第19話 継続中
森を抜けて街へ戻る頃には、日はすでに傾き始めていた。門をくぐった瞬間、張りつめていた空気がほどけ、人の声や屋台の匂いが一気に押し寄せる。その変化に、ようやく戦闘が終わったのだと実感する。
「……今回は、かなり疲れたかもな」
ぽつりと漏らす。
レナがわずかに視線を向ける。
「……それなりにね」
短い返答。それ以上は続かない。
グレートファングウルフとの戦闘は、この辺りの基準を明らかに超えていた。体に残る重さが、それをはっきりと示している。
「とりあえずギルド行くか……報酬も気になるし」
「ええ」
並んで歩く。会話は途切れるが、不自然でもない。それぞれが頭の中を整理しているだけだった。
ギルドに入ると、いつものざわめきが耳に戻る。素材をカウンターに置いた瞬間、受付の手が止まった。
「……これ、グレートファングウルフですか?」
「ああ、多分それで間違いないと思う」
周囲がざわつく。職員は素材を抱えて奥へ消えた。
「時間かかりそうだな」
「上位種だからね。雑には扱えない」
レナが淡々と答える。
待つことになった。
最初は立ったままだったが、途中で空いた席に腰を下ろす。視線を向けられているのは分かるが、気にするほどでもない。
やがて名前を呼ばれる頃には、窓の外はすでに赤く染まっていた。
「確認が取れました。こちらが報酬になります」
提示された金額に、思わず視線が止まる。
(……でかいな)
『報酬:18,000Gを獲得しました』
(所持金:32,450G)
レナも同じ表示を見ている。
「かなりいいわね」
「だな……これは想像以上だ」
それ以上の言葉はいらない。それで十分だった。
ギルドを出ると、空気は少し冷えていた。昼の熱が引き、街は夕方から夜へ移り始めている。
「どうする」
「装備、見直した方がいいな。さすがに今のままだとちょっと怖い」
レナが一瞬こちらを見る。
「……そうね」
それだけ言って歩き出す。
装備屋に入ると、鉄と油の匂いが鼻をつく。店主が無愛想にこちらを見上げた。
「何を探してる」
「剣と防具。できれば動きやすいのがいい」
「予算は?」
一瞬だけ考える。
(所持金:32,450G)
「……30,000Gくらいまでなら出せる」
店主の目つきがわずかに変わる。
「……ほう」
数本の剣が並べられる。一本ずつ手に取り、振り心地を確かめる。
重さ、重心、扱いやすさ。触れた瞬間に、それぞれの違いがはっきり分かる。
(……見えるな)
どれが合うか、自然と答えが浮かぶ。
『推奨:二本目』
(これか)
他も一応確認するが、結局戻る。
「……これでいいか。いや、これが一番しっくりくるな」
「……早いな」
「まあ、なんとなく分かるっていうか」
レナが一瞬こちらを見る。
何か言いかけて、やめる。
(……なんだ)
聞かない。
防具も同じだった。いくつか試着し、動きを確かめ、必要な調整を入れる。その分、時間はしっかりかかった。
気づけば外の光はほとんど落ちている。
「悪くないわね」
「そうだな……思ったより動きやすい」
短く確認して終わる。
会計を済ませる。
(所持金:7,820G)
(……だいぶ減ったな)
店を出ると、街にはすでに灯りがともっていた。昼の喧騒は消え、夜の静けさが広がり始めている。
「今日はもう休む?」
「……そうだな。さすがに一回落ち着きたい」
体はまだ動く。だが、頭の奥に残る感覚が気になっていた。
(……考えたいな)
あの“最適”に任せる状態。
ふと、視界の端に意識を向ける。
『サブスク効果:残り18時間03分』
(……結構減ってるな)
半日近く動いていたらしい。
(あと、まだこれだけ使えるのか)
その表示を見た瞬間、妙な感覚が広がる。
迷いが消える。
判断がいらない。
ただ従えばいい。
(……楽だな)
――でも。
(……いいのか、それ)
ほんのわずかに引っかかる。
うまくいきすぎている。出来すぎている。
「シン」
レナの声で意識が戻る。
「なに考えてるの」
「いや、ちょっと考えてただけだ」
レナはそれ以上踏み込まない。
ただ、わずかに視線が残る。
(……気づいてるな)
『最適化、継続中』
その表示が、妙に目につく。
(これ、切れたらどうなる)
答えは出ない。
街の灯りが揺れる中、その違和感だけが静かに残り続けていた。
新装備のイメージ画像を生成しました。




