第37話 第三王子は相撲大会に出る!1
急遽、僕の親睦会を兼ねた『異世界ハルタン夏場所』が開幕することになり、準備に追われる『シュウ』です。
何とか会場の準備も終わり、僕たち出場者は服の上から廻しを着け、『異世界ハルタン夏場所』が総勢68人の力士で開幕となった!
予選は8ブロック8名ずつに分かれトーナメント方式で一位を決める。本選はAブロック、Bブロックの別れ、各予選ブロック一位の8名と僕とエリスは本選からの出場となる。因みに僕とエリスは特別枠として、Aブロック2回戦シード、エリスはBブロック2回戦シードとなった。
最近は横綱エリス不在の為、大規模な相撲大会は行われていなかったと聞いた。どうりで、みんなが大盛り上がりなのか分かった気がする。
エリスと共に各予選ブロックを回ってみた。
「エリスが横綱って凄いんだね!」
「恥ずかしい! 私、もともと小さい頃から相撲が好きで見ているだけだったのにみんなからお遊びで相撲のまねごとでもどうだって? って誘われたの」
「それでどうなったの?」
「知らないうちに強くなっちゃったみたい。体力とかみんなに負けるから身体強化の魔法を使って肉体的なハンデは無くなったんだけど、どうしてか勝っちゃうのよね。最初はみんなが手加減してくれてると思ってたけど、段々、みんなが本気になっちゃって、いつの間にか横綱って言われるようになったの」
「きっと、エリスには相撲の才能があったんだよ。エリスの事が少しでも知れて嬉しかったよ」
「そう、喜んでくれるなら良かったわ」
「やはり族長クラスは順当に勝ち上ってるね」
「そうね。種族の特徴を活かした相撲するから面白いのよ。サムソンさんなら力相撲、リンリンさんはスピードを活かした相撲、ボルトさんもスピードに技の器用さを混ぜた相撲を取るわ」
「エリスって、ちゃんとみんなの事見ているんだね」
「まぁ、小さい頃からみんなに鍛えられたから……」
「そっかぁ、なんか楽しそうだね」
「みんなやさしいから」
「エリス、もう少しで予選終わりそうだよ。あっちの会場に行ってみようよ」
「うん!」
◇
相撲の運営に慣れているのかスムーズな進行で早めに予選会が終わった…… いよいよ昼食が終わったら本選が始まる……
◇
僕たちはビアンカさん達が準備してくれた早めの昼食を食べ、本選へ向けウォーミングアップを始めた。
――前々世では妻は相撲が大好きで巡業巡りなどに付合わされ、そのせいか僕も相撲が好きになった。まさか、異世界で相撲を取るとか考えもしなかった。
エリスとは婚約前提になっているが、妻の事は忘れることは出来ない……
前々世と前世、今世では、違う人格なのはわかるがどうしても妻を裏切っているようで……
「シュウ君、どうしたの?」
「あっ! 何でもないよ。そろそろ時間だね。異世界に来て相撲を取るとは思わなかったよ」
「そうね。折角だから楽しみましょう」
「あぁ、そうしようか」
本選は決勝トーナメントとなり厳選な抽選の結果、トーナメント枠が決まった。
Aブロック、一戦目サムソン対ゴブリン族・コゴブ、二戦目コボルト族・タロウ対トーカゲ、二戦目の勝者が僕の対戦相手になる。
Bブロック、三戦目オーク族・オーグル対ミノノモンタ、四戦目リンリン対ボルト、四戦目の勝者がエリスの対戦相手となる。
一戦目の取組みはサムソン対コゴブ! 圧倒的なサムソンの力技で体格差のあるコゴブをつかみ投げた!
決まり手は…… つかみ投げ!
二戦目の取組はタロウ対トーカゲ! タロウの素早い立合いにトーカゲが右足を後ろに下げ体を開き、タロウの背中をはたき落としてタロウは土に手を付けた!
決まり手は…… 叩き込み!
僕の取組み相手はトーカゲになった。トーカゲの冷静な立会いを見て、勢い任せの立会いは危険だと分析をした。立会いが勝負のカギになりそうだ……
三戦目の取組はオーグル対ミノノモンタ! 予想通り力相撲の取組みとなった。がっぷり四つになったまま動かず、長期戦となるかと思いきや、ミノノモンタがオーグルの隙をつき、体を密着させ前に進みオーグルを土俵の外に出した!
決まり手は…… 寄り切り!
四戦目の取組はリンリン対ボルト! 早い立会いと技の応酬となった! 内掛け、外掛け、上手投げ、下手投げ、小手投げ、三所攻めなど様々な技が披露されたが、さすがハルタン様から直接ご指導された種族。ゴブリン族のリンリン! ボルトが投げに来たところを一瞬の隙を突きボルトの片足と持ち上げ倒した!
決まり手は…… 裾取り!
エリスの取組み相手はリンリンに決まった! スピード、技重視の同じようなタイプの取組みになるだろう。
五戦目の取組はトーカゲ対シュウ!
エリスから身体強化の魔法をかけてもらい土俵に上がった。遊びの相撲は取った事はあったが本格的な取組みは初めてだったので緊張したが、
「シュウ君! がんばれー!」
エリスが僕を応援してくれてると思うと不思議に力がみなぎってきた!
行司が掛声を上げる。
「はっきょい、残った残った!」
僕はトーカゲに向け強い突っ張りを繰り返した。トーカゲも負けずに突っ張り! お互い突っ張りの応酬となった。脳が揺れクラクラするが、僕は、トーカゲの突っ張りの隙を付き、トーカゲに身体を密着させそのまま土俵の外まで一気に押し出した!
決まり手は…… 寄り切り!
――何とか勝つことが出来たけど次の相手は優勝候補のサムソンに決定した。
六戦目の取組はリンリン対エリス! エリスは横綱とあって堂々とした立会いとなった! リンリンも駆引き無しの見事な立会いだった。がっぷり四つになり、お互い技を仕掛けるタイミングを模索しているようだ!
両力士は、内掛け、外掛け、切り返し、河津掛け、『掛け手』の応酬。どちらかが先に集中力が欠けるかが勝負の勝敗を決めることになるだろう。
「姫様―! がんばれー!」
「リンリンー! 負けるなー!」
「姫様! そこ! そこだー!」
「リンリン! 下剋上だー!」
観覧者から声援が飛び交う。両力士の一進一退の攻防に場内は盛り上がった!
リンリンはエリスのほんの一瞬を付き一気に土俵際まで追い詰めたがエリスは土俵際で足を残し粘りに粘った。そして、土俵際の攻防へとなった。
リンリンも凄いが、エリスの土俵際の驚異的粘り強さも凄かった! そして、リンリンは一気に突き出しを狙ったが、エリスはこの機会を狙っていたかのようにリンリを自分の腹に合わせ体を反らし右側に捻り、リンリンを後方に投げ飛ばした!
決まり手は…… うっちゃり!
ピンチからの大逆転勝利だった!
「うおおおおおおおおおおおおぅ!」
「ここからの大逆転かぁー! 信じられねー!」
「マジかぁー! 何であそこから逆転できるんだぁー!」
「姫様もリンリンも良い相撲だったぞー!」
「きゃぁーーーーーー! 姫様サイコォーーーーーー!」
場内は拍手喝采でボルテージは最高潮に盛り上がった!
エリスの対戦相手はこちらも優勝候補のミノノモンタに決まった!
「エリス、2回戦突破おめでとう! リンリンさんも凄かったけどエリスはもっと凄かった! 土俵際からの大逆転!」
「ありがとう。リンリンさん、以前よりかなり強くなってる。普段から稽古がんばってるのね」
こうして、二回戦が終了した……




