対ジャスティス戦
「死界は封じる。アレ反動でけーし、雑魚殲滅専用だかんな」
使えばあの五人もエルフ達みたいに混乱錯乱状態に陥るかも知れんが、俺自身もダメージ食らっちゃデメリットのが大きい。
見た感じそこそこな冒険者っぽいし、生半可な攻撃は通じまい。
(五人か…狙うなら先ずは―――)
「弱い奴から」
俺は炎と熱による空間の歪みと、粉塵による視界不良を活かし、お互いの姿が一瞬見えなくなったタイミングで高速で横移動する。
走りながら地面に転がる建材を空中に蹴り上げる。
「しっ!」
そしてそれにさらに蹴りを入れ、ボレーシュートを決める。
「消え―――?」
俺を見失って動揺しているツインテールハンマー女に向かい、風を切り裂き迫る石片。
ドゴッ!
「よしっ!命中っ!」
ツインテハンマー女の横っ腹に石片は見事命中し、そのまま真横にぶっ飛ばす。
魔力を込めれば腹に大穴が開いて殺せたろうけど、あいつ生け捕りにして犯したいし、魔力付与すれば勘付かれる。ただの石片なので死んではいまい。命を大事に、だ。
ツインテハンマーは悲鳴も上げず受け身も取れず、地面をごろごろ転がり、動かなくなる。意識の外側、ほぼほぼ真横から飛んできた石片を防ぐ事等不可能だったろう。
「プリムっ!」
燃え燃え勇者ランスロットが叫んでる。
プリムっつーのかあのツインテちゃん。後で可愛がってあげるからねー?
「ひぃぃぃっ!―――あぎゃっ!?」
そんなプリムを見てアワアワしてる女魔法使いにも石を蹴っ飛ばしてぶち当てぶち倒す。
男三人は体術に優れてそうだから二発目は当たるまい。狙うなら後衛職の魔法使いさね。
女の細身の肢体が宙を飛び、燃えている死体にぶつかって倒れ伏す民衆に混ざる。
ははは。高威力の魔法より、そこら辺の石っころのが強ぇんだよ、姉ちゃん。
「エクレーラっ!」
火付け勇者ランスロットがまた名前を教えてくれる。エクレーラっつーのか。いいね、後であいつも犯そ。スレンダーで胸無さそうだけど、穴があるならいいや。顔も綺麗だったし。泣かしてぇ。
「弱ぇな。群れてるから弱いのか。弱いから群れてるのか」
「いつの間にっ!」
俺がさっきまで居た位置から大分離れた場所に現れた為、バーベキュー勇者ランスロットが驚愕の声を上げている。反応遅っ。
「ランスロットっ!私が時間を稼ぐっ!」
修道士のオッサンが拳を構える。
「お前は逃げろっ!ランスロットっ!」
無精髭の剣士も剣を抜いている。
「グレイスっ!クリーガーっ!」
キャンプファイヤーランスロットがまた仲間を紹介してくださる。
(グレイスっつーのか、あのオッサン)
「逃がすかよ。禍根は断つ。今ここでぶち殺す」
「そうはさせん」
ランスロットとの間に、修道士グレイスが走り込んで来る。瓦礫やら焼死体やらで足場は最悪なはずなのに、肩を全く上下させずに俺に向かって走って来る。
フィジカルバケモノかよ?魔法がものを言うこの世界で、よくもここまで鍛え上げたもんだわ。尊敬するぜ。
「私がお前を愛そう。私が愛を教えてやる」
グレイスはそう言って回復魔法の魔術式を乗せた拳を振るって来る。愛の押し売りは止めて欲しいぜ。
特殊効果を除けば拳の動きや体捌き等は完全にフィジカル頼みだろう。複数魔法同時発動でも出来ない限り、バフも使っていないはずだ。それでこの動きか。なんなんだこのオッサン。
「間に合ってるよ」
俺は勿論それに付き合ってやる義理は無いので、魔力で強化した肉体を駆使して脳筋聖職者とどつき合う。
「そう、エスペルと私愛し合ってる」
俺の胸の中でシルクが的外れなレスバをする。
「肉欲と愛を一緒にするな。それでは獣と一緒だ」
オッサンはあくまで俺狙いだ。シルクは眼中に無いらしい。俺は左腕でガッチリとシルクを抱き締め、シルクも魔力操作で俺にしがみついている。
俺は自由になる右手一本でグレイスの両拳を捌く。
「子作りこそ神聖な儀式だろう?大自然の摂理だぜ?寝て食って、女を犯す」
俺の拳が加速しオッサンの腕を払う。防御を無視される以上、無意味な魔法防御に魔力は回さない。身体強化で筋力を増強し速度を上げる。受けと回避に全精力を込める。
「ならば何故心は満たされない?何故さらに求める?それが答えではないからだ」
グレイスの体が回転し、鈍器の様な太い足が俺の顔面に迫る。
俺はそれをスウェーバックして衝撃をいなす。顔面に足が触れ鼻血が出るがダメージは残らない。
「愛は無限大」
俺は足裏で魔術式を発動する。足のステップで刻み付け、呪文詠唱は完了していた。
「『泥濘』」
ドプンッ
「!?」
グレイスの足が地面へ沈み込む。奴の足元の地面を泥濘ませたのだ。
「だから俺は女をたくさん抱く」
体勢を崩され死に体と化した修道士は、なんとか回避しようと体を捻るが間に合わない。俺の拳がオッサンの胸を貫く。
「ぬぐっ」
グレイスが呻き血を吐く。速度重視の身体強化なので致命傷ではないだろうが、内臓にまでダメージは通せた様だ。
「あんがとよ。アンタの愛は要らねーが、その技術は頂いとく」
「な、に?」
俺が他人へ慈愛や慈悲を施すには色々と無理があるが、尊敬と感謝くらいならギリ出来るからな。
俺を体一つでここまで追い詰めて来たオッサンに敬意を表する。
「回復魔法拳」
ドボッ!
「ぬがっ!」
俺の拳がグレイスの体に触れると、回復魔法がグレイスの傷を癒す。
それにワンテンポ遅れて、弛緩し無防備となった肉体に俺の拳が深くめり込む。
「ぐはぁっ!」
骨をへし折り内臓を傷つけ、グレイスの体を殴り飛ばす。
「痛ぇ…これが愛ある拳か。殴る方も痛ぇじゃんよ」
魔力によるバフデバフを無かった事にし、原始的な殴り合いにまで相手を引きずり下ろす台無しな戦法だ。泥臭くて美しくもないし、何より疲れる。
だがそれでも…
「悪くねーな」
極めればあのメンヘラに一矢報いる一助になるかも知れん。魔族は魔力の塊だ。あの魔法防御を突破して魂本体にダメージを通さなければならない。
そのヒントになるかもな。
「くっ…勝手に、学ぶ、な…」
まだ立ってやがる。バケモンかホント。
「技は盗むもんだろ?先生?」
戯けてそう嘯いてやる。
「ふっ…」
俺の言葉を聴いたグレイスは微かに笑うと、大の字になって倒れていった。
「さて、やるか?」
残るはクリーガーとか言う剣士だ。
「いやいや降参降参」
俺とグレイスとの一騎打ちを見守っていた無精髭の男をチラリと見やると、やる気無さげに手をぷらぷらしている。
戦闘のどっかで介入してくるかと踏んでたが、間合いの外から俺の意識を散らして邪魔してきたぐらいだ。居るだけで苛つかされたけど。
「降参だぁ?今更許すかよ?芋引くくらいなら喧嘩売ってくんじゃねーよ」
俺が一歩踏み出すと奴も一歩下がる。
「俺は、降参。戦っても勝ち目無さそうだしなぁ」
笑って嘯くそいつからは胡散臭さしか感じない。ニヤつくその面からは敗者の雰囲気が感じない。
(何企んでやがる?)
「それに俺の仕事は終わった」
顎髭をジョリっと撫でながら嫌な笑みを浮かべる。
「ほれ、本命のご登場だぜ?」
………なるほど、そう言う事か。
「時間稼ぎ…か。てめぇ、図ったな?」
「さてね、何のことやら」
なーにが逃げろ、だ。嘘吐きめ。
「後は頼むぜ、大将」
そう言うとクリーガーは倒れたグレイスをひょいと担いでさっさとトンズラしていく。
「野郎…」
あの無精髭、一番最初に倒すべきだったかもな。影が薄くて後回しにしてたが…失敗、失念してたぜ。
一番油断し易い相手こそ、最も警戒すべき敵なんだ。
「ありがとうグレイス、クリーガー。すまない、プリム、エクレーラ…」
ズシャッ…
俺の目の前にそいつが現れた。
石片で覆われたその姿はリビングメイルかストーンゴーレムみたいでちょっとカッコイイな。
「ちょっとカッコイイじゃねーかてめぇ」
「褒めても楽には殺さないぞ?」
フルフェイスの兜の奥からランスロットの声が聴こえて来る。
「では死ね。悪党。そのエルフを返して貰う」
「てめーのもんじゃねーだろうが、殺戮の勇者様ぁ」
勇者ランスロットは土魔法により創造した甲冑を身に着けていた。これが奴の全力戦闘のスタイルなのだろう。
光の象徴たる勇者様のフルアーマー姿。
しかしその威容はドス黒く醜悪だ。
恐らくは地面の土から鉱物を吸い上げ結晶化させているのだろう。
しかし、ここは赤黒い痩せた土地のケイオス地方。
さらには勇者様自らが燃やして焦がして血塗れにした土地だ。
そんな土で鎧を作りゃ、そりゃぁ赤黒くて血みどろの鎧になるわな。
「知ってるか?勇者様ぁ?」
俺はシルクを守る様に半身の構えを取る。
「何?」
勇者も剣を片手で構え応じて来る。分厚い鎧で着膨れしているため両手で持てないらしい。
「最後の奥の手で変身する悪者は、負けるのが鉄則なんだよ」
昔読んだ物語で出て来る魔王とかは、変身した後に勇者にボコられてる。お約束だぜ?
「悪は、貴様だ」
兜のスリットの奥で、青い目が爛々と光っている。
「住民こんだけ焼き殺したのお前じゃん」
俺が素で返す。
「言うなぁっ!」
事実を言われたランスロットが激昂する。
炎の魔法剣を携え、石甲冑の勇者が猛然と襲いかかって来た。
☆☆☆☆☆
「覇王鎧っ!」
ランスロットがその重量からは信じられない速度で動く。
(肉体へのバフ…だけじゃない。風魔法の補助か―――)
見えないが背中にもスリットか何か作ってあるんだろう。そこから圧縮した空気を噴出させて地面を移動して来る。飛んではいるものの足を地面に引き摺っているために土埃が酷い。
「死ねっ!罪の無い者達の無念を知れっ!」
ランスロットの振るう炎の魔法剣を、魔力強化した右腕で捌く。あっちぃ!
「だからっ!殺したのお前じゃんっ!」
腕あっつい。火傷した。そして住民虐殺はコイツが殺ったんじゃん。あれ?もしかして強引に俺の所為にするつもりか?
(キャナビスタのクーデターも、なんか違和感感じるんだよな?)
得をした人間が限定的過ぎる。クーデターは成功しようが失敗しようが国力低下は否めない。しかし何故か、あのクーデターにより逆にキャナビスタは持ち直した。
保守的で受け身、優しいが弱腰だった国王や王太子達は死に、苛烈なまでに有能な王妃が女王となった。
継承権第一位となったリファーナ姫も女王と同じ、いやそれ以上の才覚を見せてメキメキと成長し、社交界にて国内外にその強い政治力を示している…て、新聞に書いてあったよ。
(何より勇者ランスロット。コイツの存在がデカイ)
クーデター後の国力低下中のキャナビスタなんぞ、周辺諸国から武力介入され、ハイエナやハゲタカ共の食い物にされてしまってもおかしくない。
(だがキャナビスタには勇者が居る)
これ程の戦闘力だ。王宮に出現したモンスターの大群を殲滅したのは事実だろう。
キャナビスタに手を出せば、単騎で一騎当千、いや当万の働きをする勇者を差し向けられる。
故に周辺諸国はキャナビスタ王国に対し、救援物資や資金援助等の申し出でご機嫌取りを行っている。その対応の良さはクーデター前よりも手厚い。
どさくさ紛れに反王政の貴族達を残らず処刑したりもしてる。そんな女王の手腕により、キャナビスタはより一層強い国になるだろう。
「あのキャナビスタでのクーデター…まさか女王と組んで自作自演したんじゃねーだろーな?」
俺が戦闘の最中、そうポツリと訊いてしまった。失言だった。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うわぁっ」
しまった。キャナビスタの話は地雷だったかー。
後悔先に立たず。俺の不用意な発言にぶち切れて、爆発的に魔力が上昇する自作自演勇者ランスロット。
鎧の表面を走る赤黒い筋は、まるで血管の様に蠢いている。魔力供給管の役割を果たしているのだろうが、なんだろう?血管浮き出た男性器みたいな禍々しさと卑猥さがある。
「この猥褻物陳列勇者ぁっ!」
俺が野次を飛ばす。
「わいせつぶつ?どう言う意味?」
キョトンと小首を傾げるシルク可愛い。
「意味の解らん事をっ!」
ゴオオオオオオオッ!
勇者の握る大剣が火を吹く。伸びる。刀身がどんどん伸びてゆく。
ランスロットの魔力は鎧に一旦供給され、血液の様に高速で循環して剣に注ぎ込まれていく様だ。
覇王鎧とか呼んでたその鎧は、見た目と名前通り鎧の役目だけでなく、魔力を増強増幅するブースターの機能もあるらしい。
先程の一発目とは比べ物にならんくらいの長さと太さの炎の剣が天を突く。
「覇王炎殺―――」
「うおおっ、やべやべっ」
俺は体の魔法防御を解いて足に集中させる。あんなの防ぎようがない。
「天衝斬」
ズバァァァァァァァァァァァァンッ!
ランスロットの振り下ろした炎の大剣が地面を、建物を、転がる焼死体を両断する。
ゴバァッ!
地割れが起こり、地面が真っ二つに裂ける。
「これが―――勇者かっ!」
少々なめプが過ぎた様だ。相変わらず大味なので当たる事は無いが、アレを喰らえば流石の俺も即死する。俺は足に魔力を集中させて回避を成功させていた。肉体にバフをかけてもあれには意味が無いぜ。
「死ぬ気は無いが、今はマジで死にたくねーな…」
俺が死ねば魂はシルクと引き離され、あのメンヘラ元嫁にとっ捕まる。
「………もしかして、あのメンヘラの差し金か?」
いや、考え過ぎか?ここでアイツと出会って、アイツがシルクを狙ってたのは偶然。たまたまなはず…だよな?
魔王姫が勇者を陰で操り、差し向けて来る?
(だとしたらゾッとしねーな)
俺の体も心も手に入らないなら、魂を手に入れちゃえばいいじゃない…って事か。
あの婚姻魔法による生まれ変わりとかあんま信じちゃいねーけどよ。あのメンヘラに魂を捕らえられたら二度と転生出来ないかも知れん。シルクとも二度と会えないかもな。
「嫌だ。俺はシルクと一緒に居たい」
「エスペル」
俺がシルクを抱き締めると、シルクが俺の頬にキスをしてくれ、ペロペロと舐めてくれる。
シルクは腕が無いから、頭を撫でてくれる代わりによく舌で顔を舐めてくれる。犬か猫みたいだニャワン。
「――――ぐふっ」
俺の口から血が溢れる。しまった。
気配がしなかった。油断は出来ない相手だって…さっき認識したはずだったのに―――また騙された。何が『俺の仕事は終わった』だ―――
「悪いな。俺達はパーティーなんでな。冒険者パーティージャスティス。よろしくな?そしてさよならだ、勇者エスペル」
真後ろから飄々とした声が聴こえて来る。
冒険者パーティージャスティスの剣士、クリーガー。
殺気が無い。そうか、あくまでビジネスライスだからか。ランスロットの殺意が高過ぎて、針の穴を通す様な小さな殺気を、見逃した………
俺が魔法防御を解く瞬間を狙っていたのだろう。
ランスロットが大技を出し、俺が避ける為に足に魔力を集中する。正に絶好のタイミングだワン。
「性格悪ぃごぷっ、奴だニャ」
致命傷ではない。だが肺を貫かれた。呼吸が上手く出来ない。そして何より…
「シルク…」
俺の背後から左肺を貫通した剣は、シルクの首をも貫いていた。
「エ、スペル…」
可愛らしい唇から血の泡が零れる。
ビュッ!
剣が引き抜かれ、俺の胸とシルクの首から大量に血液が噴き出し始める。
ああ、血を流すシルクも美しいな。
(回復魔法で肺を治す。足に魔力を集中させて逃げる)
俺はそう思考しながらシルクの唇に唇を重ねる。溢れた血と血が混じり合い、死の接吻を交わす。
そして俺は…
「これで、よし」
俺は膝を折って地面に蹲る。
回復魔法の術式が途切れ、顔面や首の傷口も開いてまた血が溢れて出て来る。
「エスペル?」
目を見開いたシルクが驚いた顔をしてる可愛い。
俺は…自分の肺ではなく、シルクの首の傷を完治させていた。
(いや、馬鹿か?先ずは自分を治して移動してからでも、シルクの、治癒は、間に合った―――)
だのに、シルクを優先してしまった。
これが婚姻魔法の力かね?まいったね。
そしてその時―――
「トドメだ…」
ランスロットの無機質な声が、俯く俺の頭上から聴こえてきたのだった。




