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勇者の異母姉その3 闇クエスト『奴隷エルフ奪還』

 私達冒険者パーティージャスティスは、ようやくフォボス街へと到着した。

 ケイオス地方、混沌山脈の麓、フォボス街。

 私は来るの初めてだったけど、聞きしに勝る混沌っぷりよね。


 私達が活動してきた国々は亜人種は珍しかった。迫害差別まではされていないけれど、お互い何処か余所余所しい感じ。

 しかしこの地はむしろ人間の方が少ないのでは?そう思わせる程に、異彩を放っている。

(総数で言えばきっと人間のが多いんだろうけど…)


 獣人やエルフ、ドワーフらしき亜人種が大手を振って街を闊歩し、人間は陰に回っている感覚だ。

 それも当然だろう。ランスロットの様な特別な存在を除き、人間は他の亜人種より様々な面で劣っている。

(だけど格差ではなく、適材適所かな)


 冒険者らしき者達と何度かすれ違ったが、人間より亜人種がリーダーを務めているパーティーのが多かった。

(人間が優れているのは商才、とかかな?)

 通りで店を構えている亜人種も居るが、商いの形態は人間のそれと変わらない。オーナーやプロデュースは人間だろう。


「魔族?」

 ランスロットが剣呑な響きでその単語を口にする。

 獣人族とは違う、禍々しい角や翼を生やした者達も街中を普通に歩いている。

「なんと邪悪な…」

 グレイスが顔を顰めている。珍しい。

「あれは半魔族だよ?落ち着いてよ」

 私が慌てて待ったをかける。

 いつもストッパー役をしてくれるはずのグレイスがなんだか殺気立っている。

(教会とは、亜人種とか半魔族とかの処遇を巡って揉めた事があるって言ってたけど…まさか―――)


 教会は亜人種や半魔族に好意的ではない。かつては迫害差別を主導してきた黒歴史もある。だがそれを反省し、なるべく友好的な歩み寄りをしているのが近年の主流だ。

(まさかグレイスは―――)


 教会に寄付が出来ずにまともな治癒がされない貧困層の為に無料で回復魔法を行使していたためクビになったって聞いてたし、それも嘘ではないのだろう。

 彼が見ず知らずの人間に治癒を施していた場面は何回も見ている。だけど…そもそも機会が無かった訳だけども…

(亜人種に回復魔法…かけた事あるっけ?)

 あるとしたらあの奴隷エルフの時ぐらいだ。


 異端審問…

 邪教滅殺…

 亜人種撲滅…

『人であらねば人に非ず』

 物騒なスローガンを掲げる…

 

(原理主義の強行派?嘘でしょ?)

 あの奴隷エルフを治癒してた時の厳しい表情は義憤に駆られていた訳ではなく、まさかの…

(エルフ…亜人種そのものに向いていた?)

 私はその時初めて、穏やかで寡黙な仲間の修道士に、薄気味悪いナニカを感じたのだった。


「さぁ、早速聞き込み開始だ」

 ランスロットが気を取り直して皆に伝えている。

 本来だったら冒険者ギルドの情報網を活用したいところだけど私達は今、闇クエストを引き受けてしまっている。自分達の足で手がかりを探すしかないのだ。


(…報酬も受け取ってないから、まだ引き返せるんだけどね…)

 あの血文字によるダイイングメッセージ。エクレーラの解読によればエルフの里の座標も書かれていたらしい。そのシルクってエルフを連れ帰って欲しいと言う事なのだろう。しかし、エルフの隠れ里の場所と言う情報自体に価値がある。

(ハイエルフが殺されたとか御神木が枯れたとか物騒な言葉もあったけど…)

 囚われたエルフを救け、連れ帰った時に報酬を貰う算段ではある。


 しかし今気がかりなのは報酬や闇クエスト依頼に関してではない。ランスロットの精神状態だ。

(ランスロットも義憤に駆られたってよりも、正義を貫ける場所を求めてる感じがする)

 言い方は悪いが八つ当たりだ。ランスロットはキャナビスタ王国でのストレスを発散する場所を求めている。


 具体的に言えば、可哀想なエルフを救けたいんじゃない。悪い事をする奴を正義の名の下にやっつけたいだけだ。

「ねぇ、クリーガー…ランスロットとグレイスから目を離さないで…」

「ん?ああ…」

 私がクリーガーに声をかけると彼は不思議そうにしていた。ランスロットが熱くなって盲目的になる事はたまにある。その度に周りがフォローしている。

「大丈夫よ。私もついてるわ」

 そっとエクレーラも声をかけてくれる。


 良かった。まだ私は仲間に恵まれている。

「うん。ありがとう…」

 寡黙なグレイスは父親の様に、だらしないクリーガーは兄の様に、頼れるエクレーラは姉の様に…私は慕っていた。事ある事に妹扱いしてくるけど、一つ年上のランスロットはすぐ熱くなるので、弟分みたいだと私のが思ってるしね。

 

 冒険者パーティージャスティスは、私のもう一つの家族だった。

 信じよう、仲間達を…

 信じよう、血を分けた兄であるランスロットを―――



☆☆☆☆☆



 このフォボス街に来てパッと見でエルフっぽい娘達はほとんどハーフエルフみたいだったし、特に奴隷だったり拐われて来たと言う感じでもなかった。

 純粋なエルフ女性も見かけたけど、ゴリゴリのベテラン冒険者でした。はい。


「エルフ奴隷の売買が合法とはいえ、流石に真っ昼間の往来を連れ回してはいねーか」

 クリーガーが頭をかき、本格的に聞き込みを開始する。威勢良く宣言したもののランスロットはやや圧が強い人間なので警戒心を持たれがちだ。

 交渉役、折衝役は基本クリーガーや私になる。私は小柄の女性…ちびっ子とかちんちくりんとか言われちゃうので…不本意だけどなめられ易い…なので、気怠げだが愛想の良いクリーガーがコミュニケーションを取る事が多いのだ。不本意だけど。


「見慣れないエルフ?…そう言えば人間のガキがエルフ連れてたなぁ」

 大通りの露天商の人間に訊ねてみる。この街にもエルフは居るらしいが、やはり大半はハーフエルフらしい。

 半魔族や半獣人等、混血によりどちらの側からもはみ出してしまった者達の行き着く寄る辺なのだろう、このフォボス街は。


「そのガキならアビ横に入ってくのを見たぜ」

 半魔族や亜人種に声をかけるのはランスロットやグレイスの反応が怖くて止めておいた。何人かの人間を見つけては聞き込みを続けていると、なんとなくだが足取りは掴めてきた。

(そのエルフがシルクってエルフなら良いんだけど…)


「アビ横?」

 ランスロットが重ねて訊ねている。

「アビス横丁だよ」

 男が指し示す方に、大通りから外れた古びた街並みが見える。

(あれ?あんな所に通りがあったんだ…?)

 言われて見つけて認識したはずなのに、ちょっと目を離すとその横丁への入り口が解らなくなる。


「あそこの魔法屋なら契約魔法も売ってるぜ?奴隷契約に使い魔契約。エルフをそれで縛れば後は犯し放題だなぁ。キシシシシッ」

 下卑た笑いをする男に銀貨を手渡すクリーガー。


「アビス…」

 大魔境に存在すると言うアビスの大穴。

 別名奈落の底とも言われる底無しの穴だ。

 不吉なんてもんじゃないだろう。

 私達はアビス横丁へと入る。

 見慣れないエルフにそれを連れた人間。

 契約魔法を売る魔法屋。

 何か手がかりが見つかれば良いんだけど…


「なんと邪悪な…」

 アビス横丁へ入ると、グレイスが歯を剥き出しにして周囲を睨んでる。なんか怖いよ?こんなキャラだっけ?

 私は愛用のハンマーの柄を握り締める。

 体格が良ければ背中に吊るしたりするんだろうけれど、私は小柄なので杖の様にハンマーを常に手に持っている。背中に背負うと引き摺っちゃうんだよね。


「邪悪と言うか、怪しさ満点だよね」

 アビス横丁はやや窪地に作られているのか、奥へ進む程に段々と下へ下がって行く感じだ。

 そこに複雑怪奇に入り組んだ路地が走る。上を見上げれば色々な国の言語で殴り書きされてる看板が目に入る。見た事も無い文字で書かれていてなんて読むのかさっぱりだ。


「まるで異界に来たみたい…」

 見かける住人も地べたに座ってボウッとしている人とか、よく解らないお店のやる気の無い店番とかしか居ない。大通りの活気が嘘みたいだ。

  

「あれ?通り抜けちゃった?」

 魔法屋らしきお店を探しながら歩いていた私達は、アビス横丁をするりと出てしまっていた。

「変だな?見落とした?」

 もしかしたら細い路地裏にあるのかな?

 私が首を傾げていると、クリーガーが顎髭をぞりっと撫でながら神妙な顔をして呟く。


「…何かの魔術式だな。道迷い、人払いの結界」

 クリーガーは魔法職でないのにこういうトラップに詳しい。盗賊職みたいな斥候や罠解除とかも出来る。

「悪人防止の結界だな」

 クリーガーの言葉にランスロットが反応する。

「悪人だと?」

「主観的にはな」


 ランスロットが睨むと皮肉げに口の端を歪めるクリーガー。

「今のこの場合、店に悪感情を持ってる俺達は悪人なんだよ。エルフを奴隷にしようって上客なんざ、金払いの良い福の神…使役者に利益をもたらす善人なのさ。そして俺達はそのエルフ奪還クエストの真っ最中。悪党、強盗認定だろうよ。善悪は使役者の主観に委ねられる。力の在り方の基本だろ?」

 飄々とした物言いに誰も反論出来ない。


「ならばどうする?」

 ランスロットがアビス横丁の出入り口を睨みつけている。剣を抜いて街そのものを破壊し始めてしまうんじゃないかと心配になってくる。

(嫌だな…)

 弱く、苦しめられてる人々を救おうって誓い合った仲なのに…


(ランスロットの笑った顔…ずっと見てないかも…)

 望まぬ功績により勇者認定されてからランスロットも、私達も何処かおかしくなってきている…


「二手に分かれようぜ。ランスロットとグレイスはどうやら悪感情が強過ぎる。悪を憎む正義の心は勇者には大切だが、今は不利に働いてるな」

 二手?誰と誰?

 クリーガーにぽんと肩を叩かれる。


「俺とプリムでその魔法屋は探す。ランスロット、エクレーラ、グレイスはフォボス街の奴隷商を当たってくれ。こっちがハズレの場合もあるしな」

 …人選には文句は無いかな。

 

 ランスロットとグレイスは亜人種…と言うより半魔族や、このフォボス街そのものへの反感の様なものがある。魔法屋の店主が半魔族とかだった場合、ちゃんとした交渉が出来るか怪しい…し、そもそも辿り着けないかも。

 その二人を抑えるには私よりも年上のエクレーラのが向いてるだろう。


(ランスロットにはいつまでも妹扱いされるし…)

 アビス横丁の魔法屋に人払いの結界が張られてるなら、クリーガーの経験や技術は必要だ。消去法によるメンバー分けだった。

 …………だったんだけど―――



☆☆☆☆☆



「あれ?クリーガー?」

 私はいつの間にか、クリーガーとはぐれてしまっていた。

 周囲を見回せば怪しげな店が軒を連ね、多国籍な看板が視界を埋め尽くす。探せば人は居るが活気は無い。招かれざる者を拒む街、アビス横丁。

「仕方無い。一旦外に出るか…」

 私はアビス横丁を通り抜けようと足を踏み出し―――


「!?」


 物凄い悪寒を感じて、動けなくなった。


「なに、これ――――――」


 キャナビスタ王宮でモンスターが溢れ返った時に感じた嫌な気配に近い感覚だ。いや、プレッシャーはその比ではない。


(ナニカが来ている)


 直感でそう悟る。

 魔境のモンスター、いや大魔境?もしかしたらそれ以上の上位互換―――魔族?


「うえっおええっ」


 私は思わず道端に嘔吐してしまう。


(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だこの場に居たくない死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ殺される――――――)


「ぐはっ!?」

 脳内がスパークし、突然巨大な壁に叩きつけられる。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 何時間も発狂していた様な気がしたが、恐らくは数分の間の出来事だろう。


「………はぁ…はぁ…た、たすかっ―――た?」

 いつの間にか悪寒も嫌な気配も遠のいていた。

 壁だと思っていたのは地面だった。私は倒れていた。


「なん、だった、の―――?」

 私は這いずる様にしばらく地面を進み、ふと見上げてそれに気付く。

「…廃…虚?なにここ?」

 そこは元は何の店だったのか、看板は外されており解らない。

 そもそももう建物の体裁を保てていない。

「酷い…」


 廃虚と言う印象を持ってしまったが、思ったよりも古くない。つい先程まで営業していた様な感じだ。だが壁は凹み建材はひしゃげ建物の骨組みが飛び出している。

 嵐に飲み込まれたり、暴徒に襲われてもこうはなるまい。まるで…そう、まるで―――


「まるで、巨大な手に、握り潰された…みたい…」



☆☆☆☆☆



「よぉ、遅かったな」

 その後私がアビス横丁をなんとか抜け出すと、出入口付近に皆が居た。

「クリーガー何処行ってたの?」

 私は声をかけてきたクリーガーに問いかける。

「それはそっちの主観だろ?俺からしたらプリムがいつの間にか消えてたんだぜ?流石アビ横ってとこか」

「……そうね」

 私は少し納得いかなかったが話を収める。人払いの結界のせいではぐれたのだろう。クリーガーがあそこで姿を消す理由も無いものね。


「その様子だとそっちも成果無し、か」

 ランスロットは相変わらず表情が固い。

「そう、だね。嫌な感じのする廃虚はあったけど…」

(あそこは気になるけど、エルフが居るとも思えないし…)

 奴隷がどうのこうのと言う次元ではない存在が関与していた気がする。関わらない方が良い。


「ランスロット達の方は?何か手がかり掴めた?」

「…いや…」

「………」

「…」

 ランスロットだけでなくグレイスもエクレーラも黙っている。

「え?どうしたの?」

 そこで私が気付く。


「ちょっ―――剣に血が…」

 ランスロットの腰にある剣の柄に…血が付いていた。しかしランスロットに怪我をした様子は無い。ならば…返り血?て事は―――


 私は目眩を覚えて蹌踉めく。

(嘘でしょ?目を離すんじゃなかった…また、また人を―――)


「また人を殺した、の?」

 腹違いの兄に、震えながら問い掛ける。

「人は、殺していない。魔物だ。魔物が出たんだ」

 ランスロットは目を逸らさずに真っ直ぐにこちらを見つめそう答える。ハッキリ断言されたのなら、信じるしかない。

「そう?…なら、良いのだけど…」

 しかしいくらケイオス地方とはいえ、街中にモンスターなど出るのだろうか…?


「俺の事が信じられないのか?プリム」

「う、ううん、ごめん…」

 逆に私が目を逸らしてしまう。

 キャナビスタ王国での一件から、ランスロットは変わってしまった。

 潔癖さが増し、比例する様に容赦の無さも増していた。アレストラでスカムバーグ貴族を迷い無く斬り殺した事もそうだ。


 冒険者に成り立ての頃は、野盗でも峰打ちとかで手加減していた。段々腕や足を斬り飛ばす様になり、今ではもう首を落とすのに何の躊躇も無い。

 今のところ間違えて、犯罪者や賞金首以外を殺してはいないが、いつか取り返しのつかない事になりそうで怖い。


「なんだいお前ら。やっぱ俺が居ないと駄目だなぁ」

 私達を見回してクリーガーがニヤリと笑う。

「お目当てのエルフの情報、なんとか仕入れたぜ?」

 クリーガーの言葉に違和感を覚える。

(いったいどうやって?)

 しかし私は、その疑問を投げかけるタイミングを逸する。


「何処だ?何処に居る?」


 誰かを救いに行くにしては敵意と殺意をギラつかせ過ぎているランスロットの圧を受けて、私は疑問の言葉を飲み込んだのだった。



☆☆☆☆☆



「あれがそうかな?」

「どうだろうか」

「ちょっと遠いわね」

「お人形みたい。綺麗…」

 私が思わず見惚れる。金髪碧眼にスッキリした目鼻立ち。長い耳に…睫毛長っ…フリフリレースのヒラヒラドレス。首元にルビー?のチョーカー。

 私よりも年下に見える少年に抱き上げられている。

(精巧な人形なのでは?)

 あまりの美しさに私がそう思った時だった。


「動いた」

 お人形さんの様なエルフが少年を見上げて口を動かした。生きている。そりゃそうか。

「ん?」

 笑顔だ。

 まるで恋人同士の様にニッコニコで語らいあっている。

「あれ?奴隷なの?」

 私の戸惑いをエクレーラが正してくれる。

「隷属の首輪じゃない?あの首輪の魔石、相当強力よ?」

「そう、なのかな?」

 私には操られてる様に見えない。いやま、魔法に関しては素人もいいとこなんだけど…


「あれ?」

 そのエルフを見ていたら、突然泣き始めた。泣きながら少年に何かを訴えている。

 それはまるで―――

 

「泣いている。決まりだな。奴隷エルフだ。シルクと言う名かは今確かめる。違っても救い出す。気付いたか?あのエルフ…四肢が無いぞ」

「あ、ホントだ…」

 気付かなかった。袖やスカート部分が長いドレスだったからかな?いや、それ以上に………


(あの娘の顔が、本当に幸せそうだったから―――)

 

 今もあのエルフの目からは大粒の涙が零れている。しかし、その少年はそんなエルフを抱いてあやしている。

 

「行くぞ」

「ちょっ!待ってランスロット―――」

 ランスロットが駆け出して行ってしまう。ああもうっ!これじゃいつも通りだよっ!先走らないでって言ってるのにーーーっ!

 

 私達も慌ててランスロットの後を追う。

「あれ?」

 そこでようやく違和感の正体に気付いた。

 

 隷属の魔法をかけられたら感情も完全に支配されると聞いた事がある。

 自由に泣いたり、主を困らせたり等出来ない。

 その感情の余地を残してる?

 愛玩用だから?

 そういった細かい設定も可能な高度な魔術式?

 いえ、そう言う事じゃなくて、もっと根本的な部分―――


(拗ねて泣いてた?)


 直感でそう感じた。

 まるで、そうまるで…


(恋人が違う女に目移りしたから、少し大袈裟に泣き真似した…みたいな?)


 ランスロットがリファーナ姫と結婚する流れになった時、ランスロットの意思とは関係無いと解っていてもショックだった。

 なんだか、自分が情けなくて泣けてきた。

 腹が立つのも合わせて目から涙が零れたらランスロットが焦って、皆がランスロットを責めてくれた。

 

 あの時の私はわざとではないが、あれに近い気がする。

 拗ねていじけて、意中の男の気を引く?


(どう言う事?愛し合ってるの?あの二人…)


 誘拐犯に拐われた被害者が犯人と恋人になったり夫婦になってしまったりする事もある。

 それなの?

 それにしては、凄く大切にされている気がする。

(あ、ランスロットが話しかけてる)


 手足が無いのは痛まし過ぎるけれど、それだってあの少年がやった訳ではないのかも知れない。

 もしかすると、あのエルフを酷い目に遭わせた悪党からあの少年が救い出した可能性もある。てゆーかそうなんじゃないの?だってもーラブラブじゃんよー?


 そうだ、先ずは話を訊こう。剣を抜くのはそれからだ。

 そもそもあのエルフがシルクと言う名前じゃないかも知れない。そしてシルクだったとしても同じ名前の別エルフかも知れない。


(流石にランスロットも、いきなり斬り掛かったりはしないわね)

 良かった。先ずは話を―――………

「ん?」

 ランスロットの大きな声が聴こえた気がした。雑踏にまぎれよく聴き取れない。

 いったい何を話して………


「!?嘘でしょっ!」

 私が悲鳴をあげる。

 ここからでは、あの少年とエルフと、ランスロットとの会話は解らなかった。

 だからどんな流れかは解らない。

 だが抜いた。

 抜いてしまった。

 天下の往来で、無法都市とは言え亜人種ばかりとはいえ白昼堂々、一般人がひしめき合う大通りで―――


「ランスロットっ!だめぇぇぇっ!」

 ランスロットが愛剣を天に掲げている。

 そしてそのランスロットの剣が―――


ゴオゥッ!


 文字通り、火を吹いたのだった。

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