第18話 ギルドと初○○ ③
サラサラと彼が動く度に風に靡く少し長めのくすんだ金髪。
青空によく似たスカイブルーの瞳。
スッと鼻筋の通った鼻に薄い唇。
俗にいうイケメンってやつだろう。
左の目の下の泣き黒子が目の前の男の色気を増長させている。
……何か童話に出てくる王子様みたいだねー…。
あー…でも王子様っていうより…。
「…ホスト」
「えっ?アリス様、何かおっしゃいましたか?」
ボソッと呟いた独り言。
うまく聞き取れなかったらしいフラウさんがボーッと目の前のホスト(?)を見詰めたまま動かないあたしを心配そうに見詰めている。
「ううん。なんでもないよー…」
「へー…アリスちゃんっていうの?可愛いね〜」
そう言って彼はフワリと笑った。
甘く蕩けるような――。
「――っ!?」
あたしは思わず目を見開いた。
決して見惚れた訳ではない。
それを見た瞬間、何故か物凄い勢いで、あたしの背筋を悪寒が走り抜けたのだ。
思わず腕を見ると思い切りチキン肌になっている。
今日は暑くもなく寒くもなく程よい気候だというのに。
そのうえ嫌な汗がタラタラと流れて来る。
「げっ…」
……何、これ。
思わず後退してフラウさんの後ろに隠れてしまったあたし。
そんなあたしを見て彼はクスクスと笑いだす。
「あーぁ。残念。嫌われちゃったかな?」
………なぁーにが残念だよ!!
最初とキャラが違うし!!
「…アリス様、申し訳ありません」
あたしの方に振り向いて頭を下げるフラウさん。
そんなフラウさんの様子に頭の中がハテナマークでいっぱいになる。
「へ?」
頭を上げたフラウさんは彼に向き合うと貼り付けたような笑みで告げた。
「……アズベルト殿下、こちらで何をなさっているのでしょうか?」
…は?
アズベルト…殿下?
「相変わらずつれないなぁ〜。君と俺との仲じゃないか」
「そうですわね。他の方より少しばかり血の繋がりがある仲ですわ。殿下、先程の私の質問に答えていただいても?」
「うーん…、相変わらず手厳しいね。…ただの"お忍び"だよ」
「…陛下やフィリオ殿下はご存知なのでしょうか?」
な、何だろう。
フラウさんが凄い怖いんですけどぉぉぉおぉぉぉおぉぉっ!?
「…そりゃ、まぁ…」
「ご存知ではないのですね?」
「…うん。えーと…、フラウ。俺、もう18だよ?成人の儀だって済ましてるし」
「存じ上げております」
貼り付けたような笑みで多分この国の王子様(?)にそう告げたフラウさん。
…おかしいなぁー。
「だから、何?」って幻聴が聴こえてくるわー…。
「…あー…うん。城に連絡いれるから機嫌治してくんない?」
そんなフラウさんの態度に折れたらしい王子殿下(仮)。
流石、フラウさん!!
チャラ男もメイドさんの鏡の前では形無しですね。
軽く哀愁を漂わせながら腕輪に向かって呪文をブツブツ唱え始めた王子殿下(仮)。
その間にあたしはフラウさんに問いかけた。
「フラウさん、あの人って王子殿下なの?」
「えぇ、残念ながらそうですわ。アズベルト・レテ・トゥーリア殿下。間違いなくこの国の第2王子殿下です」
やっぱり王子殿下でしたか…。
てか、残念ながらって…。
「へー…、見えないね。どこぞの放蕩息子みたい」
「まぁ、そんな感じです。昔からよく城を抜け出しては連れ戻されていた方ですし」
そう言ってフフッと笑ったフラウさんはスゲー可愛いかった。
「…あ、そうですわ。アリス様、アリス様さえよろしければ我が家からアリス様の分も防具を取り寄せたいのですがいかがでしょうか?」
「えっ?いいの?」
「えぇ。兄が"古代遺跡"や"迷宮"で手に入れた物の中にアリス様に似合いそうな物もありましたし。転荷鏡を使えば直ぐですわ」
「転荷鏡?」
「簡単に言うと我が家にある物を我が家に置いてある特殊な鏡から私の持っている特殊な鏡を通して送ってもらうんです」
宅急便みたいな感じかな?
「へー…便利だね。じゃあ、お願いしようかな」
「はい。あの防具を着けたアリス様のお姿を拝見できるなんて…。今から楽しみですわ」
そう言って笑うフラウさんに少し引きつつ。
防具を考える手間が省けてラッキー。
武器どうしようかなー…。
「あ。そーいえば、フラウさんって槍を使うんだね」
「はい。私は二番目の兄に教わりましたので槍を使います。短剣も少しならば使えますわ」
「凄いなぁー…。お兄さんに会ってみたいかも」
「フフッ…。冒険者になりましたし。偶然、会うこともあると思います」
フワッ…と微かな魔力の動きを感じたあたしは、そちらに目を向けた。
「…龍?」
ホスト…じゃなかった。
第2王子殿下の腕輪から水を巻き上げるように手乗りサイズの小さな龍が現れている。
縦に長い東洋タイプの龍。
その体は水で出来ているみたいで瞳は純度の高いエメラルドみたいな色だ。
王子殿下が何事か呟くと龍は水を巻き上げながら空へと昇っていく。
「連絡いれたよ」
「えぇ。そのようですわね。では殿下、私達はこれで失礼いたします」
そう言ってお辞儀をするフラウさん。
あたしもつられるように頭を下げた。
「え?ちょっと待てよ」
「何か?」
「アリスちゃんの事、紹介してくんないの?」
「……誰にでも"魅了"の技を使うような人間になど紹介したくありませんわ。それに、アリス様にはそんな子供騙しな技が効かない事も先程、お分かりになったでしょう?」
ダ、ダイヤモンドダストー…!?
フラウさんが怖いぃぃぃ…!!
「手厳しいね。悪かったよ。彼女にはもう使わない」
「当たり前です。私達、急いでますの。失礼させていただいても?」
「はぁ…。わかったよ。今回は諦めよう。では、アリスちゃん、またね」
ため息を吐いた王子殿下はヒラヒラと軽く手を振りながらにこやかに人混みの中へと消えていった。
「……軽い」
「アリス様、申し訳ありません。悪い方ではないのですが…」
「大丈夫。ちょっと驚いたけど。早く宿屋に帰ろう」
申し訳なさそうな表情のフラウさんを促してあたしは宿屋へ向かって歩き出す。
それに頷いたフラウさんも定位置に戻って歩き始めた。
「ただいま〜」
部屋へと戻ったあたしはベッドへとダイブした。
「お疲れ様でした」
クスクス笑いながらフラウさんが、あたしを労ってくれる。
「武器作んないと…」
ガバッと起き上がったあたしは腕を組ながら悩み始めた。
「では私は転荷鏡で防具を取り寄せますね」
フラウさんは荷物の中から手のひらサイズの丸い鏡を取り出しベッドに置いて呪文を唱え始めた。
フラウさんが呪文を唱え始めた瞬間、鏡が淡く輝き始め…。
カッと一際強く輝いた。
あまりの眩しさに目を閉じてしまったあたしがゆっくりと目を開けると、ベッドの上に防具らしき衣類(?)が。
「へ…?」
ポカーンと口を開きベッドを見詰めるあたしにフラウさんが微笑む。
「では着替えましょうか。お手伝いいたしますわ」
「えっ?」
ゴソゴソと衣類(?)の山を漁ったフラウさんはあたしの分らしき衣類(?)を手に艶然と微笑みながら、あたしに近付く。そんなフラウさんに怯えながらもプロフェッショナルなメイドさんに勝てる気がしないあたしは大人しく着替えを手伝ってもらった。
このままじゃいけない気がするー…。うぅ…。
「フフッ…。思ったとおり素敵ですわ」
満足そうな笑みを浮かべるフラウさんを前に、あたしは自分の格好を見て固まった。
……全身を見る勇気が今のあたしにはない。
チラリと下を向く。
トップスはコルセットみたいな真っ赤な服(?)。
触り心地は皮っぽい。
その真っ赤なコルセットの下は首から手首まで黒っぽいシースルータイプの伸縮性のあるシャツ(?)で覆われている。
ボトムスは膝上20センチ程のタイトな漆黒のスカパン。左前に10センチ程のスリットがはいっている。
……どこのアニキャラのコスプレですか!?
フラウさんがわざわざ実家から取り寄せてくれたし、有り難く使わせてはいただくけどさ…。
黒いニーソを想像具現で作り、服に合わせるようにブーツを色んな耐久性を上げまくった真っ赤なニーハイブーツに想像具現で作り替えた。
ゴソゴソとニーソとニーハイブーツを履いたあたしは、その場でくるりと回ってみる。
うん、ローヒールだから動き易い。
「フラウさん、ありがとー…」
フラウさんにお礼を言うのを忘れていたあたしは、フラウさんの方を向いて驚いた。
「いいえ、大したことではございませんわ。私には勿体無いお言葉です」
そう言って微笑むフラウさんの格好は―…。
「…軍服?」
何故か濃紺の詰襟タイプの軍服だった。
襟や袖やそれぞれの縁には金糸で見事な指し刺繍が施してある。
上着の前部分は三つボタンが並び、腰上までの丈で後ろは足首より少し上。
ボトムスは膝より少し上くらいのタイトなスカート(多分スカパン)。
あたしと同じように左前に長めのスリットが入っている。
……なんかベレー帽を被せたくなるのはあたしだけでしょうか?
「変でしょうか?」
「ううん。凄く似合ってるよ」
そのままブーツを履こうとするフラウさんをとめて、真っ白いニーソと色んな耐久性を上げまくったコンバットブーツを想像具現で作り手渡す。
「まぁ…。わざわざありがとうございます」
「どういたしまして〜」
さて、武器を作りますかぁ〜。
悩むなぁ〜。
フラウさんは槍使うみたいだから他の武器がいいよね〜。
暗器とか銃とかそうゆう飛び道具もいいなぁ…。
鞭は扱い難そうだし刀か剣かなー…。
「授業で剣道は習ったことあるし…」
戒理が憧れて模造刀まで買っていた日本刀、大典太光世を想像具現で作ってみた。
切れ味は言い伝えを元にイメージしてある。
あとは、淕人が007に憧れて欲しがっていたワルサーPKKと32ACP弾を作ってみた。
口径は32。
女性が扱うなら32口径の方が良いらしい。
38口径だと引き金が重く引けないようだ。
たまにはアイツらの趣味も役にたつもんねー…。
あとは刀を差せるように刀用のベルトとホルスターを作んないと。
想像具現でベルトとホルスターを作り終えたあたしは手早くそれらを身に付け四次元バッグを提げ外套を身に纏った。
右利きなので刀も銃も左側。
銃は外套で隠れるが刀は鞘の先っぽが見えている。
まぁ、仕方ないよねー…。
フラウさんも準備が終わったらしく外套を纏っている。
「市場で携帯食等を買ってからトネアの森へ向かいましょう」
「うん。…あ。フラウさん、ごめん!!あたし今、1文無しだから、お金貸して下さい!!」
パンと勢いよく両手を合わせ、頭を下げながら頼み込む。
「お金のことは気になさらなくて結構ですわ」
「いやいや、気になるよ。防具も用意してもらっちゃったし」
「でしたら、この靴下とブーツのお礼ということでいかがでしょう?この世界では見たことが無いくらい上等な物ですから逆にお支払いしなくてはいけない気もしますし…」
「えっ?…ニーソとブーツのお礼でお願いします!!それこそ大したことじゃないしお金は受け取れないよ」
「そうですか…。畏まりました。では、参りましょう」
そう少し残念そうに言うフラウさんと一緒に宿屋を出て、あたしは市場を目指した。
……てか、携帯食って美味しくないイメージしかないんだけど。
携帯食以外の選択肢ってないのかね?