家出王女の冒険その4 ワンコ化進行中だワン
「あの〜エスペルさん達に是非お願いしたい事が〜…」
冒険者ギルドで事務処理手続きをしていると、受付嬢のレチュリアが申し訳無さそうにお願いをしてきた。
「リーダーに…エスペルに確認しますね?」
私はギルドを出て、直ぐ側の宿屋に向かう。
「害獣駆除の依頼?いいよー」
エスペルに話を持って行くと二つ返事だった。
上半身裸のエスペルが座るベッドには、裸の女が意識を失ってぐったりしている。
(………大きい)
私より大きい。確かフリーシアンだったかしら。ロメロン商会傘下の酒場の看板娘だ。
「大きい…」
声に出てた。
エスペルは自分の事に無頓着だ。あまり身の上話は語らないが、質問すると普通に答えてくれる。
答えが得られない時は答えたくない事柄と言うより、興味が薄くて忘れてる様な感じを受ける。
彼は幼少期に流行り病で母を亡くしており、年上でふくよかな女性を好む。
「じゃ、行こ行こ〜」
気楽な調子で出発するエスペル。
「ま、待って!」
自身の胸を確かめる様に触ってしまっていた私は、慌てて彼の後を追ったのだった。
☆☆☆☆☆
そしてエスペルは勿論、まともに害獣駆除などはしない。いや、勿論クエスト内容はクリアする。
田畑を荒らす害獣の正体は猪型モンスター、ブラックボアだった。そいつらを見つけたエスペルは片っ端から殺して回る。
私もブラックボアならなんとかなるかと思い、一匹を自力で仕留めた。
「!?…強く、なってる?」
ソロで仕留めるにしても多少は苦戦するかと思ったが、私の剣は熱したバターをナイフで切る様にブラックボアの首を落としたのだ。
「エスペルっ!私、強くなってるっ!」
思わず様付けや敬語を忘れる。
エスペルは意外にも私の言葉遣いには拘らない。一応不興を買わない様になるべく敬語を使う様にしているが、咄嗟に砕けた物言いになってしまっても咎められた事は無い。
「そうか」
ブラックボアの死体を引き摺るエスペルに追いつく。彼はブラックボアの死体を、ちょっとした洞穴に放り込む。
(アレ?ここって――――)
「グマァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
ジャイアントベアが飛び出して来た。
血の匂いをさせて縄張りを荒らし、自分の寝床に血塗れの肉塊を放り込んで来たのだ。
ジャイアントベアの顔と瞳は怒りに燃えていた。
しかし、流石の私ももう慣れて来た。きっとすぐにでもエスペルがこの熊を仕留めて―――
「よし、ヴェーツェ。コイツ一人で倒してみ?」
………………は?
「え?ええええ〜〜〜〜っ!?」
突然の無茶振りに私が混乱する。
ドゴンッ!
「ひいいいっ!?」
理解や覚悟が整う前に体が動く。ジャイアントベアの前足が私が一瞬前まで居た地面をえぐっていた。
エスペルは近くの木に寄りかかって欠伸をしている。そんな態度に私は怒りを覚える。
無理矢理パーティーに入れられて以降、性欲処理や事務処理しかさせられていない。前衛なのに。
だから確かに今の扱いは不当に感じてはいた。だけどいきなりジャイアントベアの前に放り出すのは如何なものか?
(貴方はっ!毎日抱く私に何の拘りも執着も無いのっ!?)
例え私がここで死んでも直ぐに代わりを用意出来ると言う事なのだろうか?
「このおおおおおおっ!」
私は涙目になりつつ自棄気味に剣を振るう。先ずは牽制のつもりだった。しかし…
ザンッ!
「ギャオオオオオオオンッ!?」
私の斬撃がジャイアントベアの前足を斬り飛ばした。
「え?」
その事に一番驚いたのは私だった。そして戸惑ったまま体は動く。
後ろ足、もう一本後ろ足、さらに残った前足も斬る。
胴体と頭部だけになったジャイアントベアが地面に転がる。熊は大口を開け、頭だけでも私を食い殺そうとしてきたがその上顎と下顎も両断する。
返す刀で頭を斜めに斬り落とすと、ジャイアントベアは動かなくなった。
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」
興奮で手が震えた。
以前の私とは比べものにならない程強くなっていた。
「ど、どうして………」
「おー凄い凄い。本当に倒せたじゃん」
エスペルがパチパチと適当に拍手をしながら近付いて来る。彼の側には別のジャイアントベアが複数倒れている。私は一頭でいっぱいいっぱいだったが、それなりの数に囲まれていたらしい。
そんな事よりも…
「嘘…私、強くなってる…?」
ここ最近は本当に、エスペルの性欲処理と冒険者としての事務処理しかしていない。まともに剣も振っていなかったのに。
「ほら?ご褒美だ」
「あ」
エスペルに唇を奪われる。その後はいつも通りではあったが、少し違った。
今回は私の方から激しく求めてしまった。
命のやり取りで得た興奮を鎮める様に、エスペルを押し倒し、彼に跨り本能のまま交わったのだ。
頭は未だ困惑していたが、体は覚えさせられた習慣を意識せずに行えるらしい。
いつも通りに彼の下腹部に顔を埋め、汚れを清めているとエスペルが語りかけてくれる。
あ、頭を優しく撫でてくれてる。嬉しい。
「多分アレだ。俺のせいだなー」
私がより一層丁寧な仕事をすると、頭を抑えてくる彼の手が強まる。それとは正反対な適当な声音が返って来る。
「俺が毎日出して飲ましてるからかな?」
(―――え?)
口が塞がっているので心の声で疑問符が出る。
「恐らくだが―――」
彼の両手が私の頭を掴む。
「俺の子種を孕むための下準備だな。より強い子を産む為の肉体改造…」
あ、また、硬くな―――
「そんなに俺の子供産みたいのか?」
「!?――――」
突然地面の上に投げ出される私。
「げほっ…ぃ、いや、わたしは―――」
首を振りながら後退る私に今度こそエスペルが伸し掛かって来る。
「欲しがりな牝犬だな」
「わ…わん…」
私は腹を見せて服従のポーズを取る。
嬉しかった。
単純に強くなれてる事も嬉しかったが、彼についていける事が嬉しかった。
強過ぎる彼には誰もついて行けない。きっと置いていかれたら追いつけない。捨てられたら探せない。逃げられたら逃げ切られる。
(だけど…このまま強くなれば…)
彼に置いていかれる事はなくなる。
………あれ?私は自由になりたいはず……
(おかしいな?)
獣の様に私を犯すエスペルを受け入れながら、自分の考えの矛盾を…いえ、そうよ。私は、操られてるだけだもの。
考えても仕方無い。
私は彼に操られているの。
☆☆☆☆☆
エスペルはバリュー市の最高級娼婦、アスパーシャを買いに来ていた。その付き添いでついて来た私。
(早く終わらないかな…)
私は娼館のロビーで彼を待つ。他の男性客や娼婦達の視線も特に気にならない。
早く彼に会いたい。まだかな?まだかな?
所在なく俯いてソファに座り、時が過ぎるのを待つ。
「あ、エスペル」
エスペルが戻って来た。アスパーシャの見送りは無い。多分、気絶しているのだろう。彼、激しいもの。
「ん?なんだよ?」
「くんくんくん」
彼の身体からは香水や香油…何より他のメスの匂いがした。
「ふんすふんす」
「うわやめろ。しまった、失敗だったな。牝犬って別に、犬っぽくなれって言った訳じゃ…まぁいいか」
私がエスペルの身体にベッタリくっついて匂いの上書きをする。
エスペルは私を邪険にしない。
段々解って来た。
彼は好き好んで女誑しになっている訳じゃない。
精力が強過ぎるのだ。
だから満足し切る前に女がダウンしてしまう。
それはつまり―――
(彼の全てを受け止められるくらい強くなれば…他の女は必要なくなる)
まだまだ今の私でも足りないのは解っている。
乱暴に見えて彼が優しいのももう解っている。
モンスターを素手で引き裂く様な男が本当に乱暴に女を抱けば相手を殺してしまう。
きっと本当に力一杯女を愛した事が無いのね。
(可哀想…)
(必ず私が慰めてあげるからね?)
宿屋へ戻り普通に彼に抱かれる。最高級の娼婦を抱いた後なのに彼のスタミナは底が無い様だった。
私はいつも以上に密着して身体を擦り付け、違う女の匂いを打ち消すのに躍起になったのだった。
☆☆☆☆☆
「エスペル、Dランクに上がったよ」
「ふーん」
エスペル自身は興味無さげだが、ソロでこの短期間、この年齢でのDランク昇格は驚異的だ。
私はCランクだが仲間のサポートありきだった。ソロで冒険者をやっていたら、今頃は良くてE辺り、悪ければ死んでいる。
(そう言えばピエール達どうしてるかな?)
まぁどうでもいっか。
「エスペル!エスペル!」
「なんだよ?」
出逢い方が出逢い方だったので、私は彼との距離感を測りかねていた。
だけど新発見!彼は馴れ馴れしく接しても嫌がらないのだ。ベタベタしても嫌がらない。
喜んではくれないけど。
「エスペル!私貴方の事好―――」
バッ!
私は飛び退って距離を取る。
「ハッ!?また、私を邪眼で操りましたね?」
思わずエスペル好き好き言ってしまう所でしたわ。あぶねー。
「いや、ヴェーツェには最初以外邪眼使ってねーよ?」
エスペルが呆れた様な顔をしている。騙されませんよ?
「嘘です。解ってます。私が貴方なんかの命令に従う訳が無いのです」
危ない危ない。危うく心の底から彼に惚れてると錯覚させられる所でした。
「…うーん、なんかおかしな方向に育ってるなコイツ…俺も情緒不安定なのは自覚してるが…俺以上かも。何が悪かったかなぁ?」
エスペルが少し困った様な顔でぶつぶつ言っている。
大丈夫。私は操られてなんかいません。
あれ?だとするとこの気持ちは本物?
ああ、じゃあ違った。
私は操られてます。
「私は操られてます」
「だから違っ…いや、もういいや」
溜め息を吐き出してるエスペルを見ていたらなんだかムズムズしてきました。
「ドーンっ!」
頭から飛び込み頭突きをする。
「えぇー…」
少し引き気味のエスペルが面白くて、私はさらにベッタリくっついて頭を擦り付ける。
「くんくんくんっ!ふんすふんすっ!」
私がエスペルから他の女の匂いがしないかチェックしていると、おずおずと話しかけてくる女が居た。
「あ、あの〜…ゴ、ゴブリン退治は、如何です〜?」
少し引き攣った笑みを浮かべるレチュリア。
そうか。
ここは冒険者ギルドでした。
「じゃ、それで」
淡々とやり取りするエスペル。
引き気味のギルド職員やその他の冒険者達。
ギルドの外に出ると、久しぶりに見知った顔を見かけた。私の元パーティーメンバーだ。
名前なんだっけ?彼は私に何か言いたげな視線を向けて来る。鬱陶しいなぁ。
「ん?おい―――」
私は人目も憚らずにエスペルの唇を奪う。
天下の往来でキスをする私達に周りは奇異の視線を向けて来る。
「ぷはぁっ!」
「なんなんだよ?」
私の肩を掴んでベリッと引っ剥がすエスペル。
周囲を見回すと、元仲間の姿は何処にも無かった。
「わんっ!」
「いや、俺が悪かった。すまん。落ち着いてくれ」
珍しくエスペルが神妙な顔で私に謝ってくる。
私はそんなエスペルがおかしくて彼の顔を―――
「ぺろっ」
舐めてあげた。
☆☆☆☆☆
エスペルはジャイアントベアを執拗に狙っている。今もゴブリン退治は私に丸投げだ。
彼が熊狩りに夢中になってる間に、それなりの数のゴブリンに囲まれてしまう私。
若い女を見るゴブリン達の目の色が変わっている。きっとその醜い顔の奥にある小さい脳味噌で、この私を輪姦して孕ませる事を妄想しているのだろう。
バカが。
「あははははっ!私を犯そうなんてバカなモンスターっ!」
私の剣は一振りで数体のゴブリンを片付けていく。私の剣をどうにかしようと、人間から奪った盾を構える個体も居る。
甘い。私の剣はその盾ごとゴブリンを両断する。
風切り音を受けて真横に滑る様に移動する。
弓矢など当たるはずがない。
「私はエスペルのなのっ!誰にも触らせないわっ!」
ゴブリン達の耳障りな断末魔すら心地良い。
以前の私ならこんな戦い方は出来なかっただろう。仲間のサポートのお陰で成れたCランク。
こんな数のゴブリンに囲まれたら為す術無く敗北し、巣穴に持ち帰られていたはずだ。
「私を犯せるのはっ!私を孕ませるのはエスペルだけなのっ!」
そのために、そのために私は生まれて来たのだから。
「さぁ、かかってらっしゃい」
私は剣を振って付着した血を飛ばす。どう考えても私が負けるはずがない。
ゴブリン達はそれでも獲物を逃すまいと、徒党を組んで襲いかかって来た。
「ありゃ?早いな」
いつの間にかエスペルが近寄って来ていた。
いつの間にかゴブリンは皆殺しにしていた。
「エスペルっ!」
ジャイアントベアの首を引き摺っているエスペルに突撃するみたいに抱き着く私。剣は放り捨てていた。
「ご褒美っ、ごほーびちょーだい」
待ち切れなくなった私はエスペルの身体をまさぐる。首元に鼻先を埋め匂いを嗅ぐ。
「くんくんくんすーはすーは」
「はいはい。どうどう。よしよーし」
興奮した動物を宥める様にワシワシと頭を撫でてくるエスペルの手に噛み付く私。
「こらこら、落ち着け」
「やだっ!むりーっ!」
猛り昂った私はエスペルを押し倒し跨り、獣の様に叫ぶ。
「はやく、わたしを犯して」
おかしくなってしまった私は、愛しい男を求めてその唇を奪うのだった。




