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噛み合わない二人


「つまりは、私はあの広間から抜け出して以降ゼノビア姫殿下と共に見つかっていないから姫殿下をさらった有力人物ということなんですね。」



私が広間から出た時に覚悟はしてはいたけど思いのほか状況は悪い。



恐らくは、この事件の中心に居るのはカイロス様だろう。


けれど、それを知っているのは私達だけで他の人は私を犯人と思って各地に顔つきの指名手配書が張り出されている。



カイロス様を見つける前に私が先に捕まってしまったら間違いなく処刑される。


これではカイロス様と私のどちらが鬼ごっこの鬼か分からない。



「こんなことは言いたくないですがこの姿になったのは不幸中の幸いですね。」



そう言うと、姫殿下は私を見て言いたいことに気づいたらしい。



「成程。若返りはまだ魔術で確立されてないから子供の姿を見ても指名手配犯だと直ぐには思いつかないな。」



そうは言っても8歳の頃の姿に戻っただけなので何か思う人は出てくるだろう。


一刻も早く魔法具を使って身体を戻して、ゼノビア姫殿下に私の無罪を主張してもらわないといけない。


陛下もそれは理解していらっしゃるのだろう。


険しい顔をしながら口を開いた。



「時間が経つほど状況は悪化すると見た方がいいだろう。すまないが、直ぐに出発の準備を始めてくれ。」



そうして、私は起きて早々にこの国を離れることになってしまった。






身を隠すようにしてお城を出て、城下を抜けてから探知魔術を時計にかける為に森に入る入口まで来ていた。



「では、魔石の探知を行いますので姫殿下は少々お待ちください。」



そう言って準備を始めると姫殿下はむくれた表情をしてこちらを見ていた。



「何かございましたか?」


「それを止めて欲しい。」


それとは?と思いながら思い当たるものを考えていると、顔をずいっと近づけてきた。



「姫殿下と呼ぶのを止めて。敬語も。」



確かに姫殿下と呼んでいたらこれから色々と不都合が多いのは目に見えていた。


「確かに姫殿下とお呼びするのは自ら怪しんでくれと言っているようなものですね。では、失礼ながらゼノビア様とお呼びさせていただきますね。」



「話を逸らさないで。 敬語もだと言っている。」


やっぱり、無かったことにはできなかったらしい。



「無理ですよ! 恐れ多すぎます!! 旅のお供として付き添っている付き人くらいの距離感が私と姫殿下にとって適切な距離かと思います! 」


「その設定で行く方と訳アリの旅と思われる。私との年齢差を考えると家族の様に接したほうが疑われない。」



そう言われると反論の余地もない。


私達は出来る限り逃亡者と思われないように振舞わないといけない。


その為には身分だって偽らないといけないのは頭では分かってはいるのだ。



(今まで敬愛していた人を、家族の様に接するなんて)



とてもじゃないが出来ない。


それに私が敬語をなしに話したとしても、ぎこちなさはどうしたって消せないのも分かっていた。



「姫殿下の仰っている事はごもっともではございます。しかし、家族の様に接するにはお互いの事を知らないことが多く、他の方から見れば家族の真似事だと直ぐにわかるでしょう。」



だけど、私の言葉はあまり理解してもらえていないのか不思議そうな顔をしていた。



「実際、真似事をしているのだからそう思われる可能性は高い。けど、身寄りのない者同士が身を寄せ合っているとは思っても逃亡者とは思われない。」



私はやっと姫殿下と話が嚙み合っていない事に気づいた。


けれど、煮え切らない態度の私に痺れを切らし、姫殿下は吐き捨てる様に告げた。


「それなら、これは『命令』。身を隠す為に家族の様に接して。

ゼノビアと呼びにくいのであれば姉様と呼んで。以上、探索の準備を続けて。」



「……分かったわ、姉様。」



(関係性の答えはこれで間違っていない筈なのに、どうしようもなく悲しい)



それは、この関係性がどうしようもなく冷めたものだと気づいたからなのか今の私には分からなかった。




準備が整ったので早速、魔法具である時計に探知魔術をかける。

すると12個の窪みから大小の光が輝きだした。


(駄目だ、殆どの石の光が弱すぎる。此処から探知できないとなると国境を越えたところに魔石があると思った方がいいのかもしれない)



そう結論つけて探知魔術を解除した。


すると、邪魔になると思ったのか少し離れた場所にいた姫殿下はこちらに駆け寄ってきた。



「何処にあるか分かった?」



「結果から言うと、大体の位置を把握出来たのは2つ。後の10個は遠すぎて大体の位置もわからなかった。近くて隣国付近、遠かったら海を越えないといけない可能性も高いわ。」



「場所の特定は出来なかったの?」


「恐らくは、魔石自体が探知は出来ても追跡が出来ない様な作りになってる。ここまで探知が出来ないような魔石なら代替品を入れも動かすのは出来ないと思うわ。」



流石はカイロス様といったところかしら。

そう簡単に解析が出来るような魔法具なんて置いていくわけないわよね。



正直、こんな事態じゃなければ魔塔に籠って探知魔術ではなく、解析魔術を使って調べたいくらいには色んな魔術が練り込まれているのが分かった。



「それがどんなものであれ、動かさなければ話にならない。一番近い場所は何処? 」


「幸運なことに時計の4時の位置にある窪みの魔力がこの森と共鳴を起こしていました。この森の何処かに必ず魔石はある。」



そう言った途端に姫殿下は駆け出してしまったが、気が抜けるようなお腹の音が鳴った。



因みに私ではない。

取り敢えず、腹ごしらえをしてから出発する事を提案しようと話しかけた。



「姉様、暫くは歩くと思うので先にご飯を食べてからの方の効率がいいと思うわ。簡単なものになってしまうけど作るね。」



何も言わずに、近くの切り株に座ったので了承の意味と捉えて早速お昼ご飯の準備に取り掛かった。


姫殿下には申し訳ないが簡単なスープを召し上がって貰おう。



いそいそと野菜を切っていると座っていた姫殿下こちらにやってきた。



「何か出来ることはない?」


「流石に手伝ってもらうのは気が引けてしまいます。どうぞ座って待っていてください。」


それでもその場所を動かずにいたので、何かしたかなと思っているとあることに気づいた。



(さっき敬語で喋ってしまった!姫殿下から親しく見えるように話せと言われたばかりなのに!! )



早々に命令違反をしてしまったことに焦っていると何か言いたそうな表情をしながら、元居た場所に戻って腰をおろしていた。


(許してくださったのかな?それに、この時間帯じゃ姫殿下はもうご飯を召し上がっている時間なのかもしれない。急いで取り掛からないと!)



正直、お城に居た時とは全然違う料理を口にしてくれるのかどうか少し不安に思いながらも料理を再開した。




空間魔術を使ったカバンに入っていた野菜とソーセージを煮込んだスープを姫様に渡しながらこれからの事を考える。


(このカバンに入っていたものが無くなってしまったら町に買いに行かないといけないわね。ずっと野宿をするわけにもいかないから、ここでの用事が済んだらまずは宿を取らなきゃ)


お金は陛下からいただいているし、無くなったら取りに来てとは言われているが、旅の拠点が国外になると思うのでおいそれと行ける距離でなくなってしまった。



(戻っている間に捕まるリスクを考えると日銭を稼ぎながら情報を集めた方がいいかも知れない)


これからの旅の事を色々と考えていると、姫殿下はこちらを見ていた。

スープは口にはされているけど量はあまり減っていなかった。



「姉様、スープは口に合わなかった? 今度は何を食べたいか教えてね。前もって作るし、私じゃ出来なさそうならお店から買ってくるから。」



そう言うと、姫殿下は下を向いてしまった。


無理もない、体だけじゃなくて環境も変わってしまって気をとても張ってしまっているはずだ。


落ち着く場所には出来ないかもしれないけど、出来る限り姫殿下が悲しい気持ちにならないようにもっと努力しないといけないなと思いながら姫殿下のお皿を下げようとした時、草むらから何か音がした。




各々の武器を持って待ち構えていると予想外のものが現れた。



―――そこにいたのは一匹の羊だった。




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