第9話 腹黒と野心家と○○
朝食は少し固めのパンと塩で味付けされたスープ、シャキシャキとした歯ごたえのサラダとリンゴみたいな味のフルーツだった。
勿論、今のあたしはお腹いっぱいです。
……うん。
一刻も早く塩以外の調味料に巡り会いたいですなー。
…んっ?
……もしかしたら調味料も想像具現で作れたり…する…?
朝食を終えてかれこれ10分近く、うんうん唸りながらずーっと悩み続けていたあたしにフラウさんが来客を知らせてくれた。
「リン様、フォルディモア様、アルベイン様、ジュドー様がいらっしゃいました。こちらにお通ししてもよろしいですか?」
おー…、やっとお出ましですかー?
…残念だけど調味料の事は後回しだーねー。
「うん。いいよー」
あたしがそう了承するとフラウさんは「畏まりました。では、お通しいたしますね」と告げて部屋の出入口にあたる扉へと向かう。
…さてさて、どーなるかねぇー?
あたしはテディベアを抱き締めると小さく溜め息を吐いた。
「…っ!?おぉっ!!…これはこれは…噂以上に愛らしいお嬢さんですなっ!!」
筆頭魔術師のオジサンと一緒に来たのは…。
……いたいけな幼女の涙にも眉ひとつ動かさなかった腹黒宰相と、なぜか鼻息の荒い変た…じゃなかった、…全体的に厳つい雰囲気の将軍(いつもは仏頂面なんだって。フラウさんがこっそり教えてくれた)。
……いやいや、めっちゃくちゃムダにいい笑顔なんですけどっ!?
フラウさんに勧められ、あたしの向かい側のソファーに3人は腰かけた。
3人が腰かけたのを確認したフラウさんはというと、あたし達に出すお茶を準備中だったりする。
「…えっと…おはようございます」
若干、顔が引き攣ってしまっていないか心配になりながらも。
…ひとまず無難に朝の挨拶。
名前は聞かれたら答えりゃいいやー…。
なんか士気(?)というかなんというか…ヤル気(?)が萎えた。…うん。
……挨拶しただけでもえらいでしょー?頑張ったでしょー?
あたしの挨拶に筆頭魔術師のオジサンと宰相は軽く頷き、変た…じゃなかった、将軍は過剰な反応を示す。
「いやー…本当に愛らしいっ!!うんうん!!」
「ゴホンッ…。ジュドー殿、話を進めてもよろしいですか?」
ロリコン疑惑が色濃い将軍に筆頭魔術師のオジサンがそう告げながら宰相と一緒に白い目を向ける。
「んっ?う…うむ、これは失礼した」
将軍が気まずそうに、そう返すと宰相が仕切り直した。
「それでは本題にはいりましょうか。まずは自己紹介をしましょう。私はキース・フォルディモア。ここ、トゥーリアで宰相をやらせていただいております。それとこちらは既にご存知かもしれませんが筆頭魔術師のロバート・アルベイン殿。そしてこちらが将軍のウィリアム・ジュドー殿です」
「えっと…凛です。よろしくお願いします」
それだけを告げるとあたしはペコリと頭を下げた。
ん?笑顔ー?
……ロリコン疑惑の人間の前ではスマイルは有料になりまーす。
勿論、高額ですよー?うふふ…。
「リン殿ですか!!美しい響きのお名前ですなー!!しかも珍しい!!愛らしいお嬢さんにはピッタリですなっ!!」
ガハガハと豪快に笑いながらそう告げる将軍に宰相は隣で軽く額に手を当てて頭を抱えている。
……うん。分かる。凄く分かるよー?
でもさ、頭を抱えたいのはあたしの方ですから!!
な ん な ん だ !?この変態は!!
………まぁ百歩譲って子供好きなオジサンだとしよう。
でもさ百歩譲っても、その鼻息の荒らさとか、だらしなくニヤけた顔とかソワソワと落ち着かない態度とか変質し…じゃなかった怪しい人です。
えぇえぇ。間違いありません。
日本なら間違いなく通報へゴーサインです。
「……ジュドー殿、貴殿のせ…ゴホンッ…嗜好をとやかく言うつもりはございませんが、このままでは話が進みませんぞ」
「…アルベイン殿の仰る通りです。時間もあまり無いことですし話を進めるのが先決でしょう」
「も、申し訳ない。あまりにもリン殿が愛らしくてな…。続けてくれ」
……………若干、筆頭魔術師のオジサンが聞き捨てならない単語を言いかけてたみたいけど。
みんながスルーしているのであたしも敢えて聞かなかったことにした。
……それより、やっとまともに話が進みそうかい?
あたし達、いったいどんだけムダに過ごしたんだろーねー?
フラウさんが淹れてくれたミルクティーが冷めちゃったじゃーん…。