第1話:始まりは唐突に
夢も目標も無い人間の伊倉優は、ある日突然死亡する。死亡後、神を名乗る者に出会い「異世界で過ごしてもらう」と告げられる……「まさかチートスキルで魔王を倒せってことですか!?」と問うも、答えはNO。どうやら甘えることは許されないらしい。困った伊倉、さてこれからどうしよう、1からレベル上げして魔王を討伐する為に頑張るか、それとも異世界でのんびりスローライフを過ごすか………
「じゃあ、今のところはここで良いんだな?」
「はい、まぁ、今のところは」
高校3年、自分の将来の為に必死になって進路探しや勉強をする生徒が多い時期。そして今、俺は先生と進路についての面談をしている。
「………それで、この学校にこんな企業の方がいらっしゃってな、輪ゴムとかを作る工場らしいんだが……」
「はぁ、そうなんですか、そうですか、ほぉ」
面談終了
「あーぁ、結局いい就職先見つかんなかったなぁ」
俺は「伊倉 優」別にやりたい仕事も、目標も特に無い。それに成績も下の上くらいの微妙としか言えない始末の高校生。小学生くらいの時は「けいさつかんになる!」なんて言ってたらしいが、あんなスパルタなのは俺には無理だ。なんかもう一生ゲームしてゆっくりと余生を過ごしたい
「輪ゴム作る会社ねぇ……うわ、転勤あるじゃん」
先生が自分の為に色々と進路について考えてくれていることにはとても感謝している、しかし転勤は嫌だ
「まぁ今日考えなくても良いか、早く帰ろ…」
俺は自転車に乗り、いつものように下校する
いつもの帰り道、いつもの景色、いつもの長い坂道
「この景色もいつまで見れるんだろうなぁ……」
いつもは少しづつブレーキをかけて減速しながら下る坂道を、ぼーっとしていたせいで「シャーッッ!!」という音を立てながら爆速で下って行く
「あっ、まず」
バゴンッッッ!!!
俺はバカだった、爆速で坂道を下っていた為ブレーキが効かず、思いっきり横から来た車に吹き飛ばされた
ごめんな両親、もう俺もそっちに行くことになっちゃった、あの世は楽な世界だと良いな
暗闇で目が覚める、目の前には光る球体がぽつんと浮いている
「……ここがあの世か、思ったよりも真っ暗だな」
「□□□□□□……ザザッ……◯◯◯◯◯◯……ザザッ……聞こえますか?」
近くから声が聞こえる、女性の声だ
「えっ……?はい、聞こえますけど……?」
「あぁ、この言語だったのか……突然の事でしょうが、あなたは死にました」
「そうみたいですね、一応まだやりたいこともあったんですけど……」
ソシャゲのデイリーとか、ゴミ出しとかだけど
「それで、あなたは一体?」
「神です」
「か、神様……ですか」
目の前の光は神だった、まじかよ本当にこんな事ってあるんだ。完全に信じてる訳じゃないけど、俺は死んだ訳だし、本当に神なんだろう
「それで、俺はこれからどうなるんですか、何もしてなかったので地獄行きですか」
「いいえ違います、あなたが行くのは異世界です」
「は……?異世界……ですか……?」
異世界ってラノベとかの異世界だよな、まさかこの展開って……
「まさかチートスキルで魔王を倒せってことですか!?」
「いいえ、そのような能力は与えません」
神は意外と厳しかった
「それに……魔王を倒せとも言いません、ただ単に異世界に行って、そこで過ごしてもらえれば良いです」
「えっ……本当にそれだけなんですか?」
「はい」
「マジですか」
「マジです」
マジだった、俺は異世界で勇者になるわけでもなく、一般市民として暮らすらしい。
「そういえばさっき「魔王を倒せとも言いません」って言ってましたけど……魔王は居るには居るんですか?」
「ええ、その世界は魔王が存在しています、魔物と人間との争いも起こっています」
「俺の知っている限りでは、チートスキルをもらって魔王を討伐するって流れのハズなんですが……」
俺が読んでいた大体のファンタジーものは、チートスキル持ちか、元から最強だったみたいな奴が無双する作品が多かった
「……過去に現世で死亡して、ここに来た若者に強力なスキルを授けた事がありました」
「そいつにはスキルあげたんですか」
「ええ、ですがその若者は力に溺れ、魔王討伐どころか世界を我が物にしようとしてしまい、その世界を滅ぼしてしまいました……それ以降、転生者にはスキルを与えることを禁じるようにしています」
とんだ迷惑野郎だ、そいつのせいで俺はスキルを貰えないらしい、チクショウ
「でも、魔王が居るなら勇者が必要ですよね?その役って……」
「その世界にはすでに勇者が居ますので、ご心配なく」
「マジかぁ」
「マジです」
マジだった、なんか神っぽくないなこの神
「そんなに魔王を倒したいというのならば、1からレベル上げを行って、強くなって下さい」
「レベルもあるんですか」
「世界のシステムは、あなたが知っているMMORPGと大体同じです」
「あぁ……そういう事ですか、完全に理解しました」
MMORPGの世界に入るラノベを見たことがある、作者にこの事実を教えてあげたい
「さて、長話をしてしまいましたね、それでは異世界を楽しんで下さい」
「ちょっ……ちょっと待ってください!最後に1つ聞いても良いですか?」
「なんでしょうか」
「死んだら……」
「あー……まぁ、大体はそこで終わりですね」
パチンッ!
指を鳴らすような音が聞こえて、気がつけば俺は……
「あの〜、大丈夫ですか?」
異世界でぶっ倒れていた