第58話 第三王子は悟りを開く!
父上の高く上がった右拳がレイニーの心臓を目掛け振り下られようとした瞬間。
『ポチャン』
父上の闘気で、舞い上がった小石が、母上の飲んでいたお酒のコップに入ってしまった……
出来の悪い茶番劇を見せられたあげく、ワナワナと震えている母上の顔を怖くてまともに見れない小心者の『シュウ』です。
勇気を振り絞り、母上の顔を見ようとした瞬間。目の前から母上が消えた!? 母上は瞬間移動は出来なかったはず、動揺を隠せずに辺りを見渡した。
『ドッスン!』
――!? 父上が吹き飛ばされた!? 倒れている父上の前に髪を逆立て金色の闘気を纏った母上が立っていた!
一瞬の出来事に僕とソフィアちゃんは、呆然としていたが、お母上様とエリス、レーニャさんは無関心のようで女子会に華を咲かせていた……
一歩一歩、父上に近づき、
「ギャァァァァァァ」
母上は父上に『アイアン・クロー』を決め、右手で父上を持ち上げた!?
解説しよう! 『アイアン・クロー』とは、相手の顔面を鷲掴みにして圧迫する絞め技で脳天締め、鉄の爪とも呼ばれている。握力しだいでは顔面を破裂させるほどの威力を持ちながら、見た目は地味な究極の技なのだ! アイアン・クローで命を散らした者は数知れず、父上も『我が生涯に一片の悔い無し』と言って、昇天してしまうのか?
――父上もある意味、法律上で怖いが、母上がそれ以上に怖い…… 隣にいたソフィアちゃんもガクブル状態で、僕のズボンを小さなお手々で『プルプル』と握りしめていた……
父上は、母上の手を外そうと両手で母上の右腕を掴んだが、
「私の身体強化4倍でも、は、は、外れないだと……」
「ブールス。私がここのお酒が好きなこと知っているわよね?」
「そ、そ、それは…… し、知っている」
「じゃあ、なんで、私のコップに石が入るの?」
「そ、そ、それは…… レ、レ、レイニーと……」
「――誰が口を開けと言った!」
母上は、左手で父上のみぞおちに拳を叩きつけた!
「がぁっ!」
父上は、顔面とみぞおちのダメージで血反吐を吐いた……
――母上。父上に質問を投げかけておきながら、『口を開くな!』とは、それでは、あまりにも理不尽すぎです…… もう暴君の中の暴君、まさに、暴君オブ暴君! 僕は、エリス、お母上様、母上だけは怒らせてはいけないと悟った……
母上は、父上を投げ飛ばし、倒れている父上に長渕キ〇クを何度も繰り返した!
「ブルース。あなたが、身体強化4倍だというじゃな~い! 私は身体強化8倍ですから! 残念! あなたより圧倒的に強いのよ斬り!」
――母上。本当に一発芸人侍が好きなんですね? なぜ? 母上が侍芸を知っているのかわからないけど、エリスから聞いたんだろうなぁ~、きっと…… エリス・フォンティーヌ様に日本の知識を教え、三国志からお笑いまであらゆることに精通している『ハルタンたぬき』は凄いの一言だわぁ!
父上は弱々しい声で、
「セリーナ…… な、なんで、身体強化魔法が使える? お前には使えないはずじゃあなかったのか?……」
「ブルースには、内緒にしてただけ! 強い王妃って印象が悪いじゃない」
「しかも8倍って、極悪すぎるだろ……」
「何ですって! 極悪ですって!」
母上はその言葉に激昂して、父上にさらに強烈な長渕〇ックを何度も繰り返した。
僕は、ソフィアちゃんの耳元で魔法の言葉を囁く、ソフィアちゃんは、母上に大きな声で魔法の言葉を言った!
「セリーナおねえさまー!」
「えっ! ソフィアちゃん。私におねえさまーって言ったの? おばさまじゃなくて?」
ソフィアちゃんは、また大きな声で、
「セリーナおねえさまー!」
母上は、長渕〇ックを止め、ソフィアちゃんに近付いた。ソフィアちゃんは、先ほどの惨劇を目の辺りにしているので顔が引きつっている……
「ソフィアちゃん! 超かわいいわ! 私にもう一回、おねえさまって言って!」
「――セリーナおねえさま……」
「キャーッ セリーナおねえさまがギュウしてあげる」
「えっ!? セリーナおねえさま? 母上。それにはご無理が……」
――つい心の声が漏れてしまった……
「あぁん! シュウ、なんか言ったか?」
「い、いえ、何も言ってません! ホントに何も言っていません! 信じて下さい!」
「しょうがねぇなぁ、今回だけは見逃してやる」
――僕が超母上から超ヤンキーおねえさまに覚醒させてしまった…… ごめん、父上。
「ソフィアちゃーんギュウ!」
超ヤンキーおねえさまは、ソフィアちゃんに抱き付いたが、ソフィアちゃんの顔は白目になっていた……
母上、ソフィアちゃんが白目になるのは当たり前です! あなたは父上の返り血で全身、血だらけですから! しかも、ソフィアちゃんのお洋服も血だらけですから!
「ブルース。あんたのせいで、ソフィアちゃんのお洋服が汚れちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!」
――母上。それでは、あまりにも父上が理不尽では…… いや、理不尽の枠を軽く超えて悪魔の所業です……
超ヤンキーおねえさまは、無慈悲にも父上をうつ伏せにし、父上の背中の上でツイストを踊り始めた。締めには、右手の人差し指を天に向け、左手は肘を曲げ下へ、胸を前に出し、右足は一歩前、左足は一歩後ろに出して、顔はこちらに向け『ニコリ』! 『サタデ〇・ナイト・フィーバー』のジ〇ン・トラボルタ張りの完璧な決めポーズだった!
「ナイス、セリーナ。サタデー・ナ〇ト・フィーバー……」
――父上。もう余計な事は言わないでください。もう怖くて二人を見ていられません。なぜ、お酒の事でここまで出来てしまうのか、僕には理解ができません。 母上! ソフィアちゃんも恐怖で今にも泣きそうですよ……
ソフィアちゃんには、とりあえずクリーンの魔法を使って洋服を綺麗にしておきました。
そして、母上の暴挙を止める方法は無いかと思案した結果。あることを思いついた! お酒の事はお酒で解決する!
「ソフィアちゃん。母上を止める方法を考えた! ここで、ちょっとだけ待っててもらえるかい?」
「シュウお兄ちゃん、どうするの?」
不安そうな表情のソフィアちゃんが聞いていた。
「成功するかわからないけど、試す価値はある。ソフィアちゃんは見ていてくれ!」
僕は急いでお母上様の所へ行き、新しいコップに新しいお酒を注ぎ、母上の元へ急いだ。
「母上! 新しいお酒をお持ちしました!」
僕は決めポーズを決めている母上のそばに片膝をつき、お酒の入ったコップを神にお捧げするかのように母上に捧げた……
母上は僕の存在に気付き、金色の闘気を纏うのをやめた。
「あらっ!? シュウちゃん。どうしたの? あっ! お酒、ありがとう」
「母上にお酒をお持ちしました!」
命にかかわることなどで、大事な事は2回言います。僕だって命は惜しいですから……
母上は僕からお酒の入ったコップを受取り、一気に飲み干した! そばで瀕死になっている父上を見つけると、
「どうしたの!? ブルース! こんな怪我をして、今、治療魔法をかけてあげるからね!」
母上は早速、父上に治療魔法をかけていた……
――父上が瀕死だというじゃな~い! 父上をあそこまで瀕死状態にしたのは! 母上、あなたですから! 残念! 自作自演、私は全然悪くないのよ斬り!
侍芸、意外とおもしろいかも……
お読みいただき誠にありがとうございます。
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思って頂けましたら『ブックマーク』『評価』『感想』をお願いします。
『評価』『いいね』ボタン押して頂けましたらモチベーションに繋がりますので、応援よろしくお願いします。




