魔獣の咆哮
そして、いつもの様にマナクリスタルを採掘しに採掘ポイントへ向かったあの日、異変は起きた。
「お、今日も来てくれたのか。ちょっとまってな。今日は食堂のおばちゃんが肉まんくれたからお前にあげようと思って持ってきたんだ。」
肉まんと美味しそうに食べる彼は、日に日に成長してもう立派なフォレストジャガーになっていた。
体はしっかりしたものの、まだまだ体のバネを使い切れてなかったがおそらく大きくなった体に感覚が追い付いていなかったんだろう。
「魔物ってこんなに早く成長するもんなんだな。」
成長するにしたがって、魔物としての本能からこちらに対して攻撃性を見せるかと思いきや、そんなこともなく魔物と人間だってわかり合えるんじゃないかとそう思い始めてもいた。
しかし、そんな都合のいい話があるわけもなく、それは突然やって来る。
悪魔のような咆哮と共に。
それは、怒りと憎しみと悲しみと絶望。
この世のあらゆる負の感情から生まれた者の産声のようだった。
全身を駆け巡る悪寒、こんな吐き気を催す様な魔力を感じたのは生まれて初めてだ。
そして、それは魔物であるあの子の方が強く影響を受ける。
美味しそうに肉まんを食べていたのがウソのような表情で彼は苦しんでいた。
今ならそうわかる。
だが、その時の私には、魔物がその本性を剝き出しにして暴れようとしているとしか思えなかった。
結局この頃の私は、誰かから教えられたことや誰かかが言っていることに頼って物事を見ているだけだったんだ。
だから目の前で苦しんでいる彼をヴェルナを救うことができなかった。
目の前に居るのが、人の敵である魔物とはっきりと分かった。
荒ぶる魔力をもってこちらに敵意を示してくる。
だが、あの子は苦しんだままどこかへ行ってしまった。
それは、彼に残された最後の自我が、私を傷つけまいとしての行動だったのかもしれない。
ただ、あの頃の私にそれを考える余裕はなかった。
それが、悔しくて仕方がないよ。
「た、助かったのか・・・」
それが正直な心情だった。
忘れていた恐怖が突然全身を駆け巡りだし、私は一目散にその場から逃げ出した。
デミーに戻ると、ギルとティアを探す。
「カイ! 無事だったのか。」
「ギル。」
「ティアは怪我した人の手当てに参加してる。」
「そんなにケガ人が出たのか!?」
「ああ、お前も聞いたと思うが、あの咆哮を聞いてから魔物がそこらじゅうで暴れ出したんだ。安全性が高い場所でもお構いなしって話だぞ。」
「嘘だろ、何でそんなことに・・・」
「わかんねぇよ・・・。そういうのは先生たちに任せようぜ。とにかく何が起きてるのかはっきりするまでは、うかつに行動するのはマズい。どうせそうなるだろうけど、しばらくダンジョンに近づくのはやめとこう。」
それは後に、魔獣と呼ばれる4頭の魔物が現れたことによる影響で世界中で魔物の凶暴性が活性化してしまう事件。
多くの冒険者がその対応に追われ、基本的にダンジョンには選ばれた冒険者のみが入ることが許されることになる。
デミーに関しては、先生方や課外授業を担当してくれた冒険者の人たちがマナクリスタルの採掘に向かってくれていた。
しかし、デミーで利用しているダンジョンは比較的安全であったため、先生たちは全体的なマナクリスタル不足のため他の都市や市街地の応援に行くことが決まって、最上位学級の生徒である私たちも採掘への参加が決まった。
戦闘方面はからっきしのシルシア先生ですら、あっちっこっちに出ずっぱりだ。
私たちは最初、久々にダンジョンに行けると内心喜んでいる部分がったがそれはすぐに愚かな考えだったと知る。
採掘に向かった仲間たちが次々と重傷を負ってしまい、マナクリスタルは思うように手に入らなかった。
そして、ある噂も耳にするようになる。
おそらくダンジョンボスとなったフォレストジャガーが採掘ポイント近辺を住みかとして、マナクリスタルを採掘にくる冒険者を狙っている・・・という話だ。




