第1話 勇者(?)召喚
―――――
――――
―――
ザワザワ…。
んっ…、ここはどこだろう?
ゆっくりと意識が覚醒していくのが分かった。
ぼんやりとした頭で周囲を見渡す。
…石造りの…神殿?
確か…あたしは勇者召喚を利用して…。
あぁ、そうだ。
ここは勇者召喚を行っていた国なんだ。
じゃあ周りに居る魔術師みたいな人達が勇者召喚を行っていた人達か。
それにしても…皆さん凄い混乱してるみたいだけど…大丈夫〜?
「…おぉ!!目覚められましたか、勇者様!!」
魔術師達を押し退けるように脂ぎった顔のブクブクと太った1人オジサンがあたしの目の前に来た。
身に付けている衣装は豪奢で。
素人目でも高級なのが分かる。
…うわぁ。
間違いなく面倒事参上〜…。
空気よめよー。
今のあたしは、いたいけな幼女だぞー。
勇者な訳ないだろう。
ここはやはり…伝家の宝刀だな、うん。
「…オジサンは誰?…ここ、どこ?…ま、ママは!?…うぅ…ママぁっ!!」
伝家の宝刀、泣き落とし。
セコいとか言わないで。
勇者になんかなりたくないんだもん。
あたしが泣き出した瞬間。
オジサンを含め、周囲に居た魔術師達がおろおろとし始めた。
嘘泣きのつもりが想像具現のお陰なのか、ぽろぽろと涙が頬を零れ落ちる。
…あ、ラッキー。
どうやって涙出そうか悩んでたんだよねー。
泣いている間に具現化したネックレスに身を守る為に使えそうな魔法を思い浮かべ魔石にして埋め込む。
…バレるかな?
魔力の動きに誰か気付くかと少しハラハラしていたけれど。
泣いているあたしに注意が向いていた為、具現化等に使った僅かな魔力の動きに気が付く者は居なかったらしい。
その事に気が付き、あたしは泣きながら小さく安堵の溜め息を溢す。
「…おや、筆頭魔術師ともあろうお方が召喚ミスですか?」
突然、神殿内に男性の声が響く。
ひっくひっくとしゃっくりを上げながら涙を溢すあたしに一切、見向きもしなかった20代後半くらいの整った顔立ちの男。
淡々と抑揚なく告げられた、男の言葉にあたしの周囲に居た魔術師達が息を飲んだ。
「…宰相殿」
脂ぎった顔のオジサンが筆頭魔術師だったらしい。
悔しげに顰められた眉が宰相との仲を表している。
「……こんな幼い子供のどこが勇者ですか?失敗する確率をあれ程、私はご忠告しましたよね?陛下にあれ程、自信満々に申し上げておきながら…この体たらく。嘆かわしい。…その子供をどうするおつもりですか?」
宰相と呼ばれた男の問いかけに筆頭魔術師らしいオジサンはわなわなと震えながら唇を噛み締めた。
「お、お主に言われなくとも考えておるわ!!」
筆頭魔術師のオジサンは敬語で話す事を止めたらしい。
吐き捨てるようにそう言い放つと近くに居た魔術師に声をかけた。
「…そうですか。それは失礼いたしました。…これ以上、私が居る意味は無いでしょうし、私は下がらせていただきます」
筆頭魔術師のオジサン等、興味ないのか淡々とそう返すと宰相は部屋から静かに出ていってしまう。
…な〜んか宰相って腹黒っぽいなぁ。
んで、この脂ぎった筆頭魔術師のオジサンは野心家で力はあるみたいだけど…空回りしてるのか。
……短気みたいだし。
嘘泣きをしながら2人を観察していたあたしは、そう結論付ける。
宰相が出ていって数分もしない内に神殿内の扉がノックされた。
入って来たのは真っ白いエプロンとフリフリカチューシャをはめ、丈の長いクラシカルメイド服を身に付けた、メイドさん。
……しかも金髪碧眼の美人さん。
うわぁうわぁ、生メイドだぁ…。
メイド服、可愛いなぁ。
メイドさんは扉の前で一礼すると筆頭魔術師のオジサンの元へと向かってきた。
「お待たせいたしました、アルベイン様」
…オジサンの名前はアルベインっていうらしい。
…うん、全国のアルベインさんに謝れと言いたい。
「…この子を客間に通して世話をしてくれ。私は陛下の元へと向かうのでな」
「畏まりました」
メイドさんはそう告げると筆頭魔術師のオジサンに頭を下げる。
それに鷹揚に頷くと筆頭魔術師のオジサンは足早に神殿を出ていってしまった。
………オイ、あたしには説明なしかよ!!
幼女だからか!?
幼女だからメイドさんに丸投げか!?
せめて軽く説明ぐらいして行ってもよくない!?
あたしの中で筆頭魔術師のオジサンの印象が益々悪くなった。
クソ〜。
あのオッサン覚えてろよ〜。
ぐすぐすと泣きながら涙を拭いつつ、そんな事を思っていたあたしにメイドさんがしゃがみこんで目線を合わせてくる。
「はじめまして。私、フラウと申します。お嬢様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
……。
……ん?
……名前っ!?
な、名前考えるの忘れてた!!
が、外国らしい名前ってどんなの!?
1人パニクるあたしをフラウさんが心配そうに見詰めている。
うふふ…、全く思い付かないし。
……もう、どうにでもなりやがれ〜。
「…凛、です」
ぐすぐすと泣きながら涙を拭いつつ生前(?)の名を名乗る。
もう、いい加減泣き止もうかなー。
泣くのも体力使うし。
「リン様、ですね。とても可愛らしいお名前ですね。さぁ、いつまでもここに居らしてはお風邪を召してしまいます。私とお部屋に参りましょう」
フラウさんの言葉にあたしは素直に頷く。
「手をお繋ぎしてもよろしいですか?」
素直に頷いたあたしにフラウさんは、そう律儀に問いかけてくれた。
その問いかけにも、あたしが頷くと優しい手つきで手が繋がれる。
フラウさんに筆頭魔術師のオジサンが客間に通して世話をしてくれって言ってたし。
客間ってデカイのかなー?豪華なのかなー?
楽しみぃー。
フラウさんに手を引かれながら、あたしはそんな事を考えていた。