第3話 異世界初○○○○○
フラウさんがあたしの頼んだ飲み物を準備する為に部屋から出ていったのを確認したあたしはエプロンドレスのポケットに突っ込んでおいたネックレスを取り出す。
神殿で密かに想像具現で作っておいたネックレス。
白金製の細い鎖の先に揺れるあたしの小指大程のモチーフは鎖と同じ白金製で星型にしておいた。
星型のモチーフの上に平仮名の"し"みたいな形に魔石3個が埋め込んである。
それを手早く身に付けると目に見えない魔力の動きを目を閉じて追う。
ふわりと一瞬、風も無いのに髪とスカートが追跡の為に僅かに使ったあたしの魔力の動きに揺れる。
…やっぱり、か。
…1、2、3、4、…7。
…7かぁー。
「…"遮断"」
あ、良かった。
ちゃんと魔法もスムーズに使える。
魔法を検索して使えそうな魔法を魔石にしただけだったし神殿では少し焦ってたから試す迄、自信が無かったんだよねー。
名前は聞き忘れたけど多分"神様"なお兄さん、ありがとー。
そんな事を考えつつも、あたしはソファーに腰掛けたまま小さく溜め息を吐く。
「うへぇー…。それにしても…思ったよりも事態は悪いのかねぇー。そんなに"勇者"が必要なくらい今って切羽詰まってんの?"知識"にはそんな事、一切見当たらなかったぞ〜。こんな、いたいけな幼女の見張りに"魔力持ち"が7人って…。興味がなくなったら、さっさと逃げよっと」
…それにしても、神殿で見かけなかったのも居るから筆頭魔術師のオジサン以外にもあたしの動向が気になる人間が居るって事かねぇ…?
なんかウザイなぁー。
あたしが魔力を追跡して確認したのは筆頭魔術師のオジサンの部下らしい魔術師、4人。
そして、諜報活動から暗殺迄、手広くやる"影"と呼ばれる存在らしき人間、3人。
"影"と呼ばれる存在は勿論、大なり小なり魔力を持っている。
それをあたしの魔力が感知したのだが…。
7人、皆が相手の様子を視ることができる"透視"と呼ばれる魔法を少し離れた場所から、この部屋に施していたのだ。
魔力をバレないように追跡し"透視"出来ないように"遮断"と呼ばれる魔法を施し対処はしておいたが…。
"影"が付いているみたいだし、ついでに自分の身を守る為に最高位の結界も張っておく。
"遮断"を使ったから明日辺りあたしの様子を伺いに何人か来そうだなー。
おそらく、既にあたしが魔力持ちなのは気が付いている筈だし…。
一応、対策はしてあるし大丈夫でしょー。
ネックレスを摘まみながら、そう自分の中で結論付けると今の自分の格好を確認した。
器を創ってもらった時に一応、身に付けていた服が幼児用になっただけなんだろう。
膝丈のエプロンドレス。
エプロンの部分は真っ白でドレスの部分は薄桃色で全体的にふんわりしている。
真っ白なニーソと薄茶色の編み上げブーツを履きブーツと同色の斜めがけのショルダーバッグを提げていた。
髪の毛は真っ白なリボンでツインテールにしてあるみたいだ。
残念ながら鏡が見当たらないため窓ガラスで確認した。
うんうん。
可愛い可愛い。
我ながら惚れ惚れするわー。うふふ…。
窓ガラスに映る自分の姿に見惚れる幼女。
…なかなかシュールだ。
フラウさんが戻る迄、もう少し時間がある筈よね…。
あたしはショルダーバッグの中身を確認する事にした。
中に入っていたのは―…。
………………何にも入って無いってどういう事でしょうか?
「えー…。逆さまにしても埃1つ塵1つ出てこないとかビミョー…」
何にも入って無いのは微妙なので想像具現でキャラメルと小さめの水筒(中身はミネラルウォーター)、そして日本製の植物図鑑(手帳サイズ)を作っておいた。
出来の良さに満足したあたしは、それらをショルダーバッグへと適当に突っ込む。
……えっ?整理整頓?
何それ?美味しいの?
コンコン…。
部屋の扉をノックする音があたししか居ない部屋に響く。
「はーい。どなたですかー?」
「リン様、フラウです。入ってもよろしいですか?」
「フラウお姉ちゃん?うん。いいよー」
あたしが了承すると「失礼いたします」とフラウさんが一言告げ静かに扉が開く。
そして音もたてずにフラウさんが優雅に入ってきた。
……ティーセットや焼き菓子の載せられたカートと共に。
おぉ…、フラウさん、スゲー。
流石、メイドさんの鏡です。
あたしの中でフラウさんに対する好感度が更に上がった。
生前(?)、…なんか生前に(?)つけんの飽きてきたんですけどー。
…まぁ、今度から、はしょればいいか。
うん、そうしよう。
では、気を取り直して。
……生前、自他共に認める程、ずぼらだったあたし。
初対面の相手にもマイペース過ぎて「B型ですよね?」と、よく問いかけられてた。
繊細なガラスのハートの持ち主であるあたしと世界中のB型の人に「誠心誠意を籠めて土下座しろ」と、今更だけど、あたしは奴等に声を大にして言いたい。
……なんか思い出したら腹がたってきたんですけどっ!?
まぁ、いいや。済んだ事は仕方ない。
そんなこんなで、あたしは優雅な仕種の人に憧れてたりする。
我が人生の師匠である彩夏お姉ちゃんもよく「優雅とか上品って言われる仕種は是が非でも盗め!!その仕種1つでもコロリと騙されるチョロい奴等も世の中には居るんだから!!」と、教えてくれた。
…今更ですが、お姉ちゃん。
当時、小学生だったいたいけなあたしに、それを教えるのはどうかと思います。
えぇ、今更ですけど。
話が少しズレてしまった気がしないでもないけど、フラウさんはこちらが見惚れるくらい優雅な仕種でミルクティーを用意してくれた。
ミルクティー…大好きなんです。
お砂糖たっぷりだと尚更、最高です。
「リン様、どうぞ。焼き菓子も用意させていただきました。リン様のお口に合えば嬉しいのですが…」
そう言って控え目に微笑みながら、お皿に盛られたクッキーみたいなモノを勧めてくれた。
あたしはフラウさんに勧められた、異世界初クッキーをワクワクしながら一口食べる。
「あ…、美味しい。フラウお姉ちゃん、凄く美味しいよ!!ありがとう!!」
口の中に程好い甘さが広がる。
あたしの好みの甘さについ我を忘れてしまい、興奮したままフラウさんにお礼を告げてた。
「それは良うございました。そんなに喜んでいただけると私も用意した甲斐がありますわ」
ふんわりと微笑みながら、そう言ってくれるフラウさん。
……なんだろう。
メイドさんってスゲー。
こんなに気が利くもんなのかね?
意外と単純なあたしはサクサクと歯触りのいいクッキーとミルクティーで幸せな気分になった。
見張られてたりとかして軽く嫌な気分になってたんだけど…。
まぁ…元々あたしって嫌な気分が長続きしないタイプだしねー。
…若干、根に持つけど。うふふ…。
こうして異世界初のお茶の時間は幸せな気分で、あっという間に過ぎていった。
………チーズケーキとか頼んだら作ってもらえるのかな?