PHASEー3
起きたのは夜明けではない。二度目の睡眠の後は、暗い夜。
ヴァクは起き上がると、先程とは違う。
今、この星で生きるためには一瞬の油断も命どりとなる。ヴァクがバーのメインエリアに行くと、そこにはもうすでに全員が揃っていた。
「工場から盗む、かぁ」
ヴァクはため息を吐きながら言った。
「最近監視が増えてるっぽいからね。こいつがあれば、バレずに探索できるってもんよ」
タナがロボをポンと手で叩きながら言った。
「最近、奴らも増えたからな。安全に奴らの数と動きを探ることができればありがたいな」
ナオシュもタナに続けて言った。
「でも行くのはルラなの〜?」
ルラが嫌そうに言った。
「だってお前がこいつのパワーユニット壊したから、新しいのがいるんだよ」
タナがルラに対して言った。
「俺も行くからさ」
ヴァクが言うとルラはそっぽを向いた。
「別にヴァクがついて来たところでルラ嬉しくないし〜」
「連れてってやれ。流石に一人じゃ難しいだろ」
とナオシュがルラに言い聞かせた。
ルラは少し考えた後ヴァクに体を向けた。
「足引っ張らないでよね!」
「はいはい」
とヴァクは返した。
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ルラとヴァクは外に出る準備をした。見えにくくするためにコートをはおり、肌をできるだけ隠す。
「もしできたら、新しく拠点にできるところも探しておいてくれ。特に急いではないが、ここがバレた時用だ」
ナオシュが準備をしている二人に言った。
「確かにな。ここの道は回ってこないけど、あいつらの数がグングンと増えている以上、いつここがバレるかわからない。逃げるところがなくなってこのきったないところで終わるなんてごめんだね」
とタナが付け加えた。
「できる限り探してみる。でも期待はしないでくれ」
と言いながらヴァクは黒い手袋をはめた。
「大丈夫そうだね~」
ルラが外の暗さと天気を確認しながらヴァクに呼び掛けた。
彼女がバーの入り口の扉を開けたとたんにザァーっと雨音が響いてくる。室内にいるとき、暗い夜の雨音はなんだか心地よい。しかしいつまでもいることはできない。雨は絶好のチャンス。このような大雨ならばなおさらだ。彼らはこの機会を逃すわけにはいかない。
「しっかり覚えとけよ」
ナオシュがヴァクに言う。
ヴァクはバーの壁に貼られた手描きの地図を眺めていた。あらゆる監視の位置、監視方向、そして人間を殺す準備満タンのロボットたちの行動路線が、赤いマーカーで丁寧に書き加えてあった。
「ばっちりさ。いつも見てたら自然に覚えるしな」
ヴァクは自慢げに言った。
「ルラ分かんな~い」
ルラが後ろから言い出すと、
「ほーらね、俺が着いていかなきゃダメなんだよ」
とまた自慢げに言ったヴァクだったが、
「ヴァクがなんでそんなことで自慢げなのかが~」
とルラがつなげて言った。
「そりゃないぜー、この地図がいつでも頭に思い浮かべられるようになったのによ」
とヴァクが慌てて言った。
「それができないと死んじゃうもんね~」
とルラが当たり前のことのように言った。
「とにかく行くぞっ!時間がもったいないからな。俺、あの工場行ったことあるし」
ヴァクは反撃をあきらめたのだった。
「じゃあ、ちょっこら行ってくる!」
中で待つ二人に対してヴァクが言った。
常に死と隣合わせの世界。突然帰らないかもしれない。突然、死ぬかもしれない。しかしヴァクというもの、お別れなんて言うものはしない。もし長期的に合わない、一生会えないかもしれない、という展開になっても、彼は軽くあいさつで済ませるだろう。仲間のことを大切に思っていないわけじゃない。むしろその逆、仲間が大切だからだ。
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ヴァクとルラはバーの外へ、銀色の建物のそびえたつ外へ出た。
口笛のようにビルの間を音を立てて風が吹く。
この星に月はない。ビルのネオン看板や街灯が辺りを照らしてくれる。しかしもう一つ、夜道を歩くルラとヴァクを照らすものがある。それは至る所に設置されている監視カメラ、そして街を徘徊する『ザクノール』と呼ばれる人型の機械の赤い光線。
一度みつかってしまえば振り切るのは困難。最悪の場合、自分の死だけでなく、バーで待つナオシュとタナにも危険が及ぶ。
彼らが外を出回り、食料や部品、情報を集めに行くたびに、全員の命を危険に晒す。一つ間違えれば、今まで生きて来た全てが一瞬にしてなくなってしまう。
今、ヴァクたちはタナの改造したザクノールの一体を操作して他のロボットになりすまし、内部から情報を集めると言うことだ。
この惑星は人類のコロニーの一つ。人口は人間が地球を去る前の六十倍以上だった。新しい地球と期待されていたこの星で人間は再び繁栄し、かつてあった海も、山も、全て開拓され、この惑星全体が大きな都市ひとつとなった。
テクノロジーの進化、この星ではいずれか大企業が主導権を握るようになっていた。その中で『ライズコーポレーション』と言う会社があった。
ライザーはアシスタントロボットという名前で最初のモデル、『ライザ-X1』を発売し、爆発的に売れた。たった四世代後の「ライザ-X5」のモデル発売から数ヶ月、ライズコーポレーションは他の会社の遠く及ばない巨大企業となり、アシスタントロボットを始め、セキュリティー、娯楽などのあらゆるもののマーケットを独占していた。
当然、一つの会社が全てを独占するにあたって問題はあった。他の企業はライズコーポレーションを敵視し、あらゆる手を使って彼らをトップから落とそうとしていた。そしてついにシステムに穴を見つけた。彼らの作戦はとてもシンプルだった。ライズコーポレーションに危険ではないが、しつこいコンピューターウイルスをばら撒く。そして人々がライズコーポレイションの信用をなくし、乗り換える。
しかし当然このような企みには裏がある。ウイルスは生半可なものではなかった。すぐにライズコーポレーションを中から支配していった。従業員がほぼいなく、生産や管理などを全て機械や人工知能に任せていた会社は突然の異常に対応できなかった。次々とシステムが落ちていき、人の手には負えなくなった。
人々の家庭の中にあったアシスタントロボットや、様々な公共施設にあったロボットなどが人間を攻撃し始めた。この時点では警察の大半もロボットが占めていたため、これらのロボットを対処することは不可能だった。
惑星中すぐに無法地帯となり、全人類が生きるのに必死になっていた。親も子もはぐれ、地位関係なく命を狙われる。食べ物、寝床を求めて友までもが敵にまわってしまった。誰も信用せず、密かに街を歩く鉄の怪物から隠れ、皆生きようとしていた。
事件から二ヶ月、この星に住んでいた人口の九十八パーセントがロボット、また人間同士の手によって亡くなった。
完全無法地帯となった星の人口はますます減っていた。生き残った者はヴァクたちのようにロボットたちから身を隠し、人類の反撃の時を待っていた。しかし次第に隠れていたところにもロボットは入ってくる。休まず歩き続け、見たものを排除する。奴らと遭遇して無傷で済んだものは少ない。
バーに集る四人にこの事件前の面識はない。生きるために隠れるところを探し、ともにこの世界で生きていくことを選んだ。四人全員が今となっては新しい家族のようにお互いを信頼して生きている。そのためにもヴァクは電池をもって変えなければならない。




