第19話 神様。お願い!
マッチョ好きに見られ、落ち込んでいるエリスに何て言葉をかけて良いか、わからず戸惑う『シュウ』です。
「エリス…… 何と言って良いかわからないけど、マッチョには悪いヤツはいないから大丈夫だよ!」
さらに、意味不明なことを言っている自分に気付き、恐る恐るエリスの顔色を伺ってみた。確かにアルラサンドに来てから悪いヤツに会っていなし、脳筋も少ない。
「…………そ、そうね。確かにトレスベンには悪い人は居ないわね」
「そうだろ! だからあまり気にしない方が良いよ」
「わかったわ。 もう少し休んでから買い物にいきましょ」
エリスは先ほどよりも元気になったみたいで良かった。
「エリス。ちょっと聞いても良いかな?」
「なに?」
「夏休みに実家に帰るんだよね? 確かサスペイン王国だったけ?」
「そうよ。辺境の小さな村よ。でも、アルラサンド寄りだからサスペインの王都よりアルラサンドの方が近いわよ」
「それじゃ、魔境の森に近いの?」
「近いよ、魔境の森に興味があるの?」
「ん~、授業で魔物とかいるって聞いたから本当にいるのかなと思ってさ」
「どうだろうね~、 何百年も前の話しだから」
「エリスは見たことないの?」
「えっ、ないよ! ない! もし魔物が出たら村に住めなくなるじゃない」
「そうだよなぁ~」
エリスは慌てて否定した。
「そうよ。魔境の森って名前だけ聞くと怖い感じがするけど、そんなこと全然ないんだよ。私たちから見たら恵みに預かれる森なんだよ」
「どういうこと?」
「森の中に入れば、果物や山菜、きのこ、野草もあるの。大人は動物を狩りに行くこともあるわ。」
「じゃ、普通の森と変わらないね」
「そう、普通の森と同じよ。広大な森だから油断をすれば迷子になったりすることもあるけど。奥に入って行かなきゃ普通の森と同じよ」
「そうなんだ。」
「今じゃ、ちょっとした観光スポットになってるわ」
「観光も出来るの?」
「えぇ、昔は怖いイメージだったけど、今はそんなことないからね。時々歴史が好きな人たちが見学に来るくらいよ」
「へぇ~、ヒスト・リーファン先生なら行ってそうだよね」
「そうね。あの先生なら、絶対に行くと思うわ」
――エリスと話してると、なぜか安心するというか、自然体で居られるんだよな……
エリスとの話しの途中で、レイニーをあのままにしていたのを思い出し、様子を見に行くことにした。
――見に行くだけだけど……
「エリス。ちょっとだけ良いかな?」
エリスはキョトンとした顔でこちらを見た。
――エリスはどんな表情しても可愛いなぁ…… 。
「うん、急にどうしたの? 私の顔を見て、顔に何か付いてる?」
「つ、ついてません! 顔、見てました!」
エリスの表情に見惚れてしまい、我に返った瞬間、とんでもないことを口に出してしまった! 両手で顔を隠しエリスから視線をずらした。
――恥ずかしくて、これじゃまともに話しも、顔を見ることも出来ないじゃないか!
「エッ! シュウクン! ナニヘンナコトイッテルノ?」
エリスも僕の的外れな返答に驚いて、顔と耳が真っ赤になった! 恥ずかしいと言いながら僕は指の隙間から懲りずにエリスの顔を見ていた。
「「……………………」」
お互い気まずさから下を向き無言になった。
『バタッン』
「ロッシュウ様! 私を放置して、置いて行くなんて酷いじゃないですかぁ!」
食堂のドアを勢いよく開け、息を切らしたレイニーが立っていた。
ズカズカと僕たちの座っているテーブルに近付き、何を思ったのか僕の果汁水を一気に飲み干し、エリスの横にドカリと座り僕に指を差して、
「おねぇーさん! 果汁酒1杯追加でー! 支払いは、この人でお願い!」
お酒を注文し、さらに支払いをこちらにまわした。
果汁酒が届いた瞬間。また一気飲み、このやり取りを数回続けた。レイニーはようやく落ち着いたようで、
「私がいること知っていながら置き去りにするなんて酷すぎです! この悪魔! 畜生!」
レイニーは僕に食って掛かってきたが、
「僕はレイニーさんのこと、全然気が付きませんでしたよ。 まさか、そんな恰好で歩いてるなんて」
僕は棒読みで返した。 その瞬間、レイニーは両手で僕の襟元を掴み前後に大きく揺らしながら、
「何惚けてるンですか? これはいつも着ているメイド服じゃないですか! しかも何度も目が合いましたよね?」
「いやー、僕にはそこまで変装されると全然わからなかったよ」
さらに棒読みでお返してあげました。
因みに本日、自称『天才女優』のコーディネートは普段のメイド服にダテ眼鏡とシンプルな装いとなっております。
「ハ、ハハハハハ ――ごめんなさい。二人を見てたらつい可笑しくて」
エリスが僕たちのやりとりを見て笑っていた。僕とレイニー椅子に座り直し、会話を続けた。レイニーはエリスに向かって謝罪を述べた。
「見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」
「そんなことないですよ。気にしないでください」
「いえ、そういう訳には」
「私とレイニーさんの仲じゃないですか。本当に気にしなくても大丈夫ですよ」
――レイニーさんは僕と父上以外ならちゃんと出来るメイドさんなのだ。僕にはいつもの事なので構わないが、国王である父上にはちゃんと主人とメイドとして接して欲しい…… 国王への報告をガン無視! フロンシニアス帰国もガン無視! いつか不敬罪で処罰されなきゃ良いけど……
「ところで、レイニーさん。これから予定とかあります? これから私たち買い物へ行くのですが、もし良かったらレイニーさんも一緒に行きませんか?」
エリスはレイニーに買い物の行こうと誘った。
――テメェ―は付いて来るな! 僕たちの邪魔はしないで! ここはちゃんと空気を読んで帰ってくれ!
僕は全力で神に祈った!
「エリスさんの頼みであれば断れません。では、さっそく買い物へ出かけましょう」
――レイニーさんは空気を読めないメイドさんだった…… 僕の神への祈りは儚くも砕け散った……
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