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第98話 第三王子は逃走する!?

ビルダーの水スライムに対しての心無い発言に憤りと心痛める『シュウ』です。



「ビルダー、良く見てくれよ。あのかわいらしいつぶらな瞳、あの屈託のないお口を!」


「――なあ、シュウ。目も口も鼻も俺には無いように見えるんだが?」


「――!? 確かに…… 無いね……」


「そうだろ。水スライムのどこが可愛いんだ?」


「心の問題だよ。心の目で見れば、きっとドラ○エのスライムに見えてくるはずだ!」


「ドラ○エってなんだ?」


「あっ、いや、なんでもない。今のは聞かなかったことにしてくれ」



「ロッシュウ様。またやらかしですか?」



――!? レイニー!



またしても知らないうちに僕の背後を取るとは…… さては、ガチ勢の暗殺者!?


「レイニーさん、急に出てくるのはやめてくれって、いつも頼んでるだろ! 一言掛けてから現れてくれ」


「『ロッシュウ様』と声を掛けておりますが?」


「声と現れるのが同時じゃないか! そんなのは先に声をかけました。とは、言わないよ!」


「そうですか…… 私にとっては別にどうでも良いですけど」



――!? もう、この人(レイニー)どうにかして欲しい……



「レ、レ、レイニーさん。ど、どうして、こ、ここへ」



――ほら、ビルダーも邪悪の根源(レイニー)を見ただけで前回のトラウマが甦ってるじゃないか! 



「ビルダー様。お顔が優れないご様子ですが?」



――!? お顔が優れない? 何かおかしくないか? 何かが…… お顔が優れない…… 顔がブサイクってことか?



「レ、レ、レイニーさん。い、いや。そのようなことは……」


「なら、いいです。ビルダー様、モブ扱いだったのに最近、ご活躍されておりますね?」



「…………………」



――!? なんて辛辣なことを…… (トラウマ)をさらに(トラウマ)()とすのは禁止! それだけは…… それだけは人としてどうなんだ!?



「それで、レイニーさん。何の用なの?」


僕は、空気を変えようとレイニーに声をかけた。


「陛下より手紙を預かっておりました」


「父上から?」



――こんな時期に手紙とは…… 何か胸騒ぎがする…… 父上や、母上に何かあったのでは……



レイニーから手紙を受け取り、急いで手紙を開けてみた。




――!?





『ガクッ』



僕は、膝から崩れ落ちた……







『新年 おめでとう』



と、だけ書かれた紙が一枚! 紛らわしいわぁ!! しかも、まだ新年じゃねぇーーし!!



「レイニーさん、この手紙は一体?」


「陛下より、新年になったら渡すように言付かっておりました」


「それで、なんで今このタイミングで……」


「手紙が重いからです」



「――!? ハァ? なんで手紙が重いんだよ! お前のいつも『二刀流フレイル』隠し持ってるじゃないか! それは重くないのか?」


「ふぅ、二刀流フレイルは私の体の一部ですから重くはないのですよ。おわかりになりますか?」



「そうなんですか……」



――これ以上ツッコミを入れるとヤツの手中にハマってしまう…… どうしたら良いんだ! ビルダーが(トラウマ)()ちてしまう…… たとえ我が身が犠牲になってもビルダーを護らなければ……





「じゃ、僕はこの辺で次に行くよ。じゃあねぇー」


僕は、ビルダーをその場において逃走した。

すまん。ビルダー! 僕は、やっぱり自分自身の身が水スライムより可愛いのだ!



目の前にパトリックが……


「シュウ。僕から離れないようにお願いしてたじゃないか!」


「おお、パトリック!すまん。ビルダーと話をしていて遅くなってしまった」


「あれが魔物なんだね?」


「そうだよ。人を襲ったりしないし、かえって人間の役にたってるよ。怖くないだろ?」


「ああ、初めて見るから怖いものだと思ってたよ」


「そうだよな。魔物より人間(レイニー)の方が怖いからな」


「そ、そうだね……」



――しっかりとパトリックに(トラウマ)を植え付ける邪悪の根源(レイニー)恐るべし……



「じゃ、そろそろみんなのところへ行こうか?」


「次は農村部に行くんだよね?」


「サムソンさんたちが待ってると思うよ」


「サムソンさんって、確か魔物だったよね?」


「サムソンさんはオーク族の族長なんだよ。『心』『技』『体』の揃った強いオークさんだよ」


「恐くないの?」


「ああ、恐いよ。あの強さはエリスの折り紙つきだからね」


「僕、会うのが恐くなってきた……」


「パトリックも一度、闘えばその恐さが良くわかるよ」


「………………」



こうして僕たち一行は農村部へと向かった。

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