第14話 郷愁
自分の詰めの甘さに項垂れてはいたものの…。
…フラウさんに変な心配をかけたくはないし気持ち切り替えなきゃ。
そうやって、無理矢理、気持ちを切り替えたあたしは、フラウさんが戻ってくるまでヒマをもて余す事になった。
姿見の前で自分の可愛らしい姿に見惚れながらくるりくるりと回りつつ今後の生活に思いを馳せる。
…リアルメイドさんと旅に出るなんて生前じゃ考えられなかったよねー…。
しかもキレーなお姉さんやし。
淕人とか戒理とかが聞いたら羨ましがるだろなぁ〜。うふふ…。
「リク…、カイ…、みんな元気かな…」
あたしより数段しっかりしていて常にあたしの"兄"だと勘違いされていた(甚だ不本意ではあるが)弟2人を思い浮かべ、一瞬、郷愁の念に駆られてしまう。
まだ、2日目。
戻れないと頭では理解していても。
まぁいいや〜とか口に出してはいても。
まだ、あたしの内面が幼いからか…。
やっぱり完璧に割り切る事は難しい…。
………って、いかんいかん!!
色々と不安はあるけど…今後の食生活の為にも頑張らなくちゃねっ!!
うん!!
姿見の前で立ち止まり、サムズアップをしながら鼻息荒く、そう決意を新たにしていたあたし。
そんな痛々しいあたしを見ていたかのように扉がノックされる。
「…っ!?は、はいっ!?」
…恥ずかしい事をしていた自覚はあった。
なので、つい、動揺してしまったあたしの声は間抜けにも裏返ってしまう。
な、情けない…。
「リン様、フラウです。入ってもよろしいですか?」
そんな恥ずかしいあたしをフラウさんはスルーしてくれたらしい。
「う、うん。いいよー」
「失礼します」
あたしと同じように焦げ茶色の外套を身に纏い部屋へと入ってきたフラウさん。
その手には大きめのボストンバックみたいな旅行鞄が握られていた。
「お待たせいたしました。さぁ、参りましょう」
…いよいよ。
いよいよ、ここを出るんだ…。
たいして滞在していたワケではないが。
少しだけ、寂しいような…そんな気分になり目を伏せてしまう。
変なの…。
さっさと出ていきたかったクセに。
この世界に来て"初めての場所"だからかねー…。
目を伏せたまま自分の世界に入っていたあたし。
そんな様子のおかしいあたしにニコリと微笑みを浮かべながら、フラウさんは右手をそっと差し出してくる。
「…うん」
差し出された手を見て漸く我に返ったあたしは、フラウさんの言葉に素直に頷くと差し出された右手に自分の左手をそっと乗せた。
その手をフラウさんにキュッと軽く握りしめられて、あたしは1日と少し過ごしたこの部屋を後にしたのだ―…。