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赤い首輪

 俺はロックドラゴンの魔石をシルクのお腹の上に乗せてから、片手でシルクを抱きかかえる。もう片方の手でロックドラゴンの角を持ってその死体を引き摺りながら荒野を進む。

 魔石は体内を掘り進めてたら心臓っぽい所に埋まってた。

 かなり高純度の魔力が凝縮されている。あの威力のブレスを連発出来るだけはあるよね。


「エスペル。魔石、どう、する?」

 シルクが己の腹の上の魔石をしげしげと見つめた後、辿々しい人間語で話しかけてくる。


「んーなんか加工して使っても良いけど、俺別に魔法使いじゃないしなぁ。売るかぁ」

(どっかのギルド支部に預ければロメロンが上手い事換金してくれっだろーし、そうすりゃ俺の女達に金が入る―――)


「欲しい。欲しい」

 シルクがキラキラした瞳で見上げてくる。可愛い。

「ああ、別にいいよー。でもちょっと加工しよっか。このまんまじゃデカ過ぎる」

 今この場に居るのはシルクだしな。

 シルクに一番魔力の強い所をあげよう。


 俺が倒したロックドラゴンの魔石は一抱えもある濁った赤い石の塊だ。宝石としての美しさや価値はほぼ無いが、触媒としては申し分ない。正しくカットすりゃ同じ大きさのルビーよりも高い値段で取引されるだろう。


 例えばこの魔石を加工して魔法の杖とかにセットしたら、すんげー威力の火魔法が使えそうだよね。

(魔石の加工…素手で出来るか?)

 俺の女を着飾る石は、俺の手でカットしたい。

(…ロックドラゴンの牙…で、ナイフを作るか?)

 それを身体強化魔法で覆えばなんとかいけそうかな?


 魔石もただデカけりゃ良いって訳でもねーらしい。そこら辺は普通の宝石と同じかもね。原石はデカくともカットすりゃちっちゃくなるが、美しい形の方がより価値は上がる。

 魔石も同様だ。必要に応じて表層を削り、より濃い部分をカットする事で魔力変換率の高いマジックアイテムと成る。


「シルクなら何が似合うかなぁ?」

(ルピアには指輪を贈ったし、ウィンディにはサファイアのイヤリングあげたよな?んじゃぁネックレスか?えーと他に誰に何をあげたっけなぁ?)

 俺が他にも女達に何をあげたか思い出そうとしていると、風で頬をペチンと叩かれた。


「エスペル、他の女、考えちゃ、駄目」

 シルクがほっぺをぷーっと膨らませて俺を睨んでる。

「カ、カンガエテナイヨ?」

 怖っ!女怖ぁっ!なんで解るんだよ?

「シ、シルクには何が似合うかなって考えてたんだよ?」

「そう?嬉しい」

 シルクはすぐに機嫌を治してニコニコし始める。

 うーん、あれ?コイツ捕虜だよね?俺の所有物で、逃げ出さない様に…と言うか、自殺せん様に四肢切断したんだけどな?

 

 今は片手でとは言え優しく抱きかかえてあげているし、なんか俺が大切にしてる構図っぽい感じ?

 うん、まぁシルクとのセックス楽しいからいいけどね。


(エルフ女ヤバイ)

 犯せば犯すだけ魔力が高まる。

 魔法使いがよくやる精神統一やら瞑想とかよりも多分、魔力操作の精度が上がり、魔力総量も増える。

 練習よりも実戦。

(地道な修行よりも生セックスか)


 特にすげー強くなりたいとかの欲求も無いけど、犯して強くなるならお得感ありますよね。


「ところでここ、何処やねん?」


 砂埃が晴れた瞬間に遠くに見えるは天を突く巨大な山々。あれは正しく―――


「混沌山脈か」


 つまりここらはケイオス地方か。ふーん?

 俺は初めて降り立つ混沌の地を進む。つっても今は荒野しかないんだけどな。―――ん?おー…?


「あ、人だ人だ〜」

 俺がなんとなく歩いて行く先に人の気配を感じる。一応人里は目指してたんだよね。適当にだけど。


 馬車が何台もまとまっている。

 隊列を組んで進むキャラバンやね。しかし様子が変だな?野営って感じじゃないが、全体の動きが止まっている。

 そして護衛の冒険者かな?皆武器を構えて騒いでる。なんか出たんかね?

 俺はのんびりとロックドラゴンの死体を引き摺りながらそのキャラバンへと近付いて行った。



☆☆☆☆☆


 

「うおおおおおおおおおおおおっ!」

「ドラゴンだーーーっ!」

「ロックドラゴンっ!す、すげーっ!」

「兄ちゃんっ!アンタが仕留めたのかっ!」


 キャラバンの皆様が騒いでた原因は俺でした。

 見張りがロックドラゴンの死体を発見、砂埃による視界の悪さも相まって、俺を追いかけてロックドラゴンが向かって来るってなったらしい。良く見ようぜー。


 俺はわいわい騒いでる連中をシカトして偉そうな奴が居ないか探しつつ声をかける。

「冒険者ギルドの支部かロメロン商会と取引はあるか?金を下ろしたいんだが」

 ケイオス地方を進むキャラバンにはなんでもある。賭場やレストラン。娼館もあるだろう。


「このキャラバンにゃなんでもあるが、流石に冒険者ギルドの支部やロメロンの信金は無いな」

 熊みたいな大男が現れた。

(強い…)

 デカイだけじゃない。武装もキチンとしてるし身の熟しにも隙が無い。冒険者達のリーダーかな?

 だが髭は綺麗に整えてあり、指輪やネックレスもセンスが良い?


「私がこのキャラバンのリーダー、メルカトルだ。歓迎しよう、ドラゴンキラーの少年」

 なんと商人だった。ロックドラゴンの周りでちょろちょろしてる冒険者達より強ぇぞこの人。武装込みだが、フロイラインやベトレイヤ、ヴェーツェにアーニスよりかは確実に強い。ジャトゥハンくらいかな?


 ちなみにジャトゥハンは、俺に真っ向から力比べを挑んで来た所為であっさり負けちゃっただけで、経験を活かしたいやらしい戦い方とかされたらかなり梃子摺ると思うんだ。

 

 俺が修行してやったしまだ若くて伸び代もあるから、魔力や攻撃力、身体強化勝負でならアーニスは父親を越えてるだろう。だが総合戦闘力はまだあのおいちゃんのが強いはずよ?何処で何してんだろ。


「俺はエスペル。こっちはシルク」

 俺はロックドラゴンの角を手放せたので、両手でお姫様抱っこしてるシルクを紹介してやる。

「シルク、です。エスペルの…妻…です」

 ―――?………うむ。シルクはまだ人間語を使いこなせていないらしいな。つっても俺はエルフ語なんか喋れんから訂正のしようもないが。


「早速で悪いんだが、アレを売ってくれんか?あんなに綺麗な状態のロックドラゴンは珍しい」

 やや興奮気味のメルカトル。

 当たり前だがドラゴンは強敵だ。普通のドラゴンなら殺せない相手ではないが、手加減出来る程生優しくも無い。

 鱗も内臓も魔石も綺麗な状態で殺すのは至難の技だろう。


 俺もたまたまいけただけだ。奴さんもまさか、ブレス吐いてる口の中から脳味噌ワンパンされるとは思ってなかったろう。


「うーん、どないしょ?」

 ロメロン商会に卸したかったけど、まぁここはロイヤル王国じゃねーし、さらにはケイオス地方だ。地元の商人と繋ぎを作っとくのも悪くない。


「ま、いいよ。手元に現金が多少欲しいから少しちょーだい。残りはギルド経由でロメロン商会の口座に入れといて」

 お金の振り込み先を指定しとく。


「おん?値段交渉とかはしないのか?」

 メルカトルが首を傾げてる。ドラゴンなんて大物だ。強気でふっかける事も出来る。

「面倒臭いから任せるよ」

 お金の計算とか面倒臭い。ヴェーツェが居れば丸投げ出来たんだけどな。

「商人相手に剛気だな」

 メルカトルの目が俺を品定めする様に細まる。


「交渉事とか苦手なんだよ。それに飽きるまで食べたらどうせ捨てるつもりだったし」

 ロックドラゴンは食料として引き摺ってただけだ。首は討伐証明として切り取ったかもだが、あんなデカイのをいつまでも引き摺って歩く気は無い。


「はははっ!剛気だな。気に入ったぞ、ベアナックル」

 剛気はメルカトルの口癖かな?

 それにしても俺の二つ名、パーティー名を知ってるのか?言語は同じだが大魔境を挟んだ外国なんだけどね。俺が有名なのか、メルカトルが情報通なのか。


「よーし、商談成立…と行きたいが、エルフの嬢ちゃんが大切そうに抱き締めてるそれは…別料金かね?」

 メルカトルが顎髭をジョリジョリとなぞる。

 いーなぁ、カッコいい。俺も髭生やしたい。

「ぺろぺろ」

 ん?シルクが俺の顎を舐めて来る。なんだよ?また後で可愛がってやるから。


「ちゅっ、勿論」

 俺はシルクのおでこにキスをして大人しくさせてから応える。

「だよなぁ」

 メルカトルがニヤリと笑う。


 あのロックドラゴンの巨体を動かし強力なブレスを吐き出せていた大元の魔力源がこの魔石だ。

 素人は鱗や牙や爪、もしくは内臓に目が行きがちだが、最も価値があるのはこの魔石だ。


「でも中心の濃い所だけ削り取ったら後はいいよ。それと牙も一本貰う」

「おん?なんだ?魔法剣でも作るのか?」

 まぁそう考えるよな。ロックドラゴンの牙から作り出した剣にロックドラゴンの魔石。普通に強いだろ。でも俺がワンパンでいけた奴の素材で武器作っても逆に弱くなりそう。

 結果的にであって狙ってやってないが、俺が普段着で手ぶらでいると大抵油断してくれるからね。

 

 いかにもな武装をする気は今のところ無い。

「解った。ドラゴンを殴り殺せる冒険者相手に、安く買い叩いたりはせんよ。適正価格でやらせてくれ。ベアナックル」

「ありがとう、メルカトル」

 俺達は力強く握手する。

 身長差も凄い。俺もこのくらいにデカくてマッチョになりたい。

「むーむー」

「なんだなんだ?」

 シルクが今度はコツンコツンと俺の顎に頭突きしてくる。さっきからなんなの?



☆☆☆☆



 キャラバンは混沌山脈の麓の街に行く途中だったらしい。だが急ぎではないらしく、野営しつつロックドラゴンの解体を始めた。

 俺はメルカトルのテントに誘われて食事を振る舞われる。勿論シルクも一緒だ。テントの床…絨毯?に直接座る。キャラバンの女性がシルクの介助を申し出たが丁重に断る。これは俺の女だからな。


 魔境越えやロックドラゴンとの戦闘に関して一通り話した後、メルカトルが訊いて来た。

「そのエルフのお嬢さんはどうしたんだ?いったい何故そんな姿に…」

 興味本位と言うより、義憤に駆られた表情をしてる。どうやら正義感のある商人らしい。うーん、なんて説明しよっか。


 俺が考え込んでいると、俺が抱きかかえるシルクが応えてしまう。

「私、酷い、人間に、腕、足、切られた」

 おおう、シルクさん?


「でも、エスペル、優しい。私、エスペルの、妻。私達、夫婦」

 ん?なんそれ?シルクさん?

 シルクは俺が食べさせてあげた果物を美味しそうに頬張っている。俺がシルクに問い質そうとした時だった。


「うおおおおおっ!そうかっ!君をそんな目に遭わせた悪党をっ!エスペルがやっつけて助け出しっ!尚且つ二人は恋に堕ちて結ばれたのかっ!」


 ええ?なんでそうなるの?

 シルクも顔を赤らめてるけどさ。否定してよ。いや、否定されたら困るのか?正当防衛を強く主張したい所だけど、このエルフの手足は僕がやりましたっ!今は好き放題に犯せる肉便器の達磨エルフですっ!

(…て言うのが世間的にアウトなのは解るぜぇ)


 メルカトルは泣いてる。男泣きだ。泣き上戸なのかな?

「感動したっ!ベアナックルのエスペルは別のパーティーの女冒険者を略奪したとか!バリュー市で女を囲いまくってるとかの噂は聞いた事があるがっ!若くして頭角を現し功績を上げ続ける君へのくだらない嫉妬による悪評なんだろう!」


 うーん。全部本当なんだけど。まいっか。

「これからは囚われのエルフを助けっ!妻として娶った英雄と私が喧伝しておこう!」

「それはやめて」 


 なんだか勝手に盛り上がるメルカトルとの会食は程々で切り上げ、俺達は割り当てられたテントに向かう。

 シルクの排泄のお世話をして身体を綺麗に拭いてやってから滅茶苦茶に犯してやる。

 …なんだか昨日よりも甘えて来るのはなんだろう?可愛いから良いけど。


シュッ、シャッ、コリコリコリ…


 シルクが力尽きて眠った後、俺はロックドラゴンの魔石のカッティングに入る。

 やはり牙は当たりだったな。牙でナイフを作り、さらにそれを身体強化で覆うと物凄い切れ味になる。

(戦闘は素手で良いけど、日常生活に道具は要るよね)


 それとロックドラゴンの心臓の筋肉も頂いた。赤黒く太い筋は伸縮性があり頑丈だ。

「よーし、もう一踏ん張りだな」

 俺は夜通しで朝まで魔石の加工に勤しんだのだった。



☆☆☆☆☆



「エスペル?これは?」

 シルクが慣れていないのか戸惑っている。

 俺はメルカトルからフリフリなドレスを買い取ってシルクに着せた。

 元々の服だと手足の断面も丸見えだからな。これだとパッと見、手足が無いのは解らない。


「お前さん、うちで働かないか?雇われねーか?」

 メルカトルは俺の手元にある物をじぃっと凝視してる。 

「なんで?」

「こんなに上手く魔石の加工が出来る奴なんてそうそう居ねぇんだよ。下手くそに任せると折角の上物が台無しになるんだ」

 実際に経験があるのかメルカトルの眉根のシワが寄る。

「悪いが他人の為にやる気は無い」

 俺の女の為だから徹夜までしたんだよ。

「むむむ、そうか。そうだな。高い金出す…と言いたいが、ロックドラゴンを単騎で討伐する様な冒険者を雇い続けるのは経済的にキツい」


 メルカトルは凄く残念そうにしてる。魔道具職人てのも面白そうだけど、俺基本的に器用貧乏だかんな。

 自慢じゃないが…本当に自慢ではないが、大抵の事なら上手くやれる自信はある。

 しかし、俺には根本的にそれを極めようって情熱が無ぇ。自分の女の為ならコツコツした地道で地味な作業もこなせるが、それを仕事としてやれるかってーとかなり疑問が残る。

 それにその道を好きで好きで極めようって奴には絶対に勝てないし、勝とうとも思わない。

 冷めてると言えば冷めてるのかな。

 料理するのも好きだけど、俺より料理美味い奴が居たらそれで良いとも思うし。


「むむむ。そうかぁ。そうだなぁ。諦めるしかないかぁ…」

 そんな目で見つめても髭面のオッサンじゃ可愛くねーよ。

 メルカトルは、ふぅっと一度深い溜め息を吐き出すと、気持ちを切り替えた様にキリッと上向く。


「だがこれで、ベアナックルエスペルの英雄譚にまた剛気なエピソードが追加されたな。ロックドラゴンを討ち取りっ!その素材で妻への贈り物にするっ!確かに見た感じ結納品もまだなんだろう?これほどの物はなかなかないぞ?剛気だな」

 そう言ってがははは!と笑うメルカトル。

 なんか色々勘違いしてるけど、もう訂正すんの面倒臭くなってきた。

 

「シルク」

 俺は片手で抱きかかえてるシルクの首に、もう片方の手でそれを付けてやる。

「ネックレスだとプラプラしてて落としそうだからな。これにしたわ」

 シルクが首元の違和感にむずむずしてる。

 しきりに首元を気にしてるが見れる訳がない。

 俺は水魔法で鏡面を作り出してシルクを映してやる。


 その自身の姿を見たシルクがお目目を真ん丸に見開いている。可愛い。

「…首輪」

「言い方、言い方。チョーカーな」

 それはロックドラゴンの心臓の筋肉を革の代わりにしたチョーカーだ。中心にはルビーよりも赤く熱く輝くロックドラゴンの魔石の中心部。

 この小さくカッティングされた魔石は、他の素材全てと釣り合うぐらいの価値があるはずだ。


「ふふ、うふふ」

 シルクが風魔法を操り宙に浮く。

 そしてくるくると踊り出す。

 手足が無いのでフリフリドレスがバサバサと風にはためいている。


「エスペル、ありが、とう」

 シルクが顔を赤らめ涙を流し、幸せそうに笑ってる。

(変な女。俺はお前の仲間を殺して手足をちょん切った男だぜ?)

 

 荒野を行くキャラバンの野営地にて。

 強い陽射しを受けて四肢の無いエルフの娘の黄金の髪がキラキラと輝く。

 そして首元の赤い魔石は、さらにギラギラと煌めいていた。



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