第20話 フィールド・レーミー
レイニーさんの空気の読めなさに、神への祈りも儚く砕け散った『シュウ』です。
エリスと憎きレイニーを先頭に、僕は彼女たちの後ろで恨み節を唱えながら歩き始めた。
「ロッシュウ様、後ろでブツブツうるさいですよ」
「はぁ~、そうですか」
レイニーの言葉に、僕は魂を抜かれた人間のように無気力な返事をした。
「どうしたの? シュウ君、急に元気が無くなったね? 大丈夫?」
エリスは僕を心配して声を掛けて来た。こんな時でもやさしいなぁ~ レイニーとは大違いのやさしさだ!
「だ、大丈夫、ちょっと疲れただけだから」
「何を疲れたんですか? 何も疲れる事をしていませんのに」
さらに追い打ちを掛けようとするなレイニー! テメェーの空気の読めなさにドン引きで疲れてるんだよ!
「まずは、村のみんなにお菓子とか配りたいからお菓子屋さんかな?」
エリスは、村の人たちに会えるのが楽しみなのか、うれしそうな顔で僕とレイニーに声を掛けて来た。
「じゃ、お菓子屋さんへ行こうか!」
「うん!」
2人+邪魔者1匹でお菓子屋さんへ向かった。
◇
目的のお菓子屋さんに着いた。
「へ~ここが『フィールド・レーミー』かぁ」
素朴で美味しいと大評判のお店で、特に店長さんオリジナル『倒れたブロッコリー』というお菓子が大人気で即完売となり、貴族でも入手困難な品物らしい。
店内に入ると、お菓子の甘い匂いに包まれた。
「どんなお菓子を買うの?」
僕はエリスに聞いてみた。
「ロッシュウ様。私はこのケーキが良いです。出来れば5個ほど下さい」
「それを僕に言うのかい? レイニーさん!」
なんで! テメェーが答えているンだよレイニー! 給金貰ってるんだから自分で支払え! 僕にたかろうとするな!
「いつもロッシュウ様のお守りをしているので、当然の権利です」
「いつもありがとう」
僕は感謝の言葉を言い、レイニーさんをスルーすることにした。
「感謝の言葉は要りません。行動で示してください!」
――名を捨てて実を取る…… さすがレイニーさん……
「わかりました。わかりましたよ! エリスの買い物が終わってからでいいでしょ?」
「いや、今〇しょ!」
――どっからそんなネタを引っ張って来れる? レイニーさん!
もう話しが進まないのでケーキを5個求め、レイニーにケーキを渡した瞬間、いつもの自称『クールビューティー』モードにもどり大人しくなった。
「エリスは、どんなお菓子を買うの?」
改めてエリスに聞いてみた。
「そうね~日持ちの良いクッキーが良いかな」
「このクッキーの詰め合わせセットなんかどうかな?」
「美味しそうなクッキーね。シュウ君のおすすめだから、これにしようかな」
――2人で肩を並べながら買い物するって何か良いなぁ……
エリスはお店の店員さんに
「すみませーん。このクッキーのセットを800人分お願いします!」
「「「えっ!?」」」
店員さん、僕、レイニーさんは、エリスの顔を見た! 一瞬、800人分ってエリスの買い物ジョークだと思ったが、店員さんが聞き直した。
「申し訳ございません。セットを800人分と聞こえたのですが……」
「えぇ、間違いありません。このクッキーの詰め合わせセット800人分です」
「――少々お持ちください」
店員さんはそう言って、急いで店の奥へ消えて行った。
僕とレイニーは、瞬きをしながらエリスの顔を見直した。
「あ、あの、エリス。この店にあるクッキー買い占めですよ? 爆買いですよ? 大人買いの領域を超えてますよ? 転売ですか? メールガーリに高額商品転売ですか? 子供たちを敵に回しますよ」
「そうかな? 村に800人近く住んでるから全員分のお土産だよ」
エリスは当たり前のように答えた。
「代金は…… だ、代金は大丈夫なの?」
「あぁ、お金ね。安心して大丈夫よ! ちゃんと持ってるから」
――エリス、大金持ち疑惑浮上!?……
そうこうしていると奥から店員さんが慌てて戻って来た。
「申し訳ございません。お客様! 今、店内にはそれだけの数のクッキーはございません。 日を改めて御作りして、お客様へお届けしたいのですが、どうでしょか?」
「えぇ、それで良いですよ」
「それでは、お客様。詳しいご説明をさせていただきたいのですが、奥の部屋までよろしいでしょうか?」
「はい、わかりました」
エリスは何事も無かったように淡々と答える。そして僕たちに向かって
「シュウ君。ちょっと話してくるから少しだけ待って貰えるかな?」
「ああ、良いよ。僕たちの事は気にしないで」
僕は呆気にとられ返事を返した。エリスは店員さんに案内され奥の部屋へ行った。残された僕たちは
「レイニー。僕たちは何を見てるの? 夢?」
「ロッシュウ様。私も夢を見てるようです」
現実離れした光景に僕たち2人は呆然として、その場に立ち尽くした……
村と言ったら村民は30から多くて60人程だ。800人と言ったら大きな町に匹敵する。エリスは『村』と言ってたよな!?
◇
しばらくして、エリスが帰ってきた。
「ごめんね。待たせちゃって」
「いや、大丈夫」
「大丈夫です」
「さぁ、用事も済んだし、そろそろ帰りましょ」
「あぁ、帰ろうか」
3人で帰路についた。
「ねぇ、シュウ君。今日のお礼をしたいんだけど……」
「別に良いよ。どうせ、今日は暇だったから気にしないで」
「そう言うわけにはいかないわ」
「ホント 気にしないで」
「ん~、そうね~、確か夏休みはフロンシニアスには帰らないって言ってたよね?」
「夏休みは寮にいる予定だよ」
「じゃあさ~、夏休みはレイニーさんと一緒に私の実家に行かない? 魔境の森を案内もしちゃうわよ!」
「「えっ!?」」
本日2回目の『えっ!?』だった……
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