アラサー(366歳)処女の婚活その4 ベアナックルと言う男
(接触するに辺り、情報収集はせねばな)
私は再び五感に魔力を乗せて戦況を確認する。魔力感知に敏感な者には悟られるが、もうこの状況なら関係あるまい。ランスロットにしろベアナックルにしろ、我々フォボス街の者達が周囲を取り囲んでいるのは承知のはずである。
私やザハブ等の五賢人はともかく、手足となって動く者達は戦闘の素人ばかりだからだ。私が強く意識せずとも、戦闘の中心地を遠巻きに囲んでいる仲間達の気配が解る。
「さて、状況は―――」
私が拡張した視覚と聴覚で確認した状況は…
「き、さま、プリムに、僕の妹に―――何を、した…?」
倒れ伏す勇者ランスロットの目の前で、ベアナックルが女…プリムと呼ばれていた…を犯してる姿だった。
(え?えええっ?なんっ―――ええっ?)
戦闘中じゃなかったのか?
終わった途端におっ始めた………いや、まさか―――
(まさか、ずっと、してた?)
ベアナックルとプリムの位置関係は先程と変わっていない。粉塵による視界不良と、プリムの激痛に同調してしまった所為でキチンと見れていなかったが、もしかして―――
(べ、ベアナックルは、勇者ランスロットの前でずっと、プリムを犯し続けていた?のか?)
有り得ん。
メルカトルの良く言う剛気さ…とも違うだろう。てゆーか他人の前で、こんな、恥ずかしげも無く、よくも平然と………
(私なんか三百六十六年間一度も彼氏が出来た事無いのに―――)
私が違う意味で衝撃を受けている間にも、ベアナックルとランスロットの会話が進んでいく。
「お前の妹と婚姻魔法を結んだ。いや、隷属魔法の方かな?まぁどの道変わらん」
…あ?そう言えば妹とか言ってたな………妹。
(顔立ちは似ているか?髪は金色に黒が混じってる。あんな髪色だったか?)
そうか、それが諍いの原因か。
私は私の読みが当たった事に溜め息を吐き出す。
やはり今回のコレは、恋愛脳の者達による色恋沙汰、痴話喧嘩、修羅場が原因らしい。
巻き添えを喰らい地獄となったのはフォボス街だけど。
「おい、ザハブ。もう少し様子を見よう」
私がもうちょっと観察したいのでザハブに声をかける。
(うわぁ、思いっ切り出たり入ったりしてる。てゆーか気持ち良さそう。そんなに良いのか?そうなんだ)
まだ距離はあるが、私の魔力感知により、その行為の一部始終が全て解る。まだ日も高く天気も良いので凄く良く見える。丸見えだー。
「フーッ!フーッ!」
しかし、私の制止の呼び掛けはザハブに届かない。興奮している。元々我慢強い方ではないからな。致し方無い。
「マハはあてにならん。ネザーランドもやや力不足だろう。せめてヴェルスタンディッヒが来るまでは現状維持だ」
「…わかった…」
解ってなさそうだな。
未だにヤンチャで困るが、獣人族の若い戦士の中では一番頭が回るし戦闘力も高い。他の若衆だったらすでに特攻して返り討ちに遭ってるだろう。
「やれやれだな」
私は魔力感知をさらに飛ばす。ザハブが突撃したら流石に中断と言うか終了するだろう。その前にたくさん勉強…コホン、情報収集をせねばならん。相手を良く知らねば有利な交渉等出来ないのだから。
「プリム。お前は俺専用肉便器兼性奴隷だ。子供も産ませてやるが、産まれた子供も奴隷落ちだな。母子揃って奴隷か。哀れで惨めだな。お前の子供にもお前と同じ呪いをかけてやる」
なんと言う暴力的で甘美な台詞か―――
(コレが亭主関白…いや、ドS彼氏と言うヤツなのか?)
凡そ人としての尊厳を踏み躙り欲望の限りを尽くしている様な台詞だが、その裏には、絶対に女を手放さないと言う強い意思を感じる。
(羨ましい…)
アレ程強い独占欲で支配されたらどんな気持ちになるのだろう。きっと気持ち良いのだろう。プリムの顔は、言葉で嬲られイチモツで犯される度に、恍惚な色に染まって行くのだから―――
「えーと、ランスロットくんだっけ?お前が俺や、俺の妻や子供を殺した時、身代わりで死ぬのはプリムとプリムの子供からだ。てな訳で、たくさん産ませてやる。有り難く孕めよプリム?」
(…………ん?この金髪の男、やはり勇者ランスロットか。勇者ランスロットとベアナックル)
可能性はほとんど無いが、一方…あるいは二人共本物の名を騙った偽者と言う可能性も、少しはあった。
ただその場合はこうやって接近せねば名前も姿も確認出来ない為、名を騙って悪さをするにしては効率が悪過ぎる。自作自演にしては殺意も高過ぎだし、二人共やはり本人達なのだろう。
「…うん。私、エスペルの赤ちゃん産むね」
プリムが甘えた声を出して腰をくねらせる。その肢体はまるで子供の様に幼く、私と比べてボリュームに劣る。しかし、男の物を咥えて搾り取るその姿はまさにメス。女だった。私はあのプリムと言う少女に、女として決定的に負けていた。正直凹む。
「ごめんねランスロット。私もう、エスペルのものになっちゃった」
「あ、あああ―――…」
プリムの告白にランスロットが呻き声を上げている。戦闘も終わり、リザルトが出た。
そして関係性も見えてきたな。
ランスロットとベアナックルは、ランスロットの妹を巡って争っていたのだ。
…しかし、そうするとあのハイエルフはいったいなんだ?
(ベアナックルの、妻?)
見ただけで解る。
ベアナックルとあのハイエルフは夫婦だ。
ヴェルスタンディッヒも亜人種の妻子を複数囲っているが…そうか、そう言う事なのか。
私が思索に耽っている間も、ベアナックルとプリムのまぐわいは続いていた。
「ほら、あんっ、愛する貴方を、んっ、助ける為に、私、今エスペルに抱かれてる、の…んっ」
なんと言うだらしの無い顔か。涎を垂らし頬を赤らめ涙も流して悦んでいる。
「ねぇ?ランスロットの為に、私いつも頑張ってるのっ!ああっ!だからぁっ」
兄との関係はどうだったのだろう?普通の兄妹だったのか?それとも―――
「貴方の為に―――――――」
プリムが幸せそうに微笑んでいる。
「………エスペルの赤ちゃん、産むね?」
赤ちゃんか…母に期待されているが…私にもいつか出来るだろうか?
「可愛いよプリム。必ず元気な赤ちゃん産もうな?」
………私もあんな風に囁かれてみた…いや、青空の下で公衆の面前では、ちょっと…
「ああああーーーーっ!」
プリムの嬌声と―――
「うわああああああっ!」
ランスロットの絶叫が合わさる。
誠に喧しい。
…アラサー処女にはちょっと刺激が強過ぎるわ。
視覚と聴覚の拡張を窄める。例えるなら、顔を掌で覆いつつ指の隙間から盗み見る様な、そんな塩梅だ。
「――――赤ちゃん、エスペルの赤ちゃん、欲しいのぉ…エスペルぅ…ん…」
兄に殺されかけ、ベアナックルに救われただけでは説明がつかないぐらい、プリムは完全にメス堕ちした顔になっている。少なからず…いや、大部分において、ベアナックルに抱かれていた為だろう。
戦って身柄を奪うだけでなく、その場で抱いて女として解らせる。
身の毛もよだつ程の恐怖を感じる。
あんな愛され方をして堕ちない女等居るだろうか。
(命の対価に命を支払わせる。まるで悪魔だ。違う意味でだが…)
魔族は人間の魂のエネルギーを集めている。
平凡な父親を唆し、難病の娘を助ける代わりに神性の強い者の魂を奪わせたりとかな。
ベアナックルは真逆だ。
プリムの命を救う代わりに、プリムに自分の子を孕ませ、産ませようとしている。
合理的且つ野性的な段取りだ。
凡そ人間種が獲得して来た理性的な愛の逢瀬等とは程遠い、獣の様な価値観だ。
命を救けた女なら、犯して子供を産ませても問題無い。
プリムへの行為には、ベアナックルのそう言った強い意思を感じる。
若い男女の恋愛を謳った軽めの歌劇より、有閑マダム向けの喜歌劇―――通称レディコミの様な肉欲と愛欲でドロドロとしている。胃もたれして胸焼けしそうだ。
しかし…
「愛してるぜプリム」
「うん。私も愛してる。だから…もっとちょーだい」
ベアナックルとプリムの愛の逢瀬は続く。
見るに耐えん濡れ場であるが、そろそろお開きにして貰おうか。
☆☆☆☆☆
「双方動くなぁっ!」
ザハブが先走って吠え声を上げる。
ああ、もう、さっきの段取りは何処に行った?
「…来たか」
ベアナックルは酷く落ち着いている。やはり我々の気配には気付いていたのだろう。
プリムは我々の事等目に入っていないのか、快楽に溺れて帰って来ない。
側のハイエルフは興味が無さそうだ。
…夫が目の前で絶賛浮気中だからだろう。私だって、夫が火遊びするくらいなら許す度量はあるつもりだが、目の前で堂々とまぐわうのはどうなのだろう?ちょっと…いや、かなり常識が無いんじゃないのか?
正式な妻や愛人が複数居るヴェルスタンディッヒも、女達がかち合わない様に細心の注意を払っているらしい。
ヴェルスタンディッヒとベアナックルは、また別のタイプの女誑しだと思う。
「おっせーな。もっと早く来いよ?無害な少年が暴漢に襲われてんだぜー?」
ベアナックルは逆に我々を挑発して来る。
「エスペ…あんっ、あんっ…あっ」
さらにプリムの体勢を変えて、まだ行為を続けている。いったいどんな神経なんだこの男は?
「よくもぬけぬけと…」
頭馬鹿ライオンが見事に挑発に引っかかっている。今にも飛び出して行きそうだ。アホめ。
「全員捕らえる。抵抗するな」
冷静さは失っていないが、フォボス街を焼いた両名を捕縛するつもりの様だ。危険だ。
(いかん…)
ザハブの指示を受け、怒りに燃えている住人達がベアナックル達に迫る。
「なんだよ?俺達は被害者だぜ?」
「黙れ…」
そして案の定―――
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
ハイエルフに近寄ったハーフエルフの青年が、突然頭を抑えてのたうち回り始めた。目や鼻や耳から血を出して痙攣している。精霊干渉―――
(私の覗き見も最初から知られていたと見た方が良いな)
この戦闘区域の精霊は全てあのハイエルフの支配下に置かれているはずだ。彼女の周りでは精霊魔法は一切使えまい。可能性があるとしたら…
(人間魔法と精霊魔法を混合させられる私だけか。だが些か荷が勝ち過ぎる)
私は戦闘は門外漢だ。
普段は主に水周りや作物の育成等の生活魔法全般だ。あんな血の気の多いハイエルフの相手は御免被りたい。
「貴様ぁっ!」
「私何もしてない。勝手に彼が転びました」
ザハブが怒鳴るが、ハイエルフが首を振って否定している。半分本当だろう。あのハイエルフの支配下になった精霊が、精霊魔法に反応して迎撃したのだろう。
「精霊干渉か。シルクはニアハイエルフだからな。精霊魔法で拘束しようとしてカウンター喰らったんだろ。アホだなぁ」
ベアナックルから新たな情報を得た。
シルクと言う名前らしい。そしてその正体は…
(ニアハイエルフ?なるほど―――)
存在としてより高みであるハイエルフへと至る道を捨て、人間の男の妻となったのか。もしかしなくともハイエルフより貴重だ。格は一枚落ちるだろうが私なんかより勿論強い。
「ニアハイエルフだとっ!?それが何故人間の味方をするっ!」
ザハブが私が隠れてる方をチラッと振り返る。こっち見んな。
「私エスペルの奥さんよ。エスペル虐めたら…めっ」
シルクが周囲の者達を睨むと、全員倒れ、転がり回り始める。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
阿鼻叫喚の地獄絵図の様だが、私は少しホッとする。
(ベアナックル、シルク両名からは殺意は感じられない)
仲間達は今の遣り取りで殺されていてもおかしくは無かったのに、生かされている。
この街をこんなにした犯人の片割れに擦り寄る様な真似をするのは業腹だが…背に腹は代えられん。
「おのれぇっ!抵抗するかぁっ!」
だからお前はもう黙れ!
(いや、ベアナックルは冷静だな?)
ザハブが敵意剥き出しな態度の割に落ち着いている。
「我々を警戒している、か…」
ベアナックル…と言うよりシルクと呼ばれたニアハイエルフに傍受される危険性があるからか、ヴェルスタンディッヒからの魔力通信はあれから無い。
しかし、ヴェルスタンディッヒやネザーランドはすでにこの場に来ているだろう。
「あーもうしっちゃかめっちゃかだよー」
のほほんとぼやくベアナックルには余裕がある。その余裕は油断とはまた違う。どんな攻撃を受けても対処出来る自信の表れだろう。
(手強い…)
「エスペル、エスペ…あ、ああ〜…んっ」
ベアナックルは余裕の態度でプリムを犯し続けている。
「ほら、きれいきれいしような〜」
彼はプリムを地面に下ろしすと、唇に自分のモノを捩じ込んで―――
「ん、んんぶっ!?」
「よーし、上手上手〜」
…何を見せられてるんだ?普通に考えれば我々への挑発だろうが…なんと言うか…ヤりたいからヤっているだけの様な気がする。
「この異常者がっ!」
ザハブが怒鳴る。今にも剣を抜いて襲いかかりそうだ。やめれ。
「ま、無謀な攻めをしない頭はあるか」
やはり挑発の意味合いもあるのか?何を考えているのかイマイチ掴み所が無い。
(少し前に出会った男に似ているな…)
ふらりとフォボス街に現れた人間の男を思い出す。その男も強かった。剣の腕が立つ訳でも、魔法に秀でていた訳でもない。だが強かった。ただ強かった。
(仕方無い。私も出よう)
なんとか話を纏めて、落とし所を見つけなければ。




