表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/73

勇者の異母姉その5 助命嘆願

「私がやる」

 グレイスが名乗りを上げる。確かに魔法に長けた相手ならグレイスが適任だろう。

「グレイス―――」

 グレイスが駆けて行く。肩が全くぶれていない。体術において達人の域に到達した者の証。


 グレイスが走り込み、土のドームのひび割れがやや大きい右側面に、渾身の拳を突き立てる。

「ぬぅぅぅぅぅぅぅん!」

 ランスロットの覇王炎殺極龍波を受けてボロボロになっていたのだろう。土のドームの壁にあっさりと穴が開く。


 そしてそのままグレイスは、土のドームを砕き中へと飛び込んで行く。

「グレイス…」

 私達がそれを見守る。

 土のドーム内で肉と肉がぶつかる鈍い衝突音が聴こえた気がした次の瞬間。


「!?」

(生きてる―――)

 例の少年はエルフを抱えたまま土ドームの左側を突き破って飛び出して来た。しかし、遠目にダメージを受けてるのが解った。ランスロットかグレイスのどちらかの攻撃が効いたのかは解らないが。


「殺るぞ」

 ここまでいつもの軽口を叩いていなかったクリーガーが、殺気の籠もった呟きを零す。

「?」

 そんなクリーガーに私が少し違和感を覚える。

「待って。グレイスの様子が変よ」


 グレイスの特攻と少年の脱出で開いた両穴により、表面が炭化していた土のドームが完全に崩壊する。

 その粉塵により視界が悪くなった事もあるが…グレイスの追撃が無いのがおかしい。


 グレイスの魔法防御無視の打撃は初見殺しだ。

 弱点は直接拳で殴る必要がある事。

 種を見破られれば距離を取られ近づけなくなる。なので不意打ちで一気呵成に攻め立てるのがセオリーだ。

「まさか殺られたのか?」

 クリーガーの言葉にゾッとする。

「あ…」


 私達が心配する中、立ち込める粉塵から見慣れた大きな背中が現れる。私はホッと胸を撫で下ろした。

「…グレイス?」

 グレイスは前を見ながら後ろ歩きで後退して来る。見えないはずなのに黒焦げの焼死体を普通に跨いで帰って来た。

 

「一発は入れられた」

 文字通り一撃を入れただけで戻って来た様だ。どう言う事か問い質す前に、グレイスが答えを示して来た。

「バケモノだ」

 グレイスの眉間にシワが寄っている。

 彼の右手の指がぐしゃぐしゃに潰れていた。

「攻撃は成功したが、回復魔法を…愛を拒絶された」

 回復魔法を行うには信仰心と、何より相手への想いが大切だ。敵への慈悲と慈愛を以て振るわれるグレイスの拳は、熟練の魔法使いの防御結界をも突破する。

(それを…防いだ?)


「打撃が通った手応えは確かにある。だが魔法への…回復魔法への抵抗が凄い。特に愛の拒絶。慈悲や慈愛をこうも拒めるものか?どれだけの闇を抱えている………」

 グレイスは興味深げに少年が居る方向を見やる。粉塵は未だ晴れない。

「私の愛の拳が効かない。いや…効き難い…だな」

 愛かどうかはともかく、グレイスの拳法の理屈は理解出来る。

 回復魔法をかけつつ相手の魔法防御を突破する。それを防げる者等居るはずないのに…


「何故愛を拒む?いや、愛に飢えているのか…私の愛が足りなかったのか」

 グレイスが回復魔法をかけて己の拳を修復している。

「よかろう。ならばその空虚を、私の愛で満たしてやろう。私が救ってやる。迷い子よ」

(ちょっと何言ってるか解んない)

 普段より饒舌なグレイスは、勝手に自己完結して戦意を回復させている。

 流石真っ向から教会と対立して己の信仰を貫く修道士。このくらいでは折れたりしない。


「俺も…グレイスに負けてはいられないな…」

 しかし、このグレイスの不撓不屈の姿は逆効果だった。

 躊躇っていたランスロットに覚悟を決めさせてしまった。

「あれを、やる………」

 剣を一旦鞘に納めるランスロット。


「だ、だめよっ!それだけはだめっ!」

 覇王剣。

 ランスロットが戦いの中編み出した技を体系化したものだ。

 先程の覇王炎殺極龍波然り、そのどれもが殺傷力と威力が高く、周囲がモンスターに囲まれてるならともかく、街中で連発して良い技がほとんど無い。


 私がランスロットの腕を掴んで強く引っ張る。

「もう止めてっ!潮時だよっ!」

 勝てない相手ではないのかも知れない。私達が力を合わせて倒せなかったモンスターも人間も居なかった。

 ランスロットが苦手な相手も私達が連携して倒した。一対一なら絶対勝てないような格上も協力して倒した。それがパーティーだ。冒険者パーティージャスティスだ。でも―――


「これ以上は、もう…」

 あの少年が悪なのか善なのかは最早関係無いところまで来てしまった。ランスロットが何故こんな凶行に走ったのか問い質す暇も無い。


「ここはケイオス地方フォボス街。無法故、俺達が罪に問われる事は恐らくは無い。この街は存在しない街、住んでる住民は何処の国の国民でもないからな」

 クリーガーが顎を撫でながら話し始める。

「だがだからこそ、この惨状はまずいかもなぁ。フォボス街の顔役共にとっ捕まったら、あのワガママお姫様がランスロットの引き渡しを要請しても拒否られる。ま、ランスロットはともかく、俺達は漏れ無く死刑だな」

 彼はこんな状況でも飄々としている。

 軍に在籍中は相当グレーな事もしていたらしく、この程度では動じていないのだろう。


「!…まずい―――」

 殺意、殺気。そうとしか形容出来ない不可視の圧を感じ取る。

 視線を戻すと、少年が持ち直しているのが解った。

 ダメージは回復したらしい。薄く笑ってこちらを見ている。


「来る―――」

 その表情を見て私は後悔し、理解した。

 殺す覚悟とか、街への被害による罪とか、それによってランスロットへの評価がどうとか。…それ以前の問題だと本能が理解する。


 そんな事は、勝って生き残れた者が考える余裕のある話だった。

 慢心、傲慢。キャナビスタ王宮でのクーデター阻止。王宮内に突如出現したモンスターの大群の討伐。そんな大きな戦果は、知らず知らずのうちに戦闘への緊張感を奪っていたのだろう。


「消え―――?」

 少年の姿が掻き消えた次の瞬間―――


ドゴッ!


 …私の体に衝撃が走り、私は意識を失った。



☆☆☆☆☆



「――――――………う…あ、れ……?」

 私は目を覚ました。

「痛ぅっ!?」

 お腹に凄まじい痛みを感じて身を捩る。

「がはっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

 あまりの激痛のお陰で、朦朧としていた意識が一気に目覚めた。

 お腹を手でまさぐる。穴が開いてる訳ではない。内臓も骨も無事だ。だが軽装の革鎧は弾け飛んでおり、肌着も破れかけている。きっと痣も出来でいるだろう。


「魔力で覆ってなかったら死んでた…」

 攻撃がヒットした瞬間に魔力で防御したのだと思う。

「…エレママに感謝ね…」

 幼少期にスパルタ気味の戦闘訓練を受けていなかったら死んでいたかも知れない。

「何をされたの?」

 横合いから、それこそハンマーで殴られた様な衝撃だった。そう言えば愛用のハンマーが見当たらない。探せば見つかるだろうが、それよりも…


「ラ、ランスロット…?」

 腹違いの兄の名を呼ぶ。返事は無い。

「エクレー、ラ?」

 姉の様に慕っている魔法使いを探す。見当たらない。

「グレイス…?」

 寡黙だが安心感のある修道士に縋る。でも側に居ない。

「クリーガー?」

 飄々としつついざと言う時には頼りになる剣士に呼びかける。何処にも存在しない。


「く…そぉ…」

 私は痛む体に鞭を打ち、立ち上がる。

 そして足を引き摺りつつ前へ進む。

「あ、あれは―――」

 私はそれを見て驚愕で固まってしまう。

 地面にクレバスが出現していた。

 真っ黒で底の見えない谷間の淵は焼け焦げ、所々溶け落ちている。

 焼き斬られ、欠損した住民の焼死体。

 真っ二つにされた遠くの建造物。


「酷い…」

 これが仲間の…最愛の兄が起こした所業だとは信じられなかった。信じたくなかった。

 だがこの大地に刻まれた斬撃の痕は…間違い無くランスロットの大技『覇王炎殺天衝斬』だ。


(…と言う事は―――覇王鎧を使ったのね?)

 ならば決着はもう着いたと言う事。

 覇王鎧を纏った状態のランスロットは普段の何倍もの威力の魔法を使える。けれど勿論それだけ消耗も早い。

 短期決戦用の特攻形態だ。

 今は何処からも戦闘音はしない。

 ランスロットの勝利だ。

(そうよ…私達、勝った…のよね?)

 私はふらふらと足を前に進める。


「ラ…ランスロット…何処?」

(ちゃんと勝ったんだよね?敵は倒したんだよね?)

 そんな時、私が進む先の粉塵が風で吹き流され、ある光景が現れた。

 それは―――


「殺していいよ。首だけ残しといて〜」


 血や土で汚れてはいるが、特にダメージの無さそうな少年だった。

(生きてる?何故―――)

 そんな彼の側に立つ美しいエルフ。

(綺麗―――)

 炎に煌めく金髪と真っ白なドレス。花をあしらった緑色のブーツ。そして彼等二人の近くに倒れ伏す誰かが居…


「!?」


(ランスロットッ!)

 私は駆け出していた。

 ランスロットはエルフが操る木の魔法だろう、木の根に体を縛られ地面に拘束されている。

 使用したはずの覇王鎧は解けており、愛用の剣も見当たらない。何より普段の高い魔力を感じない。完全に魔力を使い切っている。まずい―――


 エルフがランスロットに近づいて行くと、彼が少年達に罵声を浴びせ始める。

「拐って、洗脳した女に、戦わせてっ、勝ち誇る、つもりかっ、卑怯者、がっ!」

(何してんのっ!挑発しないでよっ!)

 刺激してはいけない。殺されてしまう―――

 

「悪いな。俺達は夫婦なんでな」

 ランスロットの挑発に乗り、少年が自らの首に手を当てる。


「冒険者パーティーベアナックル。よろしくな?そしてさよならだ、勇者ランスロット」

 そして首をトントンと叩いて、エルフに指示を出す。ベアナックル…風の噂で聞いた事がある。私達よりも年下で、ソロで大量のモンスターを駆逐する新進気鋭の冒険者。


(間に合ってっ!)

 私は全魔力を足に集中させ、彼我の距離を駆け抜ける。


「ま、どうでもいっか」

 少年…冒険者ベアナックルがぷらぷらと手を振る。

 それが死刑執行の合図だったのだろう。エルフの手が燃え上がり、炎の剣と化す。


「―――だめっ―――」


 エルフの炎の手刀がランスロットの首に向かって振り下ろされる――――――


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 私は悲鳴を上げながら、ランスロットの前に飛び出した。



☆☆☆☆☆



「誰だ?」

 ベアナックルの不思議そうな声がする。

 私は俯せに拘束されたランスロットと、炎の手刀を振り降ろしかけたエルフの間に割って入っていた。

「プリム…」

 チラリと見やると、ランスロットが戸惑った顔をしている。

(良かった…怪我は、無い…のね…)


 いつもの覇気は無く、やはり魔力がほとんど残っていないのが解る。

 私はベアナックルに向かって姿勢を正すと、額を地面に擦り付けて懇願する。


「お願いっ!お願いしますっ!助けてっ!ランスロットを助けてくださいっ!」

 こんな事で許されるとは思えない。私達は彼等を一方的に攻撃して命を狙ったのだ。

「余計な、事を、するな…」

 ランスロットの言葉を無視し、私は地べたに這いつくばる。内心は恐怖でいっぱいだ。頭を踏み付けられるかも知れない。あの炎の手刀が私の首を刎ねるかも知れない。


(お願いします!なんとか、この場だけでも―――)

 私の必死の訴えに対して、果たしてベアナックルは―――


「いいよー」


 場違いな程明るく、気の抜けた調子で了承してくれた。

(え………?)

 激昂されるか、暴行を受けるものと身構えていた私は逆に固まってしまう。

 ホッと息を吐いて顔を上げた瞬間に、今の言葉を覆される可能性もある。

 安易に下げた頭を上げられない。

 そんな私の心情を察したのか、ベアナックルが重ねて約束してくれる。

 

「今この場で、殺すのは止めといてやる」

 私は漸くそこで安堵する。だが気は抜けない。私は恐る恐る顔を上向かせ、ベアナックルの顔色を窺う。

「ありがとう、ございます…」

 あまりにもあっさりとした答えに私は戸惑ったままだ。

(どうしてそんな簡単に許すの?私達は命を狙ったのよ?この街にも甚大な被害を出したのに―――?)


 理由が解らず、頭の中を疑問符が飛び回る。

 だがひとまず置いておこう。

 特に理由等無く、単にベアナックルの気まぐれかも知れない。気が変わる前にこの場を離れよう。


(良かった…もしかしたら、この街から脱出出来るかも―――)

 流石にベアナックルに、フォボス街を牛耳る組織との仲裁に入って貰おうとか都合の良いお願い等は出来ない。街からの追手が来る前に脱出せねば…!


(逃げるとして何処?何処に逃げれば―――)

 闇クエストを受けて、無法都市とはいえ街中で暴れ何の罪も無い住人を虐殺し街を破壊した。このままでは私達は犯罪者だ。冒険者ギルドからも除名されるだろう。

 もしも私達を受け入れてくれる国があるとしたら―――

(キャナビスタ王国…あの国から、逃げて来たはずなのに…)


「ただし」

 私が頭の中でこれからの事を考えていると、ベアナックルが私に指を突き付けて来た。


「お前を今、貰い受ける」

 ベアナックルが私の肩に手をかけてくる。

(え?)

 私はベアナックルの言っている事が理解出来ず、されるがままに押し倒されたのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ