。

血相を変えたフラウさんが部屋に飛び込むように入ってくる。




おぉー…フラウさんが焦ってるー…?

フラウさん、ごめんねー?



そんなフラウさんの姿を最後にあたしの意識はプツリと途切れた…。





…ん?

あれっ?

…まさか、このまま異世界一日目、湯中りで強制終了…!?

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