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よろしくお願いします。
こちらの作品は他社投稿サイト(アルファポリス様)に投稿したものを、加筆修正したものになります。
ここはチェン王国の貴族子息息女が通う王立学園の食堂です。確かにこの時期は夜会や学園行事などもありません。
でもだからといって、この国の第二王子が男爵令嬢を右腕にぶら下げ、側近候補たちをお供に引き連れて、いきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。
ああそうですか。
お昼休憩って案外短いのですけれど、わたくし、まだお昼を食べていませんのよ?
いきなり婚約破棄を宣言したのは、チェン王国の第二王子であるヴィンセント殿下で、その婚約者のわたくし、マリア・べルージュ公爵令嬢に対してです。
私はいつものようにカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を摂る為に食堂の席に座ったところだった。
そこへ現れたヴィンセント殿下が、私を見つけるなり書類の束をテーブルに叩きつけ、いきなり婚約破棄を宣言してきたのだ。
せめて昼食を食べ終えてからにして欲しかったわ。公爵令嬢が公衆の面前で、お腹をぐうぐうと鳴らしていたなどと知られたら、王妃様に何と言われてしまうのか。考えただけでも恐ろしい。
「マリア・べルージュ!君は長年、私の婚約者として王宮に住み王子妃教育を受けてきた。それなのにいまだに王子妃教育が終了していない不出来な人間だ。
それだけでも私の伴侶として相応しくないのに、このソフィア・ユルグ男爵令嬢が私と少しばかり仲が良い事に嫉妬し、陰で行った嫌がらせの数々、とても許しがたい!そこで君との婚約を破棄する!」
少しばかり仲が良い?
思わず首を傾げ、私の目の前に立っているヴィンセント殿下を見上げた。一緒に椅子に座っていたと思っていた令嬢たちは、気付けば私の後ろに下がって立っている。
これ、私も立ち上がった方が良いのかしら?
でも、何やら書類を私の目の前に叩きつけてきたのだから、コレを読めって事よね?
じゃ、座ったままでいいわよね。わざわざ許可を取るつもりもないけれど。
「今更そんな縋るような目をしても無駄だ。お前がした嫌がらせの数々の証拠も全て揃っているんだぞ!」
なかなか言葉を発しない私に苛立ったのか?ヴィンセント殿下が不機嫌そうな声で言った。
いや、全っ然、縋ってないんだけどな~。
チラリと書類の束に目を向けると、どうやら一番上の紙は婚約解消同意書のようだ。既にヴィンセント殿下は署名済み。
婚約破棄なら書類がもう少しあるはずだけど・・・。でも、この方が私には都合が良いから黙っていた方が良いわね。
「ユルグ男爵令嬢への嫌がらせについては全く身に覚えがありません。
ですが、その件は後回しにしましょう。
とりあえず婚約破棄につきましては承りました。
今すぐに署名をしますのでひとまず、殿下とソフィア様は前の席にお座りくださいな」
私があっさりと婚約破棄に同意した事に拍子抜けしたのか、言われるがままに2人は私の目の前の席に腰を下ろした。その後ろには側近候補たち3人が立ち並んでいる。
婚約解消同意書を手に取って内容を確認する。これは婚約解消を双方が同意する確認の為の書類で、署名後に神殿に届け出て受理されれば婚約解消となる。
婚約解消の慰謝料云々や取り決め等は記載されていないから、署名しても問題はないかしら。
元々、この婚約は政略結婚でもなくべルージュ公爵家、王家の双方に、取り立ててメリットもなければ、デメリットもないような可もなく不可もなく、という微妙な婚約だったのです。
何だそれ、でしょ?
王子妃教育の関係で、王宮内に私専用の部屋が用意されていたので、公爵家側もずっと王宮住みの私とは殆ど接触はありませんでした。だから家族の一員として見られていないと思うの。
まぁそれは仕方のないこと、なのでしょう。
「署名は終わりましたわ。わたくしの気が変わらない内に、殿下の側近候補の方に、今すぐ神殿に提出しに行ってもらっては如何でしょうか?」
署名した同意書をヴィンセント殿下に渡しながら、後ろに控えている側近候補たちに目を向ける。
「うむ、確かにサインしてあるな。デイビッド、今すぐ神殿に提出してきてくれ。すぐ受理する様に、と私が言っていたと伝えるのを忘れるな」
満足そうな顔をして同意書を確認したヴィンセント殿下は後ろを振り向き、茶色の髪を後ろで一つに結んだ男子生徒に手渡した。デイビッドと呼ばれた生徒は、大事そうに受け取るとすぐに小走りでその場を離れていった。
「さて婚約解消については、これで問題無いですわね。
ですが、わたくしがユルグ男爵令嬢に嫌がらせをしていた、という件につきましては先程言ったように事実無根ですわ。
よって婚約破棄ではなく、婚約解消と言う事で宜しいですわね?」
『婚約破棄』と『婚約解消』では大きな違いがあるからね~。念押しは必要でしょ。
私としてはヴィンセント殿下との婚約が無しになるのは大歓迎!
だけど、私有責の婚約破棄で慰謝料とか請求されたら困るし、公爵家の方たちから責められても嫌だもの。
「なっ、大人しく同意書にサインしたと思ったら、自分の罪を無かった事にしよう、とそういう事かっ!」
ヴィンセント殿下が激昂して席から立ち上がった。
だからその罪自体が元々無いんだってば!と口元が歪みそうになるのを扇子で隠す。
他の生徒たちが興味津々でチラチラとこちらを見ているのよ。後から追及されそうな私側の失態は少ない方がいいに決まっているわ。
きっと些細な事でも私の過失として言ってくるでしょうし、この場にいる人たちもある事、ない事、噂を流すでしょうから。
「ですからその罪に心当たりがないと言っているのですわ。具体的にどの様な嫌がらせを受けたのでしょう?」
「白々しい!貴様は私のソフィアに対して、
『庶子で平民上がりのたかが男爵令嬢が、この学園に通うなど図々しいにも程がある』
『下位貴族が私のヴィンセント様に近づくとはなにごとか!』
『ヴィンセント様にまとわりつくこの女狐が!』
などと言って、ソフィアに責め立てたそうだな」
うっわぁ~、何それ!
私がそんな事を言うわけないじゃない!
女狐!?
えぇ~、そんな古臭い言葉を若い貴族令嬢が使います?
何か表現が年寄り臭くありません?
しかも、わたくしのヴィンセント様、なんて言うわけないじゃない!
眉間にぐっと皺が出来そうになるのと同時に呆れて眉が下りそうで、私の眉が表情を作るのに忙しそうだなぁ。
なんて、ちょっと現実逃避気味に考えていたら、ヴィンセント殿下の後方から声が聞こえてきた。
引き続きよろしくお願いします。




