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ロメロン商会のヒモ男

 流通により栄えているバリュー市は人で溢れかえっているが、皆他人に無関心だ。

 商売人は他人を値踏みし利益を出そうとしているが、客の本質とか過去とか人間性に興味は無い。

 それが俺には心地よかった。


 カドイナ村は少し窮屈だった。

 放って置いて欲しいのに、絡まれる。流石に善意の押し付けだっつーのは言い過ぎだし乱暴かな。今の俺はともかくガキの頃、母さんと二人暮らしの時は助かってたのも事実だし。

 その息苦しさも懐かしくはある。

(アレはアレで良かったと思う)

 人畜無害な村人その五みたいな適当な存在でいるのは気楽だった。

(勇者かどうかは知らんけど、強いって自覚を持つのも疲れる。極力他人と関わりたくない)

 とは思うが女抱いてる時は楽しいんだけどね。

 持て余し気味の力に振り回されるのは苛々するが、金も食い物も女も、俺の暴力が手に入れた結果だ。

 

 ホーミィにキツく当たられてる時は、嫌ではあったが安定していた。

 もうアレより底は無かったのだから。

 シェリーを手籠めにした始めの頃も良かった。

 俺に懐いていたはずのあの娘の傷付いた顔。裏切り者を見てくる様な目をするシェリーを見て安心した。


 フロイラインも悪くはなかった。

 先の二人と違い物理的に攻撃して来る彼女はなかなか面白かった。

 弱かったので軽く遊んでやるとすぐ気絶したが、また挑んで来た。

 そのうち結婚とか仄めかして来たのでやっぱ距離置きましたけど。

 

 ホーミィとの子供も嫌じゃなかったけど、なんか違う。…今頃お腹膨らんで来たかな?妊婦さん見かけるとふと思い出してなんかモヤっとする。

 シェリーともそういう関係になりたかった気もするが、いざなってみると、やはりしっくり来なかった。


「エスペル、また違う女の事考えてたでしょ?」

「うん」

 女の勘怖っ。

 俺が素直に答えると、ルピアはクスリと笑い、口を大きく開いて再開する。

 ルピアの寝室は広かった。ベッドも広く、俺はずっとこの部屋で暮らしてる。


「あの…歯が…」

 また歯を立てられてる。少しヒヤリとするな。俺の強くなった肉体は並の人間の顎じゃ噛み千切れないはずだけど。

「ふぃふぁふぁーふぃ」

 ルピアは拗ねてるのも可愛いな。

 頭を撫でてやると上目遣いで睨まれる。

「………っ」

 甘噛みくらいなので良いアクセントだと思う事にした。


 ルピアは大人の女だった。アスパーシャもエマも大人だ。俺が自儘に振る舞っても許してくれる。

 パティは子供過ぎて安心全開だ。こないだ一緒にお風呂に入ったが、凹凸の無い幼児体型にはさすがに俺のモノも反応しなかった。

 不思議そうに俺のをふにふに触られて困ったけどな。


 この市内に居る三人の女達は、こちらに不必要に、不用意に踏み込んで来ないのが良い。

 俺に違う女が居るのは解ってるはずなのに、皆そこはスルーしてくれている。

 縛り付けない方が俺を繋ぎ止められると理解しているのだろう。

 ルピア等は俺がふらっと娼婦を買ったり、行きずりの女と寝て朝帰りしても笑って許してくれた。その笑顔が怖いんだけどさ。

(まるで放し飼いだなぁ)

 アスパーシャを買ったり、エマと遊んで帰って来た後は、激しめに求めて来るので応えてやっている。


 ただロメロンの屋敷のメイドと寝た時はちょっと怒られたよ。身内は不味かったらしい。加減が解らんけど反省。注意しよう。


 まぁそんな訳でルピアのヒモとして、駄目男エスペルくんは今日も自堕落に過ごしてますわ。

 ルピアから貰うお小遣いでアスパーシャの所に遊びに行って来ます。

 高級娼婦連続で買ってたらお金無くなりまちた。

 アスパーシャもそうだし、エマも働いてる。

 動かしてる金で言えば、ロメロン商会でバリバリ働いてるルピアが一番働いて稼いでるよね。

 パティに買ってくお土産もルピアから貰うお小遣いから出てる始末。

 こんな俺が魔王を倒して勇者になる未来なんて見えないぜ。



☆☆☆☆☆



「エスペル」

 鏡の前で髪を梳かしてやってると、アスパーシャが俺の腹に後頭部をコツンと乗せて来る。

 パティの髪の毛を梳いたり編んだりしてやってるせいで女の髪の扱いスキルが上がってる俺ちゃん。

 こないだアスパーシャを女児っぽい三つ編みにしたら軽く怒られた。似合ってたのに。


「少し気をつけて。何かキナ臭い感じがする…」 

 俺を気遣う様に見上げてくるアスパーシャ。

「んーわかった。ありがとう」

 よく解らないけど礼を言う。

 そういやアスパーシャも、俺が違う娼婦と遊んだ後はなんか不機嫌だったよね。

 そういう棲み分けなの?

 俺がもしも違うシングルマザーと遊んだらエマも怒るのかな?俺が違う女の子と遊んでたらパティなら余裕で癇癪を起こすだろうけど。

 最近は定番の『おにいちゃんとけっこんする』が出て来た。エマが『…新しいパパ欲しくない?』という露骨な誘導をしてきたが『はやくけっこんちてママやしなってあげゆ』とゆーパワーワードも出て来たで。大物になるよあの娘。



☆☆☆☆☆



 アスパーシャの忠告はすぐに解った。

 違う日に一人で飲んでたら、酒場の後ろからわざとらしい会話が聴こえてきた。


「ロメロン商会の長女ルピアが悪い男に引っ掛かったらしい」

「才女は駄目男がお好きらしい」

「結婚もせず親不孝な事だ」

「これはもうロメロン商会も終わりだな」

「男を見る目が無い」

「年下好きの行き遅れ」

 てな内容を大声で話してる。

 うーん、この。

 なんて解り易いんだろう。

 俺はそいつらのテーブルに向き直ると、今食べてる料理を平らげる。そして…


「君可愛いね。上がり何時?」

「え?あの…今仕事中ですので…」

 ウエイトレスをナンパする。

 顔にソバカスがあり美人て程じゃない。だがおっぱいとお尻が大きい。買いだなこれは。

「ごめんなさい」

 ウエイトレスはペコリとお辞儀をして注文を取りに行ってしまう。

「ん〜残念ふられた」

 まぁ俺がルピアの男なのは有名だからな。

 ここにはルピアともよく来てたし。

 てゆーかここロメロン商会の傘下なんだけど?あいつら出禁なるぞ。

 俺は未だに大声でロメロン商会の才色兼備をこき下ろしてる連中を見やる。話す内容も下品になってきたな。


「んでそいつは小遣いで娼婦買ってんだとよ」

「素人の娘にも手出してるらしいしよ」

「とんだスケコマシだな。あっちの方で箱入りお嬢様を飼い慣らしてんのかね」

 ゲラゲラ笑う男達を店員が凄い目で睨んでる。

 俺は溜め息を吐き出し店を出る。

 支払いは多目に渡しておく。

 さっきのウエイトレスが困った様な顔で俺を見つめて来ていた。



☆☆☆☆☆


 

 そんなある日の事である。


「おいっ!てめぇっ!」


 なんか呼び止められたよ。

「自分の女が馬鹿にされてんだぞっ!何も思わねーのかよっ!」

 そいつは怒りに震えていた。

 誰だコイツ?

 見た事無いんだけど。

「お前のせいでルピアが悪く言われてんだぞっ!それでもお前男かよっ!」

 んん?誰?何の話?

 そいつは俺達の悪口を言ってた奴等ではなかったな。身形は良い。良いとこのお坊ちゃんて感じだな。まぁ俺より年上には違いない。それこそルピアと同年代―――あ…


「ルピアの事好きなの?」

「!?テメェに関係あるかよっ!」

 なんかキレてんな。

 ん〜なんだろか。


「あ、解った。俺が悪く言われてるだけじゃなくルピアが悪く言われてるのが嫌なんだ」

「ああ!?」

 男は眉根を寄せて怪訝そうな顔をする。

 俺はそこでヘラヘラとわざとらしく笑ってやる。

 そして股間を指差しあざ笑ってやる。

「仕方無いじゃん?あの女は俺のコレの言いなりなんだよ?もう俺のコレ無しじゃ生きられない体にしてやったんだ。羨ましいか?なら今度一緒に―――」

「黙れくそやろうっ!」

 そいつの拳が俺の顔面を捉える。


「きゃぁあああああああっ!」


 ソバカス巨乳巨尻ちゃんの悲鳴が響き渡る。

 そうここは例の酒場です。


ドガシャーン!


 と、派手な音を立てて俺が倒れる。

 隣のテーブルに頭から突っ込み、料理や酒がぶち撒けられ、食器やグラスが割れる音がする。

(大丈夫かな?)

 俺は男をチラリと観察する。

 男は驚愕の面で痛そうに手を押さえてる。まぁそらそうでしょ。まるで鋼鉄を殴った様な感触だろう。


「ちっ!ルピアにはもう関わるなよっ!」


 男は金貨を何枚も店主に押し付け店を飛び出して行く。うーん律儀だね。

 釣りをしてたら変なのが釣れたな?アレは多分、ルピアの元カレとかそんな類だろう。

 ルピアに男が出来て、さらにそいつがとんでもない屑と解って我慢出来なくなっだんだろう。

 熱いねぇ。羨ましい事で。

 俺はにょきりと身を起こす。

「悪かったね。慰謝料です」

「お、おう。平気か兄ちゃん?」 

 俺の巻き添えで料理や酒を台無しにされたおいちゃん達に金貨を渡す。帰るか。何処に?ルピア?アスパーシャ?エマ?


「ちょっと!それで帰る気?」

 ソバカス巨乳巨尻ちゃんが俺の腕を取る。

「服も貸すからっ!あとまず顔の怪我ねっ!父ちゃん二階行ってるからあとよろしくっ!」

 看板娘とは思ってたけど、本当に店主の娘だったらしい。

 ソバカス巨乳巨尻ちゃんの部屋に連れ込まれる。

「馬鹿だね。わざと怒らせたんでしょ?」

「うん」

 ソバカス巨乳巨尻ちゃんはフリーシアンと名乗った。

「俺はエスペル」

「知ってるよ。ルピアお嬢様の情夫でしょ。可愛い顔してるとは思うけど…ルピアお嬢様も趣味が悪いわ」

「ひどいや」

「非道いのはアンタでしょ」

 フリーシアンは呆れながらも俺の上着を脱がしてくる。

「ピロスの気持ち知ってて煽ったんでしょ?あの二人幼馴染なんだよ?」

 幼馴染…なんか嫌な響きだなぁ。

「いや知らんし」

 俺としては、俺達の醜聞を広めてる奴等の狙いが知りたかったんだけど。変なのが釣れたもんだわ。

「…もしかして、ロメロンの旦那の力を借りるつもり?あの人は優しいけど厳しいんだよ?娘可愛さにアンタの事黙認してるかも知れないけど―――」

 うーん、やはり誤解されてるな。

「逆だよ。俺はロメロンからルピアを報酬として差し出された。俺はそれを受けてるだけだよ」

「はぁ?意味わからな―――あれ?アンタ怪我は?」

 俺の顔にこびり着いた料理を拭き落としたフリーシアンがキョトンとする。

「俺があんなパンチで怪我する訳ないじゃん。あいつの拳のが心配だな」

「…心配して損した」

 フリーシアンは包帯や傷薬の入った救急箱を閉じる。

「まったく…お嬢様はなんでアンタなん―――なっ!?何してんのっ!?」

 俺は普通にズボンと下履きを脱ぎ、素っ裸になる。

「いやぁ、酒が下半身にかかったからね」

「ちょっ…わ、私外に出るからっ!水ここに置いて…」

 目を背け逃げ出そうとするフリーシアンの手を掴む。逃がさない。

「汚れちゃったんだ。綺麗にしてよ」

「なん、で、私が…」

 腕を引っ張り跪かせる。俺の股間の前にフリーシアンの顔が来る。

「な、なんでこんな…」

「ほら?頼むよ…」

「―――んんっ!?」

 俺はフリーシアンの頭を掴むと、半ば無理矢理俺の汚れた下半身の掃除をさせる。

 フリーシアンは毎日体を動かす肉体労働に従事してる。下半身周りの筋肉が鍛えられていてとても良かった。胸も、今まで抱いた女達の中で一番のボリュームでした。

「うぐっ…お嬢様も、こんな風に、扱ってるの?」

 俺の体の下でフリーシアンが呻く。

「一応皆、満足させてるはずなんだけどなぁ」

「エスペル…アンタ、いつか刺されるよ?」

「うわー怖い」

「んんっ―――」

 俺はフリーシアンを物理的に黙らせる。

 ベッドを汚しちゃ悪いので、中の方にしておく。

「はぁ…最悪。お嬢様の男に手を出しちゃったよ。店畳む事になったら責任取ってよ?んむっ―――」

「だいじょーぶだいじょーぶ」

 俺はフリーシアンの頭を撫で撫でしてやる。

 最後は特に汚れた所を重点的に、舐められるくらいに綺麗にして貰いました。



☆☆☆☆☆



「父ちゃんの服貸すからっ!今度返しに来てねっ!」

「ああ、ありがとう」

 フリーシアンは急いで服を着る。店は今、彼女の父親と他数名で回している。看板娘を欠いた状態ではキツイはずだ。

「裏口は―――厨房の奥だから父ちゃんに見つかる。表からコッソリ帰ってよ?」

 そう言ってフリーシアンは俺にキスしてから一階に駆け下りて行く。

 難しい注文だなぁ。

 俺は言われた通りコッソリ店を後にしてルピアの部屋へ帰る。

 情報伝達は早かった様で、満面の笑みのルピアが出迎えてくれた。


「…エスペル。首輪と鎖って、好き?」

「えーと、それを付けるのはルピアかな?そう言ったプレイ…」

「おほほほほほほほほほ」

「ごめんちゃい」

 俺が真っ直ぐに頭を下げると、深い溜め息をルピアが吐き出す。

「ピロスには困ったものね。小さい頃の結婚の約束なんて…そんな事まだ覚えてるみたい」

 やめてくれ。その台詞は俺に効く。

「…情報の出所は掴めないけど…多分、うちの商売敵よ」

 ルピアが俺に抱き着いてくる。まぁそうだろうね。

「ごめんなさい。巻き込んでしまって…」

 ルピアが不安そうに俺を見上げてくる。そらそうだ。俺が出て行く大義名分には十分だ。

 けどまぁ、なんてゆーか、それはしないよ。

「安心して、ルピア」

 俺が優しくルピアに口付けしてやる。

「なんとかするって」

 目立たない様にしてなめられたら立つ瀬も無いしね。

 ここはいっちょ頑張りますか。

 でもしばらく戦ってないんだよね。

 手加減出来るかなぁ?

 まぁいっか、邪魔する奴は皆殺しだ。

 そのうち出てくけど、今はこの緩いぬるま湯みたいな環境は気に入ってるんだよ。

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