第22話 出発の朝
緊急会議を終えて、自分の人徳の無さに落ち込む『シュウ』です。もしかしたら前世、前々世の今世で
明日から夏休みです。結局、テントと鍋と玉杓子を購入し、野宿は準備万端! いつでも来い!
教室に着くと、クラスメイトたちは夏休みに向けての筋肉談義に盛り上がっている。
「よぉ! シュウは夏休みに、どんなスペシャルトレーニングをするんだ!」
サンプリット・グラインダー。通称『サプリ』が話しかけてきた。
「やあ、おはようサプリ。僕はクラシックフィジークを目指そうと思う」
「ボディビルを目指さないのか?」
エリスが目を釣り上げて、怖い目で僕たちを睨んでくる。
「ごめん、メンズフィジークだったよ……」
「シュウはメンズフィジークよりボディビルのゴリマッチョが似合うと思うんだが」
「そ、そうかなぁ。メンズフィジークはフロンシニアスに帰国した時の事を考えてね。あまりフロンシニアスは筋肉に優しく無くてな!」
エリスの目は通常モードに戻っていた。
「ん~、フロンシニアスは筋肉伝道とそれに伴う意識改革が必要だな!」
「そうなれば良いんだが」
サプリの一言で、エリスの目はまた怖いモードに戻った。エリスは僕がゴリマッチョにならないよう見張られているらしい……
因みに、ボディビルは筋肉の大きさ、脂肪の少なさ、筋繊維の浮出し方、血管の浮出し方が評価される。
クラシックフィジークはボディビルほど筋肉量を求めておらず、バランスの取れた彫刻のような体つきが評価される。
メンズフィジークはボディビル、クラシックフィジークとは違い、顔や髪型、ポージングを含めトータルでのかっこよさを評価している。つまり、海に似合う男というイメージだ!
顔や髪型というところが気になるが、僕は海に似合う男として生きていく!
授業が始まり、サプリは自分の席へと戻って行った。
授業と言っても、今日の授業は1時限だけなのでクラス全体がソワソワ状態で夏休みの課題、注意事項など気分は夏休みモード全開になっていた。
授業が終わり寮へ戻って自室でのんびりしているとドアをノックする音が響いた。
『コンッ コンッ』
「シュウ。ダンベルだが田舎に帰るからそのあいさつだ」
「あぁ、入ってくれ」
ダンベルが部屋に入って来た。重そうなバック二つを片手に一つずつ、両腕を水平にして持っていた。
――!? さすが、ダンベル。如何なる時も負荷をかけて、筋トレをするとは侮れないヤツだ!
「おう、シュウ。しばらくは会えないが、帰る時にはお土産を買ってくるから楽しみにしててくれ」
「ああ、ダンベルなら大丈夫だと思うが道中、気を付けてな。」
「盗賊が襲ってきたら自慢の筋肉で返り打ちさ! ハッハハハハ」
「そりゃそうだな。ハッハハハハ」
「じゃ、そろそろ行くわ」
「また、夏休み明けに会おうぜ」
「シュウも筋トレさぼるなよ!」
そう言ってダンベルは爽やかに部屋を出て行った。
「僕もそろそろ出かける準備をするか! その前にレイニーを呼んでくるか」
僕は女子寮へ向かい管理人さんにレイニーを呼び出してもらった。レイニーを待っているとエリスがやって来た。
「シュウ君、出掛ける準備は出来た?」
「あとは、着替えればいつでも出かけられるよ」
「私はもう出かけられるわ。あと、レイニーさんはもう少し準備にかかるみたい」
エリスはいつもの可愛い笑顔で答えた。
「そっかー。じゃ、レイニーの邪魔にならないよう一人で準備してくよ。ちょっとだけ待たせるけどごめんね。レイニーに準備が終わったら僕の部屋に来て欲しいって伝えてくれる?」
「わかったわ。レイニーさんには伝えておくわ」
「また、あとで! エリス」
「あまり、慌てなくても良いからね」
エリスと別れて僕は準備を急いだ。準備が終わり持ち物を再チェックしていたところにレイニーが部屋へやって来た。
「お待たせしました。ロッシュウ様」
「待ってたよ。じゃ、そろそろエリスの所に行こうか。僕は重い荷物を持つから悪いけど、この荷物を持ってくれるかい?」
レイニーに着替えの入ったバックを渡し、僕はテントを背負い、両手には野宿用グッツを持った。
「ロッシュウ様。これも背負えるのでは?」
レイニーは僕の着替えバックを背負っているテントに括りつけた。
自分の荷物は自分で持てということだろう。レイニーのヤロー……
◇
エリスと合流し、僕たちは商店街の乗合馬車場で出発時刻を待った。しかし、エリスを見て僕はある疑問が浮かんだ。エリスの荷物はコンパクトに纏められたバック一つだけだったのだ。あとでエリスに聞いてみよう。
『魔境の森』にもっとも近い村の『バニアロッサ』に立ち寄り一泊して、次の日は魔境の森の観光。観光が終わったらエリスの実家のあるサスペイン王国を目指す。バニアロッサには1週間程で着くらしい。
アルラサンドは盗賊等に襲撃を避ける為、野宿は推奨していない。村や町の距離は馬車で一日でたどり着く程の距離しか離れていない。各村や町には自警団が防衛しているとの事、そもそもアルラサンドには盗賊はいないらしいが、何かあったらいけないという配慮みたいだ。アルラサンドはマッチョに、とても優しい国なのだ。
「エリス。ちょっと聞いても良いかい?」
「何? 良いわよ」
「聞きにくいんだけど、エリスの荷物が少ないと思って?」
「そうかな、これくらいだと思うけど」
「いや、お土産800人分はどうしたの?」
どう考えても小さなバックに、お土産が入るスペースは無い。
「お、お土産ね! え~とね。大荷物になったから、もう別の馬車で送り届けてもらったわ」
「そうだよね。持って歩ける量じゃないもんね」
「えぇ、そうよ…… さすがに私には無理だわ」
「そっかぁ、僕でも無理だもんな」
「じゃ、そろそろ馬車に乗りましょう」
「うん!」
僕、エリス、レイニーはバニアロッサ村行の乗合馬車に乗り込み、バニアロッサを目指した!
因みに、立ち寄った町や村には宿屋があり、勿論だがエリスとレイニーは2人部屋、僕は1部屋で別々に宿泊した。おかげさまで、今のところ、ご自慢のテントは活躍していない。
◇
馬車に揺られ第一の目的地、バニアロッサ村に着いた。明日はいよいよ魔境の森の観光だ!
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