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勇者ランスロットの苦悩

「はぁ…ようやくキャナビスタから出国出来たな」

 勇者ランスロットが溜め息混じりに呟く。

 ここはアレストラ王国の国境沿いの宿場町。

 宿場町にある関所の向こう側は空白地帯、緩衝地帯が広がっている。そのさらに向こう側がキャナビスタ王国の国境線である。

 

 世界的な常識だがモンスターが闊歩する地域を領土とするのはリスキーな為、厳密にはキャナビスタ王国の実際の国境は昨日深夜に突破、無事に出国出来ている。

 しかし緩衝地帯で、もしも王国軍に捕まれば連れ戻されるのは必須な為、バフ魔法をかけてまで夜通し全力疾走し、三日はかかる距離を半日で休まずに走破したのだ。なのでパーティー全員流石に疲れ切っている。

 五人パーティーのうちの女性陣二人は早々にこの宿屋の寝室に直行し体も拭かずに寝入ってしまった。


「モンスターと違って殺す訳にもいかんしなぁ…」

 ランスロットの向かい側に座る三十絡みの無精髭の男が応える。勇者パーティーの戦士クリーガーだ。

「なんで俺達が犯罪者みてーに夜逃げしねーといけねーんだよ?あのクソワガママ姫がよぉ」

 クリーガーが心底うんざりした声音で吐き捨てる。

「不敬だぞクリーガー」

 同じ卓にはもう一人の男性が座っている。クリーガーよりさらに年上だろう。頭を丸めた筋骨隆々の大男だ。戦士職と誤解されがちだがヒーラー担当、修道士グレイスだ。

「なんでだよ?ようやく大手を振って悪口…じゃない、愚痴が言えるんだぜー?」

 クリーガーは悪ガキの様に舌を出して戯けて見せる。それ以上諌めたりせずに黙り込むグレイスも疲労の色が濃い。パーティー全体にバフをかけ続けていたのは彼だからだ。モンスターとのエンカウント時には戦わず休んでいたとはいえ、ほぼ休み無くバフ魔法を使っていた。魔力はすっからかんだろう。


「申し訳無かったよ。皆…」

 ランスロットが謝ると二人の仲間は首を振る。

「お前の所為じゃねーさ」

「しかし、な…僕がもっと上手く立ち回っていれば…」

「それぐらいにしておけ。一眠りしたらまたすぐに移動するのだろう」

 グレイスが冷静に指摘する。

 彼等ジャスティスの目的地はここではない。だがとにかく、キャナビスタ王国からの脱出が第一目的であった。

 今ようやく一息つけているが、まだ旅が続くのも事実である。


「とにもかくにも、お疲れ様。まだ昼間だが僕達も休もう。三人部屋で申し訳無いが」

「いや、少し飲もうぜ。このまんまじゃやってらんねーしよ」

 クリーガーがウエイトレスを手招きし酒を頼んでいる。なら自分も眠る前に少し腹に入れておこうかと思い直し、ランスロットも食事を注文した。



☆☆☆☆☆



 冒険者パーティージャスティス。

 勇者ランスロットが率いるBランク冒険者パーティーである。冒険者ギルドにおける非公開情報、評価は以下のものである。


◯魔法剣士ランスロット。17歳男性。中衛。

 Bランクパーティー『ジャスティス』リーダー。

 キャナビスタ王国にてリファーナ姫を助けクーデターを阻止し首謀者一族を粛清した功績により勇者の称号を得る。

 正義感は強いがやや頑固で向う見ずな部分がある。故に他パーティーや貴族と揉めたり等、度々規約違反を犯すが全て軽微であり、現状は口頭による注意に留まる。

 風魔法で速度を、土魔法で防御力を、火魔法で攻撃力を上げて戦う魔法剣士。魔法無しでも剣の腕は確かである。

 ソロ冒険者ならばAランク相当の実力者。


◯重戦士プリム。16歳女性。前衛。

 サブリーダー。

 ランスロットの異母妹。兄妹の様に育つ。

 小柄だが見た目よりも膂力が有り、長得物を得意とする。現在はハンマーを装備している。元々ランスロットと二人で冒険者を始めたため、パーティーが増えた現在もサブリーダーを務める。

 

◯戦士クリーガー。32歳男性。前衛。

 軍隊に居た経験が有り索敵もこなせる。

 能力は高く面倒見も良いが、ギルドからの新人育成の要請を度々断っている。

 ランスロットが冒険者ギルドにて求人を募った際に応募し仲間となる。


◯魔法使いエクレーラ。24歳女性。後衛。

 魔法大学院の卒業生であり魔法だけでなく様々な知識も豊富。

 ただ冒険者としての期間はまだ短く経験が浅い。

 ランスロットが冒険者ギルドにて求人を募った際に応募し仲間となる。


◯修道士グレイス。43歳男性。後衛。

 穏やかな気性だが味方のバフや敵のデバフを的確に行い、肉弾戦も出来て仲間を庇う盾役もこなせる。

 教会が富裕層相手にしか回復魔法を行使しない現状を憂えて冒険者になったため教会とは疎遠になっている。

 ランスロットが冒険者ギルドにて求人を募った際に応募し仲間となる。


◯総評。

 リーダーランスロットだけ突出しており、ソロで冒険者をするならばAランク上位相当だろうと判断。成長すればSランクも狙える逸材である。

 ただ本人が貴族や商人を嫌っており、後援者無しの自由なクエストを求めている。その為貴族や有力者が審査に絡む昇格クエストは避けており、しばらくは現状維持が続くと思われる。



☆☆☆☆☆


 

「ギルドの受付の姉ちゃんにも褒められたけどなぁ。俺達はモンスター狩るのが仕事だもんなぁ」

 軍隊経験が有り、恐らく一番人を殺してるはずのクリーガーが疲れた様に吐き捨てる。

 彼は人間同士の殺し合いに飽き飽きして冒険者へと転身した。だがたまに請け負うクエストにある野盗の討伐等は、救い様の無い悪党相手ばかりではない。食うに困って盗みを働いてしまった者や、貴族の不興を買って追われた無実の者等、やり切れない事案も多かった。


 そして今回のキャナビスタ王国の動乱は正しく彼等の気持ちを酷く落ち込ませる事件であった。

 プリムやエクレーラはそこまで気に病んではいないが、三人はそうはいかない。皆義憤に駆られて剣を手に取り、拳を握った男達なのだから。


 発端は単なる誘拐事件のはずであった。

 此処アレストラ王国より反対側からキャナビスタ王国に入国したランスロット一行。

 行く先々で困ってる人達を助ける様なクエストをこなしつつ王都に辿り着く。


 そこに不意に助けを求める女性が現れる。

 乞われるまま成り行きで、幼い少女を拐かす不届き者を成敗する事になるランスロット達。

 しかしなんと、助け出した少女はキャナビスタ王国の第一姫、リファーナ姫であった。

 助けを求めて来たのは姫の専属メイドであるウィドー。

 

 その後、王宮の拷問官による苛烈な責めにより、誘拐犯が口を割る。

 真実は、ただの誘拐事件ではなかった。

 姫を誘拐後、王に退位を迫るクーデター計画の全容が明らかになる。

 

 リファーナ姫を溺愛するキャナビスタ国王はこれに激怒。首謀者一族を捕らえる様命じる。

 人間同士の争いには極力関わらない方針のジャスティスの面々であったが、土壇場にて事情が変わる。

 

 首謀者の大臣が何処かからモンスターを王宮内に解き放ち、阿鼻叫喚の地獄と化したのだ。

 モンスターの襲撃により国王は崩御。しかし間一髪リファーナ姫を救い出すランスロット達。


 ランスロット、冒険者パーティージャスティスの活躍によりモンスターは殲滅。首謀者の大臣は一族郎党全て捕らえられた。


(僕は、正しい事をしたはず…なのに…)

 クリーガーの頼んだ酒をちびりとやるが、後味の悪さは質の悪い安酒の所為だけではないだろう。


 クーデターは鎮圧されたが、内情は情状酌量の余地の多い話であった。

 そもそも王侯貴族による重税と贅沢により民が圧迫されていたのが原因であった。

 そして大臣の個人的な怨恨もあった。大臣の一人娘は行儀見習いとして王宮にてメイドを務めていた。

 それを見初めた国王はあろうことか娘を手籠めにして孕ませてしまう。夫婦仲の冷め切っていた王は持て余していた性欲を腹心の部下の愛娘で発散していたのだ。

  

 そしてそれは、一人娘が自殺した後の遺書によって大臣の知るところとなる。我慢の限界であった。

 しかし大臣はまだ人の心を残していた。民の不満と自身の恨み。一度爆発してしまえば王族を皆殺しにしてしまう。まだ成人前のリファーナ姫は安全な場所に隔離、幽閉し、王には退位を迫ると言う妥協案を先ず採用した。そしてそれが失敗へと繋がってしまったのだ。


 国王の他、継承権を持つ王子達も死亡してしまったため、大臣一族には温情は出なかった。加担していた民主派貴族達も連座で捕らえられ斬首されていく。

 

『せめて、せめて女子供、赤子だけは…』

 第一戦功とされたランスロットの進言も王妃の耳には入らず、刑は執行された。


(大臣は…本当に首謀者だった…のか?)


 大臣は拷問を受けてもモンスターを引き入れた事は認めなかった。実際モンスター召喚を行える魔法使い等そうそう見つからない。

 転移転送は魔族のお家芸、専門分野だからだ。研究するのは命がけだ。下手にチャンネルを繋ぐと魔族に乗っ取られてモンスターを送り込まれる。

 そうして死んだ転移魔法の研究者は数多と居る。


 全てが落ち着いた後、リファーナ姫が成人後に王位を継ぐ事が発表される。現行は王妃が女王となり、女が王となった場合の下地作りを行っている。愛娘が王位を継いだ時にスムーズに政治を執り行える様にとの、母の愛だ。


 そこまでは良かった。良くはない、後味は悪かったが…ランスロット達には無関係だった。

 おかしくなってきたのはその後だ。

 

 クーデター鎮圧の武勇を以て、ランスロットは勇者の称号を得る。

 リファーナ姫を二度も救い、王国の危機を何度も救った救国の英雄。正に勇者と呼ぶに相応しいとの事であった。


 魔王も魔王軍も聞かなくなって久しい現在、勇者の称号は形骸化し、各国が自国の英雄や軍人を勇者に祭り上げるプロパガンダが一般化しつつあった。

 それもまだ良い。キャナビスタ王国だけの称号ならそこまでランスロットの重荷にはならなかった。


 問題は、キャナビスタ王国が勇者ランスロットを取り込もうとした事だ。

 具体的には勇者ランスロットをキャナビスタ王国の将軍とし…前将軍はクーデター時に死亡…さらにはリファーナ姫の成人後に婿入りさせて女王を守る剣とする。


 …と言う様な内容を、ランスロット達の知らぬ間に国中に大々的に知らせてしまったのだ。

 

「あの時は本当にびっくりしたな」

 今思い返しても乾いた笑いが込み上げて来る。

 顔馴染みになった宿屋の店主達が泣いて喜ぶ。暗い話ばかりに嬉しいニュースだと。


 確かに気持ちは解る。大臣の反乱、国王の崩御、王子達や将軍の死亡。さらに悪化するであろう重税。

 そこにお姫様を救けた勇者が新たに国の中枢に加わると言う。城下町はお祭り騒ぎとなった。


「プリムは泣いてへそを曲げるし、エクレーラにはビンタされるし散々だったな…」

 ランスロットはすでに痛みは無いはずの頬を擦る。

 あの時の事は昨日の事の様に思い出せる。

 いや、実際に昨日の出来事である。



☆☆☆☆☆



「痛い…」

「うぇ〜ん、エクレーラァ〜」

「よしよし、最低な勇者様よね〜」

 いつも長大なハンマーを振り回してるプリムが、年相応の少女の様に泣いており、それを胸に抱くエクレーラが侮蔑を込めた視線をランスロットに投げつけて来る。


「いや、全く知らないぞ僕は?」

 泣きたいのはランスロットの方だったが、どうにかこうにか、泣きじゃくる腹違いの妹とぷりぷり怒ってる年上の女魔法使いを宥めすかす。

 そしてなんとか落ち着いた後、皆で対策を練る事にする。


「話せば解る。取り消しを申し入れよう」

 王妃…女王に直訴しようとしたランスロットにクリーガーが待ったをかける。

「おいやめとけ。王族が一度出した話を引っ込めるかよ?あのワガママ姫さんが話を聞いてくれると思うか?最悪俺達が捕まり人質になるぜ?号外を良く読め。褒め称えてるのは勇者ランスロットだけだ。冒険者パーティージャスティスには全く触れてねぇ」

 指摘された通りだった。ランスロットの背中に嫌な汗が流れる。

「それでも話し合えば…」

 リファーナ姫には確かに困らされた。

 王宮の寝室で寝ていた時、刺客かと思って組み伏せたら裸のリファーナ姫だったのだ。危うくアレを既成事実にされるところだった。その為にジャスティスは住処を王宮から城下町に移したのだ。


「無理だっつってんだろ。王妃かあのウィドーとか言うメイドのどっちの悪知恵か解らんが、ランスロットに勇者の称号を与えた時点でもうこの計画は走り出してんだよ」

 クリーガーの目は鋭い。長い事軍隊に居たクリーガーは、貴族や王族の横暴にも散々振り回されて来た。その嗅覚が危険だと教えているのだろう。


「それにランスロット気付いてる?リファーナ姫のプリムを見る目、ヤバイわよ?私達は最悪幽閉や国外追放で終わるかもだけど…下手すればプリムは…」

 エクレーラが言葉を濁す。女だからこそ勘付いたものがあるのだろう。

「まずいぞ。此処に向かって来る集団が居る」

 目を瞑って感知魔法を使っていたグレイスが声をかけて来た。迎えと言う名の捕縛部隊だろう。姫や女王はともかく、何も知らない兵士を蹴散らすのは気が引けるし、ランスロットの今後にも悪影響を及ぼす。

 

「ねぇ、逃げようよ?私ランスロットと離れ離れになりたくない…」

 心細そうなプリムの言葉を受け、優柔不断だったランスロットも流石に決断する。


「解った。今から国境線に向かおう」

 この首都から一番近い国境線はアレストラ王国側である。今は早朝だが、身体強化して走れば夜には国境線を越え、明日にはアレストラ王国へ辿り着ける。

 だがアレストラ王国でも油断は出来ない。

 平和な時代では隣国は常に仮想敵国とされて不仲になるものであるが、モンスターと言う実体のある人類の天敵に対し、近隣諸国は同盟を結ぶのが基本だ。

 なのでキャナビスタ王国側からアレストラ王国側に勇者の引き渡し要求をされる可能性が高い。勇者と言うより最早重犯罪者である。


「なら何処まで逃げる?」

「北か南か」

「取り敢えず、身を隠そう」

「そうだな、アレストラ王国もそのまま通り過ぎて…」

 ランスロットは頭の中で地図を広げる。

 まともな統治国家も無く、無法だが安全な地域。

 天を突く魔峰霊峰が連なり、太古より生きる神獣が住まう混沌山脈。

 その麓にある混沌なるフォボス街。

「フォボス街かな?あそこなら取り敢えずは安心だぜ」

 クリーガーもランスロットと同じ答えに至った様である。


「国に追われ兵隊に追われ、逃げに逃げてケイオス地方か。………はぁ、本当に犯罪者になった気分だ…」

 そうして勇者ランスロット一行は、ケイオス地方混沌山脈の麓、フォボス街へと向かう事になる。

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