別れのスカーフ
『フォレストジャガー』の『彼』の『ヴェルナ』の体を私は貫いた。
いつも発動時に不安定になってしまって、属性魔力のプラーナと体術魔力のエーテルが交じり合わず霧散してしまうブリッツストラッシュがその時初めて成功した。
通常のストラッシュでは速度も威力も足りなず、それしかヴェルナの速さと強靭さに対抗するすべはなく失敗していれば私はヴェルナだけでなくティアも失っていただろう。
(やればできるじゃん。僕を止めてくれてありがとう。)
消えていくヴェルナは私を見つめ、その目はとても穏やかで、まるで何かを伝えようとしているように思えた。
消えていくその刹那、右の前足に巻いていたあのスカーフが私の頬に振れ何かを聞いたような…気のせいだったかもしれない。
ひらひらと舞う残されたスカーフを掴み握りしめた途端、私は気を失った。
遠目に一部始終を見ていたモスボーから後で聞いたが、本当に雷の様な速さでブリッツストラッシュを放っていたらしい。
そこまでのブリッツストラッシュはとてつもない魔力を消費するため、一度に魔力を使いすぎて魔力欠乏症が起きたようだ。
私は丸一日ほど気を失っていたそうだが、その間ずっとあのスカーフだけは離さなかったそうだ。
目覚めてからも魔力が元の状態に戻るまでは安静が必要で、私が普段の状態に戻るには1週間ほどかかったと思う。
その間にフォレストジャガーのレアドロップ『森の息吹を』使用してレリックの呪いが解除されていたり、魔獣の影響はなくなったと冒険者協会から発表があり世界は驚くほど穏やかになっていた。
中でも、私たちの活動が認められ冒険者としての資格を認められたことには驚いた。
だが、良い知らせばかりでもない。
私に関する良くない噂が広まっていた。
『カイは、よく一人でダンジョンに入りマナクリスタルの採掘を行っていたが、その際に魔物と一緒にいることが多くその魔物が何と例のフォレストジャガーだった。』というものだ。
実際その通りなので、言い訳のしようがない。
デミーの診療所から退院して、久々にデミーに顔を出した時はなかなかにみんな複雑そうな顔をしていた。
ティアやギルから事情を聴き、事態を把握した私は正直どうでもいいという感想しかなかった。
聞かれれば、その通りだと言うつもりでもいた。
しかし、戻ってきたシルシア先生が「ああ、その件ですか。私がそうなるように仕向けたんですよ。それが一番被害が少ないと『見えて』いたので。」と話してくれたおかげで、その瞬間ではギャーギャー騒がしくなったが『それならもう仕方がない』とそれでその件は決着した。
ただ、だからと言って人の感情がそれで納得するかと言うとそうではないので、一部の知人との関係は悪くなり卒業までの間デミーは居心地のいいところではなかったね。
私が冒険者ではなく治安維持ギルドに就職してどこかの警備隊に入ることを決めると、ギルやティアとも少しずつ疎遠となりデミー内で話す相手は居なくなった。
卒業間際、最後にシルシア先生の部屋を掃除でもしようかと立ち寄った時。
「すまなかったね。」
シルシア先生が珍しく真面目に謝罪を口にした。
「いえ、僕たちが生きているのはたぶん先生のおかげでしょうから、恨んではいません。」
「恨んでくれて構わないよ、僕は知っててそうしたんだ。もっといい結末が見えていたら…」
その先を聞きたくなかった。
「きっと、これが最善だったんですよ。そういう事にしておきましょうよ先生。」
そういう事にしておいてほしかった、考えたくなかった。
「カイ君。」
「シルシア先生、お借りしたこのスカーフお返ししますよ。」
返そうとしたスカーフを先生は受け取ってくれなかった。
「いや、それはもう君の物だ。どうか、なくさずに持っていておくれ。」
「そうですか、先生がそうおっしゃるならそうします。」
「そこに残されたものを、いつか君が君自身で感じ見つけられることを祈っているよ。」
「何を言ってるんですか、こんなのどこにでもあるただの布ですよ。」
そんな会話をした。
相変わらず先生の話は何なのかよくわからなかった事だけは覚えている。
この時の先生にはもうそこに在るものが『見えて』いたのかもしれない。




