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エルフの嫁入りその9 新婚旅行

 メルカトルのキャラバンでの旅は快適だった。馬車を引く馬は良く世話をされているのか人間に懐いており、私が精霊を介して話しかけると挨拶を返してくれた。

(メルカトルは信用出来る人物のようね)

 動物に好かれる人間に悪い人間は居ない…は、言い過ぎかもだけど、一つの目安にはなるわ。


 私は馬車に揺られるエスペル…の膝の上?胸の中?に居る。エスペルは私を抱っこして果物を食べさせてくれている。甘い。好き。

「美味いかシルク?」

「うん。美味しい。好き。エスペル」

「そうか気に入ったか」

 なんだか少しすれ違った気もするけれど、エスペルも満足そうで何よりだ。

 窓の外の景色は荒野と混沌山脈、そして砂埃しかないけれど素敵な旅だった。こんなにゆったり過ごしたのは久しぶりかも。


 そうして私達は無事にケイオス地方、混沌山脈の麓、フォボス街へと到着した。

 私を抱き上げたままのエスペルが興味深そうに周囲の街人達を見回してる。うふ、可愛い。

「獣人だ。ドワーフも居る。ありゃぁ魔族か?教会の力が強い国だったら見つかっただけで殺されるな」

 ………エスペルは、胸やお尻が大きい方が好みなのかな?さっきから目線で追ってる亜人種の娘のタイプがそんな感じなんだけど?獣人族は特に大柄で豊満な女の子多いからね?


(今度は人間見てるし。エスペルってやっぱり女の子好きよね?エッチよね?)

 私は男性と付き合うのも人間と深く付き合うのも初めてなので全部エスペル基準になってしまう。エスペルが普通なのかなぁ?

「あ」

 獣人が先頭を歩く一団とすれ違う。ドワーフや人間に混じってエルフの女性も居る。

(私より年上ね…)

 何処の里の人だろう。年齢も魔力も私より上だ。弓や剣の腕もきっと上だろう。私今腕無いけど。


「………………」

 先ず彼女は私の四肢の無い姿を見て剣呑な気配を放つ。エルフかそれ相当の精霊魔法の使い手でなければ解らないぐらいの微かな殺気だ。

 続いて私の目を見て私の耳を見、さらに首を見る。

「!?」

 そして私の首にあるロックドラゴンの魔石を見て、一瞬だけ驚いた様に目を瞠る。

 私が安心する様に頷きエスペルに抱き着くと、彼女は幾分和らいだ表情になり私から視線を外した。

(…私の姿を見て奴隷かと思ったのね)

 目を見て隷属の魔法がかけられてないか判断し、耳を切られてる犯罪者かどうかもチェック、最後に隷属の首輪をしてるか確認したのだろう。

 そして強力な魔石が使われたチョーカーを見て驚いた。そこでさらに私がエスペルに心を開いてる事をアピールして、ようやく警戒を解いた感じだったわ。


「かっかっか。なかなか良い街じゃんよ」

 今の一瞬の緊張感と私達の遣り取りに気付いていたのだろう。エスペルが笑っている。危ないわね。あのエルフが襲って来たらまた皆殺しにしちゃうわよ。それで私からあのエルフに乗り換えられたら堪らないわ。


(………やっぱりこの魔宝石だけじゃ足りないかも…)

 このチョーカーも素晴らしい結納品だったけど、エスペルに取り上げられたり、何者かに奪われたらそれでお終いだ。

(もっと何か…魂で繋がれる絆が欲しい…)

 私は散々エスペルに愛されてしまった所為で人間の価値観に毒されてしまった様だ。欲望が止まらない。もっと欲しい。もっと愛されたい。もっとエスペルの愛が欲しい。


(エスペルとの愛の証が欲しい…)

 そうなると子供を作るのが人間的には一般的なのかしらね?エルフは滅多に子供が産まれないから、里に新しいエルフが産まれたら皆で育てるのよね。

 自分の子供、ましてやハーフエルフの子供等育てた経験は無い。

(エスペルは子育てはしてくれるのかしら?)

 四肢の無い私の世話は嫌な顔一つしないで丁寧にしてくれている。きっと大丈夫だろう。


「おい、ベアナックル。一応気をつけろ■?絡まれても殺しは無■?無法■が一応ルール■ある」

 別れ際にメルカトルが声をかけてくれた。

 メルカトルの隊商は皆優しくて親切な人達だった。エスペルが良いお客様だったからと言うのもあるでしょうけど、それを差し引いても私にもとても親切だったわ。

 これから出会う人間が皆メルカトルみたいな人達なら良いんだけどね。

「解った気をつけるよ。ありがとさん」

 エスペルがメルカトルに礼を言い、フォボス街を歩き出した。ここからまたエスペルと二人っきりね。これって、新婚旅行って言うもので合ってるかしら?



☆☆☆☆☆


 

 エスペルは私を抱きかかえながらフォボス街を歩く。途中の露店に、凄く周囲の精霊が騒いでる物が売ってた。何あれ怖い。

 エスペルも気付いてたみたいだけど興味は湧かなかったみたいでホッとする。

 半魔族の女性やハーフエルフの男性とか、本当に多種多様な人種が居る街だと思う。

 そんな時だった。

 

「おい、兄ちゃん。いいもん持ってん■」

「それ置いてけ■」

 私達の前方を塞ぐ様に獣人と人間の三人組に阻まれた。どうやら私に目を付けたみたいね。エルフは高く売れるらしいから。けれど…

(あ、まずい―――)


「(殺し合え)」


 エスペルの邪眼一閃。

 男達はそれぞれの武器を懐から取り出し仲間同士で刺し合ってしまう。

「ああ〜…」

 メルカトルから注意されてたのに。

 

 ……………でも直接手を出してないからセーフかしらね?

 周囲の通行人も特に気にしていない。こんな事は日常茶飯事なんだろう。

「お前は俺の女だ。誰にもやらん」

 エスペルが私を抱き締めて額にキスしてくれる。

「…うん…」 

 幸せな気持ちでいっぱいになった私は彼に頬擦りする。ああ、胸とお腹の奥がキュンッてなっちゃうじゃない。もう…


 その後しばらく進むと、やたら入り組んだ上に魔力の流れが滅茶苦茶な場所にやって来た。

(結界?うちの里と同じ…)

 道迷いの結界。人払いの結界。

 許可を得た者か正しい手順を知る者、もしくは結界の効果を無視出来る程の強者でなければ目的地に永遠に辿り着けなくする魔術式だ。


「あったあった魔法屋はっけーん」

「魔法、屋?」

 エスペルが迷い無く進んで行くので私が思わず訊いてしまう。

 応えは、無かった。


「……………………………………………………………………………」


(な、なんだろう?凄く複雑な事考えてる?)

 私を見つめるエスペルは無言だったが、目は口ほどに物を言うとは良く言ったもの。

 私の事を凄い考えてるのが解る。え?なに?どういう感情?

 

 ここまで通じ合ってしまうと、好意や悪意だけでなく、緊張や緩和、戸惑いや恐怖も手に取る様に解る。

(恐怖?エスペルは何に対して怖がっているの?)

 エスペルが怯えてる?

 まるで迷子の幼子の様に…

「エスペル?」

 エスペルが私をぎゅっと抱き締めてくる。

「?…ぺろっ、ちゅっ」

 抱き締め返したり頭を撫でてあげたいけど、私にその腕が無いので代わりに頬を舐めてキスをしてあげる。

 こんなに不安そうなエスペルは初めて見る。ちょっと可愛い。


「大丈夫?」

「………………………ん」

 私の呼びかけが聴こえていないのか、少しボウッとした後、頭を振って首を傾げてるエスペル。

 しかし何事も無かった様に、エスペルは再びフォボス街を進み始めた。

(そっか、ここが確か…)

 エスペルとメルカトルの会話を思い出す。確かその時の話の中に出てきていた。

 

 混沌としたケイオス地方において、最も混沌とした場所。

 ケイオス地方、混沌山脈の麓、フォボス街の…アビス横丁。

「なるほどアビスか」

 エスペルが呟いている。

 確か大魔境にあるアビスの大穴が名前の由来とか。

 アビス横丁はやや窪地になっており、緩やかな坂を下へ下へと下って行く。

 

 複雑怪奇に入り組んだ路地に、上を見上げれば様々な言語で書き殴られた様な看板の群れ。

(エルフの古代語まである…)

 ハイエルフ様達が使う神話の頃の文字まである。

「まるで異界に来たみたいだな」

 エスペルの意見に同意して頷く。

 あまり活気は無く、横丁に居る住人達は私達にあまり関心が無い様だ。

 そのうちエスペルは一件のお店の前で立ち止まる。なかなかに古風な店構えだろう。


「俺の邪眼は即死系」

 突然ポツリとエスペルが零す。

 他人を操る趣味が無いのかと思ってはいたが、エスペルの邪眼は操作洗脳には向いていないらしい。

(それもあってエスペルの事が好きって気持ちに自信が持てるんだけどね)

 思うままに他人を操る姿を見ていたら私のこの気持ちも操作されたものなのではないかと疑ってしまっただろう。


 エスペルの使う邪眼は相手の『死』に直結した内容に限定される様だ。私達が攻撃を受けた命令内容も『即死』効果なのだろう。ただエルフは魔力が高いのでレジストに成功し、心神喪失や体調不良で済んだのだろう。まぁ魔境で錯乱状態になるのは死と同義ではあるが。

(さっきの三人はアレンジかしら?)

 基本的に操ったりするのは不向きな力だけど、結果が『死』に向かってるならその効果範囲に含まれるのだろう。


「まぁだから抱けば抱くだけ魔力も強くなんだけどね」

「?」

 エスペルが私の頭を撫でてくれる。嬉しいし気持ち良いから良いけど…なんだろう?少し不安になる…

「さぁ、目当ての契約魔法あっかなー」

 そう言ってエスペルは魔法屋の暖簾を潜った。

(契約魔法?)

 それがエスペルの求めるもの。いったい何と契約を交わすつもりなのだろう?

 

「ここか」

 店内は薄暗いがそこまで広くないので十分に見渡せる。天井まである棚には魔法書やスクロールがたくさん詰まっており、真ん中にある机には店主らしき半魔族の女性が居た。

(ここが、アビスの魔法屋…)

 私は自然とエスペルの胸に顔を寄せたのだった。



☆☆☆☆☆



「アタシが店主のヘラだ。ヘラの魔法屋になんか用かい?坊主」

 半魔族の女性が新聞を読みながら話しかけてくる。目線は私を一瞬だけ捉える。

 新聞は人間の文字のものだ。エルフに新聞と言う文化は無いので、人間以外の物があったとしても他の亜人種のものだろう。内容は勿論解らない。

(ヒアリングだけじゃなくて文字もちゃんと読める様にならなきゃ)

 だって私はエスペルの妻だもの。

 

 私はエスペルの役に立てる機会かと思って店内にある品々を見回す。

(うん、解らない)

 物欲の低いエルフ達はあまり物を集めないし作らない。御神木や世界樹の枝で何かを作る場合もあるが、基本的にエルフ同士の贈り物としての用途なので、外部に流出しない。

(駄目だ。役に立てない)

 少ししょんぼりしているとエスペルが頭を撫でてくれた。


「勇者エスペルだ」

 エスペルがキリッとして答える。

(勇者?エスペルは勇者だったの?)

 少し前に勇者が魔王と一騎打ちになってお互い生死不明になってるはずだ。

 少し前…十年?何十年前だっけ?うちの隠れ里には魔王軍が攻めて来なかったから、あまり覚えていないかも…


(エスペル、勇者だったんだ)

 エスペルの妻になった以上、里にはもう戻らないつもりで居たが、勇者の妻なら少しは事情が違って来る。

 過去の話だけど、勇者の仲間になったエルフが当時の魔王を倒したとか聞いた事がある。

(勇者エスペルの妻シルク…でゅふふ)

 そうなれば私達の結婚に異を唱える者は居ないはずだ。


 ヘラはふんっと鼻を鳴らして忌々しげに語る。

「今時の若い者は本物の勇者を知らん。ありゃぁ歩く厄災だよ」

 読んでいた新聞をバサリと折り畳む。

「ですよねぇ〜」

 ヘラはエスペルの発言を取り合っていないらしい。まぁ確かにエスペルがドラゴンを一撃で倒すところを見たりしないと信じられないだろう。


「婆さん魔族か?」

 エスペルが訊ねてる。いえ多分彼女は…

「生粋じゃないね。半魔族…魔人とでも好きに呼びな。ガチもんの魔族はこんな所に居ないよ。魔族ってのはピンキリだけどね。最下級の魔族でもこんな街は簡単に滅ぼせるよ。上位魔族は角や羽を生やしたり解り易い見た目してないし、魔力を隠すのも上手い。だからアビ横に居るのも大体半魔族の魔人だよ。もしも本物の魔族が来たら店畳んでとんずらするわ」

 ヘラが吐き捨てる様に言う。

 そう、私も実際に見た事は無いけど、純粋な魔族は一目見ただけでその邪悪さが解るらしい。


「そうか。確かに魔族っぽい見た目の連中もそこまで強そうじゃなかったしな。魔力量は多かったけど」

 このフォボス街にも半魔族達はたくさん居た。皆人間よりも魔力量は多そうだったけど、エスペルと戦って勝てそうな相手は居なかった。


(あの襲撃者やエスペルを見てよく解ったけど、魔力量や魔法の格は、実戦ではまるで意味を為さない)


 魔力量も、恐らくは火力にしても生命力にしても、今まで出会った中でロックドラゴンがニ番目に強い。そのロックドラゴンはエスペルが拳一発で仕留めた。

 私が知る中で一番強いと思ってる里守様、ハイエルフ様は不意を突かれたのだろうが人間に倒された。

 魔力も生命力も人間より強いはずの二つの存在が、別々の人間に単独で倒された。


(寿命も短く、大半は弱いのに、突然変異の様に現れる強者。人間こそ一番恐ろしい)


「んで、アタシと世間話しに来たのかい?金取るよ?」

 ヘラが笑っている。今のは冗談なのかな?

「キャバクラかよ。魔法売ってくれ魔法」

(キャバクラ?キャバクラってなんだろう?)

「うちを狙い撃ちって事は契約魔法かい?良いのがあるよ」

 ヘラはそこで初めて私をじっくりと見て来る。ニヤリと笑うがあまり嫌な感じはしない。


「奴隷かい?買ったんならそこで契約魔法使えたろうに」

 このフォボス街ではエルフ奴隷の売買もされている。うーん、確かに私の見た目はそんな感じよね。手足無いし。しかも切ったのエスペルだもん。でもこれは彼の愛の証なの。私を逃げられなくして独り占めするのがエスペルなの。私は愛されてるのよ。


「個人的に捕まえただけだよ」

 それを聞いたヘラは片眉を上げる。

「人攫いかい?犯罪者は勘弁だよ」

 ヘラが嫌そうな顔をしてる。

(うーん、どうなんだろう?)

 エスペルが直接殺したのはカレイジャスと他数人だけだったし、発端は彼等の暴走だ。

 うちの隠れ里に行けば間違いなくエスペルは罪人だけど、人間の法だと私達のが悪になるだろう。

 

「いや、俺が襲われたんだよ。そんで一人生け捕りにした。理由は知らん。会話出来ねーしよ」

 エスペル側の言い分を聞いたヘラはそれでも別に平然としていた。

「ふーん。売っ払っちまった方が良いんじゃないかい?」

 私はぎくりとする。

 エスペルが私を愛してるのは間違い無いだろうけど、選択肢としてまだそれが残ってるのが怖い。

「嫌だよ勿体無い」

 エスペルの答えにホッと息を吐く。

 エスペルが実はこの店に私を売りに来た可能性もゼロではなかったからだ。

「ま、アタシにゃ関係無いわな。イヒヒヒッ」

 ヘラは口を開けて笑うと、後ろの棚からスクロールをいくつか取り出した。

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