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※第16話 ギルドと初○○ ①

質の悪いガラス玉のような赤黒い目を持つ熊によく似た魔物が"冒険者"らしき人間の首を鋭い爪で切り飛ばしたのが数十メートル離れた自分たちの居る場所からも見えた。

そして、切断部からおびただしい量の血液が噴水のように噴き出し、首のない人間が自らの血で出来た血溜まりの中へと倒れていく姿も…。



『グヲォォォォッ!!』



勝利を確信した咆哮なのだろうか…。

しっかりと両足で立つ熊によく似た魔物。

その目前には先程、首を落とされた冒険者らしき人間の仲間なのだろう…。

血溜まりの中に倒れている"死体"と似たような格好の人間が2人。

仲間だったモノの血を浴び、顔も首も身に纏った鎧さえ血に濡れながら剣を構え後退りをしている。

ズリズリと後退しつつも目線は目の前の凶悪な魔物から目を離す事のないように慎重に動いている。

そんな"非日常"な惨劇を目の当たりにして、グッ…と胃から込み上げてくる酸っぱいモノ。

けれど、それをどうにか嚥下<エンゲ>して。

腰に提げるようにつけていた得物を手に取ると隣に立つ人物の悲鳴にも似た制止の声も聞かずに無我夢中で駆け出していた。

血に濡れた場所へ…。

自分の今までの常識では考えられないような惨状を呈する場所へ…。

何かに突き動かされているかのように――…。










―――――

――――

―――




「それにしても何故ギルドへ行こうと思われたのですか?」



「ん?世界を見るにしても先立つモノは必要でしょ?あたし今、1文無しってヤツだしさー…。ギルドに冒険者として登録した方が色々と手っ取り早いかな〜って思ってたの」



「成る程…。………リン様はギルドについてどれ程ご存知ですか?」



「んー…、簡単なイメージだと依頼を受けて報酬をもらうって感じかな」



あたしの言葉を聞いたフラウさんが歩きながらギルドについて更に詳しく説明をしてくれた。

冒険者にとっては依頼と情報を提供してくれる場所が"冒険者ギルド"らしい。

そして、依頼人にとっては問題を解決してくれる人がいるかもしれない場所。

それと、ギルドに登録した冒険者には"ランク"というものがあり登録すると"ギルドカード"と呼ばれる身分証代わりのカードが発行される。

ギルドランクは一番最初がGで最高がSSS。

けれど、今現在、SSSランク迄、上り詰めれそうな冒険者は皆無らしく…。その1つ下のSSランクさえも世界で2人だけとギルド創立当初に比べたら少ない。

"依頼"については自分のランクの1つ上のランク迄ならば、どんな依頼でも受ける事が出来るようになっていて依頼を達成すると報酬とは別にランクアップに必要なポイントがギルドカードにどんどん蓄積され、次のランクに必要な分まで貯まると次回、依頼を受ける際に窓口でランクアップを告げられる。

しかし、中には期日のある依頼もあり、その期日内に達成出来なければ違約金を払わされてしまうばかりか未達成が何度も続くとランクダウンや登録抹消等、厳しい処分が下る事も。

あと、ギルドや依頼人から名指しで指名をされることもあるらしく、そのような場合はギルドが報酬を上乗せしてくれるらしい。

その際、ギルドランクのランクアップに必要なポイントも上乗せされるみたいだった。




「…フラウさん、詳しいねー。凄〜い」




「私の二番目の兄が冒険者なんです。家に帰ると色々、話してくれるものですからいつの間にやら覚えてしまって…」



「えっ!?二番目のお兄さん冒険者なの!?」



フラウさんのお兄さんならイケメンなんだろうなぁ…。



「はい。昔から好奇心旺盛な人で…。ギルド登録が出来るのが12才からなんですが、12才の誕生日を迎えたその日にギルド登録をしてしまったんですよ。…私の記憶が確かならば冒険者になって今年で7年目の筈ですわ」



「へー…、凄いお兄さんだねー…」



12才でかー…。

あたし、12才ん時って何してたっけ?

12才って事は小6だよね…。

…………………………あーっ!!思い出したっ!!

後輩をストーカーしてた男の子を撃退した所為で後輩たち(女子限定で)に超モテまくってた時期だ。

おかげで男の子たちには恨まれてさー…。

しかも、当時、あたしが絶賛片思い中だった男の子にまで目の敵にされて大変だったしー…。うふふ…。

………ヤベェ、思い出したら目から汗が…。



突然、哀愁を漂わせ始めたあたしにフラウさんは首を傾けながらも話を続けてくれる。



「そうですね。当時の兄の行動力には脱帽します。……あ、そういえば大切な事を忘れてました。ギルド登録の際に職員の方から用紙が渡されるそうなんです」



「用紙?」



「はい。名前や年齢や魔術の属性等を記入するらしいんです。それで、リン様に注意していただきたいのが魔術の属性の数です。この世界で魔術を使える人間は全体の3割から4割と言われています。使える魔術の属性が1つで魔術師を名乗る事が出来て、2つの属性で城の魔術師団に入団する事が可能です。ここまでは冒険者の中にも意外と居るのですが、3つ以上となるとぐっと数が減り極々僅かになります…。それと、3つの属性を持つ者は魔術師団の中にある隊の隊長等の役付きになれるという話ですわ。…勇者召喚や変た…ゴホン、失礼いたしました。…ジュドー様の件等もありますし極力、目立つ事は控えた方がよろしいかと存じます」




…ロリコン将軍に関してはもうこの際、変態だって言い切っても良いと思うのはあたしだけ?

フラウさんって律儀だなぁー…。




「そうだね。ありがとう、フラウさん。……念のために名前も変えておこうかなぁ」



"凛"って名前はこの世界では珍しいみたいだし…。



ガハガハ笑う声と『リン殿ですか!!美しい響きのお名前ですなー!!しかも珍しい!!愛らしいお嬢さんにはピッタリですなっ!!』と言っていた将軍の声が未だに頭ん中に響いてたりする。



「名を変えるとは偽名を名乗る…と。そういう事でしょうか?」



歩みを止めたフラウさんは真剣な表情であたしを見詰め、あたしが答えるのを待っている。



「えっ!?いやいや!!偽名を名乗るつもりはないよ!!」


慌ててあたしがそう告げるとフラウさんは表情を緩めて安堵のため息を溢す。




「…それを聞いて安心いたしました。リン様はご存知ないかもしれませんが、この世界で自分の名を偽る事は"重罪"となります。…名を偽っている事が露見した場合、衛兵に引っ捕らえられ尋問の後、断頭台へ送られるそうなんです。ですから、名を偽る事だけはお止めください」




断頭台…ってギロチンって事!?



「そんな…。でもさ、そんな簡単にバレたりすんの?」




「…えぇ、噂によりますと名を偽っている者には体のどこかに珍しい痣が現れるそうです。名を偽ってすぐに現れる訳ではないらしいのですがジワジワと時間をかけて現れ、徐々に色がハッキリしてくるみたいですわ」




「珍しい痣…」



「はい。……この世界では『名を偽った愚か者に神がつける印』と言い伝えられております。それ故、名を偽った者は"神の贄"と呼ばれ衛兵に引っ捕らえられ断頭台へ送られるのです。神の下で自らの罪を償うようにと」



はぁっ!?

そんなむちゃくちゃな話ってあり!?

偽名くらいであの"神様"がそんな事をさせるとは思えないんだけど!!




「……何か信じられないや」


呆然とそれだけ返し、あたしはフラフラと歩き出す。歩き出したあたしに合わせるようにフラウさんもあたしの右後方を歩き出した。




……主の隣を歩くなんてとんでもないんだって。

この件に関しては追々話し合って解決したいと思う。

相手がプロフェッショナルなメイドさんなだけに勝てる自信はないけど。




「…不快な話をしてしまい申し訳ございませんでした」




「え?いやいや、あたしが悪いんだし気にしないでいいよ。あたしこそ、ごめん。フラウさんは、この世界の常識を教えてくれただけなのにさ」



立ち止まり深々と頭を下げそうなフラウさんをどうにか止めたあたし。

そんなあたしにフラウさんはふわりと微笑みを浮かべた。




「…うっ…。ほ、ほら、早く行こう。通行の邪魔になっちゃうし」




まるでお祭りみたいな賑わいをみせる城下町。

その城下町の中心で立ち止まっていれば、どうしても通行の邪魔になる。

時々、人にぶつかり地味に痛い。



「そうですね。では、参りましょうか」



「うん。…あ、そうだ。あのさ、あたしの本名なんだけど…」



フラウさんの話を聞いて試したい事が出来た。

痣が出来るのは遠慮したいけど。

あのロリコン将軍とかに見つかるのは、それ以上に遠慮したい。



「本名…ですか?」



「うん。あたしの名前は有栖川 凛。こっち風に言うとリン・アリスガワかな?」



「リン・アリスガワ様…」



何故か目を潤ませ、ほう…とため息を吐くフラウさん。

それに軽くビビりながらも。



「うん。改めてよろしく。それでね、向こうでは友達にアリスって呼ばれる事もあったんだけど…それも偽名って事になっちゃうかな?」



「それは愛称という事でしょうか?…申し訳ございません。私にも、それはわかりかねます」


そう言って睫毛を伏せるフラウさん。



「そっかー…。うん、わかった。まずはギルドに行ってみよう」



フラウさんにもわかんないんなら…やってみるしかないかなぁー…。







人波に揉まれながら。

漸く目的地だったギルドに着いたのは宿屋から出て20分程してからだった。



フラウさんが居てくれて良かったかも…。



煉瓦造りの二階建ての建物。

看板は出ているけれど思ったよりも小ぢんまりとしていて。

あたし1人では見付けるだけで倍以上の時間がかかりそうだ。



「意外とかかりましたね…」


そう言ってフラウさんが時間を確かめる為に取り出していた懐中時計をポケットにしまう。



「あ、うん。人が多かったしねー…」



あたしの言葉に頷いたフラウさんは「では、参りましょう」と一言言い添えると目の前の木製の扉をゆっくりと開いた。

その仕種には一般人にはないような気品がにじみ出ていて。

やっぱりお嬢様なんだなー…なんて、今更な事を考えてしまう。






本当に今更だけど…大公爵家のお嬢様にメイドやらせたり連れ回したりしていいんでしょうか…?

………本当、今更なんですけど。

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