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二人称

X(旧Twitter)で書きなぐった物を修正して整えて投稿したものです。ある程度投稿がたまったら随時続きを更新していきます。

 オタクはヒロインの意外な一面に弱い。いや、ギャップ萌えはこの世の男全てがするんじゃないか。ボーイッシュな子が可愛らしい服を着てれば抱きしめたくなるし、大人しくて清楚な子がめちゃくちゃ喧嘩が強かったら守ってもらいたくなるしね。男の浪漫ってやつです。

 まぁそんなベタなのは創作の話で、現実はギャルが学年真ん中くらいの成績だったり、教室では真面目で大人しい子が陸上部だったり。理想とちょっとズレてたりする。上手くいかない、とまではいかないけど、何か違うなぁ、となるのが現実。それはそれでいいけど。

 放課後の図書室は全然人いないけど、俺以外にもう一人いる利用者がスマホで通話中のギャルだったりね。声はそんなに大きくないけど、いかんせん他に音がないから嫌でも集中力をそっちに持っていかれる。どうやら昨日SNSで見た話題のケーキ屋に行く日程を立てていいるらしい。

 こりゃダメだ。ノートと数学の教科書を閉じて帰り支度を始める。胸のリボンの色から2つ上の3年生らしいギャルに注意する気概なんてもちろんない。即時撤退が吉。

 鞄に筆箱をしまう視界の端でギャルが楽しそうにまだ話してる。と、それに近づく影が見えた。もう一人いたこともちょっと驚いて顔を上げると、黒髪長髪の眼鏡の女子がギャルの前に立っている。

 知ってる顔。というか同じクラス。同じクラスの図書委員。名前は――。 


「図書室で何してんのよ、姉貴」

「げ、透子いたの……」


 ギャルが明らかにマズイという表情なった。図書委員はギャルからスマホを奪って通話終了をタップした。


「何考えてんのよ全く。信じらんない」

「だ、だってさぁ。廊下とか教室で話してたら先生に怒られるし。ここ全然人いないから別にいいかなーって」

「図書室のほうがだめに決まってんでしょうが。バカなの?」

「失礼なっ。平均くらいですぅ」

「そういうことじゃないわよバカ姉貴」

「バカって言う方がバカなんですぅ」

「いいから出てって。兄貴に言うわよ」

「そ、それだけは……」

「じゃあ早く出てって」

「はぁい……」


  図書委員にしっしっと手で払われながら、見るからにしょんぼりした背中でギャルは出ていった。少し可哀想に見えるほど。

 はぁ、と無音になった図書室に彼女のため息が響く。


「全く、バカ姉貴は……」


  そこで言葉が切れた。ようやっと傍観者がいたことに気づいたようだ。表情と動きが止まる。お、漫画でよく見るリアクションだ。現実でも見れるんだ。


「……見た、わよね」


  疑問形じゃなくて断定の口調。それはそう、見てないわけが無い。こっくりと頷いた。一瞬目を伏せた彼女は、ゆっくりと人差し指を口の前に持ってきて言った。


「内緒にしててくれる?今見た事」


  再び頷く。彼女はちょっとほっとした顔になった。


「ありがとう、ミチユキ君」




 家の最寄りまで30分電車で揺られる通学経路。今日のことを反芻するにはちょうどいい時間な気がした。


「内緒、ねぇ」


 別に言いふらそうなんて思ってなかったけど。俺にお願いをしてる時の彼女はちょっと顔を赤らめていたから、彼女にとって恥ずかしいことだったんだろう。

 彼女の喋ってるところは見たことある。同じクラスだし。どういう人柄なのかも知っている。同じクラスだし。図書委員なのも知っていた。同じクラスだし、図書室は度々利用するから。


「姉貴って呼んでるんだ」


 同じ高校に姉がいたことは知らなかった。まぁそういうこともあるだろう。ギャルなのは意外だったけど。どうやら兄もいるみたいだ。それより、頭に残ったのは。


「姉貴兄貴って呼んでんだ」


 最寄りからの帰り道を歩きながらこぼす。妙に彼女のきょうだいの呼び方が頭に残った。

 口調からもキャラからも「お姉ちゃん」や「姉さん」って呼んでる方が自然というか、似合うというか。弟がそう呼ぶのは違和感ないし、実際上に兄姉を持つ友達がそう呼んでいるのを聞いたことある。    

 だけど、ちょっとキツめの女性口調で、図書委員で真面目な彼女が。


「北見さんがそう呼ぶの、ちょっとギャップだな」


 これもしかしてギャップ萌えってやつですか?そうだとしたら、やっぱ現実はちょっと理想とズレてる。これは帰っても課題に集中できなそう。提出はまだ先だから明日にするか。今日は積みゲーでも消化しよう。


「そういや、北見さん俺の名前覚えてたんだ」

 クラスメイトって名前まで覚えるのかな、と思ったが、実際何人か思い出してみるとスラスラ出てくる。


「そりゃ覚えてるか。同じクラスなんだし」


 目に入ったコンビニに寺脇道雪は足を向けた。



「道雪君、数学の課題やった?」

「やったよ」

「現代文は?」

「やった」

「じゃあ……物理」

「やったな」


  放課後図書室。ギャル事変から2日。俺は生徒が座る長机じゃなくて、図書委員が座るカウンターの中で北見さんと並んで座ってる。ちなみに俺は環境委員。中庭にある草木の世話係。


「んーっ、つまんない。これだから優等生は」

「俺より成績上の癖になにを……どうせ北見さんも終わってるんでしょ?」

「まぁそうだけど……」


 つまんなそうに貸し出し記録のチェックに使っていたボールペンを下唇に当てるメガネ美人。映えるなぁ。

 今日もこの学校の図書室は閑散としてる。ギャル先輩――隣に座る人の『姉貴』も今日はいない。まぁ、あんな怖い顔で怒られたらさすがに来ないか。明日の予習でもと図書室に入ると、カウンターに招かれた。何故? とハテナを浮かべてる間に腕を捕まれ強制的に。何故。

 だって暇なんだもん。誰も来ないし。北見さんの言い分。まぁここでも予習はできないことはないけど、景色が違いすぎて落ち着かない。そして冒頭の質問責め。集中出来るわけない。そもそも美人の隣だし。

「せっかく道雪君とドキドキお勉強会イベントできると思ったのに」

「ドキド……なんて?」

「ドキドキお勉強会イベント! ラブコメの常識イベントでしょう?」

 その通り。ラブコメの三大イベントの1つ。あと2つはお泊まりと告白。

 や、そうじゃなくて。口を開いて声を出しかけて止まった。何から聞こう。あれよあれよと彼女のペースに乗せられて俺のターンが全く来ない。ずっと私のターンされてる。


「それじゃあこの」

「あ、えっと」

「本……え?」


  反射的に声が出て遮ってしまった。まだどの質問にするか決まってないのに。

「なに?」


 

 メガネの奥のから目をのぞき込まれる。目でかいな。


「えっと……」

「ん?」


 ちょ、圧が。


「どうして俺のこと下の名前で呼ぶの?」

「え?好きだからよ」


は?


「誰を?」

「道雪君を」

「Like?」

「Love」


 どういうこと? 告白されてんの俺? 俺が聞きたかったことは、なんで俺を下の名前で呼ぶのか。あとギャル姉のことを姉貴って呼び始めたきっかけと、好きなお菓子と。


「あ、分かりにくい? えっとね、道雪君のこと前から好きだったの。この間のことキッカケに仲良くなれるチャンスかなーって思って思い切って呼んでみちゃった。道雪君、普通の反応だったからOKなのかなって。実はずっとドキドししてたのよ?姉貴にも感謝しなきゃね〜。調子乗るからイヤなんだけど」


 怒涛の勢いで流し込まれる情報に、もう脳が思考を放棄してしまっている。彼女は、この美人は、この子は、北見さんは一体何を言っているんだ。俺の見てきたラブコメにこんな展開は無かった。こんなギャップを繰り広げてくるヒロインもいなかった。そりゃそうだ。だってこれは紛れもない現実なんだから。


「……で、どうなの?」

「へ?」


 いつのまにか北見さんの口撃が止んでいた。穴が空けられるかと思うほど俺の目を覗き込んでいた大きな黒目は伏せられている。


「へ?じゃなくて。返事」

「へんじ……」

「も、もう。焦らさないでよ」


 恐る恐るといった様子で見上げてきた北見さんの表情は、目が潤んでて、頬が赤らんでいて、唇が艶っぽくて。あ、これは見た事ある。俺の中のラブコメヒロインが可愛い表情第1位だ。


「私の彼氏になってくれる?」


 再三言うけど、これは創られたラブコメじゃなくて。


「……はい……」

「ほ、ほんと?やったぁ!」


紛れもない現実の、ギャップ萌えヒロインのいるラブコメだ。














寺脇道雪・・・ 高校1年生。割と真面目な漫画オタク。ヒロインの好みはツンデレ。成績学年10位(250人中)。友達はいるけど1人で行動することが多い。中学まではサッカー部。 178cm。

北見透子・・・高校1年生。図書委員。勤勉。成績学年2位。黒髪ロングの眼鏡。友達は結構多い。小説オタクでアニメも結構見る。帰宅部。好きなお菓子はパイの実。3兄妹の末っ子。身長168cm。背が高いことをちょっと気にしてる。



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