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第1の試練開始

「君たちには、此処に咲いている花を見つけてほしいんだ。」



―――花?



「そんな事でいいの? 」



「『そんな事』かどうかを決めるのは君じゃなくて僕だ。君にとっての小さな価値でも僕にとっては命を懸けてもいいものなんだ。」



そう言ったクリーオスは少し怒っているように見えた。



(クリーオスが感情的に話すのを初めて見た気がする)



姫殿下のクリーオスへの侮辱の発言からの攻撃的な態度も畏怖の念を感じたら直ぐに止めたところを見て推測すると、先程の行動も上下関係を見せるための言動でそこに感情的なものは感じなかった。



自分たちの在り方を設計と言っていたので、もしかすると、魔石には意思はあっても感情は持ち合わせていないのかもしれない。



(きっと、初めて得た感情を大事にしているのね)



そう思い、クリーオスに対して謝罪をした。



「ごめんなさい、クリーオス。気分を悪くさせてしまったわ。」



クリーオスは特に気にした様子もなく、話を続けた。



「分かってくれたなら良いんだ。実は此処に咲いている筈の花が見当たらなくて困っていてね。その花を一目見れたら、僕は魔石に戻るよ。」



その話を聞いて、姫殿下が質問をし始めた。



「この森に咲いていると言ったな? 私に花の知識は無いけれど、自分の国の領土であるこの森の地形には詳しいと自負している。何回かこの森には来たがそこまで広くはない筈。何故見つからないか予想はついているのか?」



私が『そんな事』と言ってしまった理由はそこにもある。


姫殿下が仰っている通りこの森は比較的に大きな森ではないし、私はこの森で採れる薬草や花は熟知していた。


(普通に考えたら、簡単すぎるくらいだわ。でも、クリーオスは見つからないと言っている)



謎かけでもしているのかしら? そう思っているとクリーオスからとんでもない発言が出てきた。



「理由なんて分からないよ。何処を探しても『イオン』がみつからないんだ。」



「それは見つからないでしょうね!!」



思わず大きな声を出してしまい二人ともびっくりしている。



「此処では咲かないの? 」


姫殿下は城内にあるイオンの花を見ているから私よりも親近感があるのだろう。



「イオンの花は此処よりもっと西の国で咲く花です。

魔力のある場所でしかあの花は育てることが出来ず、城内にあるイオンの花も相当な魔力を注いだ土を使われている筈です。」



「成程。だから、エーレの国花はイオンなのか。この花が咲き続ける限り栄光は続くと主張したいのかも知れない。」



姫殿下が言った推察は間違っていない。



西の国はどの国よりも空気中の魔力が多くその影響は自然物にまで起こしており、中でも純度の高い魔力で出来ている西の国の土は金にも勝ると言われた時代さえあった。



魔力の高い土は、色々な作物を育てることが出来るし時間をかければその土から魔石が生まれる。


その性質のせいで幾度も領土をめぐって戦争があったそうだが、先導者が現れその人が王として導き現在のエーレ国の王族が誕生した。


所説はいろいろとあるけれど、魔力を吸って育つ花を昔の王様が作りその土地の魔力により生まれ続けた魔石の生成を少なくさせ、争いの元を絶って戦争を終わらせたのがエーレ国の歴史であるとされている。



「残念ですが、此処にはイオンはございません。少し時間はかかるかもしれませんがエーレ付近にも咲いている珍しくはない花なので私が採ってきますよ。」



そう言うと、姫殿下は一歩前に出て口を開いた。


「いや、私が城からイオンを採ってくる。その方が早い。」



その言葉を聞いて私は勢いよく姫殿下の方を向いた。



「戻るのは危険すぎます!!今の私たちは逃亡の身なのですよ?

それに陛下に会うにしたって今は警備体制だって厳しくなっている筈です。」



陛下は頼っていいとは言っていたけど、こんなに早く来るとは想定していないだろう。


警備体制を緩くするにはまだ時間がかかるはずだわ。

だから、旅の支度金を多めに持たせてくれたのだと思う。


それでも姫殿下の決意は固かった。



「ある程度のリスクは取らないとこの先の旅は厳しいと思う。折角、欲しいものが目の前にあるのに取らないという選択肢を私は取りたくない。」



「姫殿下……。」



姫殿下の決意を聞き入れようとしていると、クリーオスはそれを遮ってきた。



「いや、僕は此処に咲いているイオンを見たいんだ。違う場所から採ってきた花なんて要らないよ。」



その言葉に姫殿下は怒りを表していた。



「さっきのハンナの話を聞いていた? ここにはイオンは咲かない。その花をお前に見せるために危険を冒して取りに行こうとしているのにその態度は何? 」



「僕はそんな事は望んでいない。僕の願いの本質を間違えないでくれるかな? 」



確かにクリーオスは此処で見た筈のイオンの花を見たがっている。



(妥協案では駄目だ。もう少し情報を出してもらうしかない)



「貴方がイオンの花を見たのはいつかしら?」



すると、クリーオスはうーんとうねりだした。



「実は、僕は最近起きたばかりなんだ。はっきりとした記憶はあやふやだけど、僕が眠る前はここからエヴィエニスの城は見えなかったよ。」



「お城が建ってないって事はエヴィエニスも建国されて無いってことでしょう? って事は300年前!?」



300年以上前であればこの場所にも魔力が豊富な土もあったかもしれない。


昔の地形変動か何かで魔力がなくなったということ?



「でも、地形変動が起こったのなら文献に残っている筈だわ。私もエヴィエニスの魔術師としてこの森を調査したことはあったけれど、豊富だった魔力が枯渇したなんて話聞いたこともないわ。」



そう言うとクリーオスは納得できないといった表情を浮かべていた。


すると姫殿下が先程とは違い、説得するような口調でクリーオスに話しかけた。



「ハンナは我が国の優秀な魔術師よ。間違ったことは国の栄誉にかけて言わない人だと私は思っている。彼女の言葉に何が納得できない?」



クリーオスは落ち込んだ態度で話し出した。



「きっと、ハンナの言っている言葉に間違いはないと思う。僕だってこの森にイオンの花を育てることが出来る土が無いことなんてわかっているんだ。」



「諦められないのは、貴方の記憶のせい?」



そう言うと、首を横に振った。



「確かにこの森には魔力土はないのは確かだ。だけど、この森からイオンの魔力を感じるんだ。」



その言葉に姫殿下は首を傾げた。



「育てるための土は無いのに、花は咲いているということ? 随分と矛盾した答えね。」



「私にはイオンの魔力は探知できないけどな……。」



先程から探知魔術をかけているが、それらしい魔力反応は見当たらない。


そもそもでこんな何もないところで魔力反応があったら直ぐに気づくはず。



(ちょっと待って。それなら何で、私はクリーオスに気づかなかったの? )



あれほどの膨大な魔力を持っているなら直ぐに気づくわ。


慣れない環境だとしてもそこまで魔術師としての腕は落ちていない筈。



「クリーオス、一つ質問をいいかしら?」



クリーオスはすっとこちらを向いて聞く体制に入ってくれた。



「私は、ここに来てから直ぐに探知魔法をかけたわ。この森に魔力反応があったけれど、貴方を自力で見つけることは出来なかった。恐らくは阻害魔術の類だと思うけれど、それの説明は出来たりするかしら?」


私の言葉にクリーオスは頷いた。


「君の言う通り、僕には阻害魔術がかけられている。かけておかないと生命活動が出来ない仕組みになっているんだ。僕から正体を言わない限り、皆は僕の事はただの羊だと思っていたはずだよ。」



正体を暴かれたら解ける類の阻害魔術ね。


クリーオスはずっとこの森に居たとしたら『クリーオスの眠っていた場所』にも阻害魔術の影響が出ている筈。



「貴方は最近まで眠っていた場所は何処にあるの?」



恐らくはイオンの花は其処にある。



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