クサグサノモノノヒレ
石を空に投げる。
手でクサグサノモノノヒレを作る。
落下する石をクサグサノモノノヒレでキャッチする。
石はクサグサノモノノヒレの中で落下し続ける。
臨界に達したら、「リュウオウに放つ。」
ってキーリスは言ってたけど……
マオ「俺にそんな事できんのかな?」
マオはおさげにしてる髪の毛の先を指でくるくるした。
考え事をする時は口をとがらせて、自分のサラサラの黒い髪の毛をいじる。それがマオの癖だった。
俺は多分、他の兄弟よりバカだ。マフは魔法の研究をしてるし、アニキは村を半壊させたリュウオウの攻撃から人を全部守った。
ボブカットの魔女「アナタにならできます!お父様のコピーなんですから!」
村を見渡せる丘の上でマオは座って空を眺めていた。その横に座っている、魔女が励ましてくれる。
キーリスは十種の神宝とか言うものを使える。母星でもかなり階級が高い人物にしか与えられないものらしい。
術で体現する実体のない宝。
マオ「ま!考えてても始まらない!ネガティブになるだけさ!」
マオは立ち上がって石を空高く放り投げた。
両手で袋を作る、をイメージする。両手を合わせるように向かい合わせて、指を広げる。
マオは落下してくる石をそれでキャッチした。
マオ「お?」
石は手を素通りして落下すると思っていたが、手の中で反射を繰り返して反射の度にスピードが速くなっていった。
ボブカットの魔女「できましたぁ!後は光ってきたら放つです!」
マオ「つっても初めてだからなぁ。」
マオは苦笑いする。つべこべ言ってないでやるしか無いぞ、俺。
石はだんだん光を放つようになった。臨界。
マオはそれを空に放った。
ズドォォン!衝撃波で雲に穴が開く。石が宇宙で何かに当たったのかキラッと最後光る。
ボブカットの魔女「やりました!クサグサノモノノヒレ!成功です!後は的あてですね!」
やればできる子。褒めれば伸びる子、マオはそんなタイプのやつだった。
キーリスは緊急で議長室に呼び出された。
議長「キーリス君。クサグサノモノノヒレを使ったのは君か?」
キーリス「は?」
議長「星から放たれた石でイギギ共を乗せた船が一つ沈んだ。ま、全員即死だよ。貴重な頭脳職奴隷だったんだがな?」
アチャー。キーリスは左手で顔を覆った。
キーリス『あのバカは何やってんだよ!?バカやらないように魔女をつけてたのに!!』キーリスは心のなかで叫んだ。
キーリス「てっ敵対原生生物に使用しました。アハハハ……」キーリスは口をとがらせた。
議長「研究職の君がかね?」
キーリス「はい!久しぶりだったもので加減が分からず、この度はとても残念な結果になりまして、申し訳ない。」
ここでマオ達の存在を知られたら、危険すぎる、として没収されるかもしれない。そうなると、竜種に対抗できない。
テラフォーミングを終わらせて母船で好きな研究ライフに戻る、には、今は隠さないと。
議長「うーむ、まぁ、翌々はイギギ共の処分が決定していたとは言え、船も失うとは。」
今後は気をつけたまえ。口頭注意だけで済んでキーリスはホッとした。
マオ「そういえば、君の名前は?」
ボブカットの魔女「我々に固有名称はありません。群体としての魔女と言う名称だけです。」
え?そうなのか?よびにくくないのか?マオはそう思った。
マオ「なら君は今日からターマだ。」
マカル返しの玉でマオを生き返らせてくれたのだ。ターマは安直すぎたか?マオは思ったが、ターマと呼ばれた魔女の顔は華やかにほころんだ。
ターマ「嬉しい!私に名前ができるなんて!」
ターマはマオに抱きついた。マオは恥ずかしくなって固まった。
マオ『女の人って柔らかいんだな。』
ターマ「それでは練習の続きをやりましょう。今度は近くの木にめがけて放ってみましょう!」
マオ「よーし!」
二人の特訓は3日続いた。
ソレは雷の落ちる雨の日だった。
雲の中に見え隠れする巨大な身体を器用にくねらせ、空を泳いでくる。時折、興奮した飛竜の咆哮が遠くから聞こえる。
マオ「きなすった。」
マオは不可視マントを天空神殿でもらってきた。
マフ「手はず通り行きましょう。」
アニキ「ふんどし締めてこーぜ!」
なにそれ?
マフ達は屋敷から出る。それに不可視マントを起動させて透明になったマオが続く。
リュウオウ「根絶やしになりたいようだな!小さき者共!」
リュウオウの声が頭に響く。
マフ「私たちは諦めない!この星を明け渡せ!トカゲ野郎!」
リュウオウ「ワハハハ!相変わらず、威勢がいいな!よかろう、まず貴様から始末してやる!」
かかった。マフは空に上昇してリュウオウの目の前に対峙した。アニキは地上からリュウオウの左側面、マオはその反対側に位置についた。
始末されるのはお前の方だ。マフの顔は歪んで笑う。
リュウオウ「いい顔だ!」
マフ「上から目線は辞めてもらおうか?トカゲ野郎!」
カァ!
リュウオウの口から放たれた時空割断はマフの展開したインベントリに吸い込まれた。
リュウオウ「何ぃ!?」
マフ『さすがに無傷というわけでわないわね。』
マフの体は今の一撃でところどころ切れたようで頭から血が流れていていた。
アニキ「俺の番だ!五行魔法!虹の門!」
アニキが胸の筋肉を強調するようなポーズをとると
その胸の前に五芒星が浮かび上がりその角から色とりどりのビームがリュウオウめがけて放たれた。
リュウオウ「うお!?なんだそれは!?」
見慣れない技を喰らい。とっさにその光の束のようなビームを時空の壁で受け流すとリュウオウはアニキの方に向いた。
マオの方は完全に死角になった。
マオ「今だ!」
石を空に放り投げ、両手で作った袋で受け止める。
眩い光が手の隙間から漏れる。
その光に気がついてリュウオウは振り向く。
マオ「もう遅い!」
ドォォォン!
空を切り裂く音とともにリュウオウの体が大穴を開けて吹き飛ぶ。
リュウオウ「ッ!」
その巨体は空に浮かぶことをやめ、地面に墜落した。
下にあったゴブリンやオーク達の民家は潰れた。
大量の血を流し、のたうち回るリュウオウの巨体が大地を揺らす。
マフ「ちっ、仕留め損なったか?」
しばらくすると、その体は動かなくなった。マフ達はその顔の前に集まった。
リュウオウ「よもや、我を倒すとは、見事だ。」
口からは血がとめどなく出て大地を赤く染めていった。
マオ「まだ生きてる、トドメを刺してやる。」
マフ「やめなさい。コイツから情報が欲しい。」
アニキ「おい、トカゲ。お前が親玉なんだろ?この星の。」
リュウオウが初めて口から声を上げて笑った。
リュウオウ「愚かな。我、など、尖兵。世界樹、を守るリュウオウは他にもおら、れ……」
アニキ「おられ?コイツが一番上じゃねーぜ!」
マフ「コイツより上がいるの?」
驚愕する二人を尻目にマオはその言葉に興奮を覚えた。