油断と焦りとトラウマと
それからしばらく、マナクリスタルを集めに採掘ポイントへ通ったが、そのたびにあの子は姿を見せマナクリスタルを拾ってきてくれた。
私はただ貰うのも気が引けたので、何か食べ物を代わりに与えていた。
たまにマナクリスタルの採掘に飽きた時などは、採掘ポイントの周囲を一緒に探索して魔物を倒しドロップ品と経験値を稼いだりもしたことがある。
「おまえ、フォレストジャガーなんだからもっと体のバネを使って反動を活かして加速しなよ。」
ある時、私は彼の動きが種族としての特性である体のバネを使っていない事に気が付いた。
フォレストジャガーは勢いよく木や岩などに向かって突進し、衝突直前に身を翻して四肢に反動を蓄えそれを使って跳ね返れば跳ね返るほど加速して相手を追い詰めるという戦法を得意としている。
ところが彼は、足を怪我したせいか反動を利用しようとしていなかった。
「大丈夫だって、足はちゃんと治ってるよ。」
また少し大きくなった彼の背中を撫でながら反動を使う様に言ってみた。
彼の反応は気が向かない様子だったが、私は木や岩を蹴って三角飛びして見せる。
「こうやって反動を使って縦横無尽に森を駆け抜けるのがフォレストジャガーの本来の姿だ。お前は凄いんだぞ。」
しぶしぶながら、彼は近くの木に向かって走り反動を活かしてピョンピョンと木から木に移って見せた。
少しずつ加速していたが、何度目かの跳躍でピタッと動きを止めてしまう。
そして、やはり右足を気にし出した。
どうやら、ある速度以上になると途端に怖くなってしまうようだ。
もしかしたら、あの怪我の原因はあの速度以上の速さを出した際に発生したのかもしれない。
体が小さい時に無理に速度を出そうとして肉体が限界を超えてしまったのか?
そういえば、浮魔も自身の速さが原因で事故に遭ったりすると、トラウマになってその速度以上を出せなくなる場合があると聞いた事がある。
それに近い何かかもしれない。
「ほら、足見せて見ろ。」
少し不満そうな感じが彼からしたが、構わず右足を見てみる。
怪我はしっかりと治っていた。
もし、気持ちの問題なら気休め程度にはなるかと、私は彼がけがをした際に巻いていたスカーフを巻く。
「どうだ? これで少しは安心できるか? 怖がらずにやって見ろよ。」
彼は、最初それが何かわからなかったようだが、まだほのかに香るミオティ草の匂いを嗅ぎ取ったのか嬉しそうに右足のスカーフに顔をスリスリとする。
その姿は何とも愛らしくほほえましかった。
しかし、その隙をついて彼の背後から魔物が襲い掛かって来る。
「危ない!!」
ここは比較的安全が確保されているとはいえダンジョンの中、警戒を怠ってしまっていた。
私は、彼を左手で押しやる。
「ぐっ!!」
その突き出した左腕に鋭い痛みが走る。
同時に、焼けつくような激しい熱が左腕に起きた。
「これは…毒か!?」
私は反転し背後に回った魔物へ槍を構え戦闘態勢に入る。
そこには、森に生息する毒蛇の魔物『アカダイショウ』がこちらに向けて牙を光らせていた。
アカダイショウは、木に登って身を潜め獲物が油断している時を狙って襲い掛かり、牙から毒を流し込んで敵を行動不能にする厄介な魔物だ。
「そう簡単にやれると思うなよ。」
時間が経てば毒が回る。
それにまた木の上に行かれたら厄介だ。
私は右手に持った槍を構え、アカダイショウに向かって行った。
「ストラッシュ!!」
槍の基本攻撃スキルであるストラッシュを繰り出し、アカダイショウを捉えたはずだったが左腕が動かせなかった分バランスが崩れ威力と命中精度ともに下がってしまい、アカダイショウを仕留めるには至らなかった。
「シャァァァァァ!!!!」
アカダイショウの反撃をギリギリで交わしたが、そのまま近くの木に登っていき生い茂った葉っぱで姿が見えなくなってしまった。
そして、アカダイショウはこちらが正確な位置を掴めていない状態で攻撃を繰り出してくる。
木の上からの攻撃なので多少は距離があり、何とか回避はできたが体力はじわじわと削られてしまう。
「くそっ!! このままじゃじり貧じゃないか。」
イチかバチか、アカダイショウの攻撃に合わせてカウンターでストラッシュを当てるしかないとその時の私は考えた。
今思えば、アカダイショウの魔力を探って位置を特定し、毒が回って動けなくなった振りでもして攻撃を誘えばよかったと思う。
しかし、その時の私はそこまでの余裕がなく、アカダイショウのフェイントにまんまと引っかかってしまい恥ずかしい限りだ。
アカダイショウは、大きく木の枝を揺らして飛び掛かるような気配を出す。
私はその飛び出しの気配に合わせてストラッシュを繰り出したが、そこには何もなくアカダイショウは右に回り込んでいて無防備となった私の右の脇腹めがけて噛みつこうとしてきた。
「しまっ…ッ!!」
防御系のスキルがあれば、噛みつかれる一点に集中して魔力を集中し装甲とすることもできたかもしれないが、生憎のところそういうスキルは持ち合わせておらず私個人では成す術がなかった。




