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よろしくお願いします。
「殿下、私が調べた調査報告書の内容もこの場で仰った方が良いのでは?」
賢そうに見える眼鏡をクイクイさせながら、やや色褪せた金髪のサラサラ髪男が得意げに言った。
ナルシストっぽいな、この男。
確かどこかの伯爵家の昔、神童と呼ばれた次男坊でしたっけ?
有りもしない私からの嫌がらせをどう調査したんだか。実は頭悪いんじゃない?
ああ、" 昔神童、今凡人 "ってやつかしら。
「おぉ、そうだ!
お前は取り巻きを使って、ソフィアの教科書やノートを破ったり制服のスカートにインクをぶちまけたそうだな。
それ以外にも昼に校舎裏にソフィアを呼び出し、暴言の数々を浴びせ、バケツの水をソフィアにかけた後、午後の授業をずぶ濡れのまま受けるよう命令したそうじゃないか」
何かツッコミどころ満載っぽいな、それ。
「挙句の果てにはソフィアを階段から突き落としたと聞いたぞ。ソフィアが咄嗟に階段の手摺りにつかまらなければ、死んでいたかもしれなかったのだ。この犯罪者め!」
ヴィンセント殿下が顔を真っ赤にして私を指差して言った。
テーブルを挟んでの指差しは、近すぎて結構、威圧感があるなぁ。
もう呆れすぎて心がやさぐれてきたわ。
「で?」
「は?」
私の一言返しにヴィンセント殿下も一言で返してくる。
あ、違うか。
予想外の返しに驚いているだけね。
私は思わず失笑しそうになるのを堪えて言葉を続ける事にした。
「それで調査の報告は終わりですか?」
「何を言っている!今、調査で分かったお前の悪行を言ったではないか!」
「いえ、それは嫌がらせにあった、と言われる内容の報告でしょう?
わたくしが彼女に嫌がらせをした、という証拠にはなっていませんもの」
私の言葉に顔を真っ赤にして私を睨みつけてくるヴィンセント殿下に、鬱陶しさが増してこちらもイラっとする。
「言い逃れをする気か、マリア。お前やお前の取り巻きがやったと言っただろう!」
え、調査報告書って、本当にそれで終わり?
ドヤ顔して眼鏡クイクイしてたのに本当に、昔神童、今凡人、ってやつか次男坊め!
「ですからそれらの事象についての日時や証言者、証拠はどうなっているのですか?と聞いているのです。もちろん、調査されているのでしょう?」
呆れながら次男坊に視線を向けると、何やら焦ったように目が泳ぎ出した。
マジか。そんなの聞かれるに決まっているじゃない。
「ソ、ソフィア嬢がそう言っていましたし、破れた教科書やノートも保管してあります。
それに取り巻きを侍らせたべルージュ公爵令嬢が、廊下でソフィア嬢に何か言っているのを見た生徒は沢山います。
更には、ずぶ濡れで授業を受けようとしたソフィア嬢をクラス全員が目撃しているのですよ」
・・・・・マジで使えないな、次男坊。
これでヴィンセント殿下たちも納得したの?脳内お花畑過ぎない?
「わ、私、本当に辛かったんです!」
突然、ユルグ男爵令嬢が肩をブルブルさせて涙目で会話に乱入してきた。
もしかして、今のままでは断罪の決定打に欠けると思って傍観者たちから同情心を煽っているのかしら?
周囲から私たちの様子を窺っている彼女のファンらしき男子学生たちの、私への視線がちょっとキツくなったかも?
でも、それ以上に女生徒の視線が冷たくなっている事に気づいた方がいいと思うわ。ヴィンセント殿下たちは。
「まず、破れた教科書の目撃者は?
わたくしが廊下でユルグ男爵令嬢に何と言っていたのか、聞いていた生徒の証言は?
そして何故、貴女はずぶ濡れのまま教室に入っていったのです?」
最後については斜め前に座っている男爵令嬢本人に尋ねる。
「そ、それはマリアさんが濡れたままで授業を受けろ、と言ったんじゃないですか!」
「お前とお前の取り巻きたちが教科書を破いたり嫌がらせをしているのを見た、と言っている者は何人も居ると聞いているぞ!」
「だから具体的に、と聞いているのです。勿論、誰か証言する人を連れてきているのでしょう?殿下はその者たちの名前を把握しているのですよね」
不毛だ。本当に不毛なやり取りだわ。ちっとも話が先に進まないじゃない。
「勿論居るさ!ダニエル、証言していた者をここへ呼べ!」
次男坊はダニエルって仰るのね。初めて知ったわ。
「あ、いえ、『べルージュ公爵令嬢たちが教科書を破いていた、という話を聞いた』と学年で噂になっていて知らぬ者はいないと・・・」
え~!それ、ただの噂話を聞いただけで、調査になってないじゃない。ほら!周りの女生徒たちの視線が更に冷たくなっていますわよ。
ユルグ男爵令嬢はヴィンセントたちだけじゃなくて、伯爵家以上の男子生徒なら誰にでもスキンシップ過多だ、という話は、それこそ女生徒の間では有名で敬遠されてると聞いていますもの。女生徒たちからの心象はすこぶる悪いのを殿下たちはご存知ないのね。
「で、でもずぶ濡れにされて私、本当に冷たくて寒くて辛かったんですぅっ」
うん、ずぶ濡れ姿は目撃者が多いからねぇ。でもずぶ濡れ姿を目撃していても、どうして濡れていたのか?を知る目撃者っているのかしら?
「わたくし、分からないのだけれど、どうしてずぶ濡れなのに教室にそのまま戻ったのかしら?」
「それはお前が命令したからだろっ!」
ここでまたヴィンセントが怒声を上げる。
「でも校舎裏に呼び出されて水をかけられたのでしょう?ユルグ男爵令嬢はFクラスだから、わたくしが在籍しているAクラスとは校舎が違います。
校舎裏で別れてしまえば、貴女がずぶ濡れだろうが、着替えて戻ろうが分からないと思うの。
だってFクラスの教室に行く途中には保健室もあるでしょう?」
「そっそれは……マリアさんに言われたから仕方なく教室まで行って」
「あら、脅されてずぶ濡れのまま教室に行ったのに結局、そのまま授業は受けなかったのでしょう?
ならば最初から着替えてしまっても良かったのでは?
それにFクラスの皆さんは貴女の味方なのですから、着替えて戻っても口裏を合わせてもらえば問題なかったと思うわよ?
まぁどちらにしても、わたくしは貴女を校舎裏に呼び出してもいなければ、水をかけてもいないのですけれど」
だってわざわざ校舎裏に呼び出してまで、水をかける意味あります?
一体、どんな物好きが水の入ったバケツを用意しているのよ。校舎裏だけあって、あそこは何も無い所でしょうが。
公爵令嬢がバケツ持って歩くとかあり得ないし、私に取り巻きがいたとしても同じよ。
それこそ扇子より重い物を持った事が無いかもしれない貴族令嬢たちが、どうやって水の入った重いバケツを運ぶってのよ。
「えーい、うるさい!その高圧的な物言いを止めろ!そうやって私のソフィアに脅しをかけていたんだろっ!」
あ、また私のソフィアなんて言っているわ。少しばかり仲が良い友人には使わない言葉だと思うし、逆にそれ以上の関係って宣言しちゃってるのと同じじゃない?
「そ、そうです!いつもマリアさんには『平民上がりの庶子』って、嫌味を言われ続けて本当に辛かったんです!」
あら、あら、あら。ユルグ男爵令嬢、ヴィンセントの援護射撃に乗ってきましたわねぇ。
「貴女とは婚約者の居る男子生徒にはあまり近づきすぎないように、と一般常識をお伝えしたこと以外は会話した覚えはありませんわ。
ですが、平民上がりの庶子などと、このわたくしが貴女に言っただなんて、絶対にあり得ませんわ」
私もいい加減面倒になって、口元を隠していた扇子をパタンと閉じ、彼女に視線を合わせてハッキリと言った。
「貴様、まだそんな言い逃れをするのかっ!ソフィアが言われたとはっきりと言っているじゃないか」
「いいえ。わたくしはそのような言葉を絶対に言ってはおりませんわ。何故ならば・・・」
私の拙い作品にお付き合い下さりありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。




